表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第六章 エチオヴィア大狩猟大会編
81/88

七十六話 鍵穴の石

「ところでレハ、あの列車の中でなんかを拾ったんだけど……」

そう言いながらベッドから足を床に下ろして立ち上がり、自身のポケットに手を突っ込んだ。ポケット外がモソモソと蠢き、中を手探りする。見つかったか、手をポケットから出し、俺に近寄りながらそれを見せてきた。

「それは?」

フェニックスの掌には、黒くて真四角の石が置かれている。見た目に関しては、それ以外の何の変哲もないただの真四角の黒い石だ。フェニックスは魔列車内に囚われたときに拾ったようだが、俺には魔列車の中に関連性はなく、その黒四角い石も一切見覚えが無い。

「ああごめん、これ横だった」

フェニックスが示した黒い真四角の石は横だったらしい。俺に何かしらの関連性の可能性があると思って、わざわざフェニックスが拾ったんだ。その表にはいったい何が記されているというんだ。

 フェニックスは掌に置いた石を九十度回転した。その石の表には、俺には見覚えのある柄が書かれていた。

「こ、これは……」

不死鳥が魔列車の中で拾った石の柄に、俺は鳥肌が立ち、寒気に満ちた謎が筋を走った。咄嗟にその石をフェニックスから右手で奪い、よく注目してみた。

 この石には、魔王モーヴェイツ家が所有する魔法の魔術書、小さな鍵レメゲトンの上半分の表紙が描かれていた。

 いや、俺は見間違いかもしれない。この石とレメゲトンの関連性を認めたくないと、強がりな一心で魔法陣からレメゲトンを取り出した。左手に持つ魔術書と、右手に持つ謎の石を見比べ、絵柄の特徴一つ一つ確認していった。

 レメゲトンの上半分の表紙には、牛の頭蓋骨と左右に生える鎖骨、中心を囲う鎖骨の半分が描かれている。一方でフェニックスが拾った石の表には、それそっくりそのまま同じ絵柄が描かれている。ただ、一つを除いて。

「どう、やっぱり同じ柄だった? なんかどっかで見覚えがあるなと思って拾ったんだけど」

「確かに上半分は同じ柄だ。ただ、一つだけが違う」

フェニックスにレメゲトンの表紙を向け、石を持った右手の指で、中央の柄に指を差して見せる。

「あ、小さい鍵が描かれてある。で、その石は?」

今度は石の絵柄をフェニックスに見せた。するとフェニックスもこの違いに驚き、声を挙げた。

「ああああああああああ! この石には、鍵穴が描かれてある!」

そう、この謎の石の中央の絵柄には、小さな鍵ではなく、古墳状の鍵穴が描かれてある。レメゲトンと謎の石は、上半分の絵柄は同じなのに、中央だけが違うマーク。だからこそ謎さが増し、より不気味に感じる。

「でも、なんで上半分だけ絵柄が同じなんだろう。それにこの鍵穴、なんか違和感あるなと思ったら下の長さが足りないし」

「それも確かに」

下半分の絵柄が描かれていない疑問点と、上半分の謎の石には古墳状の鍵穴の上の部分しか描かれていない点が浮上した。だが、俺が持つ魔術書の形状上、一つの推測が容易く考えうる。

「おそらく、この上半分の石と、下半分の石が分かれて存在するんだろう」

「え、そうなの?」

「ほら、この魔術書は縦にちょっとだけ長いだろ? 真ん中から線を引いたら、上と下に分かれるんだ」

レメゲトンの表紙の中央右から左へ、指でなぞって線で示した。

「あホントだ」

この魔術書は黄金比のサイズ。この黄金比を上下に分けて考えれば、実際には正方形にはならずとも、石の形状は正方形になっている。上半分の正方形の石と、下半分の絵柄と鍵穴の下の部分の石が、どこかに存在するということになる。

「あってよさそうだよね。逆に上半分の石があって下半分の石がないなんて気持ち悪いし」

「それにしてもなんで、魔列車の中にレメゲトンの表紙が描かれた石があるんだ……」

小さな鍵レメゲトンと同じ絵柄の石が、なぜ霊界の乗り物の中にあったのか。この石には、モーヴェイツ家と何か関連性があるのか? 

