キラーラビットガニゲテル! アラホントー
山頂が二つに分かれており、うさぎの耳のようになっている山。それがラビト山。
特徴的な山だったため、記憶に残っている。まさにウサギ山。そこにいるうさぎの魔物を相手にするかもしれないというよくわからない状況。
「結構上らないといけないんだー」
「頂上も高すぎるわけじゃないし、さっさと採取してきちゃおうか」
「うん!」
ラビト山を通って隣町に行くのだ。ならば、道があるはずだ。商人の通る道、そこが全く整備されていないわけがない。
草が生えていない土がむき出しの道は案の定山に入ってからも続いていた。獣道ではない、人が通るための道だ。
「この道を通ったらレンキン草のある場所までいける?」
「うーん、この道で一番高い場所まで行ったら道を逸れて少し上らないとかな?」
「じゃあ途中まではこの道でいっか」
いい目印にもなる。もし迷ってしまってもこの道を探せば帰ることができる。そこまで大きい山ではないので迷っても何とかなる。
ずんずんと歩き、上り坂が終わる。この後は下り坂だけだ。
「ぷぅぷぅ」
「ん? ポコなんか言った?」
「え? エファじゃないの?」
ぷぅという声? 音? が聞こえたのでポコのお腹が鳴った音だと思ったのだが、違うらしい。
なら誰? 私? 私はあんな可愛い声出ないよ。
「ブッー!!!」
「うさぎだああああああああああああ!!!!」
「あらほんとおおおおおおおおおおおおお!!」
事前にポコから話は聞いていた。うさぎの魔物、キラーラビットは額に角の生えたうさぎで、目が赤く光っているためあんまり可愛くないそうだ。実際可愛くない。ポコの方が百倍可愛い。
「ブッー!」
「ビー――!!!」
「ビィーーー!!!」
しかも複数いる。聞いていた通りだ、なら、先に考えていた対策をするのみ!
「バリア張ったよ!」
「ありがと! たりゃあああ!!」
バリアを張ってもらい、ナイフ……でもあるがこの長さはダガーか。ダガーを持って突撃する。
捨て身の作戦だ。ポコもバリアで守りながら雷の範囲魔術を使っている。数が多いのでとにかく減らすことだけ考える。キラーラビットの攻撃は基本角を使った突進、しっかりと見極めれば避けられる。
「そらそらそら!」
豚の時とは違い最初から殺すつもりでの攻撃、魔物とはいえ所詮は小動物、豚の時よりも緊張感はない。
一羽、二羽と腹を裂く、頭を割る、足を落とす。肉片が飛び散る、楽しい、身体をを動かすのはやっぱり楽しい!
「サンダーウォール!」
「ビ、ビビビ」
ポコの杖から放たれた光が地面に落ち、着弾点から雷の壁がバリバリッと現れる。そこに、キラーラビットが突進をした。
おお、しびれてるしびれてる。流石ポコ、頼りになる。
「だいぶ数も減ってき……なっ!?」
「どうしたの?」
「あ、あれ見て……」
どこからともなく現れるキラーラビットも、流石に数分間倒し続ければ数も減る。
一旦落ち着こうとした次の瞬間、私は信じられないものを目にした。森の奥に、無数の赤い目が見える。
「ここから増えるんだ……ポコ、全力で行くよ」
「もちろんっ」
まだバリアは破られていない、だが、このままだと破られるのも時間の問題だ。
「ビギィィィィィイイイイ!!!!」
「かっ……はっ!?」
なんて考える時間もなく、突然身体に重い衝撃が走った。バリアにぶつかったキラーラビットは、明らかに今までのキラーラビットとは体の大きさが違う。痛みはないが、三歩ほど後ろに飛ばされてしまった。
他の黒や茶色、模様の入ったキラーラビットとは違い、私を攻撃したキラーラビットは真っ白な体毛だった。そして、角の色も違う。青い、宝石のような一本角。
「あれがボスなのかな?」
「うん、きっとそう。だって、明らかに動きが違う。今まではとにかく突進だけしてたのに」
他のキラーラビットは各方向に散らばり、攻撃のチャンスをうかがっている。さっきまでなりふり構わず突進だったのに。
おそらく、あのボスが指示をしているのだろう。なら、あのボスを倒せばいい。
「キーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「来た!!」
甲高いうなり声を上げながらボスうさぎが突進してくる。各方向に散らばったキラーラビットも、ボスの動きに合わせて突進をしてきた。まるで放たれた矢のように、私に向かって真っすぐ飛び込んでくる。
「くっ! ポコ、離れないで!」
だが流石に距離があるのか突進も正確ではない。自分に当たる個体だけを撃ち落としてポコのそばから離れないようにする。
さて、ここからどうしようか。キラーラビットが疲れるまでこれを続ける? こっちが疲れるのが先だろう、こっちは二人だぞ。
「ポコ、ボスが飛び出した瞬間に左に壁張って。ボスを撃ち落とす」
「わかった!」
再びうさぎの雨が止む。このチャンスを逃してはいけない。
ポコがキラーラビットの多い左側にサンダーウォールを置く。バリアを張っている時間はない、だが他のキラーラビットを防ぐ程度のバリアは残っている。これならいける。
ボスうさぎは右側、そちらを向けば、そっちが正面。正面のボスとにらみ合う。
「こい……! 外せばお前の負けだ!」
背後にはサンダーウォール、一度飛び出した突進は止められない。
この一撃で落とす。
「ビィ!」
「えっ……!?」
視界に小さなキラーラビットが映る。なんで、だって、バリアが……あっ!
横から飛んできたキラーラビットが狙っていたのは、私の身体でもなく、ポコでもなく、私のダガーだった。
地面にダガーが落ちる。今から拾っては間に合わない。これは私のミスだ。バリアがあるから、他のキラーラビットは大丈夫だろうと考えていた私のミス。
ああ、大怪我しちゃうかな。
「ビギィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
まだだ。
「せいやあああああああああああああああああああ!!! はあっ!」
咄嗟に、私は拳を握っていた。怒りからだろうか、それとも、己の拳に自信があったからだろうか。
とにかく、無意識に拳を構えていた。
当然のように心臓を狙っていたボスの角を身体を傾けて避け、下からアッパーを食らわせる。横からの突進を防いだバリアにより、身体が動かしにくくギリギリだった。
ボスの軌道が頭上にずれ、そして。
「ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
ビリビリビリっと雷が弾ける。そう、ボスをサンダーウォールに当てたのだ。
「悪いね、人間の道に現れたお前が悪いんだ」
数が多いからこそ、攻撃が単調になりわかりやすかった。子分を連れずに普通に戦えば、負けていたかもしれない。そう思いながら、焦げたボスに拾ったダガーを突き刺した。
ビクッとボスの身体が動き、動かなくなる。これでボスが死んだ。
案の定、他のキラーラビットはそれを見て戦闘中でも見せなかった速度の突進で逃げ出した。
勝ったのだ、キラーラビットの、ボスに。