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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第六章 エチオヴィア大狩猟大会編
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七十七話 ロフォカレ家の繋がり

一か月も投稿が遅れて申し訳ございません!少々書き遅れていますので、今回も一話のみの投稿となりますが、よろしくお願いします。


今回の話は、今までの伏線の回収にあたります。どうか楽しみに読まれたら嬉しいです!ではどうぞ!

 港町エイラドでの買い物、観光は終え、二十三時に船ノアに戻った。俺たちが利用する居室はビル三階にある。女性陣は二丸六室。俺とヴァプラは隣の二丸七室。部屋の利用ルールにつき、異性の共同は禁止という意外とまともなルールにより、男女で分けられるようになった。ちょうどアンリデウスが俺に呆れてくれるようになり、セクハラ行為を受ける心配がなくなったので、逃げるいい機会となった。

 そして、深夜は何事も問題が発生することはなく、


 七月四日。旅四日目の朝を迎えるようになる。時刻は七時二分。

 カーテンを開け、窓からどんよりとした灰色の曇天を見上げる。

 まだヴァプラはベッドの上でいびきをかきながら爆睡。旅列車の共同ベッドと違って、ここはベッドが二つ用意されているため、久々にベッドを独占できる喜びを得たが、代償にヴァプラの下品ないびきでよく眠れなかった。グビビビビン、ギュギュギュギュギュン、ギュギギギギン、等と気道の擦る寝音で、聴覚に刻まれるようだった。

 それはともかく、いよいよ今日が出航だ。四日から十五日の十二日間の船旅となる。それまでは船の上で過ごす。問題さえ発生しなければ、夏休みの宿題を行えるようになる。俺は列車の上で二割進むことが出来たので、この十二日間では残り八割の宿題を終わらせられるほどの猶予はたっぷりとある。


 現在の時刻、八時ちょうど。ほら貝のようなボォーと汽笛が鳴り、乗客者と港町に出航を報せた。ノアは停泊場から離れ、海上を進み始めた。目指す地はエチオヴィア王国だ。いや、正しく言うなら……。

「到着はエリトヴィアね」

ウァサゴは二丸七室に入り、俺とウァサゴはベランダに立って、後ろへ遠くなっていく港町を観ながら口にした。

「ああ。エチオヴィア王国の隣国だ」

そもそもエチオヴィア王国は陸国に囲まれた国。海から渡るには隣国のエリトヴィアに辿り着き、歩きでエチオヴィア王国に向かう必要がある。エリトヴィアは面積が小さい国のため、歩きやバスでもエントリーまでには間に合う。又、理由はそれだけではない。

「エチオヴィア王国全土が狩りのフィールドになるし、今頃王族と住民はエリトヴィアとか他所の国に避難してるんだろうねぇ」

「ああ。何せ周りの隣国が大狩猟大会の観客席でもあり、エントリー受付場だからな」

十七日が大狩猟大会の始まり。前日には、王城の領域を除く全て全ての地に幾数万のモンスターが解き放たれるようになる。よって、住民や王族はエリトヴィア含む周りの隣国に避難し、そこでモニター画面を通じて観戦する。又、大会に参加する狩人たちは、エチオヴィア王国周囲の隣国に集い、エントリー完了後、十七日本番になるまでその国で待機となる。そして十七日になったらエチオヴィア王国へ踏み入ることができる。

 エリトヴィアは小さな国で、到着が本番前日であるため、実質エチオヴィア王国に到着するという考えの旅行計画だ。

「で、大会が始まると、十日間は狩りに狩りまくると」

「二十七日までエルタアレ火山に進みながらな」

念のためおさらいするが、大狩猟大会の期間は十七日から二十七日の十日間。それまでエチオヴィア王国内で、モンスターを狩りながら衣食住を行うことになる。そのため完全なるサバイバルゲームだ。死んでも保証はない。そして十日間生き残った者の中で、一番多く狩った狩人が優勝だ。大会最終日二十七日、メナリクと小さな鍵の取引交換が行われるエルタアレ火山へ目指すため、狩人に扮してエチオヴィア王国の侵入する。俺たちの真の目的は優勝ではなく、メナリク・モーヴェイツ救出だ。

