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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第六章 エチオヴィア大狩猟大会編
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七十五話 歴史を紡ぐ不死鳥の血

 車外の壁は薄れ薄れ、車内からはフェニックスとヴァプラの転がった姿がようやく確認できた。益々魔列車の姿は消え失せ、完全に消滅した。

「フェニちゃん、ヴァプラ!」

ウァサゴは急いで線路に寝転がる仲間の元へ駆け寄る。肩で抱えたアンリデウスをゆっくり線路に下ろし、二人の元へ走る。

 ウァサゴはヴァプラの元へしゃがみ、横たわる頭を膝枕にして介抱する。

「おい、大丈夫か、ヴァプラ!」

光の剣を消し、フェニックスの側まで寄る。その場でしゃがみ、フェニックスの背を起こし、肘関節を枕にして頭を安定させる。幸い鼻呼吸は正常だが、瞼は閉じたまま。これは気を失い寝ているな。

「気を失っているが、怪我はなさそうだ。ヴァプラは」

ついヴァプラを先輩と呼び忘れ、いつものタメ語で名を呼ぶが、返事はしない。介抱役のウァサゴが代弁をしてくれた。

「ええ、こっちも問題なさそうよ。目覚めるのには時間がかかりそうね」

そういえばヴァプラは魔列車の一号車の扉に突撃直後、恐怖に帯びた悲鳴を上げた。おそらく幽霊たちを間近に見て気を失うぐらい驚いたのだろう。怪我もなさそうだし、命に異常はないと見ていい。

「しかし、まさかフェニックスの尾で消滅したとはね……」

「ああ……」

乗車前、友情の証としてくれたフェニックスの尾が、魔列車を完全消滅に至るとは。しかも、ウァサゴの耳介に掛けていたところ、たまたま向かい風に乗り、たまたま魔列車に当たった。偶然が重なった幸運だ。それにしてもフェニックスの尾が魔列車に特攻とは本人から聞いていないが、推測はできる。

「おそらく、フェニックスの尾は霊界に対する対抗力があったんだろう」

「霊界?」

「フェニは不死鳥であり、相手を癒す炎がある。死とは正反対の生命に満ちた力だ。対する霊界の住民(ゆうれい)は死者。生とは反対の存在。つまり、両者は相反している」

「フェニは生命、さっきの魔列車とか幽霊は死の存在と考えれば、確かに真逆ね」

「ああ、そこでフェニックスの尾が登場する。その尾は百年後に生える貴重な品物。百年を得て成長するんだ。フェニも知らなかった凄まじい生命の力が宿っているんだろう。死の存在に生命の力を当てれば……」

「死者が復活する……? あれ、でも、さっきの魔列車は消滅したわよ」

「こう解釈もできる。霊界の空気を帯びた死のオーラは、生命の力によってかき消される」

「なるほど……」

死者に生命の力を与えたところで、それを復活と呼んで正しいのか分からない。蘇生というワードの方が適切と思う。どちらにせよ、生きた元死者はゾンビとしか言い表せない。おそらく霊界からやってきたであろう幽霊や、彼らの乗り物である魔列車は死のオーラを帯びている。死とは相反する生命の力を帯びたフェニックスの尾で、マイナスとプラスはゼロとなり、魔列車は消滅した。というのが俺の答えだ。

「だが、今はそんなことはいい。まずはとりあえず歩くか……」

覚める様子もないフェニックスを抱え、線路の地で横にしたアンリデウスの元へ歩き寄る。

「そ、そうね」

ウァサゴはヴァプラの首を鷲掴みし、真上に投げ、肩に腹部を落して抱える。俺もアンリデウスの身体を抱え、肩に乗せる。

 ウァサゴはヴァプラを抱え、俺はアンリデウスとフェニックスの身体を抱え、血塗りの木々が茂るホラースポットを歩く。果てしない線路の先をひたすら歩く。

「ねえ、スケジュールはギリギリなんでしょ?」

「ああそうだ。せめて四日の出航前まで到着したい」

「間に合うかしら」

奇跡的に友情の証で魔列車を倒したのは良いが、肝心なのは移動手段が失ったこと。今から歩いたところで港町エイラドに辿り着くのに時間は掛かる。エチオヴィア王国行きの船に乗り遅れることになる。大狩猟大会のエントリーは十六日までだが、何せ船旅は十二日間。列車旅三日目で船に乗り、四日目から出航。十二日間を越え十六日までにエチオヴィア王国に着かないと、大狩猟大会に参加できない。そのために俺たちは、船が出発する四日目までにはエイラドに到着しないといけないのだ。徒歩でエイラドに到着できるか、かなりの瀬戸際だ。

