ド田舎生活は不満よな。エファ、旅に出ます。
初めましての方は初めまして。瀬口恭介です。後書きに書くとウザいので先に済ませます。応援、ぜひよろしくお願いします!
注意:この作品を読む前に以下の内容をご確認ください。
・グロい
・百合要素
・生き物を食べるということの大切さ
・男いらなくね?
「え!? 畑で野生の豚が暴れてるんですか!?」
15歳の誕生日。子供の頃に会った旅人に憧れた私は、早速村から一番近い街に向かった。
実家が牧場で豚の解体も経験している私にとっては、野生の豚は貴重な食糧になる。是非とも入手したい。
「ああ。うちの畑でな。お嬢さん、旅人かい?」
「はい、今日旅人になったエファと申します。あの、お手伝いしましょうか?」
旅人を名乗るのが少し恥ずかしくて、髪を掻きながらそう言った。この辺りでは珍しい短めの黒髪だ。
腰には大きめのナイフがぶら下がっている。本来ならば太い木の棒で頭を叩き気絶させるのだが、野生の豚となっては話は別だ。向こうも突進してくるから、切って体力を消耗させるか、罠にでもはめないと止められない。
止まっている隙を狙って気絶させる手もあるが、そう簡単にはいかないだろう。
「それは助かるな。いやぁ、なんだか申し訳ないね、子供に手伝ってもらうとは」
子供、と言われて内心ムッとするが、大人なのでここはぐっとこらえる。二回子供だと言われたら訂正するかもしれない。
それに、大人はこのくらい気にしないのだ。身長が小さいとか小さいとか小さいとか、そんなことは思われていない。あと胸も関係ない。絶対に違う。
15歳になったばかりなんだ、顔立ちが幼いから勘違いされてもおかしくない。
「いえいえ。その野性の豚、私が好きにしていいんですか?」
「もちろん、俺一人じゃあどうしようもないからな。あ、でもお肉を少し分けてくれないか? 金は払うぞ」
「いいですよ。交渉成立ですね」
早速準備をしよう。戦いに自信があるわけではないが、それなりの戦闘技術は身に着けているからきっと大丈夫。
旅をする以上これくらいできないと生きてけない。お金も自分で稼がないといけないのだ。
* * *
豚と言えばピンク色や黒い肌の毛のない動物だ。うちの牧場でも黒い豚を育てていた。
だが、脱走した豚は野生になり先祖返りをする。脱走した豚を見つけたときには毛の生えた小さいイノシシみたいになっていた記憶がある。牙も伸びていて、とても危険だ。
さてさて、今回の野生の豚。どれほどの大きさなのか。
わたくしとても興味がありますですよ。
「なんだぁありゃあ?」
知らない土地なので風景を見ながら移動していると、農家のおじさんが突然そう言葉をこぼした。
なんだなんだと顔をのぞかせると、大きな畑に巨大な豚が一匹、変な女の子が一人いた。
女の子は豚の前で変なポーズをとっている。なんだあれ、なんだあれ。
「とぉーー! たりゃー!」
「え、誰あれ」
「危ないぞー! そこから離れなさーい!」
おじさんの優しい注意。流石にこちらに気づいたようだ。
「なんてーーーーー?」
ダメだ聞こえてねぇ。
「おじさん! 私行ってくる!」
「頼んだ!」
荷物を置き、必要な物だけ持って畑に入る。もうすでに豚に踏み荒らされているようで、収穫前の野菜の欠片が散乱している。これはひどい、豚退治に乗じて野菜も貰おうと思っていたのに。
豚が突撃する二秒前みたいな姿勢になっていたので、木の棒に持ち替える。
「危ない!」
「ふわぉうっ!?」
女の子をどかして豚の牙に木の棒を当てる。そして、女の子とは反対方向へ逸らす。ナイフでは止めきれない。
「危ないから離れて!」
「えっ? よ、横取りしないでよ! わたしの獲物だよ!」
「獲物ぉ?」
豚の突進を避けながら女の子を確認する。よく見たら杖を持っている……ってことは魔術師かな?
「もう少しで発動したのにさー」
「な、なら手伝って! 私が気絶させるから!」
「んーおっけ!」
軽い! なんて気にしている場合ではない。
魔術で足止めをし、私が木の棒で脳天にぶち当てる。気絶した豚の心臓をナイフで一突きしたら終わり。
「ちょいっと」
杖を振って何かをしている女の子、魔術は簡単な物しか知らないので何をしているかはわからない。
だがおそらく足止め的な何かをしてくれているのだろう。
「ピギーーーーー!!」
木の棒で豚と押し合いをしていると、豚が突然ぷるぷると震えだした。
「な、何したの?」
「拘束魔術!」
拘束魔術……そんなのもあるんだ。その名の通り拘束具で拘束されているように動かない。
よし、今ならいける。木の棒を右手に持ち、片合掌をする。
「そらぁ!」
「ギヒーーーーー!!」
思いっきり振り下ろした木の棒は豚の額に見事にクリーンヒットし、ガツンと重い音が鳴る。
牧場で何度も聞いた鳴き声。鳴き声と共に豚は横に倒れた。地面が揺れるほどの重量、かなりの肉が取れそうだ。
慣れてしまったが、命を奪い、食べることへの感謝は怠らない。これは両親から教わったことだ。
「いただきます」
片手剣のような長さのナイフを抜き、脇の下、心臓のある位置に勢いをつけて突き刺す。
この場合、ナイフがろっ骨にぶつからないように気を付けないといけない。縦にすると骨に当たってしまうので、刺すときはナイフを横にして刺す。
心臓に刺さったのか、それとも心臓に近い太い血管を裂いたのか。ナイフを抜いたときに血がドクドクと流れ出る。血抜きをするためこの状態でしばらく待つ。
「終わったー?」
「ふう……うん、終わったよ。それでどうするの、これ」
「欲しいけど、手伝ってもらっちゃったし……」
「じゃあ、二人で分ける? というか君誰?」
焦げ茶色の髪の毛に、ぼさぼさの寝ぐせ。八重歯。どことなく犬っころっぱいな。
「ポコンだよ!」
「ポコンね。私はエファ。ポコって呼ぶね」
「ポコ!?」
だって犬なんだもん。近所の犬がポチみたいな感じだったし、呼びやすいからポコンから二文字とってポコ。
「うーん。可愛いから、いいよっ!」
「いいんだ」
ウインクしながら親指を立てるポコ。やだすっごくあざといわ。でもこの可愛さは犬だね。犬だこの子。
「その代わりわたしはえっちゃんって呼ぶね! 二人で分けるのもおーけー!」
「えっちゃん……まあいいや、決まりね。この豚運ぶからおじさん呼んできて」
おじさんは遠くの方で荒らされた畑を片付けていた。
ああ、悲しそうな顔で野菜を拾っている。こっちも悲しくなってくるよ。でも全滅する前に豚を倒せてよかったと考えるべきか。
「あ、あのおじさんね! 呼んでくるううううう!」
「元気だなー」
走り去っていくポコ。変わった子だなぁなんて思いつつ、泥があまりついていない豚の身体を見て解体にはそこまで手こずらなそうだと安堵する。
過去にイノシシを解体した時は、毛皮に泥がガッチガチにくっついていて皮を剥がしにくいのなんの。
旅に出てから初めての解体だ。張り切ってやるぞ! おー!(一人)