はじめての(yu)mii
対に旅に出た私達だったが、王国までの道のりは長かった。
街が見えなくなり辺り一面知らない世界に。整備された道はあるが、人がいる形跡はない。ただただこの道を歩くしかなく、数分おきにコンパスとにらめっこするくらいしかやることがない。
「のどかだねぇ」
「平和だね……」
平和なのはいいことなのだが、こう、することがないのはとても退屈だ。
食料はあるし水もある。あまり変わらない景色を見続けるのはうんざりだ。見かける動物と言ったら……野生のモーゴンとかバードランナーとかかな?
両方とも一応ドラゴンの仲間ではあるが魔獣ではない。でも、突然変異で魔獣になりやすい動物だ。なので家畜にするのは難しい。
モーゴンは牛のような胴体にドラゴンのような尻尾と牙が生えた動物で、バードランナーは丸い体に長い脚がついた鳥だ。両方美味しい。肉は牛と鳥と大して変わらないから食糧になる。
狩るにしても、運べないしなぁ。沢山いるし今狩る必要もないし。
というかむしろ。
「バードランナーに乗って移動したい……」
「バドランは人を乗せるのには向かないらしいよ。自分だけで走るのに丁度いい身体なんだってさ」
「へー、バドランって略すんだ」
「そっちなのぉ?」
初耳だな。いや略し方もそうだけどバードランナーが人を乗せられないことが。
あれ、走るためだけに生まれてきたんじゃないのってくらいに走るからね。同じ地域に一週間以上いないから家の前とかよく走ってたからね。小さい頃の私はそれを応援してた。「バードランナーがんばえー」って。今じゃ食べられるかどうかを先に考えてしまう。悲しいかな、これが大人になるということだ。
「そこの君たちー!!」
「んん?」
「馬車だー」
声が聞こえ振り向くと、馬車が走ってきていた。その馬車が私達の前で止まると、馬に乗っていたおじさんが降りてきた。今日のおじさんだ。
「旅人さんかな? ちょっと頼みがあるんだけど……行き先は?」
「はぁ、王国……城下町ですね」
王国王国言っているが、ここも王国領だ。城下町以外の街や村は、城下町を含めて王国と呼んでいる。
だから行き先は城下町。名前は……フォルテシア。
「なら丁度良かった! 手伝っておくれよ、乗せてあげるからさ!」
「て、手伝いまっんぐぅ……!」
勢いで承諾しそうになったポコの口元を手で覆う。
私自身も思わず、いいんですか!? と言いそうになったが、ここはぐっと我慢。
内容によってはデメリットの方が多いかもしれない。
「まず、何をすればいいか教えてください。手伝うかどうかはそれからです」
「あーえっと、僕が来た方向の空を見てくれ! あれを撃ち落としてほしいんだ」
「空?」
ポコと一緒に空を見上げる。大量の鳥が飛んでいた。えっ、こっちに向かってきている? 方向が同じなだけじゃないの?
「あれはソニックバード、馬車を見つけては荷台にある食糧を盗もうと突撃してくる鳥だ! このままじゃ売れなくなっちまう!」
「そんな迷惑な鳥がいるんですか!?」
「ああ、ここ最近見かけなかったのに……駆除対象になってるから、遠慮なくぶっ殺してくれ! 弓も使っていい!」
「弓……」
そういえば、弓は使ったことがない。自由に使っていいのなら、いい練習になりそうだ。
これが魔獣を倒せとかならリターンが少なすぎるが、鳥の駆除なら、それほど危険もないだろう。むしろメリットだらけともいえる。暇がなくなって尚且つ城下町まで行ける。素晴らしい。
「わかりました。やります」
「よしっ、なら荷台に乗り込んでくれ! 揺れに気を付けろ!」
「やったー馬車だ!」
荷台には大量の袋や木箱が置かれていた。中には食料が入っているのだろう。
「おっ、これか」
「わたしもやるー」
荷台の隅に置いてあった弓は、初心者が使うような簡単な形状ではなく、金属や皮などが使われた本格的な弓だった。これって魔物とか魔獣用なのでは……?
どちらにせよ、普通の弓では魔獣とは戦えない。今のうちに慣れておこう。
初めての弓で、無駄うちせずに鳥を撃ち落としながら、弓に慣れる。……難しくね?
「来るぞぉ!」
馬車が動いたとともに揺れが激しくなる。そして、ソニックバードも近づいてくる。
「ちょちょちょっと! 追いつかれそうなんですけど! 馬の方が速いんじゃないんですか!?」
「全力の馬の方が速いが限度がある! 馬にも限界ってもんはあるんだ!」
言われてみれば目の前に泊まった時に馬が物凄く疲れていた。全力で走り、あそこまで距離を広げたのだろう。
なら、追いつかれるのも時間の問題。私達はあのソニックバードがいなくなるまで、馬車から狙撃をしなければいけない。
「ポコ、弓に便利な魔術ある?」
「遠視魔術がいいと思う。あと、魔術を込めると威力が増すよ」
「おっけ、じゃあお願い。もし近距離になったら魔術で直接攻撃に切り替えね。私もダガー使う」
「りょうかーい。落ちないように気を付けてね!」
杖を使いポコが私の身体に魔術を掛ける。矢を持ち、弓を引く。
目を凝らすと、どんどん遠くまで見えるようになってくる。まるで望遠鏡を覗いた時のような視界の狭さとブレ。落ち着いて、視界のブレを抑える。今っ!
「あっれぇ!?」
放たれた矢は、ソニックバードの群れから大きく下回り、遠くの地面に突き刺さった。なんで!? 獲物の少し上を狙ったのに!
「えっちゃん、もっと上じゃないと落ちちゃうよ」
「な、なるほど」
これは一筋縄ではいかないぞと思いつつ、ソニックバードが近づいてくるまでの間、私は慣れることに専念するのだった。




