八十一話 レクスカリバー覚醒
闇色の魔力の液体は聖なる光に染められていく。そればかりか、分け与えて減ったはずの魔力の液体がそこから湧いて出ていき、更に液体が更に柔らかく、質がよくなってきている。液体一滴で第一部『ゴエティア』を十回は連発できるほどだ。
その影響なのか、俺の頭にある天界の王子の冠が共鳴。冠は微動し、中心を囲いながら光の輪が連続して現れた。
「え、なになにレハ」
「レハベアム様、冠が」
「レハ?!」
突然の冠の動きに驚き、ウァサゴとアンリデウス、フェニックスが俺のそばから離れた。
冠から出てくる光の輪は、左手に持つ光の魔力で作った剣に吸い寄せられていく。一輪を吸い込むたびに光の剣は、先端から本物の剣身へ形成化していく。
「まさか……メナリクの魔術書の力で剣が!」
メナリクから白い魔術書の聖なる魔力をもらい、俺自身の魔力と合わさった途端、光の剣が変わり始めた。女神王アプロディーテでも聖剣の出し方は分からなかったが、まさかこの条件で発動するとは。いったい、メナリクが持っている白い本とはどんな凄い魔術書なのだ。
剣身は末端から中心へ、一輪一輪吸うごとにゆっくり形成していく。そしてあっという間に柄まで光の衣が抜け、しっかりと握ることができた。
女神王の母にしてこの世の創造神が創りあげた、天界の王子の冠。それに秘める聖剣レクスカリバー。ルビーの宝石で装飾されている赤い柄。黄金色の十字架の鍔。銀色の太く長い剣身。俺が持つべきと、宇宙生前より設計された聖剣だ。柄を握った途端、まるで俺の手を最初から分かっていたようで皮膚にしっくりくる。それでいて軽すぎず重すぎず、振るうには心地よい重さ。
更に、冠から二つの光が飛び出し、両手腕を包み込んだ。その光は銀色の甲冑へ変化し、俺の手腕に着せてきた。
「レハベアム様、それはいったい。どうされたのですか?!」
「……メナリクからのギフトだ」
「ギフト?」
「俺もよくわからないが、そういう運命だったらしい。創造神様は未来を予知していたから、俺と妹が歴史を違えても、繋がることが分かっていたから、こうやって覚醒させてくれたんだ」
俺自身何を言っているのかよくわからない。でも、こうなる定めだったような気がする。俺とメナリク、兄妹が歴史を越えて繋がり、光を得たことでレクスカリバーは覚醒した。あまりにも出来すぎな現象だ。だからこそ、創造神が予知した未来と大規模な冠の計画に、闇の中の孤独な俺を見出したと思える。きっと創造神はこれも見越して、メナリクにも相当なギフトを用意したのだろう。
「今の俺なら、創造神様が変えたい暗黒の未来を変えることができそうだ」
今俺がやるべきことは一つ。メナリクを救うこと。それを果たすには俺は前に進まなければならない。
「……前に進むためにも、お前は消えてもらう」
裏歴史に発生した天変地異も気になるが、メナリクを救うという目的は変わっていない。目的を達するためにも、進む。その進行を防ぐ輩一匹に振り向く。
「正真正銘の聖剣の切れ味。不死身でも溶かすことはできるかな?」
レクスカリバーの剣先をカイムに向ける。カイムも冠の挙動や現れた聖剣に驚きを隠しきれていない様子で、身を硬直させながらもグラムを持ち直し、構え直した。しかし、グラムの剣身が微動に震えている。
「さ、さっきまでの光の剣ではない……な、なぜだ。不死身の俺がなぜ震えている? 二度目に死ぬことはないはずなのに! なぜだ」
「不死身でも死の予感はするんだな」
「なに?!」
意気揚々と真の不死身を語っていたカイムが、聖剣を見ただけで震えている。いくら不死身の悪霊でも、聖剣を前にして死の予感を感じ出させるとは、それほどの多大な光を宿しているのだな。光属性をおいそれと嫌う悪魔や幽霊だからこそ、今俺が持つ真の聖剣はとんでもないぐらい畏れ多いものだ。
「激怒するということは、死の予感を認めきれていないという証拠だ。その点、まだフェニの方が純粋だな」
「黙れ! 俺は本当の不死鳥なんだ。俺は」
「じゃあ、俺のレクスカリバーを受けてみろ。この不死身野郎!」