「私とレハは超高速で瞬間移動できるけど、三人がねぇ」

「ああ、抱えたまま瞬間移動したら身体が燃え尽きてしまう」

ウァサゴは時速移動、俺は光速移動であっという間に走る列車はおろかエイラドに到着できる。が、フェニックス、ヴァプラ、アンリデウスは俺たちに抱えられ、瞬間移動の負荷に耐えられるほど身体は屈強ではない。マッハの壁を貫通するのだ。骨は砕け肉も裂ける。

「それ以前に、瞬間移動するほどの魔力が残ってるか?」

「あはは、それもそうね」

空虚な笑いが零れる。魔列車襲撃のせいで魔力は大幅に消費した。仮に今俺が光速移動をしようものなら、走っている列車に追いつけるかどうかすら怪しい。

 

 程なくして今。歩いてからおそらく三十分が経った。森と夜空に包まれた暗闇の線路一本道をひたすら、ただ歩く歩く。木々はどこかしこも血で塗り固められ、鉄臭い。陰湿な環境で蒸し暑く、汗もびっしょり。脚の蓄積された疲労で筋肉が張り裂けそうだ。こんなホラースポットをまるで無限のように歩き続けるのは精神的にも辛い。

「おっ、あれは……」

魔列車撃破後から喋っておらず、歩くことに費やした沈黙の時間をウァサゴが破り、暗い視界の中、何かを発見したようだ。

「なんだ」

暗闇に慣れた視界でもウァサゴの発見物が見つけることが出来ない。が、ウァサゴはヴァプラを抱えたまま早歩きし、線路から左に脱線。すると、屋根や壁が付けられた大きなトロッコが横倒れになっていた。俺も左に脱線し、トロッコの側に寄る。

「ああ、人車軌道ってやつか。えらいレトロな」

人力で人や物を運ぶ鉄道車両だ。魔列車のような機械仕掛けの動力や魔力で動かすものではなく、これは完全な人力で動かす乗り物。とはいってもこの人車軌道、後方の床には先端が丸い棒が突き刺さっている。棒を前後に倒し続けると内部の歯車が作動し、移動が出来るタイプのようだ。

「これ、良さげな乗り物じゃない?」

「ああ、もしかしたら使えるかもしれないな」

「そうと決まれば」

ウァサゴはヴァプラを肩から雑に落とし、身体は土に落下。解放された腕と手を使い、ウァサゴは人車の底に周り、これを軽々と持ち上げた。車輪を線路の上に乗せ、人車軌道は何年ぶりに線路を踏んだ。

 外装や車内は汚い葉や泥土に塗れ、鉄部分は古びているが、この際どうだっていい。今は休憩しながら移動したいのだ。休憩しながら移動したいというわがままな内なる願望がまさに、人車軌道の奇跡的な出会いだ。良い物へ改良される時代の中、遺産物は使われることは減り、呪われた森に捨てられてしまった。こいつはたった今、ヒトの目を浴びたのは何年ぶりなことやら。この人車軌道は俺たちと一緒さ。幽霊たちによって列車から突き落とされ、呪われた森に捨てられたも同然。捨てられたもの同士、互いを有効活用し合おうではないか。

 さあいざ、過去の時代の遺産物よ。俺たちに移動手段(あし)をくれたまえ。そう思いながら扉を開き、車内へ入る。車内は長方四角形の面積で、最大六人まで利用できる広さだ。左右には古びたソファが設置されており、左のソファにフェニックスとアンリデウスを横に下ろし、ウァサゴはヴァプラを持って右のソファに転がした。これでやっとこさ手腕は解放された。あとは人車軌道を操作し、走行するだけだ。

 後方の扉の先には先端が丸い棒が床に突き刺さっている。これを前後に倒せば、動力によって内部の歯車装置は動き、車両が進むはずだ。右掌を丸い柄先に置き、まずは棒を前に倒す。

