八十三話 鎖の骨
霊界から幽霊船と共に現れた不死身の悪霊カイムを、聖剣レクスカリバーで断ち、ノアに帰還したレハベアム一行。天界の王子の冠とメナリクの魔力によってレクスカリバーが覚醒したのは嬉しいが、彼の頭の中には、霊界で手に入れた二つの黒い真四角の石について、疑問や考察でいっぱいいっぱいだった。
旅船ノアは無事に進行を開始。戦ってくれたウァサゴやアンリデウスは疲れたか、隣の二丸六室で寝ている。ヴァプラは二丸七室で、船酔いがまだ治っておらず、袋を持った状態でベッドでいびきをかきながら爆睡。
俺とフェニックスも二丸七号室に戻り、椅子に座り、この二つの石を机に並べた。
「……ねえレハ。この石どうする?」
霊界の戦いに貢献したフェニックスも気になっていたのか、謎の石の考察に参加。
フェニックスは生に満ちた力を持ち、相反する死のオーラや霊界の気配を察知する事ができる。レメゲトンの表紙上半分は、魔列車の中でフェニックスが偶然拾い、下半分は幽霊船を操っていた亡霊カイムが持っていた。これらの石は霊界というワードが共通している。不死鳥と関連性はよくわからないが、フェニックスがいなければ手に入れることはまず不可能だった。これも何かの仕組まれた運命なのだろうか。
「どうするったって、なぁ……。縦に並べる他ないんじゃないか」
※小さな鍵レメゲトン 左:表紙 右:裏紙
一方レハベアムが持っている2つの石には、中央の鍵マークが、古墳状の鍵穴マークになっている
レメゲトンの表紙が上下に綺麗に分かれている二つの石。
魔列車で手に入れた上の石は、牛の頭蓋骨と左右に生える鎖骨、中心を囲う鎖骨の半分。そしてレメゲトンには存在しない、古墳状の上の部分が描かれている。
対して幽霊船で手に入れた下の石は、下に『Lemegeton Clavicula solomonis』と、魔界では読めない字がリボンの絵の中に書かれ、リボンの上から鎖骨が左右に生えている。こちらも中心を囲う鎖骨の半分が描かれている。同様にレメゲトンには描かれていない、古墳状の下の部分がある。
この石を縦に並べれば、ちょうど中心を囲う上下の鎖骨が繋がり、レメゲトンと同じ表紙となる。
そして、古墳状の上下のマークが繋がり、鍵穴の形になりそうだ。俺が持つレメゲトンは、小さな鍵という異名を持つことからも、鍵との関連性も高い。
「じゃあ早速並べてみようよ!」
心躍るような笑顔で俺を見つめ、明るい声で陽気にはしゃぐ。まるで夏休みの自由研究かのように、謎の解明の瞬間に立ち会える冒険家や研究員みたいにワクワクしている。
「あ、ああ……」
「どうしたのレハ? なんか乗り気じゃないね」
「……レメゲトン」
「え」
「モーヴェイツの魔王が持つレメゲトンと、この石には関連性がある。石の謎を解明したとき、俺の身に何か起きないか心配でな」
この石と、レメゲトンを代々所持するモーヴェイツ王家には関連性があるので、厄介な出来事に巻き込まれそうで嫌だ。しょせんは被害妄想だが、俺の身にはいつも摩訶不思議な現象がいつもいつも現れているから、俺の予感は当たるような気がしてたまらないんだ。
下手したら俺が狂って闇落ちし、魔王の道を歩んでしまうかもしれない。だからこれ以上、モーヴェイツのしがらみに取り憑かれたくないのが本音だ。せっかく集めたものの、あえて触れておかない選択肢もいいかなと思った。
「ああなるほど。石の謎を解いたら、もしかしたらレメゲトンがやばくなったり、モーヴェイツの血が騒いだりして、レハがおかしくなってしまう可能性もあるってことね」
「ああそうだ。そうなると俺は俺でなくなって、魔王になってしまわないか不安で」
