この素晴らしい旅に同行を!
ポコを旅に同行させてください。そう言った瞬間、ポコもセルコンさんもポカンとした顔をした。いきなり何を言い出すんだと思っているのだろう。
「エ、エファ、それって……」
「確認取らずに言っちゃったけど、いいかな? 私はポコと一緒に旅がしたいな」
「もちろんだよ! お母さん! お願い!」
よかった。勝手に言って、ポコを困らせてしまったのかと思った。ポコも行きたいと思ってくれたんだ。嬉しい。
しかし、セルコンさんがそれを許してくれるだろうか。まあ、なんとなく帰ってくる言葉は予想できるけど。
「ダ、ダメに決まっているでしょう! 女の子が二人で旅だなんて」
「私は元々一人で旅をしようとしていましたよ。それに、私達は子供ではありません。ポコも、私も、大人なんです」
おそらく、セルコンさんはポコを子供だと思っているのだろう。いつも近くで見てきたから、ずっと変わらない、子供のまま。大人になったと実感できないのは親もそうなのだ。
現に、私のお母さんは「エファは15歳になっても大人に見えない」と言っていた。いや身長じゃなくてね? 変わらないって意味でね?
それでも、知らないうちに心は大人になっているのだ。自分のことは自分が一番知っている。
「…………でも」
「ポコは魔術師として働きたい。セルコンさんはポコをまだ一人じゃ危ないと判断している。なら、ポコが私の旅についてくれば一人じゃなくなるし、魔術師としても働ける。そして、旅によってポコの実力も上がる。これ以上ない提案だと思いますよ」
「ええ、冷静に考えればそうね。認めるわ。でもね、あなたにポコンを任せられるかどうかは別の話よ」
「……確かに」
娘を任せられるか、なんてのはまた別の話だ。
自信がないわけではない。でも、今のセルコンさんに私がポコを任せるに相応しいかなんて、判断はできないだろう。
「エファ……」
ポコが心配そうに顔を見つめてくる。不安にさせてはいけない。
「大丈夫だよ。セルコンさん、条件をください」
「条件?」
「はい。要は私が戦えるかどうか、ですよね。昨日は野生の豚を二人で倒しましたが、それだけじゃあ認められない。なので、条件をください。例えば……魔物を倒すとか」
魔物を倒す。それは戦闘ができる人に任せられる仕事だ。
要はシカやイノシシと言った害獣のようなもので、被害が出ないように戦える者が倒すことになっている。特に普通の動物とは違い凶暴で戦闘能力も高いため、倒す側もそれなりの能力が必要になる。
「ふむ、確かにそうなるわ。いいでしょう、条件を出します」
なんと、セルコンさんは私の提案に乗ってくれた。思っていたよりも素直だった。もっと、交渉をしなければいけないと思っていたのに。
「え……本当ですか? 見ず知らずの私に……」
「二人が仲良しなのは伝わってくるもの。旅をしても上手くやっていけるでしょう。悔しいけど、認めるしかないわね。だから、後はあなたが戦えるかどうかよ」
よかった。ポコと私は出会ったばかりだけど、しっかり友達に見えていたんだ。
「だから……そうね、確かレンキン草が足りなくなっていたはずだし、ラビト山で採取してきてもらえる?」
「え、採取、ですか?」
なんだか拍子抜けだ。採取とは、それなら簡単だろう。
「そうよ。魔術師は錬金術もするから、素材も必要になるの。実践的でしょう?」
「わかりました。えーと、ラビト山で……あっ」
「ね、ねえラビト山って確か!」
そうだ、ラビト山は今日、うさぎの魔物が暴れているのだ。朝商人さんから聞いた。これでは隣町に行けないと。
「ふふ、気付いたようね。魔物との戦いとなれば危険なのは魔物に囲まれたとき。キラーラビットは集団で行動するから、戦闘能力を測る条件にはピッタリでしょう?」
「ええ、ええ! わかりました、やってやりますよ!」
意地悪をしてくるかもしれないなんて思ってしまったことを後悔する。この人は、母親であっても魔術師。適切な腕試しを示してくれる。それならば、こちらは全力で応えるのみだ。
「決まりね。レンキン草は高いところに生えているから、それなりに上らなければ採取できないわ」
「うん。わたし、勉強したからよく知ってるよ。エファ、わたしに任せて!」
「うん。お願いねポコ」
レンキン草の生えている場所、特徴はポコが教えてくれる。魔術師として勉強してきたから、そういう知識も持っているのだ。
これからの旅でも、ポコの知識が役に立つときがたくさん来るかもしれない。なんて、ポコと旅ができる前提で考えているが、気が早いかな。
いや、そのくらいの気持ちでなければ、目的達成なんて夢のまた夢だろう。絶対にうさぎの魔物を蹴散らして、ポコと旅をするんだ。
「なら、いってらっしゃい。止めていた私が言うのもなんだけど、応援しているわ。頑張ってね」
「はい!」
「お母さん、ありがとう!」
「まだ決まったわけじゃないのよ。それは今からあなた達が決めるの。でもね、危なくなったら引き返しなさい。引くべき時を見極められないうちはまだまだよ」
実に魔術師らしいことを言うセルコンさん。戦いに慣れている人の言葉だ、ありがたく受け取っておこう。
「うん、わかった。絶対に倒してくるね!」
優しく微笑むセルコンさん。ポコに話をするように言ってよかった。離せばわかる人なのだ。当事者同士だからこそ、解決しないことだってある。
「それでは、期待して待っててくださいね」
「いってきまーす!」
ただいまから、いってきます。家に出入りするときの決まっている言葉だが、ポコの声色は、とても明るかった。
そうして私達は、私達の運命を決める初めての冒険へと向かったのだった。
さらに多くの方からのブクマ、評価を頂きました。とても嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!