左手で握るレクスカリバーを左側にし、斬る態勢に構える。そのままカイムのもとへ走り、接近。聖剣の接近に恐れを隠し切れず、カイムは一歩後退し、更には翼をはばたかせて宙に飛んだ。自ら俺との間合いを離してくる。
「な、なぜ俺が引いている? 不死身の俺が逃げただと?! ええいちくしょう!」
未だに恐れや死の予感を認めきれず、宙に飛んだ態勢から翼を折りたたんで俺へ滑空。お互いの間合いが重なる手前、左手首を返して、レクスカリバーを振るった。対するカイムも燃える剣身を右から薙ぎ払い、聖剣と魔剣が衝突。閃光と火炎が周囲に散り、幽霊船の床に火がつく。
一度剣身を離し、今度は身を右回転振るい、右から斬りかかるもカイムはグラムの剣身で受け止めた。再度レクスカリバーを離し、一方的に聖なる斬撃をお見舞い。次第に剣身がぶつかりあう斬撃の嵐と化すも、カイムは防御の構え一点張りで攻める気配はない。
「どうした、斬られても不死身なんだから攻めればいいじゃないか!」
「だ、黙れ!」
挑発するも防御の構えを変えず、なかなかレクスカリバーの実力や切れ味を確かめられない。
「フン」
カイムを弄ぶのに飽きた俺は斬撃を止め、カイムの間合いから後ろへ跳んで下がった。
「こんのぉなめやがって! 今度は俺のターンだ……っ!」
カイムは強気を絞り出し、翼を羽ばたいて俺に接近。その間俺は身に光の魔力を流し、迫ってくるカイムへ走る。俺の身体的速度は光と一緒になり、光速移動。迫るカイムの側に逆に接近し、カイムの腹部をレクスカリバーですれ違い様にスライス。一秒にも満たず、カイムの背後に立ち、同時に腹部がぱっくりと裂かれた。
「グファアアアアアアアガアア」
悪霊の断末魔が海上に響き渡る。カイムは激痛により船上に落ち、全身でもがき苦しんでいる。
「おおこれは。まるで肉を切ったみたいな確かな実感」
今までの光の剣で幽霊を切ったとき、まるで無に対してお祓いしているようだった。だがこの実感は、ダーインスレイヴで悪魔を斬ったときと同じだ。光以外の幽霊や悪霊でも攻撃が通じる。更に傷口から身体へ、光による溶けが進んでいる。もはや幽体は使い物にならない。レクスカリバーで斬れば、カイムは間違いなく消滅する。
「フ、ウフハハハハハハッハハアハハハハハハハハ!! さぁ、もっと聴かせろ、悪霊の苦しむ声を」
カイムは倒れながらも咄嗟に俺へ振り向き、涙目で見上げる。暗殺部の副部長ともあろう方が、降参を込めた情けない瞳で、こちらの同情を求めてくる。
「も、もうやめてくれ……俺が悪かった」
「悪かった? 何を言っている。悪魔は読んで字のごとく悪い存在なんだろう」
「!?」
「今まで暗殺部に淘汰されてきた弱者に変わって、俺たちは訴える。それ相当の裁きを」
再び全身を光で包み、光速で倒れ込むカイムに接近。その首を鷲掴みし、天高く投げ飛ばす。レクスカリバーを天に向けて魔界の曇天を横に開く。真上に飛ばしたカイムを、天界に見せしめにするように、太陽光はカイムを満遍なく照らす。直射日光によって霊体は更に溶けが進んでしまう中、レクスカリバーを下げ、剣身に殺気の切れ味を込める。その状態でレクスカリバーを思い切って真上に切り上げた。
「断罪だ!」
その斬撃の勢いは曇天を縦に絶ち、曇天は十字に割れた。開けっ放しの霊界のへ扉も絶ち、扉も消滅。霊界は無に溶けるように閉ざされていった。曇天をも裂く超広範囲の斬撃で、消滅しかけているカイムを真っ二つに裂いてみせた。そのまま悪霊は空間に溶けていった。
「これで完全に消えたな」
そのとき、カイムの霊体から黒い真四角の石が落っこちてきた。どこか見覚えのある石だと思い、右手でキャッチすると、その石はレメゲトンの表紙の下半分が載っていた。しかも古墳状の鍵穴のうち下半分までも描かれている。魔列車に続いて幽霊船でも手に入ることができるとは、やはりこの石とレメゲトンにはどういった関係があるのだろうか。
「レハー!」
フェニックスが飛んで俺に近寄り、翼を羽ばたきながら言ってきた。
「霊気はもう完全にないよ。すごいねその剣!」
「ああ、これはレクスカリバーっていう聖剣で」
「それはいいけど、さっさとノアに戻ろう?」
「あ、ああ」
「レハが思いっきり斬っちゃったせいでこの幽霊船も真っ二つに別れてるんだよ」
「え」
