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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第一章 黒獄の天秤編
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八話 悩み

申し訳ありません。書くのに遅れました。どうぞ八話でございます。どうかダークなひと時を。

「ねえ、レハって魔術師なの?」


ハンバーグをナイフで斬る最中、突如と変なことを聞かれた。フォークで突き刺し、口に入れる。

「ねええってば。レハって人間なのに何者なの……?人間が魔力を使えるって聞いたことないよ?」

「今は食事中だ。食事中ぐらい静かにしてほしい。」

ここは我が城。帰宅を終え、十九時の晩飯だ。いつもの食事をバルバトスを一緒に交え、食している。


 ロと呼ばれる魔物に追われての二人三脚という超過酷な訓練を終え、ロを倒し、我が家にほっと一息だ。ここに悪魔がいなければ俺は最高に一休みができたというのに、俺はなぜバルバトスを招き入れたのだろうか。バルバトスは飯にがねつい。食への意思が強い悪魔だ。

「……さあな。ただ、俺は魔術書を持つんだ。魔術師なのは見て分かるだろう。」


剣を持たない者を剣士と呼ぶ者はいない。それと同じだ。俺はレメゲトンという魔王ソロモンが所持していたという伝説の魔術書を持つ、一介の魔術師だ。

 しかし、人間は魔力を持たない。だから人間界にいる人間たちは悪魔の姿が見えない。俺は魔界に居るから悪魔は見えるが、そもそも俺に魔力があるということ自体は俺自身謎だ。なぜ魔力を持って生まれたのか。それは絶対に両親の血筋が原因になっているはず。なのに俺は両親の顔を覚えていない。いったい、俺の父や母は何者なのだろうか……。

 それより、バルバトスがここで我が城で食事のために訪問してから丸一ヶ月。始まりは四月の入学式の後日だったか。そろそろこの城から追い出すとしようか。悪魔がいるだけで俺のストレスは半端ない。一時の休める場がない。

「バルバトス。」


バルバトスは週に一回のハンバーグを幸せいっぱいに口に入れながら、「ん?」と聞いた。

「相談だが……そろそろ俺の城に訪れるのは辞めてほしいんだ……。」

「ヤだ。」

「それは俺のことが好きなのか?好きだから一緒に居たいのか。それとも食事が美味いからここに食べに来るのか?」

「食事が美味いから。」


頬張りながら即答だ。まあ前者で答えられても白けるだけだし、俺も冗談を込めて言っただけだ。ただバルバトスが毎日俺の城に訪れると、まるで俺とバルバトスが付き合っているように見える。そんな印象持たれるのは俺の人生において最悪の汚点だ。俺は決して悪魔と付き合わない。

「じゃあ食事の作り方は教えるから、教わったらここに一生来るな。」

「ええ作るとか面倒くさい。」

「じゃあ殺すか。」

「なんで殺すのっ!?急展開過ぎじゃない?」

「俺はお前の奴隷ではない。お前は勘違いしているだろうが、俺はお前のために作っているわけではない。俺が食うために作っているんだ。お前は所詮余り物をくれてやっているだけ。」


なぜ俺を陥れる悪魔のために俺が飯を作らなくてはならない。言語道断だ。

「なんでよ。私のために作ってよ。」


まるで俺を奴隷視するかのような発言だ。益々苛立たしい。

「よし、じゃあ殺すか。」


皿の隣に置いてあるレメゲトンを取る。一応言っておくが、あくまで脅しだから殺す気はない。二人三脚のパートナーとして今死んでもらっては困る。

「や、やめてよお……。」

「お前は悪魔のくせにすぐに怯えがちだな。」


まるでシトリーのようだ。悪魔にしてはかなり病弱者だ。本気で怯えるバルバトスに、呆れた俺はレメゲトンをテーブルに置き、フォークを持って食事を再開させた。

「にしても、この世界の女性はほんと大変だな。普通に孕ませられる女性が多くて。」

「そうなんだよお。女性って大変なんだよお。ほっんとセクハラ男子多くてヤになっちゃう。」


実践的な保健体育しかり犯罪行為の概念無ししかり、いつでもどこでも何時女性は性犯罪に狙われる。最近ではシトリーが保健体育の授業から逃げて、男性三人組に追いかけられた。