「まさか、霊界ではレメゲトンの石がお土産品だったりして」

「レメゲトンで死んだ悪魔が、冥途の土産で描いたのかもな」

俺や歴代魔王たちがレメゲトンで悪魔や敵を殺してきて、敵は死ぬ間際にレメゲトンの表紙を見た。そのまま霊界へ流れついた後に、その辺にあった二つの石に落書きしたとか、という冗談だったが、我ながら本当にありそうな話で怖い。言霊というものは案外と、言ったことが現実に現れたりすることもあるものだ。言わなきゃよかった。

「何にせよ、こいつは俺が預かっておこう」

「えっ、持って大丈夫なの?」

レメゲトンに謎の関連性を持つ霊界の石を預かることに心配そうに発する。

「そのために拾ったんだろう?」

「そ、それもそうだけど、何せ私が拾ったのは魔列車の中よ? 不吉なナニかが寄ってこない?」

得体の知れない不吉なナニか、か。魔列車で見た幽霊の事か、悪運か。どちらにせよ持ってて縁起はない不気味な石だ。だが、表歴史の基準ともいえる小さな鍵で、この石はレメゲトンと同じ表紙の柄をして鍵穴のマークがあるのだ。関連性に勘違いは無いと確信している。この石には、レメゲトンの秘密が封印されている気がする。 

「なあに、寄ってきたら払うさ」

あの時、魔列車は偶然俺たちを襲ってきたかもしれない。だが乗せてきた運命を見て気になったならば、俺はそれを確かめたい。それに、この石とレメゲトンの関連性に好奇心がある。関連性の先に在る『何か』を見たい。好奇心が刺激されたら、この石を持っておく分の意味はそれでいい。『何か』を見る分には役に立たなかったら捨てればいい。それだけで十分だ。



――この石には、本当にレメゲトンの秘密が隠されていた。ここからしばらく先の展開で、石の正体が明かされる。それにしてもなぜ回りくどい描写を書くんだカタリキヨ レアは。秘密なんてどうでもいいから、メナリク救出成功のシナリオを書いてくれ。――



「それに、この石の意味が何かを気になってきたしな」



――もう既に石の意味を知ってしまっているのに、あたかも本音で知らないように言わされる、逆らえない台詞。カタリキヨ レアはいったい、俺たちキャラクターに何を求めている……?――



霊界の石をレメゲトンと一緒に魔法陣の中にしまい、消した。

 それにしても、メナリクを救う夏休みの外国旅行にて、レメゲトンと似た絵柄を持つ石を拾うとは。この旅の終末点には、必ずヤロベアムが待っている。メナリクにヤロベアム、俺、モーヴェイツ家の血が流れる者同士だ。となるとこの石には、いったい何の暗示が……?

「それにしてもフェニ。お前大丈夫なのか? 何せ魔列車の中に囚われていたんだ。幽霊も居て怖かったろう」

「んんん、実はそうでもなかった」

余裕満々に軽く否定し、アンリデウスが寝るベッドに腰を下ろす。

「意外だな、ホラー映画は好きか?」

フェニックスは時折子供っぽい性格で、身体も小さいため、怖いのは苦手だと思っていた。魔列車のよからぬ風を感知し、偵察しに飛び、そして捕まったんだ。トラウマになったとばかり。