恐る恐る船上を見てみると、さっきの斬撃の軌跡上に幽霊船も縦に一直線、まっすぐに切れている。太刀筋は一切の歪みのない、綺麗な切れ方で満足だ。ではなくて、俺たちの足元が崩れて、この幽霊船が沈みかけている。フェニックスが飛んでいたのもそのためだったのか。
「おおなんとなんと」
「ほら、私の足に掴まって」
「ウァサゴとアンリは?」
「もう行っちゃったよ」
「早っ」
悪霊を雲ごと斬った勢いで船までも断ち、幽霊船が沈む前に、俺を置いてノアに戻っていったか。レクスカリバーを消滅させ、鍵穴の石をポケットに入れて、フェニックスの足を握って、幽霊船を後にする。離れて数秒後、幽霊船の亀裂は更に広がり、海に吸い込まれていった。
一方そのころ、メナリクは逆さまになった城の中で、紳士服のオッサンから逃げ続けていた。
「はぁ、はぁ……なんなのルキフゲってヒト。しつこい」
突然発生した天変地異によって、私は真ヴェルサレム王城の天井に立っている。走っている。ルキフゲ・ロフォカレという悪魔から追われ、逃げている。突然と倍速して接近してくるので、距離を離しても油断できない相手。こんな命がけの真剣な鬼ごっこ、楽しむ余裕すら生まれない。
「ああもう、好奇心で魔法なんて詠まなければよかった。なんで傾くのよこの世界」
先に言っておく。この天変地異によるものは、私が持っている聖書の中に記載されていた呪文を詠んでこうなった。名は律法・『創世記』。何やら世界を創ったり、操ったりすることのできるチート級の魔法らしい。その応用で魔界を傾けてしまった。
夢の中でレハお兄様に出会って、そのあとに起こされて、牢屋に閉じ込められてしまった。閉ざされて暇だったので、聖書を開いて一番目にあったのが『創世記』。とりあえず練習がてらに詠んだら、世界が傾いてしまった。
そのおかげで城が傾き半壊。牢屋も折れて脱出ができるようになったので、天井を歩いたが、ルキフゲ・ロフォカレに見つかってしまった。抵抗しようにも、たった一回の詠唱で魔力が一気になくなったのを気が付き、空が下の城の中、ルキフゲに追われて逃走。
助けてという思いで心の声で『レハお兄様』と呼んだら、案外と繋がったので魔力を分けてもらった。この世界の傾きを正したいので、もう一度詠みたいところだけど、再度詠んでしまったら私の魔力はまた空になってしまう。そうなるとルキフゲ・ロフォカレを倒す手段がなくなってしまう。だからどうすべきか悩みながら走り回っている最中だった。
「この世界の傾きは私に責任があるんだし、私が治してあげないとだけど、そうなると私はまたルキフゲに掴まってしまって、また牢屋に軟禁されてしまう。だったら、レハお兄様からいただいた魔力でルキフゲを殺さないと」
生き残るためにも、レハお兄様に会うためにも、いただいた魔力でルキフゲ・ロフォカレを殺すことに決めた。
ドクロや骨、動物の死体のような彫刻ばかり掘られた鉱石の天井に到達。シャンデリアがぶら下がっているのではなく、天井に落ちている。周囲を見渡すと、さっきまでの逃走経路は違い、赤と黒の装飾でとても豪華な広間にたどり着いた。真下はヤロベアムが座っていた玉座すらある。
「さて、ようやくここまで追い込みましたよ。メナリク様」
「……なんであなたは捕虜の私に様呼びをするの? それに追いかけてくるくせに攻撃しないし」
このルキフゲというオッサン。追いかけてくるときに何度も私のことを様をつけて呼んできた。更には倍速で私に接近しても、躊躇いがあるのか攻撃を止めて、拳を寸止め。追いかけても手を出すことはしなかった。
「正直に言いますと、あなたは我が前王ソロモンの血を継いだ第一王女。臣下である私が王女様に拳を向けることがとてもとても」
追いかけっこで私に攻撃をしなかったのは、私がソロモンの娘だったからっていうことか。このルキフゲさんは臣下と言っていたから、かつては私の父に従っていたんだ。その娘さんとなると、思い出補正で攻撃は躊躇するのもわかるかもしれない。それでも悪魔に情があるのは意外だったけど。
「ソロモン……やっぱり私の父はソロモンだったのね。魔王とか」