「男子が嫌ならなぜ俺に近寄るんだ。俺も男性だ。」


「だって、人間じゃん。人間は悪魔に比べたら性欲そこまで高くないって聞くし。何より人間のあなたが悪魔を犯すなんてありえないしね。」

「ふっ、それもそうだな。人間と悪魔の交尾なんてばかばかしいにもほどがある。」


が、悲しいことに例外も存在する。サキュバスだ。サキュバスは人間界へ渡り、少年を犯す悪魔だ。そのまま少年とサキュバスが交尾することもおかしくないという。その少年の命が尽きるまで精子を搾り取るサキュバスだが、どちらにせよ人間界が犯罪に塗れていくのは性欲の高い悪魔や悪の意思が強い悪魔のせいだ。勿論、このバルバトスも人間界へ渡ったら、文字通り猫の皮を被って人間を騙すだろう。卑劣な奴め。いかん、益々殺意が湧いてきた。

「でもレハの食事は美味いよ。こればっかりは認めざるを得ない。だって周りのヒトたちも何気に認めてるからね。」


バルバトスが言っているのは、家庭の授業で調理のテストがあったときのこと。まだ死月の頃、初めての家庭の授業で調理のテストが行われた。中には得意な悪魔に不得意な悪魔による上手で美味しい料理と、下手で不味い料理が完成されて、家庭の教師が味や見栄えを採点するのがあったが、俺の料理は百点満点を貰い、成績にして早くも上位に立った。俺は百点満点を取る以前にも、中学生の頃。とある悪魔から星五つ星を貰い、それで報道されて、『魔界に人間の存在?!人間が作る料理の絶品さ!』と広告に載って、それから人間の俺は魔界で有名になった。

「ふざけるな。単純にお前ら悪魔が作る飯が不味いだけだ。」

「皮肉なことをお。」


バルバトスは俺が作ったハンバーグの欠片を口の中に居れ、噛みしめる。すると満面の笑みを思い浮かべ、

「んんうああああああい……。」


幸福のひと時を味わっている。

「ふん……。」


俺は別に嬉しくはない。単純に俺が満足するまで調理し、満足に達するまで味を調理を変えていくだけだ。俺さえよければそれでいい。本来なら悪魔に喰わせてやる飯などない。

「……じゃあね、こういうのはどうかな。」


突然とバルバトスが俺になにかを問いかけてきた。

「私チアガール部だけどね、自分はナイスバディしているし胸もそこそこデカいつもりなんだけど、それで私を犯そうとしてくる男子がいるの。」


自分でバストだのバディだの高く評価しているようだ。悪魔で自意識高い女あるあるだな。この娘の第一印象は清楚系だったが、よくよく接すると若干ギャルっぽさがにじみ出ている感じだ。

「そらま大変なこって。」

「で、その中でも一番厄介なのがアモン先輩なのよ。」

「アモン……どっかで聞いたことある名だな。」

「ほら、死月の最初辺りに、アモン先輩がレハに絡んできたじゃん。あのときの怖い先輩よ。」


死月上旬に絡まれたなそういえば。そうかアモンというのか。俺が挑発し挙句このレメゲトンで無力化を図ろうとしたがウァサゴによって止め、生き延びたあの獅子男の。

「アモン先輩の性欲本当に高いの……。もう私のことを彼女みたいに接してくるし、常に勃起しているし、毎日学校で会う約束している。いや、させられているんだけど、もうそのたびに私犯されそうで……。」

「そうか。まあ男子だししょうがないんじゃないか?」

「ちょっと!他人事みたいに聞かないでよお!」

「俺にはどうでもいい話だ。お前が犯されようがなんだろうが、だからどうしたって話だ。」


悪いが俺はバルバトスの彼氏でもなければ愛しているわけでもない。また、俺は正義のヒーローですらない。悪魔が困っていようが俺は決して助けない。

「相談なら生徒会にしてくれ。」

「もう既にしてるよ……でもシトリー先輩は弱気だし、ウァサゴ先輩は気が満ちて怖いし……。」

「気が満ちる……?」

「なんていうか、その、闘志?のオーラが凄くて近寄れないの……そういえば体育祭で黒獄の天秤に参加するって聞いていたから、それが関係しているのかなあ?」


なるほど。黒獄の天秤からまだ一ヶ月があるが、戦闘の準備はもうできているようだな。それほど俺を生徒会に入会させたいのかが伺える。

「まあ、そういうわけだから生徒会は相談した。結果誰も頼りにさせてくれなかった。教師はもう論外だし、誰も私を助けてくれないの……。と思ったら、ここを出ていけと言ってくる人間がいるから、条件を出した次第ってわけ。」