「いやいやそうじゃないの。幽霊(あっち)から寄ってこないの」

「幽霊にとって、生命の炎は近寄れる対象ではなかった、か。じゃあなんであの列車の中に」

「いやぁ不覚だよね。まさか機械の手出してくるもん。そりゃあ油断するよねぇ」

「鷲掴みされたってわけか……」

「そ」

「まあ、あれは予想外だったな」

あのキャッチャーで飛んでいる不死鳥を捕らえ、車内へ入れ込んだわけか。

「で、列車の中に投げられて、辺りを見渡したら本当の幽霊たちが私を囲い込んでたの。まあ、なんか私を全力で避けてたから恐怖は抜けたし、私にビビる幽霊たちが可愛くって」

「笑いながら言うな」

魔列車の囚われの身になったにも関わらず、桁違いな生命力に慄く幽霊たちを可愛いく鑑賞に浸っていたというのか。どれほど俺が帰りを待っていたか、この分からず屋の間抜けめ。ゲーティア高校では、フェニックスがマウントを取れる相手がいないから、幽霊にマウントが取れて嬉しかったのだろうな。

「でまぁ、なんか見覚えるある石だなぁって拾って、それから数分後くらいかな、今度は緑色の気持ち悪いガスが噴き出してきたの。そしたら眠くなってね」

「睡眠ガスか」

睡眠ガスさえ搭載しているとは、よほど武力が大好きな列車らしい。流石の不死鳥の化身者も睡眠ガスには敵わず、眠りについたわけか。

「いやぁ、よく眠れたよ」

悪意の睡眠ガスで快眠を満喫するとは生意気。世の中には寝たくても寝られない者もいるというのに。何時頃に眠り始めたのは分からないが、今が十九時だ。だいたい十五時に寝たとしたら、四時間ぐらい寝ている。それほどの足りない睡眠で快眠とは、案外睡眠ガスは良いのかもしれない。吸いたいとは思わないが。

「そういや晩御飯の時間なのに、なんでアンリデウス寝てるの? それにレハもなんかやつれてるし」

「……追いかけっこしてたんだよ」

貨車の上でフェニと追いかけっこよりも、線路の上で魔列車に追いかけられっこの方がよっぽどハードだったな。特にアンリデウスは。それを知る由のないフェニックスは俺の返答に首を傾げていた。

「……?」

十九時は俺たちも晩御飯の時間ではあるが、今は食欲よりも疲労による睡眠欲の方が数倍増していた。疲れに疲れまくった俺も食べることはせず、アンリデウスと一緒のベッドに寝た。フェニックスと後で目覚めたヴァプラは車内販売駅弁を買い、もう別々の時間を過ごした。



 そして寝ている間に呪われた森と夜を越え、目覚めると三日目の朝が迎えていた。今列車は野原を走っている。曇天に塞がれた地上で朝日は浴びれず、アンリデウスと俺はやつれた顔で朝の曇天を見上げた。

 今は朝七時。ヴァプラとフェニックスが俺たちの朝の駅弁を買ってきてくれて、ヴァプラはウァサゴの分と一緒にC部屋へ、フェニックスは俺とアンリデウスの分を持ってD部屋に戻ってきた。フェニックスは机にお弁当を三個置いたところで、俺が座る右のソファに腰を下ろし、アンリデウスは左のソファに座ってお弁当を開ける。

「「いただきます」」

俺の隣でフェニックスは鶏肉弁当を美味しそうにもぐもぐと食す一方。

「……」

まだ昨日の疲れが残っているか、ボーッとした空虚な表情で朝の弁当を黙々と食すアンリデウス。元々スリムな体型のグラマーなアンリデウスだが、昨日の魔列車に追われまくって、今やガリガリに瘦せ細っている。美貌を忘れ、栄養が抜けたような身体だ。これでは見栄えが悪く、男子勢も魅了されない。

 そんな元気のない食べる様子に、不安に満ちた目線で見守るフェニックスは、かしわ飯を咀嚼しながら話しかけた。

「ねえ大丈夫アンリ? なんか昨日に比べて一気に細くなったけど……」

優しい声かけに耳を拾ったか、アンリデウスは顔を上げ、フェニックスを見た。その瞳には元気がなく白い。窪んだ頬で弱々しく笑顔を浮かべた。アンリデウスはまだ十五か十六歳だというのに、もう既に若々しさが随分前に置き去りしてきたのようだ。