幼少期にうけた親の暴行や虐待の記憶。そのお父さんは誰なのか、顔や名前ははっきりとせずモザイク加工かかっているような記憶だったのだが、やはり私の父はソロモンだったのか。人間界でもソロモンは魔王とか魔術書とかの伝承があり、ネットで調べたら簡単に出るほど。ゲームや小説にも引用されやすいキャラクターだ。ソロモンというネームを見るたびに、記憶に謎の直感や違和感があった。今日でやっと、記憶のわだかまりが消えて精々した。
「ルキフゲ。お前の王は我ぞ」
王の間の入口にヤロベアムの姿が出た。ルキフゲは咄嗟に後ろに振り返り、ヤロベアムに向けて右膝を天井に付き、体を下げて一礼。
「はっ。誠に申し訳ございません。ヤロベアム様」
「レハベアムにメナリク、そしてヤロベアム。ソロモンの血を継ぐ我らや、ソロモン本体にこだわるのはお前の悪い癖だ。更に言うなら、王の不在の玉座に前王の名を出すとはこの愚か者。極刑に値するところだが今はそんな状況ではない」
威厳のある老いた紳士にも上から目線で、ごもっともな正論で叱るとはまさに王の貫禄。若くしてエリートの片鱗を感じた。さすがファンタジーの世界だ。夢も感動もないローファンタジーな地球とは訳が違う。
「というか、今の俺ではメナリクに勝てねぇ。悪いがメナリクをとっ捕まえて牢屋に打ち込んでくれ。そしたら許すから」
と思いきや、急に気軽な若者言葉で面倒なお仕事を一方的に任せる始末。これでは学校の先輩のパシリとあまり変わらない。このレハお兄様そっくりのヤロベアムさん。一人称を我にしていて抑揚をつけて話すけど、たまに一人称が俺になってしまううっかり屋さんだ。やっぱそういうお年頃なのかな。
「ははっ。おまかせを」
ルキフゲは立ち上がり、今度は私に体を向けて、拳を上げてファイティングポーズを表す。
「……今の私の王はヤロベアム・モーヴェイツ様。いっさいの情を捨て、あなたを捕らえさせていただきます」
さっきまでの追いかけっこでは情が邪魔して攻撃に躊躇いがあったが、今度は瞳に真剣さが滲んでいる。情を殺した覚悟さがオーラとなって、私を殺す勢いで殺気が出ている。
「ねえルキフゲさん。私を捕らえる前に一個質問していい?」
「時間がかからず、答えられる範囲であれば、一問のみお答えします」
「ソロモンは、怖いヒトだった?」
「はい」
私の質問に素早く即答。お望み通り、一つのみの質問は一秒の返答で終了した。
「そう。だとしたらやっぱり私の記憶は間違っていなかったということね」
それはこの魔界の魔王をしていたソロモンだから怖いのは当然だ。私も幼少期にはソロモンに対する恐怖がある。でも臣下ですら怖いと言ったぐらいだ。その今の思い出した言葉がある。『兄を魔王にする。そのために妹のお前は不要だ』だ。そう言って、異次元のホールへ投げられ、人間界に落っこちたような気がする。そして大山さんというマスターや今の孤児院の出会いがある。
そう、実の親に捨てられたんだ。それで兄とは世界を隔てて疎遠になってしまった。そんな私が対立しているのは、私の父の臣下をしていた悪魔。憎たらしい存在の関係者だ。私には情をかけられる道理はない。こっちも殺す気でいる。
「……じゃあ、大好きなお兄様に会うために、私はあなたを殺す!」
聖書が輝くと、私の背後に、白く巨大な上半身の透ける幽体が出現した。その幽体は、頭にクーフィーヤをつけ、司祭服を着たお爺さんだ。右甲にはⅡ、左甲にはⅢの文字が刻まれている。この幽体も大きな拳を上げてファイティングポーズを構えた。聖書から出現するお爺さんも私と一緒に戦ってくれるそうだ。
「ルキフゲ、この天変地異はやつが持っている聖書の『創世記』という魔法だ。他の魔法も聖なる光ですべてが厄介。だから奴が詠唱し始めたら、詠唱している隙に倍速で一気に接近。あるいは事前に察知して避けろ。ただし、この城にダメージがないようにな」
ヤロベアムはルキフゲにアドバイスをしているが、そこまで私を捕らえたいのなら一緒に戦えばいい。それにヤロベアムは魔王のくせに『今の俺では勝てねぇ』と弱気な発言をした。部下をこき使う先輩風は学校でも王城でも大して変わらない。
「ならばヤロベアムさんも手伝えばいいじゃない。魔王のくせに弱いのね」
と挑発。するとヤロベアムはすぐに抑揚をつけて返した。
