39.英雄違い
ローシェル王国から船に乗って南方大陸の玄関口であるレイガルトにやって来たクレスト達。下船しようとしていたところ、船員に呼び止められいきなり領主と名乗る男の元へ連れて行かれた。
そして驚いた顔をしてその領主はクレスト達に言う。
「どうしてレオン様じゃないんですか?」
どうしてと言われてもレオンじゃないものはレオンじゃないので答えようがない。クレストが言う。
「レオンは次期国王。毎日忙しいんで王都を離れられないよ。だからここには来ない」
「そ、そんな……」
明らかに落胆する領主とその隣の女の子。堪り兼ねたマリアが言う。
「あ、あのお、レオン学長はいらっしゃらないけど、私達はここで魔物に困っている人達の手助けに来たのでできることがあればお力添え致します」
マリアはそう言うとレオン直筆の紹介状をふたりに見せた。手紙の中で光るレオンと言う文字。ふたりはあまりの無念さに溜息をつきながらも、レオンの使者だと言うクレスト達に自己紹介した。
「私がレイガルトの領主です。これは娘のアルテナで、領内随一の弓の名手です」
アルテナは頭を下げて挨拶をした。
「アルテナと申します……、どうぞよろしく……」
その顔は悔しさに溢れ、そして目には光るものがあった。クレスト達も自己紹介をして今夜からしばらくは領主の家に泊めさせて貰うことになった。
「ふうっ」
食事を終え部屋に戻って来たクレストがベッドに座って大きなため息をついた。そして言う。
「何だかあまり歓迎されていない様な感じだなあ……」
マリアも疲れた顔をして答える。
「そうですね、やはりレオン学長でなければ……、クレスト先生、やはりここは南方大陸の王都サウスランドからの援軍を、再度要請して貰った方が良いのではないでしょうか」
クレストは食事中に領主とアルテナからレイガルトの惨状について話を聞いた。下級魔物ではないドラゴンゾンビが出現していることも知った。
(ドラゴンゾンビが普通にこの世界残っているはずはない。だとするとやはり『魔界の門』に何かあったのか?)
「……先生。クレスト先生!!」
「へ?」
「へ、じゃないですよ。ちゃんと話を聞いてますか?」
クレストは向かいのベッドに座ったマリアの組んだ色っぽい足から目が離せなくなった。
「は、はい、ちゃんと、見てます……」
マリアが溜息をついて言う。
「見るじゃなくて、聞いてますか? ドラゴンゾンビなんてとても私達じゃ対処しきれません。だからここは残念ですが、先に進んで……」
そこまで言うとクレストがマリアの目を見て言った。
「大丈夫ですよ。私達はしっかりとお手伝いをしましょう。それにあのアルテナって女性、相当な腕の持ち主ですよ」
「アルテナさん? ええ、確か弓の名手とか……」
マリアが足を組み替えて言う。マリアは胸が大きく開いた魔法衣を着ていたが、そのスカート部分には魔法には何ら関係のないスリットが入っておりその動きひとつひとつが男の視線を誘う。クレストが言う。
「ただ今回の相手はアンデッド系。幾ら彼女が有能で強い軍隊であったとしても、浄化系の魔法が使えなければ勝ち目がないんです。だから……」
マリアが手を叩いて言う。
「光魔法ですね」
「そう、浄化効果がある光魔法ならそこそこ戦えると思います」
「なるほど」
「ただ……」
クレストがちょっと上を向いて言う。
「ただ、まだ向こうの戦力が分かりません。中途半端な魔法じゃ返り討ちに遭うでしょう。ドラゴンゾンビなんて普通いませんからね」
「そ、そうですね……」
マリアの顔に不安の色が浮かぶ。クレストが思う。
(本当は俺が夜にひとりで行ってバーンって倒しちゃえば済むことなんだけど、それはやらない方がいい。何故なら……)
「……え、ねえ、クレストぉ」
先程からずっとクレストの横で座っていたアーニャが眠そうな顔をして言う。
「ねえ、もう寝ようよ。アーニャ、疲れたにゃ……」
確かに長い船旅を終え休む間もなく領主の屋敷に来て食事。まだ子供のアーニャには疲れるのも無理はない。
「早く、一緒に寝よ。さあ」
そう言ってアーニャはクレストをベッドに押し倒そうとする。クレストが慌てて言う。
「こ、こら。ダメだダメだ。部屋は別々!!」
「ク、クレスト先生、何をやってるんですか! まさか、いつも一緒に寝て……」
マリアの顔が静かに怒りを含む。クレストがすぐに否定する。
「い、いえ、寝る時は別々ですよ。と、当然です!!!」
とは言え、朝になるとほぼ毎回アーニャが自分のベッドに潜り込んでおり、ほぼ毎回自分の手がアーニャの体のどこかを揉んでおり、更には時々吸精された夢を見て昇天し掛かっているなどとは決して言えない。マリアが安心した顔で言う。
「そ、そうですよね。クレスト先生に限って、……って、何してるんですか!!」