「……レハの悪魔バージョンが、あのヤロベアムっていう奴なんでしょ?」

ウァサゴはベランダの壁に腰を掛け、俺に体を向けて質問をしてきた。

「ああ」

「じゃあ、頭脳明細なアンタのことだから、ヤロベアムの側には、兄貴も父さんも居るんでしょうねきっと」

「……なあ、その父さんについて前々から気になっていたんだが、聞いていいか? なぜ父さんという存在が裏歴史に居たことを知ってるんだ?」

それは七月一日の早朝。魔界の北から全ての大陸は崩壊し、裏歴史の地上が出現した。魔界の現状は、エルサレム神殿を境に表歴史と裏歴史に分かれている。そして俺たちは、裏歴史の魔王ヤロベアムに出会った。ヤロベアムの側には、父さんと呼んだ中年の男性が立っていた。ウァサゴは、ヤロベアムの側に立っていた男を「父さん」と言葉を濁らせながら、やや驚きながらも薄いリアクションを維持していた。まるで、裏歴史に父がいることを既に知っていたかのように。俺はそれが前々から不思議に思っていたのである。天界ですら知らなかった歴史の壁だ。知ることはありえないはず。

「ウーン、それがね、私もよく分からないんだ」

「分からない?」

「うん。父さんの顔は今でも覚えている。『歴史の向こう側で仕事をする』って言ってたのも覚えてる。でも、家族の思い出はあんまりない。いや、記憶が無い、みたいな」

ウァサゴは、父の顔を覚えていた。しかも裏歴史の地上に立っていることを驚きとせず。なのに家族としての思い出は、記憶すらないと言う。もうこの時点で、ロフォカレ家は複雑な家庭事情があると察した。

「ほら、私って角が無いでしょ?」

今までウァサゴが自ら触れることのなかった、頭上の根本から消えている角について話してきた。

「悪魔は角が折れると死ぬのは知ってるよね」

「ああ」

悪魔は頭に角が生えてくる。角の形状や生える位置は悪魔(ヒト)それぞれ。しかも、もし万が一に角が折れたりすると、角にも心臓と同じ役割を担うため死ぬことになる。しかし、ウァサゴの頭上には角が根元から断たれたように断面図が今でも残っている。角がほぼないのに生きている、善を訴える悪魔。誰もがその存在に驚いたことだ。今からその角にまつわる話でもするというのか。

「この角は、父さんから折られたの」

「父さんから……?!」

「名前はルキフゲ。……覚えてるかしら、十月九日の誕生日を迎えた幼少期の私は、世界が滅びる未来を視たっていう話」

「俺がお前を負かし、第二部『テウルギア・ゴエティア』で世界を滅ぼしたっていう未来か」

体育祭の大イベント黒獄の天秤で戦うこととなった根源だ。

 幼少期のウァサゴが視たという未来は、俺はウァサゴを倒し、善魔と罵った。そして暗黒星を堕とし魔界を滅ぼした。その未来を視た小さなウァサゴは、魔界を滅ぼさせないために、俺の暴走を止めるために善魔の覚悟を抱くキッカケとなった。そして今年六月のウァサゴは時を戻して俺を倒し、魔界の滅亡を止めた。

「それを視てから私は善魔になるっていう覚悟を持ったわ。兄のアンドロはそれに同意し、今やアンドロも善魔になり、光の力を手に入れたけど、元々は父ルキフゲは私たちが善魔になることに反対してたのよ」

「まあ、娘が善魔になると言い張ったら悪魔は反対するのは当然だな」

「ええ。だからルキフゲは手刀で私の角を断った」

「ほほそうだったのか……え、しゅ、手刀で!? 待て待て、悪魔の角ってダイヤモンド並の頑丈さを持つはず。手刀で断つってどういうことだ」

剥き出しの命とも呼べる悪魔の角は硬くて、努力して角を折ろうとは誰も思わない。もし殺すとしたら心臓を突いた方が手っ取り早いからだ。そんな頑丈のはずの角を、父ルキフゲは手刀で断ったと言いたいのか。その思い切ったパワフルさは遺伝としか思えない。