「ええ……大丈夫よ……」

まるで生きた心地のない発声。ゾンビがくりだすおぞましい発声と同じだ。その大丈夫を信用するに値しないほど、込み上げてくるのは心配だ。

「ああ、死神一族の死を司る天使が死を前にしてる……」

死神になることが約束されている期待の天使が瀕死状態だ。死を転じて生を与える役割の死神が、疲労と餓死で生命が危険だ。

「フェニ、回復してやってくれないか?」

フェニックスは善魔生徒会のヒーラーだ。手から放射される回復の炎は、傷口を塞ぎ、部位を再生するほどの回復力を持つ。元気のないアンリデウスに当てれば回復できるかもしれない。

「も、勿論そうしようかなと思ったけど、一昨日の朝に渡した尾は生命力の塊みたいなものだから、触っておくと勝手に回復してくれると思ったんだけどね……」

「そ、そうなのか?」

「うん。あれって、生命力が高い代物だから、生命力が抜けた生体が触れると、自動的に生命力を分け与えてくれるの、たぶん」

「見たところ元気がないが……」

一昨日、アンリデウスは自身の胸の谷間にフェニックスの尾をしまい込んだ。胸の谷間はポケットではなく皮膚だ。元気のない状態で触れているのは条件として当てはまっている。それでも尾の効果が発動しないというのはおかしい。

「まあどっちにしろ、回復の炎当ててみるかな」

一跳びで机を越えて左側のソファに乗り移り、アンリデウスの隣に座る。掌に黄緑色の炎を出し、両肩に置いた。回復の炎で肩を燃やされるアンリデウスの身体は、徐々に潤いを取り戻し、瞳に活力が湧いてきた。

「うお、おおおおおおおおおおお……!」

あっという間にいつものアンリデウスに戻り、復活。炎をしまいこみ、フェニックスは手を肩から離した。アンリデウスは隣に座るフェニックスに顔を向け、元気に満ちた笑顔を出した。

「ありがとうフェニ。いやあ助かったよぉ」

「よかったぁ! ところで尾はどうしたの?」

「フェニックスの尾は谷間の中に大切にしまい込んでいるけど、それがどうかしたの」

質問を疑問で返しながら、左手でファスナーを少しだけ下げ、右手を谷間の中に突っ込んだ。尾を取り出して所有物を見せるためだ。すると表情が変化した。明るい瞳が疑いの目に変わった。誰かを疑う目線ではなく、現実を疑っているような沈黙であった。

「フェニ……」

「ん」

「尾が、粉々になってる……」

「え?」

そう悲しく言うと、胸の谷間から拳を取り出し、拳を開けると黄金色の粉末が掌に乗っている。あの輝きはまさにフェニックスの尾だ。

 案の定というべきか、爆乳の間に挟んで、ビキニの紐が千切れるほど強烈な摩擦が起きれば尾は粉々になるか。アンリデウスに抱かれたときの乳圧は、顔が吸い込まれるように沈んだが、その柔らかさでも粉々にするには十分な運動量であったか。それはともかく、尾の原型がなくなり、効果も失せていたようだな。おそらく昨日の逃走中に粉々になったのだろう。

「もう唐揚げ粉だよ……」

「んんん、フェニックスの尾を粉末にした唐揚げか……」

友情の証が性天使の胸の谷間で粉々になり、しかも食材の一つになれば、流石のフェニックスも良い気持ちはしないだろう。

「なんか美味しそう」

魔列車を消滅するほどの生命力を持つ、百年に一度生える友情の証が遂に食材になってしまうというのか。自分の副産物を自分で美味しそうと思うとは、フェニックスの食欲は原理が分からなくなった。


