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21.故郷の異変

「アーニャ、朝ごはんですよ~」


「はーい、ママ!」


猫のような黒い耳。そしてお尻から生える黒く短い尻尾。

アーニャは優しい母に呼ばれて、尻尾を左右に振りながら笑顔で食卓に着いた。机の上に並ぶ果物などの森の恵み。幼きアーニャは母と一緒に美味しそうに朝食を食べた。


「ごちそうさまでした……、ねえ、ママ……」


アーニャが物欲しそうに母を見つめる。


「お腹減ったの? いいわよ」


「やったにゃあ!」


そう言って母はその長くて美しい髪をかき上げうなじを出す。


「いただきます!」


そう言ってアーニャは母のうなじを優しくかんだ。満たされるアーニャの心。自然と笑みが溢れた。





「第一小隊、目標の集落発見!! 攻撃準備完了。突撃しますか?」


そんなアーニャたちの集落から少し離れた場所にその集団はいた。

鎧など装備をしっかりと整えた国王軍。そして同行する近隣の村の自衛団。その手には剣や槍、斧などが握られている。報告を受けた小隊長が言った。


「やっと見つけぞ、()()()()()どもめ。忌々しい魔族、その首すべて刈り取ってやるわ!! 行け、突撃っ!!!」


小隊長の命令によってそこにいた者達は武器振り上げて、目の前のサキュバスの集落へとなだれ込んだ。






「クレスト先生、何を見ているんですか?」


朝のエルシオン学園、教員室。

机の上で必死に何かを書いていたクレストに、偶然後ろを通りかかったマリアが覗き込んで言った。クレストが慌ててそれを隠して言う。


「い、いや、何でも、何でもないです!!」


クレストが隠した一冊のノート。そこ表紙にはこう記されていた。



『クレストのスローライフ計画……』


そしてその後にこう小さく書き加えられている。



『……withハーレム』


マリアが顔を赤くして言う。



「ハハハ、ハーレムって、一体何を学校で書いているんですか!!」


珍しく襟の付いたシャツを着ているマリア。

しかし胸のボタンふたつほど外れており、その胸の谷間が、いや谷間と言うよりは半分以上その中身が露出している。スカートもやはり短く、嬉しいことに下着のラインがはっきりと分かる何とも素晴らしい仕様。


そして何よりもそんな無防備な状態に本人が全く気が付いていないのが一番の問題であった。いや、問題と言うべきではない。そう、これが問題ならば何が問題なのだろうか?


「ちょっと、クレスト先生、聞いているんですか??」


「……うん、問題ない」


「はっ?」


「へっ?」


マリアが明らかに怒りの表情で言う。


「何が問題ないんですか!! そんないかがわしい物を学校で書いていて!!」


座ったクレストの傍に立って怒るマリア。しかし怒る度に目の前で揺れる大きな胸。クレストは思う。



(こんなんさらけ出して……、マリア先生もほぼ同犯のような気も……、それともやっぱり俺のハーレム計画に加わりたいのか? いやもとより彼女はハーレム候補筆頭だよな。ぐふふふっ……)


胸の前でにやにや笑うクレストを見てようやくその視線に気付いたマリアが叫ぶ。


「ク、クレスト先生!! 一体どこを見て話しているんですか!!」


マリアが両手で胸を隠す。クレストが我に返って言う。



「い、いや、これはですね。今度の授業の教材にと思って……」


バン!!


「いてっ!」


マリアは持っていた新聞でクレストの頭を叩く。


「どうしてハーレム計画が生徒達の教材になるんですか!! いい加減にしてください!!」


マリアはぷんぷんと怒ったまま自分の席へと行ってしまった。


(……まだ始業前なんだけどなあ。それよりもマリア先生はやっぱりハーレムに入りたいんじゃないかな? むふふふっ)


クレストはそう妄想しながら必死に『スローライフ計画withハーレム』の立案に取り掛かった。




(もう、どうして男の人はあんないやらしいことばかり考えるのかしら!)


半分以上露出した胸、そして下着が見えそうなくらいのミニスカートをはいたマリアが椅子に座り足を組む。マリアが動くだけで周りの男性職員の視線が同じように動く。



「はあ……」


マリアはため息をついて手にしていた王立新聞を広げる。そしてその中の記事に目を疑った。


「えっ!?」


そこには自分の故郷であるラホール村の近郊にある森で魔物の集落が発見され、国王軍と村の自衛団による討伐隊が結成されたことを伝えるものであった。



(討伐隊? うそ……、そんなことが……)


村を出て数年、ほとんど帰省もせず必死に働いて来たマリア。新聞に書かれた『サキュバス』と言う文字を見て心臓の鼓動が激しくなる。


(サキュバス相手じゃ力押しはできない。国王軍が一緒だから安心したいけど……)


現在、原則として生命を脅かす魔物以外の討伐は禁止されている。エルシオン学園は冒険者育成の為特別な許可を得ており魔物討伐は可能である。サキュバスは確かに魔族であるが、それがヒト族に害をなしているのかまだ不明である。



(なぜ討伐なんて……?)


