死を身近に感じたときってありますよね
こんなに離れているのに、あの竜が出している風は簡単にこちらまで届いている。
それだけで動物やそこらの魔獣とは違う、今までの常識を塗り替えるほどに超越した生物だと認識できた。
「き、来た! 来たであります!」
「しっ、まだ待って。あの宝石を食べたら、他の鉱石を食べ始めるはずだから」
ここから、鉱石が多く手に入る場所へドラゴンが来るのを待った方がいい。あの宝石から鉱石が多い場所へドラゴンが移動すると、自動的にドラゴンが私たちに近づくという寸法だ。
「…………食べないよ?」
「珍しいからね、ほら、珍しいものって食べるの勿体なく感じない?」
「なんとなくわかるであります」
お菓子とかね。
そんなこんなで、私たちはドラゴンに夢中だ。
銀色の身体に、所々から鉱石のようなものが生えている。というより金属に近いか、あれは堅そうだ。殴ってどうにかなるだろうか。
しかし本当に食べない。鼻先で宝石をつついたり、転がしたりしている……のかな? ここからだとはっきりは見えないな。あれだけ油断してるしちょっとくらい近づいても……。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!!!!!」
「な、なに!?」
再び風。あの鉱石の竜よりも大きな風だ。
そしてこの咆哮。信じがたいが、あの鉱石竜よりも大きい。顔を上げたくない、でも、確認をしなければ。
恐る恐る、咆哮の正体を確認する。
――――――地上に降りた竜の倍、いや、それ以上の竜がそこにいた。
「でかあああああああああああい!!!!」
「な、なんでありますかあれは!!!」
「親かな? でも似てないねー」
なんてのんきなんだこの犬っころは。
私たちが上の巨竜に目を奪われている間に、下の鉱石竜が私の宝石を口に入れた。
「待って! ドラゴンが宝石を食べた!」
「どっち!?」
「小さいほう! いや小さくないけど!」
大きさだけでなく、見た目も違う。あの岩のような巨大な竜が鉱石竜だとしたなら、最初の竜は金属竜だ。そのくらいには輝きが違う。
この場合、二頭の竜を相手にできるわけがないので逃げるのが正解だろうが、その場合ふもとの人たちに被害が出る可能性がある。ここで倒すか、せめて撃退するかしなければ安全にはならないだろう。
「どこかに飛んで行ってくれたらいいんだけど」
「なかなか動かないね、お話してるのかなー? んーでもなんか険悪だねー」
「わかるの?」
「うん、あの大きいのは降りようとしてるんだけど、銀色の方が邪魔してるの」
「それなら願ったり叶ったりでありますね。このまま見守るであります」
「そうだね」
言われてみればポコの言う通りあの二頭は仲がいいとは言えなさそうだ。翼で攻撃したり、首をぶつけたり。動物でよくみられる喧嘩だ。
だが、体格差がありすぎる。これは銀色の負け…………。
「クオオオオオオオオオオォォォォォン!」
「!?」
銀色の鉱石竜が尻尾をドラゴンに向けた。その尻尾は鋭く光っている。まるで金属の武器のようだ。
その迫力に目が釘付けになっていた。あんなに体格差があるのに、果敢に戦っている。しかしそれでも体の大きさは覆せないようで、徐々に攻守が逆転していく。
あれ、大きい方が……口を開けて……。
「っ! まずい!!! 逃げて!」
「なになに!?」
口の中が光っていた。揺らめいていたからあれはおそらく炎だ。岩の後ろにでも隠れないと流れ弾が当たる可能性がある。
キュイイイイインという高い音と共に、赤い光がドラゴンの口から放たれる。
ブレスじゃなく、光線!?
「おわああああああああ!!!」
叫びながら木の陰から飛び出す。大きいドラゴンの光線は銀色のドラゴンの攻撃により逸れて、私たちの頭上を通過した。木が倒れてしまったので次の隠れ場所を探さなくてはいけなくなる。
が、動けない。ここから動いたら、それこそ動きで見つかってしまうのではないか。
「ひ、ひいいい! 死ぬかと思ったであります!!」
喋るんかい。もう少しボリューム抑えて。
「と、溶けてる……?」
ポコがそう言った。背後を見ると、本当に壁の一部が溶けていた。うーん、死ぬね。人生で一番ピンチだねこれは。
だって溶けてるんだぜ。壁が溶けてるんだぜ。あんなの一発食らったら死ぬよ。エ/ファになっちゃうよ。
「くっ、隠れられる場所がない……」
下に降りるか……? でもそうしたらさっきの光線が建物に当たってしまうかもしれない。
やはり隠れるか、でもどこに? 動くのなら一気に移動したい。
「ど、どうするのっ!」
「全力で岩陰に隠れるか、もしくは……」
「もしくは?」
チラッとドラゴンを見ると、しっかりとこちらを見ていた。こちらを見ていたのは大きい方のドラゴンだ、銀色のドラゴンはこちらのことをまったく気にしていないようで、攻撃を続けている。
いや、今はそんなことはどうでもいい。こちらを見ていたのだ、目が遭った、それだけで私の恐怖が有頂天。遺憾の意。マジまんじ。
「もしくは……戦う。というか、もう戦うしかないね」
あのドラゴン、チラチラとこちらを見ていた。把握している、ここに私たちがいることを。
なら、またあの光線が使えるようになった時にこちらを狙ってくるんじゃないだろうか。その不安を解消する手段は一つ。私たちが戦うしかないじゃないか。
「その言葉を待ってたよ!」
「吾輩の出番でありますな」
こいつら、本当は戦いたかったのでは? もしくは、戦っていないときに死ぬのは嫌だとかかな?
どちらにせよ戦ってる時が輝いてるんだなぁ私たち。
「目標はあの大きいドラゴン、銀色のドラゴンの援護を中心に戦うように。行くよ!!」
「うん!」
「はいっ!!!」
初めての強大な敵。これくらい倒せなきゃ、この先やっていけないさ。いずれ戦う敵だ、倒せなくても、撃退くらいはしてみせる。
あの銀色のドラゴンがこちらを攻撃してこなければいいのだが……観察した限りあのドラゴンは目の前のドラゴンしか見えていない。だから多分大丈夫。今は祈るのみだ。
さあ、ドラゴン狩りの始まりだ!!!