「代々ロフォカレ家は、倍を操る能力者だったわ」

「倍?」

「シンプルに力に何倍にも増幅させる能力よ。きっと、筋肉量と速さを倍増させた手刀だったんでしょうね、ダイヤモンド並の硬さでも一刀両断。私の角は綺麗に斬れたわ」

もはや痛覚さえ置き去りにするほどの瞬殺だ。魔界の滅亡を変えるために善魔になると決めた幼女の角を、父は手刀で角を断ち、生命の活動を止めたはずだった。だがウァサゴはこうして生きている。どうしてだ。

「でも死ななかった。不思議よね。もしかして私の角は、未だに折られたってことがまだ分かっていないのかしら」

その理論で言うと、心臓は貫通されたのに心臓自体は貫通されていないと思い込み、未だにポンプ作業を続けていると同じだ。貫通されればポンプとして役割は果たせなくなる。ウァサゴの説明にはどうも腑に落ちないが、こうしてウァサゴに奇跡的に生きている。立派な現実だ。ウァサゴの角は、生命を絶たれても生きている。

「……実際に、首を切断されても生きた鶏は実在したらしい。そういう考えと同じ、と解釈してもいいんだな?」

俺の小さな鍵レメゲトンの裏表紙にも、頭が無く、首の切断面には魔法陣が描かれている鶏が描かれている。これがどういう意味を持つのか分からないが、首無しの鶏が実在したという話はどこかで聞いたことがある。

「ええ、そう思ってちょうだい。話は逸れたけど、私の角を絶たれてそれっきり、ルキフゲは善魔を目指すと決めた兄妹を見捨てた。だから記憶がないの」

「記憶が無いというのは、記憶を失ったというわけではなく、家族としての記憶が無いということか……」

家族の記憶が消え失せたわけではない。家族という根本的な組織すら形が成していなかった。だから探そうにも無い、ということか。

「言葉が足りなかったわね」

「それにしても、まるでこの俺がお前らロフォカレ一家を……」

幼きウァサゴは、未来の俺の世界破壊を食い止めるために善魔を目指し、代償に父から(いのち)を断たれそうになったが、奇跡に生きることはでき、家族は崩壊した。まるで俺がロフォカレ一家を引き裂いたような結末となってしまった。勿論、当時の俺が別れることとなった原因をどうこうできたわけではない。仮にウァサゴから一家の責任を問われても、俺にはどうすることもできなかった。何せ俺はロフォカレ一家含む全ての悪魔を恨み、憎んでいた。いや、もはや昔へ過ぎた結果論だ。過去をどういう言ったところで結果は変わることは無い。現在の俺が今更ながら責任をもって、ロフォカレ一家の回復が難しくても、世界を正すつもりだ。せめての償いとして。

「陰気臭いことは言わないで。昔も今も、私たち兄妹の選択は一ミリも間違っていなかったわ。だからこうして暗黒星は阻止できたんでしょ? 魔界は間違いだらけの世界だけど、こうして滅亡を避けられたってことは、この世界はまだやりようがあるってことよ。だから、私はむしろ仲間になってくれて本当に良かったって思う」

「ウァサゴ……俺を憎まないんだな」

「もっちろんよ」

相変わらずの満面の即答。初めて出会ったころと変わらない自信に満ちた即答だ。

 ウァサゴは、俺を善魔生徒会へめげずにスカウトを繰り返してきた。学校を一年早く卒業することが出来るフライングチケットを餌にし、俺を仲間に迎え入れることによって魔界の滅亡の運命を変えようとした。その諦め知らずな精神は、ただのわがままだと思ってきたが、本当は、父に殺されかけても自分に舞い降りた運命を懸命に従ったんだ。家族から見捨てられても、魔界を守るために善魔を選んだウァサゴと、妹の未来予知を信じ、共感してくれたアンドロマリウスを、今なら心から尊敬することが出来る。

「まあそういうわけでルキフゲからは見捨てられて、アンドロ(にい)とは正義の価値観が食い違ってたから対立しちゃったけど、それでも私はなぁんにも悔いはないわ。私は私の『悪の意志の脱却』の正義を、アンドロ(にい)は『命の均衡を保つため』の正義を」

「命の均衡……?」

ウァサゴが語っている最中に、気になるワードに反応して、つい横やりを入れてしまった。暗殺部の部長が命の均衡とは飛んだ戯言だが、アンドロマリウスは冗談を言う相手ではない。何か理由があるはずだ。その理由をウァサゴの口から明かされる。