天界の王子となった人間が、この石のせいで闇落ちして魔界の魔王になるというシーン。中二病大歓喜なヴァプラ発狂物のファンタスティックが現実になるのは避けたい。
「そうだね。レハがレハでなくなるのは嫌だなぁ……」
謎の解明をこの目で見たいフェニックスの好奇心を、俺のために萎えさせてしまった。ウッキウキだった笑顔が今やションボリと目や口角が下がった。がっくりでも俺の身を案じてだろう。
「でもフェニ。俺もこの石がいったいなんなのか気になるのは同じだ。だから俺はこの石を重ねてみる」
その一方で、この石を重ねたら何が起きるのか、フェニックスと同じ好奇心が刺激されているのも本音だ。この目で謎の正体を見て、モーヴェイツ王家の謎を知りたい。
「えっ! でもやっぱり危険じゃ?」
「もし俺が狂ったりしたら、その時はお前が俺を殺せ」
「え。えええええええええええええええええええええええ嫌だよちょっと!」
俺を前に両手を伸ばして必死に振るい、指示を拒絶。
もし万が一、石を上下に重ねてみて、レメゲトンや俺がモーヴェイツのしがらみが発動したら、確かに危険だ。その時は俺が死ねばいい。フェニックスに俺の最期を託すしかない。
しかし友人である俺を殺すのは嫌がるフェニックス。酷なお願いをしているのは重々承知だ。
「一応そうだな。ダーインスレイヴも託しておくか」
座りながら右手に魔法陣を出し、魔法陣が出現。右手を突っ込み、ダーインスレイヴの柄を握って引き出した。それを見たフェニックスが椅子から後方へ跳び上がり、俺から距離を離す。ドアに背をつけて、いつでも俺から逃げる気だ。怖がり過ぎだろ。
「い、いやいや何ガチになってるのレハ!? いやだよレハを殺すの」
こんなに嫌がるようであれば、俺が闇落ちしたときの土壇場で殺害するのは難しそうだ。なによりフェニックスの永い魔生にずっと後味の悪い経験を記憶させるのは、俺も後からいささかに思うようになった。
「……そうか。すまなかったなフェニ。フェニが俺を殺せば、苦しむのはフェニだもんな」
「そうだよこの馬鹿!」
俺から離れたフェニックスに申し訳ない気持ちで眺めながら謝った。それによくよく思い返したらフェニックスは、血を求める魔剣ダーインスレイヴでかつて吸血されたつらい経験を持つ。トラウマな魔剣で俺を殺せと指示するのは、あまりにも酷すぎた。
「じゃあアンリデウスに託すか」
「そういう話じゃないの!」
フェニックス感情爆発で怒鳴り散らすあまり、俺もびっくりしてダーインスレイヴを魔法陣に差して魔法陣を消した。一方ヴァプラはあまりにも爆睡しているのかもろともせず眠りを続行している。
「悪かった悪かった悪かった」
「まずレハは天界の王子に選ばれたんだから、仮に闇落ちしても光で調和されるんじゃない?」
「あ、その手があったな」
フェニックスの名案で闇落ちする不安にも立ち向かう勇気が出た。そうだ、俺は天界のスケベな女神共に選ばれてしまったんだ。それに、宇宙創造よりも前に創られた神聖な冠を被れば、仮にレメゲトンやモーヴェイツの血が暴走しても、闇から光が俺を守ってくれるかもしれない。
「ふうそうだよ……はあああ、よかったぁ」
石の考察に限らず、俺の闇落ち対策の考察まで頑張ってくれたから重い溜息を吐いた。
そうと決まれば、椅子から立ち上がり、再度魔法陣を召喚し、手を突っ込んで冠を握る。魔法陣から外へ引っこ抜いて、頭に置く。
天界の王子の冠を被った瞬間、冠から二つの光が俺の腕を包み込み、銀色の甲冑で覆われた。更には左手にレクスカリバーが自動的に召喚され、柄を握った。不死身の亡霊カイムを打倒したときの恰好だ。