新聞を見つめるマリアの顔がどんどん青くなって行く。そしてマリアは勢いよく立つと新聞はそのままにレオンの部屋へとひとり向かった。



(ん? マリア先生、トイレかな? 青い顔していたけど相当我慢していたんだな)


クレストはぼんやりそんなことを考えながら、再び自身の計画の立案に取り掛かった。





「先生、どうしたの? なんか元気ないね?」


翌日講義を終えたクレストにレイラとフローラルが近くに来て言った。クレストが答える。


「ああ、先日、マリア先生が早退して今日も休んでいてなあ……」


それを聞いたふたりの顔がぷうっと膨らむ。



「先生、先生はあんな色気だけの女が気になるんですか??」


「はっ? お、おい、お前らなんてこと言う……」


それを遮るようにレイラが言う。


「わ、私だって先生!!」


レイカはそう言いながら自分両胸に手を当ててクレストを見る。


「もうちょっとすればマリア先生ぐらい大きくなるんだから、ね?」



「ね! じゃないだろ!! 一体何の話をしているんだよ!!」


フローラルが答える。


「何って、ハーレム計画だよ」


「は? ハ、ハーレム計画?? ど、どうしてお前らそのことを……」


クレストは最近真剣に練り始めた計画がすでにバレていることに動揺する。



「先生、私がハーレム筆頭なんでしょ?」


「げっ、ムノン!!」


ムノンは得意の男を魅了する笑顔を振りまきながら現れる。後ろから別の声がする。


「そう言いながらも先生はずっと私だけを見ているし、私は私でそれは別に悪くないと思うんだけど、マリア先生は確かに美人でスタイルもいいけどちょっと牛っぽいところあるし、私はハーレムとか興味ないけど先生がどうしてもと言うのならば……」


「おい! ミタリア、何言ってるんだよ!!」


後ろから現れたミタリアが答える。


「ハーレム」


「お、お前ら……、い、いいからもう講義は終わりだ。帰れ!!」


「ひどーい!! まるで遊んだ女を捨てるみたいな言い方!!」


「あ、遊んだ女……」


そう言うと女生徒達はクスクス笑いながら教室を出て行った。



「はあ、さて……」


クレストはため息をついてからすぐに学長室へと向かった。





「よお、クレスト。どうした?」


学長室では稀にやって来るレオンが事務整理に追われていた。クレストが尋ねる。


「あのさ、マリアせ……」


そこまで言うと先にレオンが言った。



「そうそう、例の死神の件だけど、今ちょっと調査中だ。原因は分からない。未だに魂を抜かれる事件は起こっているようだが、まあ、少し時間が掛かりそうだな……」


クレストは以前レオンがラスタ村で起きた死神らしき魔族による魂を抜き取る事件について思い出した。クレストが言う。


「どちらにしろ気を付けて調査してくれ。本物の死神なら相当まずい」


「ああ、分かっている」


レオンも真剣な顔をして答える。クレストが言う。



「で、俺が聞きたかったのはマリア先生のことだが、今日も休みだが何かあったのか?」


「……」


無言になるレオン。


「分かっている。個人的な事なので。ただもし彼女が危険なことに首を突っ込むようならば放っては置けない」


「どうしてそう思う?」


レオンは椅子に座ったまま両手を顔の前で組んで尋ねた。クレストが答える。



「あれだけ教育熱心な先生がこんな簡単に続けて休むか? ただそれだけだが俺には分かる」


レオンは立ち上がって机の上にあった新聞を取りクレストに渡した。それを見たクレストの表情が変わる。



「これって……」


「ああ、そうだ。マリア先生の故郷だ」


「と言うことは……、まさか……」


レオンが言う。


「行き先は聞いていないが多分向かったんだろうな、ラホール村に」


しばらくの沈黙。新聞を見ていたクレストが尋ねる。



「なあ、レオン。この王国軍ってのはお前のところだろ? 誰が行ってんだ?」


レオンは少し考えてから答えた。


「簡単に話すべきことじゃないんだけどなあ、まあ仕方ない。騎士団・中隊長のアーズラだ」


「中隊長アーズラ……」


レオンが言う。



「さっきも言ったが王国軍は今死神調査の為にそれなりの戦力を割いているし、国の防衛の為にも主力は王都に置いておかなければならない。そこで彼に今回の件は一任している」


「信頼できる奴なのか?」


クレストの質問にレオンが答える。


「それは分からない。副隊長なんて山ほどいるからな」


「そうか……」



再び席に戻ったレオンが尋ねる。


「で、行くんだろ? おまえも」


クレストが笑って答える。


「そうだな。何で分かった?」


「俺を誰だと思ってる? お前達を率いて魔王を倒した勇者様だぜ」


「そうだな。悪い、レオン。しばらく学校休む」


「ああ、マリア先生のことは頼んだぞ」


「了解! レオン隊長!!」


クレストはそう少し笑って答えると部屋を出た。





「もうちょっとでラホール村……、みんな、無事でいて……」


ラホール村の近くまでやって来たマリアは、数年ぶりの帰郷の喜びよりも不安の方が大きく彼女にのしかかっていた。

お読み頂きありがとうございます。

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