「私も最初は、なぜアンドロマリウスが暗殺部を立ち上げ、そのくせ昔から『命の均衡』を重点に置くのは理解できなかった。でも、こうして話して徐々に理解できてきたわ。アンドロマリウスは、悪を滅しようとする正義が許せなかったのよ」

「悪を滅するのが許せない?」

「ほら、天界の連中はやたら悪を許さない感じあるじゃない。あなただってそれを共感してるでしょ」

「まあな」

淫らな性天使と女神の絶対的な正義は、悪を徹底的に許さない風潮だ。そのため俺が天界の王子に選ばれた。ウァサゴも、俺の悪魔への憎悪を正義に活かしてほしいとスカウトしたほど。俺は根本的に悪を許さないという考えを持っているのは確かだ。

「アンドロマリウスは、正義の裁きで悪の命を殺し、悪の在り方を否定されるのが許せないと思う。だから暗殺部を立ち上げ、悪の命を否定する正義を、逆に狩ってやろうと考えているんじゃないかしら」

「悪の命を否定、か……確かに、今の今まで悪魔の命なんか気にせず、俺はただ、生きてて不愉快だったから殺してきたな」

「レハの場合は環境が環境だったし、常に悪魔に狙われる以上、そうするしか生き残れなかったものね。でも、正義を絶対として悪をひたすら殺しにかかる者たちが、アンドロマリウスは許せなかった。だから暗殺部を作って、そいつらを返り討ちにしてやろう、と。アンドロマリウスの根本的な思想は、正義の鉄槌から悪の在り方を守り、『命の均衡』を作り、争いを無くそうとした。だから暗殺部でいわゆる負の正義と立ち向かおうとした。今ならそう解釈できるわ」

「悪の命を絶とうとする負の正義から守るため、『命の均衡』を掲げ、己の正義を磨き上げるうちに善魔になったのだな」

天界が掲げる絶対的な正義の元、悪に敵意を向け、アンリデウスの先代である死神は、穢れた魂を浄化するため悪を処刑する。悪という存在を否定する負の正義に嫌気を覚えたアンドロマリウスは、負の正義に対して暗殺部を立ち上げ、組織力を形成。部長としての思いは、悪の命を狙う負の正義から守るため、命の均衡を保ち、争いを無くしたい。悪を守るための己の正義が、彼を善魔に変えたというわけか。

「まあ、本人はそうでも、ブネとかオロバスとか部下たちはそんなことお構いなしに命を奪い合おうとするけどね。なんならブネの能力は卑猥だし、オロバスは存在そのものが卑猥だし……」

ブネは、バーゲストの妖精で相手を黒犬に変えて、異常な生殖力で次々と黒犬を生成する能力を持ち、オロバスは、産まれた子の体が兵器の一部になる兵器の遺伝子を持つ。どちらも生命を異形で生み出し、生命を侮辱している奴らだ。その他の部下も、悪魔ならではの殺戮本能で気に入らない者を殺す、血も涙もない輩共。最初からアンドロマリウスの思想に従えという方が無理のある連中ばかりだ。

「まあ、巨大になり過ぎた組織を束ねるのは至難の業だろう。それにアンドロマリウスは善魔だ。部下の悪魔を束ねる存在ではない。そもそも悪魔が命の均衡に頷く連中じゃない」

そういえば暗殺部の一二年生は三年生の名前は知っているが、顔は知らず、何者か分からない状態で三年生の命令を聞くという構成だった。顔を伏せていたのは、もしかしたらアンドロマリウスが白い髪に青い瞳で善魔だと分かってしまうからだったのか? もし顔が分かってしまったら、善魔が暗殺部を統率していたことが知られ、統制力はあっという間に失せていたことだろう。

「アンドロマリウスにとって己の正義は、間違いを正しいと言い張る、真に正しい負の悪。それこそ悪の在り方……。対して私たちは、間違いを正そうとする、異端の正の悪。負と正の悪の対立よ。そりゃあアンドロ(にい)は私たちの前に立ちはだかるわけだわ」