「うううん。かったいな」

棒や床下の歯車装置が錆びていて、動作が硬い。だが、ガチャッと鈍い振動音が鳴った。歯車に動力が伝わった手応えはあり。今度は棒を後ろに戻す。相変わらず動作が硬く重いが、動力が確実に歯車に流れ、鈍い振動音は次第に間隔が短くなっていく。これを繰り返すことで、人車軌道は遂に動き始めた。決してスムーズとまでは言えないが、車輪は線路の上を滑っている。

「おおお動いた動いた。まあ遅いけど」

「それを言うな」

人車軌道の運行は俺たちの徒歩より遅いが、人を担ぎながら移動するよりはマシだ。この棒をひたすら前に倒し、後ろに戻しを繰り返せば、人車軌道は前に進む。ただ錆がガンコで、棒を前後運転するのには、腕だけで行うのではなく、身体全体の筋肉を使わないと難しいことが分かった。

 力が入りやすいように脚を広げ、体全体で棒を漕ぐと、人車軌道は微妙ながら走行速度が上がっていく。人力で移動するのだから大変なのはわかっているが、かなりの重労働だ。

「けっこう疲れるなこれ。錆びのせいで硬い」

やはり棒と歯車の錆びが硬く、強引任せで前後運転をしている。これをエイラドに到着するまで繰り返すとなると、全身が筋肉痛になりそうだ。

「どれ、貸してみて」

ここは怪力自慢のウァサゴに任せた方が早いかもしれない。棒をウァサゴに譲り、運転を託す。

「私が時の能力者でよかったわね」

ドヤ顔でそう言うとウァサゴは右掌を棒の先端に置いた。

「どういうことだ」

「私には、時の魔力を自分の肉体以外にも流すことはできる。それは知っているでしょ?」

「なるほど。そういうことか」

ウァサゴが操る時は合計五つがある。そのうちの一つが時速移動という、肉体を時の流れに委ね、圧倒的超高速移動ができる。その原理を車両にも活かすことができると言いたいらしい。歯車装置全体に時の魔力を包み込ませ、ウァサゴと同じように時の流れに委ねれば、この人車軌道は時を司る高速運転が可能だ。

「ええ。時速移動の出番ってわけね。時の魔力を棒に流し込み、歯車全体に行き届けば、あっという間にタイムマシンの完成よ」

「悪いが未来や過去に移動するのは辞めてもらおうか。現在を進んでくれ」

「あら、一秒ごとに現在は未来に進んでいるのよ。この人車が進む度に未来へ行っているというのに」

「一秒云々の細かい未来ではなく、もっと大きな未来へ進まれると困ると言っているんだ」

時の力を得た乗り物に乗ると、本当に時間軸から外れそうで怖いな。いやむしろ、時を移動する力を得た乗り物で現在を走行する方がおかしいのか。それだと何のためのタイムマシンだ。普通の車両でいいではないか。となると俺たちが乗っている人車軌道はタイムマシンなのか?

「分かってるって」

掌から棒を伝って床下にある歯車装置へ魔力を注入。

「ウァサゴの普段の時速移動で運転するなよ。マッハの壁を貫通して、俺たちが死ぬ」

時を越えるには、マッハすら置き去りにするほどの尋常じゃない速度を用いると聞く。マッハの壁すら辿り着けない俺たちのか弱い身体では、神速の運転で簡単に燃え尽きてしまう。

「だぁかぁらぁ、分かぁってるってぇ。心配性ね全く」

「お前の行動がそうさせてるんだろが」

ありとあらゆる言動が時として勇敢もあれば、時として自然災害すら招くこともしばしば。戦闘や能力が発揮すれば、ウァサゴは(タチ)の悪いクラッシャーだ。喧嘩は勿論、近寄ってもただの自殺行為と化す。それほどこいつの行動には危険が伴うのだ。

「いいか、手加減しろ、手加減」

弱者に鞭ありと言わんばかりに、手加減無しのフルパワーで豪快に殴り、人を投げ、自然すら破壊してきた。その度に手加減しろと告げているのに、こいつは手加減がまるっきり下手なのだ。