「よし、これで完全に闇から守れる」
たかだか石如きに過度な警戒かもしれないが、この石は霊界から拾い、その上レメゲトンと同じ表紙で、鍵穴まで描かれている。俺が持つレメゲトンは通称小さな鍵とも呼ばれ、石を重ねたときに、レメゲトンと石の鍵穴が共鳴するかもしれない。共鳴したさきに待ち受ける何かは、不吉な予感がする。ただでさえモーヴェイツは魔王王家。俺が狂う可能性も否定できない。だとしたら、やはり創造神から授かった装備で、魔王王家モーヴェイツの謎に立ち向かうのが安心だ。
フェニックスへ振り向き、声をかけておく
「一応外に逃げておいてくれ」
「う、うんわかった」
フェニックスは不死鳥に化身し、翼を展開。俺は窓を開けて、フェニックスは窓からベランダへ身を投げ、ビルの外へ飛び出して羽ばたいた。空中に飛び、俺と距離を取ったら、フェニックスは上を見つめた。
「……レ、レハ。空がすごいことになってるよ……」
「なに?」
俺もベランダに入って空を見上げると、
「……暗い雲と晴天が……」
「……ああ、相当凄い天気になってるな」
目的地へ南下するノアを境に、天空が左右にくっきり断たれている。
左は、いまにも世界が滅んでしまいそうな雲行き怪しい暗い雲。いつもの曇天よりもかなり黒く、嵐や豪雨、雷雨が発生してしまいそうだ。
右は、天界から直接照らされているぐらい眩しく清々しい晴天。魔界全土が溶けかけない強烈な太陽光が差し、悪魔にとっては嫌な天気だ。
まるで魔王か天界の王子か、勝るのはどっちだ。そんな派手な命運の対立を見ているかのような光景だ。
「では、やってみるか」
ベランダから戻り、再度机の前に立ち、静止。二つの石を襲い掛かってくる魔物と思いながら、睨みつける。
石を重ねた瞬間、闇が襲う可能性も視野に入れて、聖剣レクスカリバーでいつでも対抗できるように左手でしっかりと握る。いつもより左手の緊張が強く、強く握り過ぎているような気がする。一方で空けている右手で上の石を持ち上げる。恐る恐る下の石の上にゆっくり、ゆっくりと近づけていく。
警戒を高めるにつれ、己の脈が徐々にエスカレートし、早くなっているのが分かる。頭から一粒の汗が顎へ滑っていく。固くなった唾を飲み込む。
満たされた液体のコップを持って全速力で走るような気持ちと同様だ。コップを少しでも揺らさぬよう慎重に、かつ精密に手の筋肉を操作し、そして思い切って走る。その警戒レベル以上に、右手で掴んだ上の石を、下の石に徐々に接近。
上下の石の隙間は残り一ミリほど。今から起こりうる予想の出来事に対して臨む一秒前。
「……置くぞ」
己に言うように決断。右手に持つ上の石を、下の石に置いてみせた。しっかりと角を合わせて、これで上下の石は重なり、レメゲトンの表紙と同じデザインとして作品は完成した。二つの古墳状も上下で繋がり、鍵穴の絵も完成。
置いた瞬間、俺は一歩後ろへ跳んで後退。上下の石の動向を睨む。
「……ん」
とすると、空いた右手から自動的に魔法陣が展開。これは俺の操作ではない。勝手に魔法陣が開かれたんだ。魔法陣から小さな鍵レメゲトンが出現し、俺の右手に落っこちた。
「なぜレメゲトンが勝手に出てきたんだ。やはりあの石とレメゲトンには繋がりがあったんだな」
レメゲトンが出現すると、上下の石にも変化が現れた。いや、正確には石ではなく、全体のデザインが。レメゲトンの表紙に描かれているデザインが突如と黄金色に光り出した。そして古墳状の鍵穴マークから黒い煙がこぼれていき、床を這う。
「石にも変化が。さあどう出る、小さな鍵よ」
魔界の表歴史の中心である小さな鍵のレメゲトン。右手に勝手に出現した魔術書に警戒の目を向けた。