 それから朝、昼、夕は事故もなく時間が過ぎ、二十時。遂に港町エイラドに到着した。

「んんんんん、んん。やっぱ地上っていいわぁ」

荷物を抱えて列車から降り、ウァサゴが地上を踏んだ感想だ。魔列車との逃走を除いては、三日ぶりに地上に降りるのだから、地上の感覚が快いのだろう。この列車旅は揺れる床と狭い居室だったため、解放感はたっぷりある。

「私はやっぱり空がいいですよ」

ウァサゴの一言を聞いたフェニックスも続いて降り、否定的に返す。フェニックスは列車旅のほとんどが、列車を追いかけながら滑空している。ご飯を食べる以外はほぼ空を飛んでいるから、地上の良さを噛み締める気持ちが理解できないのだろう。

 とはいえ、明日には船旅だ。次に地上を踏むのは一週半先になる。今のうちに地に足をついて、この港町エイラドで服や薬、食べ物を買っておいた方がいいだろう。

「それにしてもまだ駅の中だというのに、潮風が快いわね。……魔界のくせに」

フェニの次に降りる天界育ちのアンリデウスは最後の一言が余計だったが、港町なだけに潮の香りが駅の中でも漂う。俺は、森の香りを無臭と感じるぐらい長年生活してきたため、潮の香りが新鮮だ。

「港町っていうことは、今は季節が夏だし、ビキニのおねえさんが見れるんじゃないか!」

最後に降りるヴァプラはどうやら港町で、浜辺で遊ぶビキニのお姉さんを直結で連想できるらしい。思考回路が雄の発想で、女性三方がヴァプラへ振り返って冷たい目線で睨んでいる。

「さ、さささ魚料理もく、食ってみたいですなぁ、あはあははは……」

汗を流しながら、港町で連想できる魚料理の話にすり替えた。うむ、女性の目の前でそういう下品な思考回路は口に出さないことだ。肉体は凹むほど殴られ、容易く切断され、死にそうになっても回復させられ、それがエンドレスに続く地獄を経験するぞ。死よりも苦しいのは明らか。

 そんなこんなで善魔生徒会旅チームは駅から降り、港町の地面に立つ。

「おおお、なんだかお洒落な街ね」

夜の街をちょっと照らす複数の電灯と、派手な形状の建物や施設、道を歩くお洒落な恰好の悪魔たち。活力に満ち、その上、大人な静寂と潮音(シオン)に包まれた街並みで、景色は美しく輝いている。エチオヴィア王国にて行われる大狩猟大会への交通量が多いため、観光地として栄えているようだ。ここが偽王国の領域とは思えないぐらい発展した街だ。王都ヴェルサレムより発展しているぞ。

「海だあ」

そして、駅出入口からでも見渡せる海が奥へ広がっている。その上に浮く巨大な船が、彼方の方角に向いて待機している。フェニは普段見ることのない海に興奮しているのだろうが、潮風に乗って空を飛ぶのだろうな。

「ああ、だがまずは船に乗って部屋を確保しよう」

せっかく初めて訪れた港町で観光したいところだが、今は船に乗って自分たちの部屋を確保しておきたい。出航は明日の朝だ。観光するのなら、部屋を取ってからでも十分に時間がある。

「そうだね。部屋を取った後は(うえ)から観光地を周るぞ」

観光地でも空を飛びたいらしい。気になった施設へ上空から窓へ突っ切らないか心配だ。シンプルに正面入り口から入ってほしい。

 そう心の中で言いながら船へ歩くところ、アンリデウスが俺に言葉を発する。

「そういえば海で思い出したんだけど、なんでレハの森の中に海があるの?」

「それは女神王の母さんに聞いてくれ」

かつてサキュバスの生徒会長(リーダー)であったアンリデウスが、森の中の海について疑問を抱く。

 おさらいするが、淫魔街が暗殺部によって崩壊し、住む場を失った淫魔たちは、俺が住んでいる森の南側にある浜辺で住んでいる。女神王アプロディーテの母で宇宙の母でもある創造神は、俺のために聖域の蠢く森と白ビキニだらけの聖城を用意してくれたわけだが、森の南側には広大な海が設置されている。しかも、森の外側には海はなく、森の南側は完全に海の異世界へ繋がっている。まさか異世界まで用意するとは、大胆で凄すぎる余計な世話だ。冠やら聖剣レクスカリバーやら、準備の手前が良過ぎて恐怖すら覚える。

