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41.リーズの特訓

「な、何だと!? たった三人で敵を殲滅しただと!!??」


街の東門でクレスト達に会い、彼らから戦闘の報告を受けたリーズが仕官するアルテナに伝えた。リーズが言う。



「は、はい。マリアさんとアーニャちゃんが現れる敵と次々と魔法で……」


アルテナは驚いた顔をしていたが、やがて落ち着きを取り戻して言った。


「きっと大した数の魔物じゃなかったのね。見張りからの報告が間違っていたんだわ。分かった、じゃあ他の門もほとんど被害はないようだしこれで今回の作戦は終わりね」


「は、はい……」


(確かに東門に来ていた魔物は見張りの報告よりずっと少なかった……、でも見張りの報告がこれまで間違えたことなどあったかしら? あと、クレストさんから発せられた強大な魔力は一体……?)


リーズは納得できない部分もあったが、無事魔物襲撃を終えたことを喜び自室へ戻った。リーズは自室で部屋着に着替えながら思った。


(明日、クレストさんに……、お願いしてみよう……)





「はあっ!!」


ドン!!


アルテナは領主の館に併設された訓練場で弓の稽古を行っていた。

遠く離れた的に正確に突き刺さるアルテナの矢。身の丈よりも大きな弓は『アルテナの弓』と呼ばれる名工渾身の一品である。

矢を射る毎に響くアルテナの掛け声。そして飛び散る汗。極度の集中を保ちながらアルテナは弓を引いていた。

そして用意してあった矢をすべて射終えると後ろに人の気配を感じて振り向いた。



「クレストさん……」


後ろには笑顔で立つクレストの姿があった。クレストが言う。



「ごめんなさい、邪魔をして。ただ素晴らしい弓の腕だ。これまで見てきた中でもトップレベルの弓さばき。素晴らしいですね」


クレストは薄い弓練習用の胴衣の袖をまくったアルテナを見る。意外と巨乳。汗で体にべっとりと付いた胴衣に体のラインがはっきりと浮かび上がる。

アルテナは後ろで縛った茶色の髪をたくし上げ、流れ落ちる汗を拭きながら言った。


「ありがとうございます……」


アルテナはあまり嬉しそうな顔をせずに言った。

しばらくの沈黙。クレストは視線が彼女の肢体に行かぬよう気を付けながら言った。



「前にも伝えましたがレオンはここに来ない。ただ思うのだけど、彼がここに本当に必要なんだろうか?」


それを聞いたアルテナの顔に怒気が浮かび上がる。そしてクレストに言った。


「必要です。必要だったんです、英雄が。あなたも見たでしょ? 街の雰囲気を、皆の顔を!」


クレストは破壊されたレイガルトの街、そしてそこに暮らす人々の暗い顔を思い出した。アルテナが続ける。


「この街には明るい希望の光、強く輝く光が必要なんです。勇者レオン様のような強い光が!!」



クレストはアルテナの話を黙って聞いた。

それは分かっている。これまでレオン達と共にいくつもの町や村で魔物を倒し、希望の光として称えられたレオンを傍で見てきている。

だからこそ、レオンは()()()()と思っている。


ただこれ以上彼女に何かを説くことは不要に思えた。それを理解した上で、あえてもう一度だけ言った。



「それでも私は不要だと思います、レオンは」


「なっ!」


アルテナがクレストを睨む。クレストは背を向け歩きながら言った。


「邪魔をしました。弓の鍛錬、頑張ってください」


アルテナは去り行くクレストを見つめた。そして彼がいなくなるとしゃがみ込み、両手で顔を押さえながら涙を流した。






「あ、帰って来た! クレスト先生、どこ行ってらしたんですか?」


クレストが部屋に戻るとマリアが声を掛けてきた。部屋にはベッドの上で寝ころぶアーニャ。そして椅子にひとりの少女が座っている。肩までのミディアムヘア。その後ろ姿ですぐに分かった。


「あれ、リーズ?」


リーズはクレストに呼ばれるとすぐに立ち上がって深く頭を下げる。そして真剣な目で言った。



「ク、クレストさん、私に魔法を教えて貰えませんか?」


「へ?」


クレストが驚いた顔をする。マリアが言う。



「リーズさんね、私達が東門で戦うのを見ていたんですって。それで、何と言うか自分の力不足を実感して教えを請いに来たらしいの。でも、いま私達の師ってクレスト先生みたいなもんでしょ? だから、先生が帰って来るのを待ってたの」


「お願いします! クレストさん」


リーズは再度深く頭を下げて言った。頭を下げたリーズの髪が下がり、そこに少し尖った耳が露わになった。



(ハーフエルフ?)


今まで気づかなかったけど、あの耳は間違いなくハーフエルフのもの。

ハーフエルフと言えばエルフでもないヒト族でもない中途半端な存在として差別を受ける対象になりがちな存在である。それが領主の主力部隊の側近を務めるまでになるにはどれだけの努力をしてきたのだろうか。クレストは笑顔で答えた。



「いいですよ。みんなで一緒に練習しましょう」


リーズが頭を上げて満面の笑みを浮かべて言った。



「は、はい! ありがとうございます」


クレスト達は早速郊外にある魔物が出る洞窟へと向かった。





「く、暗いですね、クレストさん……」


レイガルトの郊外にある大きな洞窟。

幾つか魔物が出る場所がある中でクレストが選んだのがこの洞窟。リーズが言う。


「本当に少ないですね、光の精霊……」


暗き場所にはどうしても数が減ってしまう光精霊。その厳しい条件の下で訓練を行う。クレストが言う。


「どんなに辛くても耐え、決して弱音を吐かず頑張りましょう」


「は、はい!」


リーズは真っ暗で視界の利かない洞窟で返事をした。クレストが思う。



(しかし本当に真っ暗な洞窟だよなあ……、明かりの魔法を使わないと全く視界が利かない。……ん? 何だこの柔らかいの??)


