限界のその先へ
遺跡の内部は以前と変わらない。だが動いていることによって歩くのが難しくなっている。
激しく揺れている床を走るのは難しく、目的の場所まで移動するだけでも時間がかかる。
一度は停止したドラゴーだったが、再び動き出してからはさらに加速を続けている。足が砕け不安定な移動になっているため揺れも激しいのだ。
「ええいもっと速く走らぬか!!」
「無茶言わないでくださいよ!!!」
走って走って走って走る。
そして、やっとの思いで目的地らしき部屋に到着した。
「なにこれぇ!?」
その部屋の中心には台に乗った青く光り輝く大きな玉があった。
その玉から部屋全体にせんが伸びている。床や壁に青く光る線があるが、これは何だろうか。
「えっちゃん!」
「ポコ、これなに?」
「えっと、コア? だったかな」
コアか。コアって何。
「言うなればドラゴーの心臓であります」
「心臓!? ならこれ壊せばいいじゃん」
これが心臓だと言うのなら壊せばすべてが終わる。
のだが、今この段階で壊せていないといのには何か理由があるのだろう。壊せるのなら私を呼ぶ必要なんてないのだから。
「これは魔力の塊だ。魔術を当てようが剣で斬ろうが傷つかない」
「な、なら私でも無理ですよ!」
ここには私よりも強い魔力をぶつけられる人が何人もいる。その人たちが傷一つ付けられないのなら、私だって傷一つ付けられない。
「確かお前の武器はドラゴンの素材を使っていたな」
「はい、そうですけど……」
「ふむ。ならば魔力を集めればこのコアを壊せるかもしれぬ。今この場にいる者では傷つけるどころか相殺すら出来ぬからな」
「ま、待ってくださいよ。私にそんな魔力は残ってませんし、私の全力の攻撃が通るとも思えないんですが……」
王様の攻撃の方が何倍も強いのだ。わたしでは足元にも及ばない。
「いいか、素材の組み合わせや一定量の素材を使うとその素材の元となった生き物の力が付与され武器が限界突破するのだ。普通ならば長い修練が必要なのだが、幸いにもこの部屋はエネルギーに溢れている。これを利用して限界突破すればよい」
「そんなことができるんですか?」
「できるから言っているのだ。竜には竜の力が有効だからな。あのコアを壊せるのはエファ、お前しかいない」
思い出してみれば私がドラゴンを倒したあの時、ギンの力を借りて竜の攻撃をしていた。
だからあのドラゴンを倒すことができたのだろう。竜には竜。そしてその竜の力を私も使える。
「私だけ……分かりました。やります」
「よく言った!」
「でもどうすればいいんですか? エネルギーを利用する、なんて私にはできませんよ」
この青いエネルギーも魔力なのだろうか。
しかし私は魔力を吸収する方法なんて知らない。
「ここには魔術師が多くいるのだぞ。その程度造作もない。お前は武器が限界突破するまで体力を回復し、最後に全力でコアを壊せばいい」
「なるほど。私がやることはそれだけなんですね」
簡単だが、大事な仕事だ。
「始める前に言っておく。大量の魔力を入れるのだ、意識が飛ぶほどの痛みが襲うかもしれぬ」
「えっ!? えっちゃん大丈夫なの!?」
「時間を掛けてでも負荷が少ない方法を選ぶべきであります!」
「限界突破させるには最大出力で魔力を入れるしかないのだ。それに、やるかどうかはエファが決める」
そんな、決まってる選択をさせないでよ。
今やらなきゃ、いつやるんだ。絶対にやらなければいけないことなのだ。引いてはいけない。
「…………まあ、そのくらいでドラゴーを止められるなら安いもんですよ。やってください」
「ふむ、見直したぞ。よし、貴様ら! 遠慮などするな、手を抜けば余計に負荷が大きくなるぞ!」
部屋にいた魔術師が壁に紐のようなものを付け、エネルギーを引っ張り出し始めた。皆真剣な表情、私が死ぬ可能性もあるのかな。
その中にはポルカーさんもいる。
「やあやあ、大変な仕事押し付けられちゃったね」
「本当ですよ。私はここで座ってればいいんですよね?」
「ああ、そこで休んでて。あとは僕たちがやるからさ。ポコン、集中しろよ」
「あったりまえじゃん! はあああーーー!!」
覇気のない声で私に魔力を送り込むポコ。武器や身体に魔力が流れてくるのが分かる。
十数分後。これ以上魔力が入らないと思ったその時、いきなり身体中の魔力がドラゴンナックルに入り始めた。今まではこんなに入らなかったのに。
「準備に入ったな。そこから魔力を限界まで入れる。少し苦しいかもしれんが耐えよ」
「そんなっ! あ、あああ!」
ただでさえ少ない全身の体力が抜けていく。魔力と同時に吸われているようだ。
「エファ殿、耐えるであります!」
「あ、ありがと……くっ、くあああ……あああああ!!」
隊長にポーションを飲まされながら耐える。痛みも出てきた、風邪を引いた時のような関節の痛み、意識が無くなりそうだが、ひたすら自我を保つ。痛い、痛い痛い痛い。
血管に魔力が走る感覚。何かが身体中を駆け回る。大量の魔力を一気に取り込んだのだ、何もないわけがない。
「……。…………ああ」
痛みに耐えながら拳に力を入れる。素材として使われている鱗が光り始めていた。金属のように鈍く光る鱗が磨いた鉄のように光り輝いている。
そうだ、鉱石竜だったな。ということは、その真の力が解放されようとしているのだ。
「今だ! 力を入れよ!」
「……っ! はああああああああああ!!!!!!」
なけなしの気力を振り絞り、拳に力を入れた。
無意識に爪が出る。ドラゴンの力だろうか、もう一歩も動けないと思っていた身体がゆっくりと動き始める。
繋がれていたエネルギーの紐を外す。今なら壊せる!!
「いっけええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
走りながら右の爪で殴り削り取る。その瞬間、私の背後に何かが現れた気がした。
これは……ドラゴンか。それに一本の角が生えている。限界突破により現れた魔力の塊だろうか。
ドラゴンと共に拳を前に突き出す。爪がコアに当たるのと同時に、ドラゴンの角もコアに突き刺さった。
火花が散る。ギリギリと押し返されそうになるが、負けてたまるか。こちらも気力だけならマックスだ。
ドラゴンの角と爪がコアを砕く。大量の魔力が溢れ出るが、事前に準備していた魔術師たちによりバリアが張られ影響は受けなかった。
「これで………………終わり、だよね」
膝をつき、コアの乗っていた台にもたれかかる。エネルギー源を失った遺跡は次々に崩れ始める。
目の前の壁が崩れ、外が見えるようになった。物凄い速さで進んでいるのが分かる。
地上には攻撃をしなくなり崩れ始めたドラゴーから逃げる騎士や冒険者たちが。遠くには街が見える。
が、街はどんどん近づいてくる。ドラゴーは止まった、それは確かだ。
だが、止まるまでのスピードにより地面を抉りながら前に進んでいるのだ。
まずい、このままでは街が破壊されてしまう。だが身体は動かない。ああ、間に合わなかった。
次回最終回。