鍵穴マークからこぼれていく黒い煙は、俺の身を囲い込んできた。やはりこの石は特定の標的を感知した。これは悪意のある攻撃か。しかし俺には神聖な装備で身を守っている。闇に飲み込まれることはない。
だが油断していた。銀色の甲冑が黒く侵食されている。冠も朽ちて、レクスカリバーの剣身にも黒い闇が一部覆い、神聖な光が通用していない。
「冠の装備がまるで通用していない……!? まずい」
大いなる鍵の裏歴史に閉ざされているメナリクの光によって天界の王子の冠が覚醒し、レクスカリバーが使えるようになったというのに、天界の光が魔王の闇に負けてしまっている。これでは俺は闇に支配され、魔王の心に委ねてしまいそうだ。
「どうすればいい。どうすれば俺は闇に負けない?」
天界の王子の冠ですら通用しない謎の石の闇。レクスカリバーが闇に飲み込まれてしまったら、俺はきっと闇落ちしてしまう。モーヴェイツの血の定めに従い、俺は人間の心を捨て、魔王になってしまうのか?
フェニックスにもアプロディーテにも助けを求めることができない、まさに孤立無援の状況、一人でやるしかない。
「考えろ、考えろ俺」
考える時間が進むにつれ、冠の装備はどんどん侵食されていく。でもレクスカリバーでさえ侵食していく強力な闇。もはや俺の考察でどうにかなる状況なのかこれは。
「まてよ。そういえばなぜレメゲトンは勝手に出てきた?」
石を重ねた瞬間、レメゲトンは勝手に出てきた。これは何を意味する? そして、石の鍵穴から闇の霧が溢れでてくる。まるで口が開いているかのように。
「レメゲトンと鍵穴。小さな鍵と鍵穴……。鍵と鍵穴……? このレメゲトンで差して、閉めればいいのか?」
だが、魔術書の形状は鍵ではないし、そもそも石は手乗りサイズの石二個分の大きさだ。サイズが合わず、魔術書では物理的に入ることができない。でもやってみたら案外変わるかもしれない。
跳んで後退したこの体、再度石に接近。レメゲトンを下から持ち、縦にして、石の鍵穴を正面に近づけてみる。でもやはり、仮に魔術書が鍵としても、石とのサイズが合わず、差し込むことはできない。
「ち、やはり差し込むことはできないか……」
闇の霧は聖なる剣と甲冑を八割まで蝕んでいる。聖なる衣が闇に完全に飲み込まれてしまったら、俺も闇の身も染まり、俺でなくなるかもしれない。
「俺が持つレメゲトンは小さな鍵。魔術書を鍵として差しても入らなければ意味はない。じゃあどうすれば差すことができる……?」
と口にした瞬間、自分の言葉にふと疑問がよぎった。
「魔術書を鍵として……? 魔法……? では、レメゲトンで鍵を創ればどうなんだ……?」
小さな鍵レメゲトンには闇を物体にして形作る魔法、第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』がある。この魔法ならサイズに似合った鍵を作ることができる。
「やってみるしかない」
そうと決まればレメゲトンを開き、すぐさま詠唱を開始だ。闇で腐るレクスカリバーを床に刺し、左手を空ける。もはや思考の暇なんてない。これも失敗すれば俺は変わってしまう。
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
左手にホロスコープ型の魔法陣が出現し、闇製のアンティーク調な小さな鍵を生成。完成してすぐ柄を摘み、先端を石の鍵穴に向ける。
「小さな鍵で作った唯一の小さな鍵。これで成功してくれ」
闇はもう九割まで甲冑や冠、聖剣を汚している。一刻の猶予もない。