「分かったから。要は力抜けばいいんでしょ」

「お前の脱力も破壊し兼ねないが……」

ウァサゴの戦い方は剛そのものだが、脱力の戦法を含む柔もウァサゴならマスターできる。脱力から一気に放たれた一撃も末恐ろしい。

「じゃあどうしろってんのよ!」

ウァサゴ渾身の口ツッコミが炸裂。とはいえ、俺の体力ではあまりにも遅い。どうしても出航までにはエイラドに到着したい。ここはウァサゴの時の能力に任せるしかない。

「悪かった。では運転はお願いする」

「ハーイ」

俺は横たわるヴァプラの隣に座り、運転を担うウァサゴを見守る。

「シマルドアニゴチュウイクダサイ、マモナクシュッパツシマス」

「運転士っぽく言わなくてもいいぞ」

「いいや、心構えって大事でしょ」

魔力の注入を終えたか、ウァサゴは運転士の台詞に沿って棒を前に倒す。俺が倒したよりも棒の移動が滑るようにスムーズで、一秒にも満たない速さで後ろに戻した。これを繰り返すと、人車軌道は使い古しがウソのようにスピードが上がり、最初に乗った列車以上の速度に達した。

「おお速いな」

「まだわがまま言うつもり!?」

風が多少快過ぎるぐらいの感想を零すと、手加減の説得だと解釈されて怒鳴ってきた。

「ああ違う違う誤解誤解。思ったより良い速さだなと思って」

「あったり前でしょ。私の十分の一の脱力をなめないで頂戴」

「これで十分の一……」

つまりフルパワーで運転すれば、本当に未来まで飛ばされそうな勢いだ。いやはや恐ろしい。

「とはいえ、私の魔力も少ないわ。エイラドに辿り着くのはたぶん無理ね」

「いいや、要はあの列車に追いついたらいい。そうしたら本来の列車旅に戻る」

「ああ、そうわね。衣服とかテーピングとか私物が列車に置きっぱなしだし」

一時期は諦めていた列車に置き去りの私物だったが、ウァサゴの時をかける運転で追いつけるかもしれない。そして列車に辿り着けば、本来の列車旅に戻り、無事にエイラドに到着できる。列車から突き落とされたのが最悪の始まりだったのだ。

「どうせ俺の魔力も少ない。残る全ての魔力をお前に渡そう」

「サンキュー」

ソファから立ち上がり、棒を高速に前後運転するウァサゴの背後に立ち、背部に俺の手を置く。俺の内なる魔力を貯蔵するダムから、手腕をホースに見立てて、ウァサゴに俺の魔力を注入する。俺の魔力のダムは底を着いた代わりに、ウァサゴは少々の魔力は足され、タイム人車軌道(マシン)の動力も確保できた。


 そして俺たちは奇跡的に列車に帰還した。短い間ではあったが人車軌道と別れ、少々名残惜しく線路の余所に置いて行った。ウァサゴはヴァプラを抱えてC居室に戻り、俺はフェニックスとアンリデウスを抱えてD居室に戻り、先に二人をベッドに下ろした。本当は俺もベッドに横たわたいが、気を失っているアンリデウスとフェニックスの二人で既に窮屈。しかたなく俺はソファに倒れ込み、身体の疲労をソファにのしかける。

「ふぁ、疲れた……」

走る走るとにかく走る戦いで、今日はもう歩くことすら許されない疲労だ。二人を看取る体力も襲撃に備える魔力もない。晩飯を食べる努力も鬱屈だ。ため息を漏らし、瞼を閉じた。

「んん……」

そのとき、フェニックスの微かな声が聞こえた。瞼を開け、座ったままベッドの方へ目を向ける。フェニックスは、ゆっくりと上半身を起き上げ、俺の姿を寝ぼけた目に映した。

「あれ……なんでレハがここに……?」

一人で偵察しに飛び、魔列車に捕らえられ、気を失ったんだ。記憶が途切れているのだろう。フェニックスからすれば俺がフェニックスの近くにいるのが不思議だ。

「それは俺がフェ」

「あああああっ! 私そういえば悪趣味列車の中に連行されたんだった!」

俺が話している間に大声を出して、記憶が戻ったようだ。

「ああなんてこと、まさか私を助けに来てくれたレハまで、捕らわれてしまったなんて……ごめんなさいレハ」

どうやらフェニックスはここが魔列車の中で、俺が助けに行ったが俺も囚われの身になったと勘違いしているらしい。気を失い記憶が途切れているのだ、無理もない。落ち着かせるために状況を説明しよう。