「ふへっ? ……あっ!!」
クレストが気付くと、いつの間にかアーニャが自分の首を優しく噛んで吸魔している。クレストにとってはこれは日常であり、吸魔の気持ちよさに恍惚の表を浮かべるのは当たり前であった。
だが今はマリアと一緒に来ている。クレストは慌てて自分の顔を両手で叩くと、マリアに真面目な顔で言った。
「これが私の務めです。魔力暴走を防ぐ私の務めです……(ふにゃぁ……)」
顔だけは真面目で堂々と言うクレストに押されてマリアは納得した顔で答えた。
「そ、そうでしたね。初めて見たのでちょっとびっくりしました。お、美味しいのかな? アーニャちゃん?」
アーニャは幸せそうな顔でクレストの首を噛んでいる。若い男の首をビキニ姿の少女が噛むと言ういかがわしい光景に、一刻も早く慣れなければならないとマリアは自分に言い聞かせた。首を噛まれたままのクレストがマリアに言う。
「じゃ、じゃあ、マリア先生。お疲れだと思いますので、そろそろ寝ましょうか。吸魔が終わったらアーニャを連れて隣の部屋へ行ってください」
「ええ、アーニャは嫌だよおおお!! クレストと一緒じゃなきゃ嫌だにゃああ!!!」
首を吸っていたアーニャが怒り出す。クレストが言う。
「と言っても、仕方ないだろ? アーニャ」
「ううっ、ううっ、そんなの嫌だにゃあ……、アーニャは、アーニャは……」
「!!」
クレストとマリアはアーニャの魔力が一気に上昇するのに気付いた。
(これはまずい!!)
魔力暴走の恐れがある。それに気付いたクレストがアーニャに言う。
「わ、分かった。じゃあ、いつも通りベッドは別々ならこの部屋でいいぞ……」
「うん、分かったにゃ!!」
そう言いつつも必ず朝になると一緒に寝てるんだろうなとクレストは思う。マリアに言う。
「と言う訳で、マリア先生。お疲れだと思いますので、どうぞ隣の部屋でご就寝を……」
マリアはちょっと頬を赤らめて返事をする。
「え、ええ……」
その様子がおかしいことに気付いてクレストが言う。
「あ、あの……、どうかしましたか?」
マリアが下を向いて小さな声で言う。
「いえ、その……、し、知らない所に来て、その、ひとりで寝るのはちょっと怖いかなあとか思ったり……」
真向いのベッドの上で頬を赤らめながらマリアが恥ずかしそうに言う。
(か、可愛いいいぞおおおおお!!! このまま押し倒したい!!!!)
クレストはマリアのあまりの可愛さで理性が吹き飛びそうになるのを必死に堪えながら言った。
「ええっと、それって、どういう……」
マリアが言う。
「いえ、その、もしよろしければ、みんなで一緒に寝ちゃうのもいいかなとか思ったり、なんて……、だめ?」
(だ、だめな訳ないだろおおおおおおおお!!!!!)
クレストは心の中で全力で叫んだ。
(何て可愛いんだ、マリア先生。ああ、押し倒したい!!! 押し倒してすべてを奪って貰いたい。嫁、そうこんなお嫁さんがいたら何て幸せ……、いやいや、それではスローライフでハーレムと言う野望が……、ぐわああああ!!!)
「ぐわああああああ!!!」
「きゃっ!! ク、クレスト先生、どうしました!?」
「え、ああ、すみません。何でもないです……」
クレストは申し訳なさそうに言った。マリアが寂しそうに言う。
「あ、あの、無理でしたら私、我慢しますので……」
「いいです!!」
「はい?」
「いいです!! みんなで寝ましょう!!!」
クレストは鼻息荒くマリアに言った。マリアが嬉しそうな顔で言う。
「良かったですわ。じゃあ、私とアーニャちゃんはこちらのベッドで……、って、アーニャちゃん!?」
マリアに抱かれようとしたアーニャがクレストの体にしがみつき離れようとしない。アーニャが叫ぶ。
「いやいやいや、アーニャはクレストと一緒に寝るにゃー!!」
(いや、嬉しいんだが……、これは眠れんよな、普通……)
結局少し広めのベッドでクレストを真ん中に両隣にアーニャとマリアが寝ることになった。アーニャもマリアも疲れたのか明かりを消すとすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
「にゃむにゃむ……」
アーニャはクエストの匂いを嗅ぎつけたのか、眠りながらも懐に潜り込んでくる。
アーニャのきめ細やかな柔肌がクレストに触れる。クレストが顔を逸らすと、反対側には大人の色香たっぷりのマリアが眠っている。薄暗い部屋だがじっと目を凝らせばその胸の谷間から全貌も見えそうだ。
クレストひとり汗をかき始める。
(眠れんぞ、いや、マジで……)
期待と不安が詰まったレイガルトの初日の夜が更けていく。
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