クレストは真っ暗な暗闇で突如岩肌とは違った柔らかいものに触れた。


(ちょっと小ぶりだけど、や、柔らかくて気持ちよくて、ああ、何だろう、不思議と興奮して来た……)


クレストは得体の知れぬ嬉しいものを触ってひとりにやにやする。一方、突然の()()にリーズは体を強張らせていた。



(ク、クレストさん、ど、どうして私の胸を……? こ、これも訓練? どんなことがあっても耐えろって言ってたけど……、た、耐えるのよ、リーズ……)


リーズは自分の胸を弄るクレストを感じながらも訓練の一環だと思って必死に耐えた。

少しずつ変な気分になって来るリーズ。的確に急所を突くクレストの指に思わず反応する。


「うっ、ううん、ああっ……」



(ぐへへへへっ、何かえっちな魔物でもいたのかな? 声も色っぽいぞ。まあ、いいか、これはこれで最高……、って、えっ!?)



「はあっ!!!!」


ガン!!


「痛ってええええ!!!」



クレストの頭部を突如何かで殴られたような激痛が走る。


「えっ!? クレスト先生!?」


マリアが照明の魔法を唱えて辺りを照らすと、洞窟の地面に頭を押さえて倒れるクレストの姿があった。


「え、ええっ? クレスト先生? どうして? 何かいかがわしい()()の気配を感じたんで木の棒で思いきり殴ったんですけど、逃げられたのかしら!?」



(い、いかがわしい魔物……)


クレストは地面に倒れながら、それはまんざら間違いじゃないと思いつつ痛む頭を押さえた。





「集中して、感じて感じて、もっと心を解放して!!!」


薄暗い洞窟にクレストの声が響く。

洞窟の奥には広い空間と大きな泉があり、そこでリーズの特訓が行われている。この泉にはワニのような魔物が棲んでおり気を抜くとクレスト達を泉の中に引きずり込んで捕食しようとする。


「うーん、うーん……」


暗闇で数が少ない光精霊。

その少ない精霊に必死に語り掛けるリーズ。僅かだがそれに反応した精霊で周りが少し明るくなる。クレストが言う。



「よし、今っ!!」



「はい! 光の旋律・ライト・レイン!!!!」


ジュンジュンジュン!!!


洞窟の空間上部に現れた光の雨が、次々と泉の中に落ちて行く。逃げるワニの魔物達。クレストが叫ぶ。



「続けて!! 休まず!!!」


「はいっ!!!」



既にリーズひとりで魔法を放つこと数時間が過ぎている。マリアは洞窟の壁に座り、アーニャはマリアの膝を枕にして眠っている。


「はあ、はあ、はあ……」


リーズは全身の力が入らなくなってきたことを感じる。腕が上がらない。頭がくらくらする。目の前の風景が霞み、思考能力も鈍って来る。それでもクレストの声だけは頭に響いた。



「もっともっと放って!!」


「は、はい……」


リーズは倒れるまで魔法を唱え続けた。



(クレスト先生……、いつもと全然違う……)


マリアは人が変わったかのように指導するクレストを見て心の中でつぶやいた。



「ひ、光の旋律……、んっ……」


バタン


リーズはこの日何度か分からない魔法を唱え始めたところで気を失って倒れた。それをすぐに支えるクレスト。クレストは思う。



(よく頑張った。魔力を上げるには限界を超えて使い続けるしかない。地味で大変な作業だがこれを続けるのが一番いい)


クレストもレオン達と行ってきた限界ぎりぎりの戦いを思い出す。しかしそんな感傷も腕の中で意識を失うリーズの姿を見て一気に吹っ飛んでしまった。



(し、下着をつけていない……!?)


熱気がこもる洞窟内。

リーズはいつの間にか戦闘用の魔法衣を脱ぎ、薄いシャツ一枚で練習していた。全身に拭き出す汗。それがシャツと肌をぴったりとくっつけて、その下にあるリーズの美しい体の曲線をはっきりと浮かび上がらせている。


(う、薄暗くてはっきり見えないけど、小ぶりながら何て色っぽい曲線。しかもねっとりと彼女の体から伝わる湿気。その汗にまみれた香り。しかもなぜ下着をつけていないのだ?? い、いかん、理性が……)


クレストは無意識にその腕の中で倒れるふたつの小ぶりな膨らみに手が伸びる。



「クレスト先生?」


「ぐひゃほひぇ!!!???」


クレストは妄想の最中に突然かけられた声に驚いて奇声を上げる。



「リーズさん、大丈夫ですか?」


「マ、マリア先生……?」


倒れたリーズを心配してマリアが声を掛ける。クレストが冷静を装って答える。



「だ、大丈夫です。ちょっと疲れただけで……」


マリアがリーズを受け取りながら言う。


「あとは私に任せてください。リーズさん、頑張りましたね」


「はい……」


クレストは真剣にリーズを解放するマリアを見てちょっとだけ罪悪感に包まれた。


そしてリーズの訓練はその日以降、ドラゴンゾンビが襲来するまで毎日続けられた。何度目か分からない洞窟の訓練を終えレイガルトへ戻ろうとしていたクレスト達に領主からの早馬がやって来た。



「た、大変です。ドラゴンゾンビが襲来の情報が入りました! 急ぎ街へ!!」


訓練が長引き既に辺りは暗い。クレスト達は急ぎ街へと走った。

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