「落ち着け、ここはいつもの列車の中だ。悪趣味列車の中じゃないし、俺は捕まっていない。無事に帰ったんだ」

更に言うなら俺ではなくヴァプラが捕まったのだが、今はその説明は省くか。

「え、ど、どういうこと……? 私って、悪趣味な列車の中に捕まったんじゃなかったっけ」

「ああ、あのドクロの鉄仮面を被った列車のことだろう」

「そうそう!」

「あの列車はこの列車に襲ってきた」

「え、襲ってきたの!?」

「で、魔列車を倒したらフェニが出てきたんだ」

俺も疲れているのだ。あれこれ詳しく説明できるほど集中力はない。俺の説明が大雑把になってしまったが、伝わればそれでいい。

「そうだったんだ……い、いやぁ、あの超デカい列車を倒すだなんて、やっぱレハって只者じゃないよ」

「いや、俺ではない。倒したのは、お前だ」

「わ、わたし?」

「ああ、もっと正しく言うなら、お前がプレゼントしてくれた、あの尾だ」

「私の……尾……が……?」

どうやらフェニックスの尾がどういう力を宿しているのか、フェニックス自身が分かっていないようだ。俺の推測止まりではあるが、説明した方が良さそうだ。

「ウァサゴがフェニの尾をたまたま落して、それをあの魔列車が当たった。すると魔列車が消滅したんだ。お前がくれたフェニの尾には百年分の生命の力が宿り、霊界から来たであろう魔列車の死のオーラを打ち消した、と推測しているが、フェニは何も知らないのか?」

「いいや、知らない」

代々フェニックスが伝統してきた、百年を得て形成される尾のギフトは、具体的なご利益を知らずに続けてきたのか。てっきり俺はフェニックスなら知っているのかと思っていた。

「だって仕方ないじゃない。歴代フェニックスは、不死鳥ゆえに何千年も生きていくけど、老化はするんだ。だから卵を産み、血を未来へ継ぐんだけど、卵を温めるにはね、自分自身を燃やし尽くさないといけないんだ」

「自分自身を燃やし尽くす?」

「うん。そうして卵は孵化する代わりに、親の身体は灰になるんだ。だから知る由もないよ」

「だけど、代々フェニックスは信頼できる者に尾を渡す歴史があると言っていたじゃないか」

「まあ、確かにそうは言ったけど、あれはなんとなく知っていただけなんだ」

「知っていた?」

「うん。ほら、獣の本能ってやつ? 教えられてなくても、私の遺伝子にはきっと『信頼できる者に尾を渡す歴史があるんだよ』って刻まれているんだよ」

遺伝子は不思議なもので、子に意思や本能が受け継がれる。例えば親に教わることもなく、幼少期の子供は食事や排泄の仕方を、なんとなく既に知っている。それと同じ原理ということか。

 母の命懸けの孵化と引き換えに現フェニックスは誕生し、フェニックスは入れ替わった。母は死に、口から教わりはできなかったが、遺伝子情報は受け継がれ、こうやって歴史を紡いでいった。せめて尾の生命力の情報も遺伝子に書いてほしかった。これでは俺の推測が本当に正しいのかが分からないな。

「なるほどな。理にかなっている」

「まあでも、レハの推測は正しいと確信しているよ。フェニックスは不死鳥であり、生命の象徴だからね。それに、あの悪趣味列車を間近で見て分かったんだ。あれは霊界から来たんだなって。だから尾が当たって消滅したって聞いた時、無意識的に腑に落ちたよ」

尾は、信頼の証以上の価値を持つ、凄まじい生命力を宿す伝家の代物。それを百年育てるフェニックスだからこそ、魔列車の正体を見極めたのだな。

「そうか、知れてよかったな。じゃあ千年後の次世代フェニックスのためにも、遺伝子情報に書き加えないとな」

「うん、勿論」

俺にとって魔列車はトラウマの経験だが、フェニックスは囚われてしまったものの、魔列車という霊界の乗り物がキッカケで尾の生命力の強さを知れたのだ。ある意味良い経験となったな。

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