「そのアモンとやらをどうにかすれば、この城にはもう二度と来ないってわけだな。」


しつこく接してくるアモンを注意するなり殺すなりしてバルバトスから離せば、バルバトスはこの城の飯のためだけに来ることはない、という条案か。

「うん!私賭け事苦手だけど、誓う。賭けてもいいよってぐらい。」

「どうだかな。悪魔の誓いほど信用していいのやら。」

ウァサゴなりバルバトスなり、悪魔の言葉や誓い、意思は信用ならない。いつだって俺を騙す気でいるのは間違いない。きっとアモンをバルバトスから離しても、バルバトスはその誓いを忘れて我が城の飯食いに行くだろう。

「でね……あまりこんなこと言いたくなかったんだけど……実は私、アモンに恫喝されていて、あなたを殺すよう命令されたのよ。」

「なに?」

バルバトスは右手のフォークを置いて、ナイフの柄を握りしめて立ち上がった。


「そのナイフで俺を殺す気か?」

「……わたしには無理。だから、お願い。殺されたことにされてほしいのっ!」

「殺されたこと?」

「私があなたを殺さないと……わたし、暴力受けちゃいそうなのアモンに……それが……こわくて……。」


バルバトスの体が微動に揺れ、怯えている。ナイフを床に落とし、己の身を抱く。

「お願い、明日から学校に来ないで!そうしたら私は殺されずに済む。」

バルバトスは真剣なまなざしで俺を見つめてくる。

「おいおい、矛盾してないかさっきの条件と。お前はアモンをどうにかしてほしいと言った。なのに学校に来ないでほしいとまで言う。それはどういうことだ。」


先ほどはアモンをバルバトスから離すよう条件を出されたが、学校に来ないでほしいという。いくらなんでもわがまま言い過ぎだ。

「学校には来ないでほしい。だけどアモンを殺してほしいってのもある。そうじゃないと私が殺されそうなの!」

「ふざけるな!俺は卒業資格を目当てにあの学校に通学しているんだ。なのに貴様のわがままで通学を辞めるだなんて強欲すぎた。それにアモンを殺すのは別に構わないが、学校に行かないと暗殺は無理だろう。」

「学校の外で殺してほしい。そうしたらレハはいつも通り通学していい。」

バルバトスは俺に近寄り、紙を差し出した。その紙にはヴェルザレム死丁目死番十号と住所が書かれてある。

「アモンが住んでいるアジトよ。アモンは暴力団の頭なの。暴力団のアジトで住んでいる。」


二年生で暴力団の頭なのか。それは純粋に凄いなと思う。所詮暴力団の頭という小さな組織のトップだが。

「アモンを暗殺してほしい。そうしたらレハは通学できるの。お願い、私のお願いを聞いて!じゃないと私は明日にも犯されて殺されるの!」


バルバトスが頭を下げて、強く、強くお願い申し込んだ。

「……うんん……」

正直悩ましいところではある。この俺がバルバトスの悩みを叶えてあげるか、無視するか。叶えてあげるという点でのメリットは、俺までもが再びアモンから恫喝を受けずに済むということ。いくら恫喝されようが俺は通学は決して辞めないつもりだが精神的に来るものはある。デメリットは特になし。この魔界では殺しても罪には問われない。対して無視するという点は、この人間の俺が悪魔の頼みごとを聞いていいのか、という疑心だ。俺はこれまで通り孤独に生き続けるつもりだ。悪魔の言うことも信じなかった孤高の俺が、悪魔の頼みごとを聞いて、俺自身の誇りに傷がつかないかどうか。改めて問う。俺はどうしたい……?

 考え込む俺を期待と不安げなの目で見つめてくるバルバトス。そして答えは導きだされた。

「……悪いが、俺は貴様の未来などどうでもいい。俺は俺のために生きる。だから出ていけ。」


バルバトスがどんな未来に行こうが俺の知ったことではないのは事実だ。俺はサボらず学校に行く。

「……そう……。あなたは人間。魔界で生きるのは大変だって知っているんだもんね。」


「魔界で生きるのが嫌なら、死ぬしかない。或いは俺のように卒業資格を目指して異世界へ渡るか……まっ、悪魔という種族の時点でどの世界で生きようが絶対に化け物扱いされるだろうがな。」

魔界は弱者には悪い待遇が、強者には良い待遇が与えられる。弱き者に待っているのは地獄と死。まさに今日、たかだか体育祭の練習で遅いランナーは魔物の餌食となった。殺されるのが当たり前の世界。真の地獄を乗り越えた者のみが真の悪魔、まさに強者か。皮肉にもあのフルフル先生の言うとおりだな。シトリーもそうだが弱者には未来などない。そういう世界に生まれ育った俺やバルバトスの己の運命を恨むしかない。