「だから、アンドロマリウスはヤロベアムの側に異動したんだな。いつか起こる聖魔戦で、天界が掲げる負の正義に対立し、魔界の負の悪を守るため……己の正義を貫くために」

暗殺部部長アンドロマリウスは、光へ覚醒できた善魔だ。そして、恐ろしい未来を視たウァサゴの言葉を信じ、一緒に善魔を選んだ兄さんでもある。兄妹の正義感は違い、それぞれの道を歩むことで兄妹は決裂したが、それでも敵ながら天晴れな精神力だ。

「……今までの悪魔(てき)は容赦なく殺してきたが、お前の兄さんには初めて、相手として尊敬できる。本当に凄い善魔だな。アンドロマリウスは」

「ええ、私としても自慢の兄よ。たとえ互いの正義が交じり合わなかったとしても、ね」

嬉しそうに、誇らしげに兄を称えた。これほど素直に相手を称えるウァサゴは珍しい気もする。

 善魔生徒会の会長ウァサゴが認める敵であり、血が繋がった兄だ。それでいて、正義が否定する悪を守るため、己の正義を貫いて善魔になったのだ。完璧に筋の通った敵だ。称える気持ちも理解できる。

「父はいないし、兄は道が違ったから、全体的なロフォカレ家族の記憶はないんだけど、代々ロフォカレ家はお偉いさんの家の臣下をしていたのは知っていたわ。そのお偉いさんっていうのが、まさかモーヴェイツ家だったとはねぇ」

「なに、どういうことだ?」

ここでウァサゴがモーヴェイツ家のワードを発し、一人で納得をし始める。何のことやら分からず、理由を聞くと、ウァサゴは眉に皺を寄せて、俺の顔を疑問視した。

七月一日()早朝()を見て分からなかった? ルキフゲがヤロベアムの側に居たっていうことは、腹心的な臣下なのよ。つまりヤロベアム・モーヴェイツの臣下が、ルキフゲ・ロフォカレ」

「なにっ。そ、そんなまさか……モーヴェイツ家とロフォカレ家は、主従関係だったのか」

偶然が幾つも積み重なった、なんと恐ろしい奇妙な現実で鳥肌が立った。

 ウァサゴの記憶を頼りにすると、ロフォカレ家は代々お偉い方の臣下をしていたという。そのお偉い方の家が、代々レメゲトンを継ぐ魔王王家モーヴェイツ。モーヴェイツ家の臣下はロフォカレ家だった。今こうして俺ことモーヴェイツとウァサゴ・ロフォカレは、主従関係ではないが仲間として近くにいる。最初から俺たちはゆかりの仲だったのか。

「いやあ偶然って怖いよね。私が善魔になったキッカケも、もしかしたらモーヴェイツ家のご子息が天界の王子になるから護れって、そういう意味合いにもなるのかもね」

「計算された運命みたいだな」

全ての悪魔を憎む人間モーヴェイツと、悪を正す善魔を名乗る悪魔ロフォカレ。初めて会ったのが死月一日の入学式の終わり。あの日から、俺たちの運命は交じり合っていた。いや、過去に既に主従関係として交じり合っていたんだ。だから運命の糸の先端は、知らず知らずのうちに絡み合うのは確定だった。

「まあ私たちの家が主従関係だからといって、今更上から目線辞めてね。だって私は生徒会長であなたは学習委員長よ。フフーン下克上なりぃぃぃぃい」

さっきまでの兄への誇りが、急に見下してやったぞと言わんばかりの黒笑いな誇らしげに変わった。確かに学校という社会組織なら、生徒会長の下が学習委員長だ。だが、そんな低レベルな組織内で下克上を誇られても俺はピクリとも動揺できない。なぜなら、天界の王子だから。

「言っとくが、俺は天界の王子様だ。立場は俺の方が圧倒的上だぞ」

「グヌヌヌ……」

誇らしげさは瞬く間に消え、悔しさで表情を鈍らせながら立場に屈した。そう、上には上があり、生物界の常識だ。生徒会長という学生内の立場はトップクラスであっても、社会や王政を遥かに越えるのが聖域。俺はその王子だ。獄立ゲーティア高等学校の生徒会長? 俺は天界の王子だ。控えよ下郎が……。

