厄災の獣
立っているのがやっとの地震に、逃げなければという生存本能が働きかける。
戦いは終わったはずなのに、何かがおかしい。もしや、遺跡が崩れそうになっているのではないか。
「おいお前! 精霊の加護を持っていたな!」
「も、持っているでありますよ」
「なら、さっさとそこのベヒモスを回収しろ!」
「ちょっと、そんなことしてる場合じゃないでしょ! 逃げないと、死ぬんだよ!?」
みんなが出口に逃げていく中、ダルクの言葉に思わず詰め寄る。急がないと死んでしまうかもしれない。ベヒモスの素材に目がくらんで命を落とすよりは後で探しに来た方が絶対にいい。
「分かっている! だが、この揺れがベヒモスが原因で起こったことだとしたら、調べなければならない! 遺跡が崩れたらその原因もわからなくなるのだぞ!」
「でも……」
「エファ殿、安心してほしいであります。すぐに済ませるでありますから」
そう言うと、隊長は巨大なクリスタルを取り出した。普段使っているクリスタルよりも何倍も大きい。
本当にあの大きさのベヒモスを回収するのことができるのだろうか。ドラゴンの数倍はあるのに。
「そいやっ!」
ダイなマックスなクリスタルをベヒモスに投げる。流石に瞬時に回収はできないようで、光がベヒモスを包み込むまで待つ必要があるようだ。
ほぼ全員が逃げ、私とポコ、隊長にダルクの四人が残った。天井からは崩れた石レンガが落ちてきていて、いよいよ遺跡の耐久も限界というところ。
「いけるであります!」
「よし! 出口に………………っ!?」
出口に視線を向けた瞬間、階段に石レンガや岩が降り積もった。出口をふさがれ、逃げ道が無くなる。
終わった、今から階段の岩を取り除いたところで間に合うわけがない。隊長の爆弾? いや、もっと崩れるだろう。
「なんだと!?」
「…………まだ終わってない」
ポコが小さくつぶやく。全員が絶望していたため、小さな声でもはっきりと聞き取れた。
「ポコ?」
「ここは崖でしょ! 壁を壊せばまだ!」
「流石にそれは……」
この部屋が崖の内側にある可能性だってあるのだ。いくら広いとはいえ、出られる場所があるとしても小さい範囲だろう。簡単には見つからない。
なんて思っていたら、ダルクが人差し指に唾を付けた。え、きも。
「…………あそこだ」
ダルクが壁の一部分を指差しながらそう言った。よくわからないが、あそこが崖に出ている部分なのだろうか。
「隊長!」
「準備はできているであります!」
一か八か、隊長が爆弾を仕掛ける。外に繋がったとしたらどうする? 崖だった場合落ちたら死ぬよね。
じゃあ、なんとか着地しないとね。ポコに任せよう。風魔術とかでさ、多分何とかなるって。
ドゴォンと壁が大爆発する。それと同時にうっすらではあるが月明かりが見えた。
外に繋がっている。やった!
「脱出だ!!」
私たちに絶望は似合わないさ! さあ外に飛び出すよ!
「で、どうやって外に出るでありますか」
「えっと、ポコ?」
「この高さは無理!」
「やばいじゃーん!」
誰もこの先考えてなかったよ。どうしよ、死ぬよりマシだし飛び降りとく?
揺れる地面と崩れそうな遺跡にせかされてまともな思考ができない。いつもできてないけど今回はマジで頭回らない。
遥か下にある地上を見ながら、痛いのは嫌だなーと思っていると、遠くから銀色の何かが飛んできた。
「クォォォォォォォォォン!!!」
「お前ほんと最高だ!!!!」
ギンが来てくれた。それだけで助かったという気持ちが爆発する。よし、竜車もあるし乗るか!
「クハハハハ! ご苦労であった!」
「お、王様!?」
竜車には王様が乗っていた。いや、一応全員合わせて五人だからいいけどさ、なんで来ちゃったの。仕事はどうしたの。という心配が大量に湧いてくる。
あー、とりあえず乗るか。
「なに、民は皆逃がした。しかし、まさか全て終わらせるとはな」
「まさか遺跡が崩れるとは思いませんでしたよ」
一先ず安心だ。遺跡は崩れ、山が動いていると勘違いする程揺れる。立ってられないだろうな。
砂埃がすごくて地上の様子もよくわからない。しばらく飛びながら傍観かな。
「お、王!? なぜここに……」
「なぜ? こいつらを見に来たのだ。しかし竜車はよいものだな。この俺にくれてもよいのだぞ」
「ダメですよ」
「ふっ、言ってみただけだ」
相変わらずだなこの人。
「何を馴れ馴れしく! 失礼だぞ!!」
「え?」
確かに馴れ馴れしかったかな。もっと敬語とか使わないとダメか。王様だもんね。
なんて思ったら王様はきょとんとしながらダルクを見ていた。
「ダルクよ、俺は別に気にしてない。むしろこの方が話しやすいのだ。何度か話したこともあるのだからな」
「で、では以前エファが王様に頼まれたというのは……」
「俺から頼んだが。それがどうかしたか」
「ダルク?」
ニコォ……っとダルクの顔を見る。まだ疑ってやがったか。
「わ、私は初めから実力者だと気づいていた。わざと怒らせて全力を出すように仕向けたのだよ」
「もうおせーよ」
「王様! 国は大丈夫なんですかー??」
「問題ない。ベヒモスが出たという話も聞いた」
伝令兵はしっかりと王様に伝えてくれたらしい。全部終わったのだ、あとはゆっくり休もう。
「でも遅かったですありますね。全部解決でありますよ」
「何を言っているのだ?」
「え? だ、だって厄災の獣、ベヒモスを倒したんですよ。終わりでしょう?」
厄災の獣だよ、厄災を呼び寄せる獣……ん? んんん??
「その厄災の獣だがな、奴は厄災そのものではなく厄災を呼び寄せる、厄災の原因になる獣なのだ。つまり、倒したからといって終わったわけではない。他に国が滅びるほどの何かがあるはずなのだ」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がして私は地上を見た。
山は相変わらず地震で揺れて……いや、あそこまで揺れるのはおかしくないか。山そのものが崩れそうじゃないか。
「どうやらその『何か』は分かったようだな」
「そんな……山が、動いてる!?」
第二の絶望が、すぐそこにあった。