「いいえ。それは違いますよレハさん。魔界で生きるのが嫌なら、魔界を変えればいいのです。」


そのとき、バルバトスとは違う女性の声がどこからかこの部屋から響いた。

「誰だ!」


立ち上がり、振り向いても誰もいない。右にふり向くと、木製の扉の前の空間の一部が歪み、扉へ変形した。空間の扉が開かれ、そこに現れたのは、噂をすればシトリーだった。

「シトリー……。なぜお前がここに。」


流石の俺もシトリーの出現に内心仰天を隠せなかった。シトリーの右手には青い魔術書が握られていた。

「私は空間を操る魔術師。なに、単純に裏空間からあなたたちを尾行し、この城にたどり着いただけです。勝手に尾行してすみません。」

「裏空間?」

「空間には表と裏があります。表が生体が、裏は非生体が住む空間。ですが空間は表裏一体なのです。だから裏の空間内でも表に住むあなたたちの姿は確認できるのです。」

「えええっと、いまいちよく分からないですシトリー先輩……。」

「お前には理解出来なくていい。」

「ええええっ!?それ何気にひどくない?」

「ようは、俺らが住む表の空間と非生体が住む裏の空間、お前はその二つの空間を行き来できる魔法使いというわけだな。こればっかりは非常にしてやられたというわけだ。」


空間を形にするだけでなく、表裏一体の空間を自在に行き来することができる魔術師。なるほど、シトリーが持つ青い魔術書は空間魔法のもののようだな。空間を操るとは、それは火や水などの理魔法の上位互換に位置する。それほど詠むのが難しい魔法なんだ。魔術の素質があるにも関わらず弱気なのは非常にもったいない。

「で、なんで尾行していたのだ?」


裏空間で尾行されては表空間でシトリーの気配を察知するのは不可能だ。最初でシトリーに出会った頃も俺はシトリーの魔法に一瞬だけ驚かされた。流石は素質がある者だ。もしくは俺以上の素質を隠し持っているかもしれない。

「レハさんに頼み事があって……。」

「また頼み事か。」


バルバトスのアモン暗殺に続いてシトリーからの依頼。なぜ人間の俺に悪魔の依頼が集まるのだ。

「話は聞いてましたが、私もそれに似た依頼です。」


どうやら俺とバルバトスの話は裏空間では筒抜けのようだ。バルバトスが恥ずかしそうに表情を隠している。

「学校に来ないでってことか?」

「いえ、その……黒獄の天秤を欠場してほしいっていうことです。」

「なに?」

「え、黒獄の天秤?えっ、ええええええレハ天秤に参加するのおおおお?!」


バルバトスが隠した表情を表に出し、大いに驚く。喧しい。

「ああそうだ。で、なんで欠場してほしいんだ?」

「……正直言って、レハさん。ウァサゴ先輩はかなり強いです。」

「俺が負けるから欠場しろ、とでも言いたいのか?」

「いえ、そういうわけではなくて……ウァサゴ先輩はレハさんとの決闘を望んでいないのです。」

「望んでいない?……それはシトリー。アンタの気のせいだ。」

「へっ?」

「さっき俺は、バルバトスからウァサゴは闘志の気で満ちている、と聞いた。それは俺を仲間にするために戦闘モードに入っているというわけだ。」

「た、確かにここ最近のウァサゴ先輩はやる気に満ちています。近寄るだけでも怖いというか……。でも、裏では私にだけ涙を見せる乙女な部分があるんです実は。それはつまり、やはりレハさんとの闘争は望んでいないという証拠の現れではないでしょうか。」

「ふうん。で?」

「でって、なにがでなんです?」

「いやだから、それはあくまでシトリーの憶測だろう。ウァサゴ本人はどうなんだ。俺を仲間にするために俺をぶちのめすのか、今更怖気づいて戦うのを辞めるのか。俺はそのことについて『で?』って返したんだ。」


今更乙女チックに裏では涙を流そうが、それはあくまでシトリーが、ウァサゴは闘争を望んでいないと勝手に思い込んでいるだけの憶測。もしかしたらウァサゴはたまたま目に砂が入ってそれで涙を流しただけなのかもしれないだというのに、勝手に憶測を立てて勝手に行動しているにすぎない。それに闘志の気が満ちているのなら、なぜ今更俺と戦いたくないという涙を流すのか、矛盾している。