闇の鍵で鍵穴に勢いよく刺突。根本まで刺すと奥でカチャと、中の仕掛けが手に伝わる触感。あとは左方向に回せば何かが開かれるはずだ。
「さあ、封印しているものを出してみせろ!」
慎重、かつアグレッシブに左手首を左へ半回転。鍵穴内の仕掛けは次々と起動し、遂にはガチャと音が出た。まるで閉めたドアを開けたような感触だ。
「何か、開けたような気が……?」
いいや、ようなではない。石二個縦に重ねた鍵穴に、縦の亀裂が真っすぐ表れた。左右均等の亀裂は横に開かれ、石の中身が露となった。
その途端、闇の霧は透明になり、聖なる衣を纏う闇も消滅した。レクスカリバーの剣身を汚す闇も、甲冑や冠にへばりつく闇も消え、元の綺麗さが顕著に復活した。
「なんだ……? これ」
霊界で手に入れたレメゲトン表紙の鍵穴の石。第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』の闇で作った鍵で開けたら、石の中身には意外なものが入っていた。邪悪な魂や怨念といった悪質なものが封印されておらず、もっと良心的で意外な物だった。
「指輪……?」
石の中には指輪が置かれていた。でもただの指輪ではなく、異様なほど特質すべきデザインだった。触って顔の高さまで持ち上げる。黄金色の小さい鎖が輪っかになっていて、赤い『Ⅶ』を横にして噛んでいる狼の頭の装飾がくっついている。
「カッコいい……」
ヴァプラではないが、このデザインは確かに男子心くすぐるほどカッコいい。金色の鎖で赤い数字を噛んでいる目つき鋭い狼。どこの国探してもこんなデザインの指輪なんてなんじゃないかぐらい。
さっきまで神聖な装備でさえ飲み込む闇で溢れていたというのに、この指輪には全くと言っていいほど邪悪な気配はない。俺の勘違いではなく、根拠はないが確信できるほどだ。いや、ならば俺のために用意されたと思えるような予感さえある。
試しに左手の人差し指に入れてみると、指の奥まで快いぐらいフィットしている。
「んんん……! な、なんだこれ……つけた途端、変なエネルギーが……」
カッコいい指輪をつけた途端、まるで指輪から付与されたかのようなエネルギーが、血管を通って全身に行き渡るようだ。俺に加えられたエネルギーが血管から皮膚へ浸透した。
「この指輪、いったい俺に何をした?」
とした瞬間、右腕が急に重く感じた。そしてジャリジャリと金属がこすりあう音もすぐに聞こえた。重みを感じた右腕へ着目すると、異様がもうすでに行われていた。
「な、なんなんだこれはぁ!!?」
右腕の肘関節が鎖になっていて、前腕と上腕が鎖に連なっていた。上腕から肘までは皮膚だが、肘から長い鎖となっていて床に落ちている。鎖尾から皮膚の前腕と右手になっている。上腕と前腕を繋ぐ関節が鎖と変化していた。
「う、うそだろ!?」
なんだこの指輪。闇か光かの土俵際を乗り切った先で指輪をつけたのに、むしろ体は悪く変化している。魔王王家の呪いかなにかか。とにかく急いでこの指輪を脱がねばと思ったが、よくよく考えたら右手は鎖に連なれて床に落ちている。だから片手で外すことができない。でも反射的に右手を動かそうとしたら、いつのまにか右手は左手の指輪を外そうと指をつけている。
「え? 右手が……戻った?」
さっきまで肘から下が鎖でだらしなく落ちていた右手だったが、鎖が消滅しており、いつもの右腕に戻っていた。
「……もしや、俺の意思で操作できるのか?」
俺は指輪を外すために、無意識に右腕を戻してくれと思ったのかもしれない。俺の無意識的な意思で、指輪の能力で右腕は普通に戻った。と推測できる。とならば、指輪がもたらした能力は俺の意思で操作できるのではないか?
