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ひとりきり

作者: 把 多摩子

 夜の電車は、嫌いだ。

 人が、少なくて怖いから。

 朝はあんなにも、ぎゅうぎゅうなのに。

 少しは減って欲しい、って思うくらいなのに。

 昼はあんなにも、賑わっているのに。

 笑顔が溢れてて、楽しそうなのに。

 

 夜は、静まり返っていて、不気味。

 同じ、電車なのに。

 

 夜の電車が嫌いなのには、理由がある。

 

 子供の頃、読んだ少女漫画がプチトラウマになっているのだ。

 

『深夜、車両に一人きりで乗って転寝をしていた。

 ふと目を醒ますと、目の前の窓に自分と誰かが映っている。

 走っている電車の中なのに、自分の背後に誰かいる!

 気づいたら、首を絞められていた……』

 

 そんな漫画だったと思う。

 それから、とにかく夜の電車で、一人になってはいけないと思った。

 

「あ……」


 快速急行の、終着駅で私は降りる。

 気づけば、停車した駅で多くの人が降りてしまった。

 車両に一人きりになったので、私は慌てて隣の車両へ移動した。

 

 誰か、居て!

 

 得体の知れない何かが、今にも窓から忍び寄って来そうで。

 歩いているのに進んでいないような恐怖が、身体中に染み渡る。

 

 ようやく隣の車両に移動すると、奥の方に一人座っているのを見つけた。

 私はすぐさま安堵の溜息を漏らし、ぎこちなく席に着く。

 

 よかった。

 

 無人の駅を二つ通り越すと、終点。

 私は、窓の外を見るのが怖くて、ずっと俯いていた。

 追いかけてきた何かが、様子を見ていたらどうしようと思って。

 

『終点ー●●●ー●●●ー』


 私は顔を上げ、足に力を籠め立ち上がる。

 ふと、気づいた。

 奥に座っていた人が、いない。

 到着を待たずに、車両を移動してしまったのだろうか。

 一刻も早く、改札口へ向かう為に。

 私は、駅で明るかったものの、転がるようにして電車を後にした。

 

 誰もいないホームを、早足で歩く。

 実はここが、自分の駅ではなかったらどうしようかと、そんな不安すら覚えた。

 間違えて、異次元に飛ばされてしまったような。

 

 改札口の向こうに、両親がいて、手を振っていた。

 よかった、ここは私の駅だ。

 

「お待たせ、迎えに来てくれてありがとう」

「一人きりだったのね」


 母がそう言ったので、私は首を傾げて笑った。

 

「そうだよ、今日は一人で遊びに行っていたから」

「違う違う、電車に一人だったんだね、って。結構前に到着してここにいたけど、誰も見ていないから」


 私は、血の気が引いた。

 助けを求める様にして移動した車両に居た人は、何処へ行ったのだろう。

 振り返るが、誰もいない。

 お手洗いだろうか、と前向きに考えた。

 

 しかし。

 

 今にして思えば、私が見つけて安堵したその“ヒト”。

 男性なのか、女性なのか。

 若い人なのか、中年なのか、御老人なのか。

 全く、思い出せない。

 

 ゾワゾワゾワ!

 

 身体中に、悪寒が走った。

 肌が粟だち、眩暈がする。

 

 ……私は、何を見たのだろう。

 縋るようにもう一度振り返ったけれど、やはり誰もいなかった。

 

 だから、電車は怖いのだ。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜の電車怖そうですね……。
[良い点] おお! そうか。頼りにしていた乗客は実は──。 ですね。たしかに情景を考えるとゾワゾワします。 よきホラーでした。
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