そのための素材……あと、そのための装備……?
魔獣の解体は複数人で行われた。
解体人は、魔獣の身体に魔力を流しながら、各素材に切り分けていく。話を聞くと、魔力を流すことで流れやすい部分を判断し、正確な素材にするのだとか。
そうして剥ぎ取られた皮や爪、牙に骨は床に綺麗に並べられた。肉はどうする? と聞かれたのでそれも切り分けてもらうことにした。魔力って便利だなぁ。
魔獣を食べる文化はあまり広まっていないが、食べれることを知っている人はそれなりにいるらしい。ただ、魔獣は恐ろしい魔の生き物なのだと幼い頃から聞かされていた普通の人は食べるのに抵抗があるとかなんとか。
私は幼い頃に食べたから平気だったんだなぁと思いつつ、他の解体を見学する。
「魔力……流れ……」
左手で素材に魔力を流し、右手で流れを確認する。本当だ、素材によって流れ方が違う。
今までは、ただ解体すればいいと思っていた。この知識があれば、必要な部分だけを剥ぎ取って捨てることもできる。まあ私は全部食べるけど。
「えっちゃーん! 戻ったよー!」
えーっと、魔力を通しやすい素材は攻撃する部分に。魔力を多くため込んでくれる素材は装備や武器の装飾に。だったか。
「エファ殿ー、帰ってきたでありますよー」
流れ方の違い、これは武器を使う上でも理解していた方がいいだろう。効率よく魔力を流せるようにできれば、戦闘も最小限の魔力で勝つことができる。
まだまだ改善点は山ほどある。これから先も、次々とできることが増えていくだろう。
「しまっちゃおうよ」
「そうでありますな! では!」
視界から突然素材が消える。驚く暇もなく別の素材が次々に消える。泥棒かっ!? と思いつつ顔を上げると、ニコニコしながらこちらを見ているポコと、素材を回収している隊長がいた。
「ごめん、集中してた。何買ったの?」
「ちょうみりょー? ってやつ!」
「調味料とパンであります。塩や砂糖などの調味料と、パンさえあれば旅はできるでありますから」
「確かに。それと熊肉以外の魔獣肉も欲しいかな。これだけだと臭みがね」
調味料は肉を美味しくしてくれる。中には臭みを取ってくれる調味料もあるのだが、数が少なく高価だ。酒なら安く手に入るのに。
パンは単純に飢えをしのぐため。まあ魔獣を狩れば食糧問題は解決するし、気にしなくてもいいかな。肉以外も食べたいからパンはありがたい。
「あのね、買い物してたら――――――」
「はいはい、歩きながら聞くよ。隊長、容量はどう?」
「まだまだ余裕であります!」
それはつまりあの大きなヨロイグマを丸ごと収納しても余裕で容量が余るということか。どんだけでかいんだその空間は。頼もしいことこの上ない。
ポコが隊長とどんな会話をしたとか、買い物をしたとかを楽しく語っているのを聞きながら、鍛冶屋に向かった。
* * *
いやー、まさかとトパーさんが商店街で買い物をしていたとは。しかも、隊長の元仲間がアカネさん達だったとは。意外と、世界は狭いのかもしれない。なんて思ってしまうくらいには知り合いで話が完結していた。
「あれ、増えてるね。こんにちは」
「こんにちは」
鍛冶屋のお兄さんは相変わらず何かを運んでいた。鍛冶仕事の練習ができるようになったといっても、任されるのはまだ先の話だろう。
こんにちはと言ったが、少しずつ空も暗くなりつつある。明日にすればよかったかな? でも今日頼んで明日受け取った方が確実か。
「ヨロイグマを狩ったので装備を作りに来ました」
「昨日の今日でかい?? すごいなぁ……」
「ポコ殿、あのお方は誰でありますか?」
「鍛冶屋の……見習い? の人だよー。わたしとえっちゃんの武器を強化してくれたの」
その後隊長とお兄さんは軽く挨拶をし、別れた。
本題はおじいさんの方だ。装備といえば、鎧だろう。今まで見かけた狩人達は、魔獣の素材などで作られた防具を身に着けていた。私は装備がどのように作られ、どのくらい素材が必要かなんてのは、全く理解していない。ド素人だ。
だから簡単な防具だけでも作ってもらい、値段を確認しつつ防御力を上げようと考えた。私は軽い防具がいいな。
「またお前さんらか。今日は何の用じゃ」
「ヨロイグマの素材で装備を作りたいんです。どのくらいお金かかりますかね?」
「どれ、見せてみろ」
私は隊長にヨロイグマの素材を置くように言った。
床に並べられていく素材たち。何度見ても圧巻だ。これよりも大きな魔獣を倒した時なんかはどうなってしまうんだろう。
それこそ、少人数では倒せないから山分けかな。でも私たちのような三人だけの討伐隊でドラゴンを倒したら……うへへ、お金いっぱいだねそれ。最高かー?
「ほう……これならば、そうじゃな。これでどうじゃ」
「えー? 私たちこれからしばらくは鍛冶屋をする予定ですよ? 何度か来るお客さんなら、もう少し優遇してくれてもいいんじゃないですかね?」
「いうのぉ」
臆せぬ態度。ポコの能天気さを見習って、私もやってみた。
正直少しは緊張したが、向こうも乗ってくれたから嬉しかった。もしかして交渉上手? かわいいって罪なのでは???
「ならば優待客として扱おうぞ。具体的な戦闘での役割を言ってみい」
「魔術師! 弓!」
「近距離戦」
「罠とかサポートであります!」
皆それぞれ、役割を伝える。
「魔術師とサポートならば装飾品に力を入れた方がいいじゃろう。エファじゃったか、お前さんは防御と速さならばどちらを取る」
「速さですね。動きにくいのは嫌です」
「じゃろうな。だいたいわかったわい。明日の昼頃に受け取りに来てくれんか。値段は気にせんでええぞ」
「了解しました。ありがとうございます!」
そんなスピード感あふれる会話で、作られる装備が決定してしまった。
でも、この人プロだし、任せた方がいいよね。ていうか、私のパーティー装備の幅少なすぎ……?
重々しい鎧を付けているのは大剣などの大きな武器を装備している人だった。片や私たちは速く殴る戦士と弓を使う魔術師と変人トラッパーの三人だ。鎧を着る人がいない。よく言えば出費が少なくて済む。うん、そう考えよう。帰宅しながらそう考えた。