「試しにやってみるか」
今度は俺の意思で、しかも意識的に、『右腕を鎖にする』という脳内の命令を下す。すると、俺の意思通り、右腕は上腕前腕関係なく鎖に変化した。この状態でも右手や指は動かせるし、筋は通っているようだ。
「おお鎖に変化した」
『では右腕を元に戻す』という脳内の命令をすると、右腕の鎖は皮膚へ無事に戻った。
「ただ、命懸けの割には大した能力じゃないな」
これで俺は鎖を操る能力者となったわけだが、体の一部を鎖に変化する能力。さきほどの闇か光に堕ちる瀬戸際で手に入れた能力の割には微妙というか、意外と壮大ではなく、なんだか期待外れだ。
「まあ能力も、ようは使い様か。役に立てればいいが」
と言いながら床に刺したレクスカリバーの柄を持った途端、これにも変化が生じた。持ち上げようとしたら、輝く銀色の剣身が、横に均等に砕け、床に散らばってしまった。
「え、ちょ……ええええ、すげぇ」
いいや砕けていなかった。レクスカリバーの剣身と剣身の間に小さい鎖が連なっていた。剣身と鎖が交互になっていて、言うなら蛇腹剣と化していた。
「鎖の能力を応用して蛇腹剣にすることもできるのか。ほお、それは便利だな。これなら有効活用できる」
レクスカリバーを元の形状に戻したいと思ったらすぐ、剣の根本から鎖が引っ張られるように戻り、剣身同士がくっついた。
俺は魔術師という立場上、敵の近距離戦法は苦手だ。だから剣術を鍛えてきたが、このレクスカリバーを蛇腹剣にすれば、動かずとも一度の薙ぎ払いで多くの敵を斬ることができる。それでも接近してくる敵には通常の形態に戻し、近距離にも対応ができる。魔法による遠距離、蛇腹剣による中距離、聖剣による近距離、どの状況にも戦えそうだ。
「俺以外にも鎖を付与する能力……なるほど。モーヴェイツ王家にも使えるのはあるものだな」
魔王王家モーヴェイツの隠された秘宝と呼べそうな代物だ。しかも天界の王子で使えるレクスカリバーにも付与することができ、相反する闇と光が衝突しない設計だ。
ここでフェニックスが空からリビングへ戻り、鳥の足で柵を踏んで、俺を見つめた。
「なんとか無事に済んだぞ」
そう言うとフェニックスはホッと安心したようなため息をして、安堵した笑顔を見せてくれた。
「ほぉっ、よかったぁ。なんか不気味な霧に覆われてたものだったら心配したよ。なんか焦ってたようだったし」
「まあな」
「で、何かあった?」
「ん、見てみるかい?」
「うんうん!」
「ヴァプラを見てな」
「え、あ、うん」
俺の身の危険にも動じず爆睡をかますヴァプラに対して、石の謎の答えをお見せしてみせよう。
ヴァプラが寝ているベッドの上の天井に、鎖を四本召喚させ、ヴァプラの四肢先端に向かってシュート。鎖は両手首足首縛り、天井に付与された鎖を上方向へ引く。すると四肢に鎖を縛られたヴァプラは上方向へ引かれ、身体からベッドを離し、宙吊りになった。
「……むうう……え、えっ! ええっ!!? ちょ、俺、鎖で縛られてる?! レハ後輩これはいったい何のイタズラだい!」
今回は二話お届けとなります!
メナリクはアンドロマリウスと裏の約束をして、
レハベアムは闇魔法、聖剣、そして鎖の能力を得ることになりましたね。
レメゲトンは、漢字にすると『鎖骨』と呼べるそうですし、鎖に着目してみました。
4月から正社員として働くことになるので楽しみです!!
自分のペースで働きながら小説書けるといいですねぇ……
では詠んでいただきありがとうございました!!!