「なんてな。俺も主従関係は面倒だ。はっきり言ってお前が俺の臣下とか気持ち悪い」

本来の主従関係を取り戻すつもりもない。今更ウァサゴが忠実な臣下になると思うのも、とても気味が悪い事だ。俺に跪き、忠を誓うメイドのようなウァサゴとか、そんなの俺が知るウァサゴ・ロフォカレではない。ウァサゴは今のままのわがままな大将の方が性に合っている。

「そうね。私は誰かの下で働くっていうのは真っ平御免だわ。自分の意思に従いたい」

「ああ同感だ。俺も、天界の過保護な意思は御免こうむる」

ウァサゴも俺も、自分の意思で魔界を変えるために手を取り合っている。運命に従っていない。自分の意思で行動しているんだ。俺が悪魔を恨んでいたり、魔界を滅ぼそうとしたり、善魔生徒会として戦ったり、天界の王子として協力したり、メナリクを助け出すため旅行したり、ありとあらゆる俺の中から誕生した意思だ。決して誰かや運命で俺は操り人形となっていない。



――ふざけるな! 俺は、キャラクターとして台本を読まされ、動かしてるじゃないか。何が操り人形だ。俺の意思は常に、カタリキヨ レアの自由自在だ!――



 ここでウァサゴは神妙な表情で俺の顔を向けた。

「いい。話戻すけど、ロフォカレ家は倍の能力を持つわ。戦い方はシンプルかつパワフルでスマッシュ。筋肉量や動きを倍増させて殴る」

「まるでお前だな」

血は受け継がれているというべきか、ウァサゴの時の能力とほぼ同じのように聞こえる。力のチャージ時間を一秒に短縮させ、膨大な筋肉で殴ったり、身体を時の流れに身を任せて視認できないほどのスピードで動き回る。それを倍に変えただけの能力ということか。身体能力のうち、力か速さを倍にして殴るという、確かにシンプルだが恐ろしい能力だ。

「そうね、ほぼ私ね」

ウァサゴが自分で認めるとなると、時の能力と倍の能力がほぼ似たり寄ったりだ。能力そのものに大きな違いはあれど、戦法が同じなら対処は考えやすい。

「でも、ルキフゲは倍の能力をマスターしている」

「マスター? どういうことだ」

「さっきチラッと言ったけど、私の角は、筋肉量と手刀の速さで切断されたわ。つまり、ルキフゲは筋肉と動きを同時に倍の能力をかけたの。倍を複数の箇所に掛けるのは至難。気が遠くなるほどの訓練をしないとマスターできない。私で言うと、時間短縮と時速移動を同時に行っているようなものね」

ウァサゴの例えが分かりやす過ぎて想像したくないな。ウァサゴは一秒チャージで筋肉量を膨大にさせたまま時速移動で神速し、超絶パワーアンドスピードが完成する。たったの一秒間で、一億トンのパンチを一憶回殴られているようなものだ。肉と骨は細胞レベルにミンチとなる。

「んんんん……それはそれは考えたくないな」

流石は魔王の臣下。かつて魔王ソロモンもこんな恐ろしい臣下がいたのだろうか。ゲーティアの校長バエルは魔王の右腕だったが、バエルはバエルで恐ろしい者だ。やはり悪の全盛期は生きた心地がしない世界だな。

「一方でアンドロ兄貴は倍の能力を引き継ぎ、更に善魔の覚悟を極め、光の力を会得した。ロフォカレ家の倍と善魔の光で戦ってくるわ」

「倍と光……そんな奴勝てるのか俺たちは」

アンドロマリウスは光速移動で動き回り、しかも倍の能力による身体能力倍増。流石は暗殺部の部長だな。絶望的な力で勝つことが難しそうだ。

「サキュバス専門学校と王冠を巡る前の戦争で、私はアンドロ兄貴と戦って分かったの。アンドロ兄貴は倍の能力を極めていないから、筋肉操作はまだ複数の箇所に掛けることができていない。でも、善魔の光を倍にした戦法で苦しんだわ」