「頭を使え、我は魔王だ。魔王は駒がある。魔王を出向かせる駒はいるか?」
「高みの見物ってわけ?」
「それが王だ。それにお前が持つ聖書は、我ら魔族にはとんでもない殺傷能力がある。この我が聖書如きで溶かされるわけにはいかない」
つまるところ、ヤロベアムは私と相手したくないから、部下に任せると。弱気なんだか強気なんだか。しかしそれは好都合かもしれない。さすがに二対一はきつかったから。この悪魔相手に集中して倒すことができる。
「では参る!」
ルキフゲの掛け声と共に、背後霊が大きな右手を私の前方に置いた。その零点五秒ほど、ルキフゲが瞬く間に接近し、その拳で幽体の透ける右手甲を殴っていた。
「私の倍速移動を未然に感知!?」
私はいっさい背後の幽体に命令を出していない。この背後霊が自分で行動し、私を守ってくれた。しかも、一秒にも満たない瞬間移動を事前に読み取った。
「この幽体には危険予知の能力が……!?」
ルキフゲが倍速で間合いを詰めてくるのは分かっていたから警戒はしていたが、私の動体視力では到底見切ることはできない。攻撃がきても、脳の指令を聞くこと自体が間に合わないので、避けることも防御を構えることもできず、危険予知はいっさいできない。その逆に背後霊は、攻撃が行われる前に危険予知を発動して防御してくれた。こうして攻撃を防いでくれるので、私はこの聖書を詠む暇が悠々とある。
一方でルキフゲは目にもとまらぬ猛スピードで、右手の甲を激しく連打。一発一発がとても重く、守られている側の私ですら衝撃が伝わる。いつまでも守られてばかりではそのうち突破されなけない。聖書の『出埃及記』を開き、詠唱を開始する。
「虐げられし人々を救う光の道導を創り給え。海を断ち、砂漠を越え、神山へ辿り着き給え」
私の左手をルキフゲに向け、手のひらから青い蛇で円が書かれた魔法陣を出す。その魔法陣に光の雫が集中し、輝く十字架に形創られていく。無理矢理突破を図るルキフゲも、透ける右手甲から見える光の魔法に警戒し連打を止め、素早く真後ろに後退。
「光のエネルギーを集中している……。しかも砲口先は横。まさかぶっ放つ気か。ルキフゲ、魔法陣の正面上に立つな!」
ヤロベアムの後ろからのアドバイスを受けても遅い。後退するルキフゲを狙いに定め、魔法陣から十字架の形をした極太の光のビームを発射。ゴゴゴと激しい砲台の轟音を鳴らしながら、聖なる十字架のビームはルキフゲ一直線に放たれていった。その勢いは城の壁までも貫き、派手に破壊。十数秒のビームは止み、左手の魔法人は消失した。
「!? ……バリバリの回避やったね」
壁には大きな十字架の風穴があり、その左上にはルキフゲは壁に張り付いていた。つい博多弁の言葉が出てしまうぐらい、紙一重な回避で逆に関心した。この律法・『出埃及記』のビームは十字架の形をしているので、発射する前の形状を見て回避の仕方が分かりやすいのが欠点か。
「このクソ聖女め! 我の城を破壊しやがって!」
魔王ともあろうお方が扉に隠れて顔だけ出して、若い言葉で侮辱。魔王言葉なのか若者言葉なのか統一してほしい。
「とても魔王ソロモン様の娘様とは思えない……やはり、あの方の血が色濃く継いでいるというわけですか」
「あの方?」
「いいえ、なんでもありません」
城の風穴から辺り全体の壁へ亀裂が回り、瓦礫が次々と落ちていく。亀裂は天井にも走り、遂には天井が傾いてしまった。
「げっ。これってまさか……」
まさかもまさか。天井が崩壊し、瓦礫として天空に落ちていった。当然私も重力に逆らうすべはなく、天空に落ちてしまった。
「きゃあああああ」
ただでさえ天変地異が発動している世界で、半壊寸前の城にド派手な魔法をぶつけるべきではなかった。
あけましておめでとうございます。新年が始まりましたね。
投稿が6か月以上も明けて申し訳ございません!!!!!!!!!!
この年で私は学校を卒業し、4月にはお仕事が始まるのですが、お仕事と小説を両立していきたいです!
それに、創作意欲をずっと我慢してきたので、今はとても書きまくりたいです!
……1月30日には国家試験があるので、まずはそれに合格するために勉強を頑張ります