「お、お母さんって……この宇宙全体の創造神様よ!? 森も城も冠も希望の未来も託した創造神様相手に、おおおおおお、お母さんって……!」

神聖なんて領域を越えた創造神様をお母さん呼びで、天使からすれば常識はずれで罰当たりな発言だったか。アンリデウスが珍しく俺に、憤りの目で睨んでドン引きしている。

「ああ、そりゃあ創造神様には森や城を用意してくれたんだ。感謝している。だが、絶大な期待をのしかけ過ぎで、はっきり言って迷惑だ」

「め、めめめめめめえっめえっめ、迷惑……!!?」

俺は今、死を司る天使の目の前で罰当たりな発言を重ねてしまっているが、これは本音だ。俺はモーヴェイツ家の者で、魔王ソロモンの息子だ。血には悪しき歴史と闇の魔力が継がれている。そんな悪魔の血を流す人間の不完全な俺に、創造神は未来予知で俺が希望と定めてご丁寧に用意してくれた。おかげで俺は魔界の中でも安心して過ごすことが出来る。俺が今でも怒っているのは、天界の連中だ。

「創造神は娘のアプロディーテに俺の守護の命令をしたんだろうが、過保護だ。大きい乳に囲まれ抱かれ、護られるだけの生活なんて、ただの監獄と同じだ。あんな卑猥な天使と女神たちを見て、控えめに言っても目障りだ」

「!?……」

創造神はアプロディーテと幾つもの世界を生み、魔界に森と城を設置し、幾数年後に誕生する不完全な俺の存在を保護するよう天界の連中に命じて亡くなった。女神王筆頭の天界軍は孤独に育った俺を無理矢理歓迎し、更には数の暴力と最強の美貌で、悪魔が触れないほどの聖なるベールが巻かれるぐらい犯してきた。俺には孤独に育ってきた分、独りが心地良いんだ。それを妨害してくる天界の色仕掛けには吐き気すらある。

 渾身の悪意を込めた毒舌を受けたアンリデウスは、憤りの目は消え失せ、絶望色の真っ暗な無気力の瞳を見せた。反論する余地無しというより、最愛の人から一気に裏切られたような失意だ。更に、天界の目や耳は常に俺を注目している。俺の怒りを聞いた天界の性天使と性神共もきっと、同じように言葉や活力を失っていることだろう。良い気味だ。少しは俺をリラックスさせてくれ。

「まっ、セーレ以上の毒舌だけど、破廉恥だものね。仕方ない」

風紀(かっこう)がやや乱れているウァサゴは、破廉恥が大嫌いであり、俺の意見に大賛成のようだ。

 後の死神のアンリデウスをノックアウトさせたところで、左に船が海に浮く停泊場に到着。波打つ潮の音が心地よく聴覚を刺激する。

「しっかし、船大きいな」

左にそびえる、島に匹敵するほどの巨大な木製の船。船上には長方形のビルが建っている。木製だが、ただの船とは違い、側に寄れば寄るほど伝わる謎の特別な魔力がある。ただ巨大過ぎる船というわけではない、力強い迫力がある。

「ノアって名前らしいぞ、この船」

ヴァプラがいつの間にかパンフレットを手にし、船の名前を紹介した。


三週間の実習が終了しました!!!!!!残りの記録を書き閉め、小説の方へすぐに書きました。そして今日から学校が始まりますので、頑張ります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