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絶望の山

 砂埃がある程度消え、山全体が視認できるようになった。

 山が動いている。ただ動いているだけではない。足がある。顔がある。身体がある。………………牙がある。

 竜? 獣? それは分からない。でも、それに近い形に確かになっている。


「な、なんですかあれ!」

「あれが厄災だろう。確かに、あのまま進めば国は滅ぶな。見事に王国に向かって進んでいるではないか。クハハハ!」

「笑い事じゃないよー!!!」


 ひとまず山から離れる。

 遺跡から逃げ出した人たちは、今も山から逃げている。山の動くスピードは物凄く遅いので倒される、なんてことはない。


「どうしますか、王」

「どうするも、今は逃げるしかないだろう。奴について調べ、止める方法を模索する。不可能ならその時はその時だ」

「あれ、止められるんですか」


 王様の言葉に対して率直な感想を言う。山を止めるなんて考えられない。それだけの力を私たちは持っていない。


「あれは明らかに人工物であろう? それならば止める手段くらいあってもおかしくはない。過去に王国を滅ぼしたのだぞ」


 確かに。私、攻撃して止めることしか考えてなかった。脳みそまで筋肉かよ。


「一回使われたってことは……止められるってこと?」

「そうだ。使い捨てならばどこかに残骸くらい残るだろうし、この規模だ。そう簡単には作れまい」


 残骸を再利用したとしても、王国から運んだことになる。その距離の山を元に戻すのなら、再び動かしたほうが楽だ。つまり止めて動かせる、操れるということ。憶測の範囲を出ないが、今はそれを信じよう。


「王国との間に拠点を作る。エファはギンに兵士を運ばせよ。短期決戦だ、最悪足止めだけでいい。最短で叩いてやろうではないか」

「そ、そんなことができるのでありますか?」

「できるに決まっているだろう。ギン、お前の最高速度はその程度ではない。うちの兵士はいくら速くても耐えられる。風魔術の保護が耐えられない風が来てもな」

「ギン!? 抑えてたの!?」

「クォォォ」


 ギンはそう言った。本当はもっと速く飛べるのに、風魔術が耐えきれなくなるから抑えていたのだ。

 そうなると数時間どころか一、二時間で到着するのではないか。おや、おやおや? できるのでは??

 末恐ろしいなこの男、だてに王様やってない。


「そうだったんだ……知らなかった」

「なぜ理解しているんだこいつは……」

「こいつらはおかしい。面白い奴らだ。俺が気に入った理由が分かったであろう?」

「はあ……」


 絶対ダルク分かってないでしょ。王様だって変な人でしょとか思ってるけど口には出せないってところか。

 あとでこっそり王様に教えてやろう。


「拠点の場所を決める。エファ達はそこで決戦に向けてしばし休むがいい」

「短い休息ですね……」

「お前たちは貴重な戦力だからな。だろう? ダルク」

「……ええ、そうですね」

「うわっ、ダルクが認めた!? きもっ!」

「めずらしー!」


 私とポコはやいのやいの騒ぎ立てた。これは本心である。えー、私たちのことを戦力と見ていなかったのにぃ??

 あ、でも最後の攻撃は任せてくれたから、あの時にはすでに認めてたのか。ええー? 照れるじゃん?


「うるさい! 私は兵士をまとめ上げる。邪魔はするなよ」

「用がないのにダルクに話しかけるわけないじゃん」

「…………」

「クハハッハハハハハハハ!! クハッ! グェッ……」

「笑いすぎてむせたであります!?」


 私の冷たい一言にダルクは苦虫を嚙み潰したような顔をした。こいつ……って顔だ。

 そして王様は笑いすぎて天を仰ぎ見ている。目元に涙も溜めているので、本気で笑っているらしい。ダルク……もしかして王国でそういうポジションなの?

 なんて思いながら、私は拠点が作られる場所に向かうのだった。


* * *


「何もない!」

「ないね」


 王様に降ろされた場所は山が少ない場所、まあ草原だ。木はそこそこ生えているのだが、それだけ。

 ここに来たところで休めるわけがない。


「ここで吾輩の登場であります!」

「よっ! 待ってました!」

「じゃん! 家具!」

「なんで持ってんだ」


 隊長の収納スペースには家具もあるらしい。ゆっくり休めるイスに、テーブル。後は食器と食料を置いて、完成だ。青空食堂。

 ドラゴンの肉を食べればやる気も元気も湧いてくる。これに頼りっぱなしはいけないな。身体がダメになってしまう。

 今回は非常事態だからいいのだ。山ほど食べてもいいのだ。誰も私を責めたりしない。


「休むって言ってもねー、これ食べちゃったら休む必要ないし、どうする?」

「拠点作ってくれる人が来るまで待機でしょー? ギンが本気出してもそれなりに時間かかっちゃうし、装備の点検くらいしかできないよー」

「しかもさっきまで戦ってたからある程度準備はできてるっていうね」


 ポコと隊長は道具の準備があるだろうが、私は何もない。拳をあっためておくとか、そのくらいしかないのだ。


「そうだ、ポコのお父さんってどんな人?」

「気になるであります」

「きゅ、急にどうしたの?」

「いや、会うかもしれないじゃん。戦いが終わった後さ」


 入れ違いになったって言ってたよね。なら、もしかしたら集められる兵士に紛れているかもしれない。

 そうじゃなくても戦いが終わったら会うのだ。そっちの準備もしようそうしよう。


「えっとねぇ、変な人だよ」

「だろうね」

「酷くない!?」

「だってぇ、ポコのお父さんでしょ? ねぇ?」

「たいちょおー」


 私が呆れながらそう言うと、ポコは隊長に泣きついた。


「吾輩は……擁護できないであります」

「そんなー!」


 おそらくポコに似ているのだろう。ポコのお母さんがあんな感じだったのだから、お父さんはポコの天然部分が前面に出ているはず。


「で、他の特徴は?」

「んーとねー、まずわたしが大好きで」

「ふむ」


 親バカと。お母さんと同じか。


「わたしよりも自由」

「ポコよりも?」

「うん」


 ポコよりも自由……想像ができない。

 まず自由ってなんだ。ポコは一応私たちと一緒に戦ってくれるし、真剣な時は真剣だ。ポコが自由な時は、安全な時。好き勝手に動き回って、気付いたら見失う。子供みたいなやつだ。

 見た目的に逆だろう。いや、それもおかしい。私は子供じゃない。


「ポコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 叫び声が聞こえる。

 振り向くの嫌だなと思いながら、予想が当たっているであろうその人物の顔を確認した。

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