「光を倍に……!? そ、それってつまり……」

「魔界を一秒で十五周できるほどの速さね。時速移動で追いかけっこしたのに負けちゃったわ」

通常、光は一秒で世界七週半が可能。ヒトが追い付ける速さではないのは明確。それを倍の速さで攻撃や回避でもされたら太刀打ちできない。だからオロバス撃破後、俺は光速移動を持ってもアンドロマリウスに追いつくことができなかったのか。ウァサゴの時に委ねた速さでも追いつけない相手なら、戦うのは難しい。

 暗殺部の部長は、世界を一秒で十五周するほどの倍の光速を使う。俺が詠唱している間に一億回以上は死んでしまうな。そんな恐ろしい敵が裏歴史に回ったとなると、一つの心配が浮かび上がる。

「そんな恐ろしいロフォカレが、裏歴史のモーヴェイツに着いたんだ。お前の速さでも追いつくことができない兄が敵に回って、メナリクの救出は成功できるのか?」

元々俺たちの作戦は、俺とヤロベアムの対面後に、ウァサゴが時速移動でメナリクを強引に救出すること。もし仮にウァサゴが時速移動でメナリクに接近しようものなら、アンドロマリウスが見過ごすとはとても思えない。奴はきっと暗殺部の部長として依頼を受けたのだ。人質を盗まれるというヘマは許されない立場。何が何でも阻止するだろう。

「だから言ったでしょう。今度こそ勝つって。失敗を前提にせず、成功を前提として戦う。小さな鍵を渡すのも絶対にダメなんだし、どのみちそれしか方法が無いのよ」

小さな鍵レメゲトンをヤロベアムに差し出すことで、メナリクは返される条件だが、ヤロベアムは二つの鍵を融合させて、根本的な悪の創世記の始まりを企んでいる。一切の正義すら存在しない絶対悪だ。それを創らせるわけにはいかないためにも、小さな鍵は渡さず、ウァサゴが上手い事メナリクを救出しなくてはならない。しかし相手は倍の光速で走るアンドロマリウス。簡単に成功させてくれる相手ではない。だからウァサゴは『勝つ』という前提で作戦を強行している。かなり不安定な作戦だが、ウァサゴ自身はプレッシャーを撥ね返し、強気な姿勢を保ち、なかなかの闘志だ。

「……まあ、アプロディーテがお前に託したんだ。俺も今更とやかく言わない」

この作戦はアプロディーテが承諾し、決行が定まっている。メナリクと小さな鍵、どちらも守らなければならないのだ。俺もウァサゴを信じると決めた。だからこの作戦で俺も突っ切るのみ。

「この作戦は、善魔生徒会そのものの存命を賭けた大一番の勝負だ。俺たちはいわば、シンプルな『善』を背負っている。アンドロマリウスからすれば、『正の悪』だ。失敗すればメナリクは死に、俺たちの『善』は、『負の悪』に永遠に負け続ける」

「ええ、善魔生徒会が掲げる『悪の意志の脱却』の未来は、エルタアレ火山で決まるわ」

ウァサゴが、燃え盛る意思を込めた力強い瞳で俺の眼を見て、右拳を俺の前に出した。

 そういえばウァサゴと初めての出会いのとき、握手を求められたっけ。当時の俺は敵対関係である悪魔と握手なんて考えられず、一度もしたことがなかった。だから握手を求められた手の意味に、疑問を抱いた。

 今は違う。

 左手を握りしめ、拳をウァサゴの右拳に当てた。拳を合えることで、今一度俺たちの意思を確認し合う。言葉では説明不十分な絆の確認だ。


善魔生徒会会長のウァサゴが掲げる己の正義『悪の意志の脱却』は、悪魔が悪と呼ばれる所以は悪の意思によるもので、悪魔も一つの種族として守られるべき。悪の意思を捨て、平和な世界へやり直すこと。


対して、暗殺部部長であり善魔であるアンドロマリウスが掲げる己の正義『命の均衡』は、悪を滅ぼそうとする徹底的な正義を『負の正義』、善魔生徒会の正義を『正の悪』と見なし、悪の在り方である『負の悪』を守ること。正義との争いから悪の命を守り、正義と悪の争うことのない平和な世界へ導くことにある。


ロフォカレ兄妹は、己の善魔の正義に従い、対立となった話になりましたね。でも共通している意思は『誰かを守ること』。二人の行動に目が離せないよう、これからも書きたいと思っています!

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