「わ、分かりません……でも、私には分かるんです。ウァサゴ先輩はやはりあなたと戦いたくないということを!」

「じゃあなぜウァサゴは涙を流した。たまたまあくびしただけかもしれないんだぞ?」

「答えは簡単です。戦いたくない……でも戦わざるを得ないからでしょう。」


即答だ。俺はそのことについて少し合間を待ってシトリーの弁論を聞いた。

「私はウァサゴ先輩の側近になって何年もたちます。だから分かるんです。ウァサゴ先輩の考え方が。ウァサゴ先輩の心はあなたと戦いを望んでいないのです。でもあなたが拒否するから、ウァサゴ先輩は最終手段として決闘に賭けに出た。だから本心では戦いを望んでいないのに、闘志の気が満ちているんです。」

「納得のいく精神論だ。何一つ欠けていない。」


確かにウァサゴから黒獄の天秤を持ちかけた。それは俺を仲間にする最後の手段だったというわけか。その時のウァサゴの必死さはよく伝わった。

「だが、俺はそれでもウァサゴを殺すぞ。ウァサゴを殺して、フライングチケットを手に入れる。」

俺は椅子に座り、食事を再開させる。

「「へっ、フライングチケット?」」


二人して言葉が重なった。

「何の話です?フライングチケットなんて私聞いていないですよ。」

「そもそもフライングチケットって、卒業を早める都市伝説のチケットよね?」

「ああそうだ。ウァサゴの胃袋の中に実在している。」

「「ええええええええええええええええええええええっ!!?」」


二人して大仰天をぶちかます。

「な、なななんでウァサゴ先輩の胃袋の中にあるんです?」

「シトリー、お前話聞いていないのか。黒獄の天秤でウァサゴが負ければ、俺は体を裂いてフライングチケットを手に入れるって約束をしたんだ。契約の箱付きでな。」

「なななななな、なんですってええええええええええええええええ?!そ、そうなったらウァサゴ先輩死んじゃうじゃないですかあ!」

「ああ、だから殺す。俺が卒業するために。」


するとシトリーは俺の胸倉を掴み、掌で俺の左を頬を叩いた。思わずハンバーグの欠片が口から吐き出され、床に落ちる。

「ウァ、ウァサゴ先輩はあなたのことを非常に想っているんですよ。それを仇で返すおつもりですかっ!」


シトリーが俺に対しかなり強気で怒鳴ってきた。あの弱気なシトリーが本当に怒っているのが伝わる。

「言ったろう。俺は悪魔を信用ならない、と。俺を騙すつもりでいる可能性がある。」


対して俺は微笑でシトリーを睨み付け、シトリーは胸倉を離す。

「ウァサゴ先輩は悪魔ではありません。善魔です!」

「心は善魔だろうが、体は悪魔。いや、善魔という猫の皮を被った悪魔かもしれないんだぞ。お前も。そいつを信用する人間はいない。」

「あれだけ説得しているのに……まだ信用しないだなんて……!」

「まさか、俺の性根が腐っていると言いたいのか。すくなくとも俺はお前ら悪魔には言われたくない。」


俺は悪魔を決して信用しない。もう何度言った事だろうか。飽きるほど言ったつもりなのに逆に俺を信用しようとするシトリーの勘違いさに俺は驚かされる。

 呆れたかのようにシトリーはそっぽ振り向き、空間の扉のドアノブに手を置いた。そしてまた俺へ振り向き、睨み付けてくる。

「ウァサゴ先輩は本当にお強いですからね。暴力団を何個ぶっ潰したことやら……」

「脅しか?」

「はい。いくらレハさんがレメゲトンを持とうが、ウァサゴ先輩の前では無力です。ではさようなら。」


空間の扉の先へ入り、閉ざした。閉じると同時に空間の扉は空間に溶け込み、扉は消えた。

「……え?レ、レレレレ、レメゲトン?」


バルバトスが魔術書を見て指を差しながら、レメゲトンという名に驚く。

「……お前も帰れ。ではければ追い出す。」


殺気を放ち、バルバトスを睨み付ける。

「は、はい!その、ごちそうさまでしたああっ!」


殺気に飲み込まれたバルバトスは急いでバックを持ち、走ってこの部屋から逃げていった。

 ウァサゴの能力は、瞬間移動。だが俺はまだその能力の一部しか見ていない。まだ謎があるはずだ。その謎を解かない限り、どうやら勝機はないようだ。逆に、ウァサゴはこの魔術書をレメゲトンだと見破ったが魔法の一部しか知らないはずだ。互いが能力・魔法の一部しか見ていないこの駆け引きが勝負になる。

「……今から鍛錬にでも行くかな。未来を勝ち取るために。」

椅子から立ち上がり、レメゲトンを持ってこの部屋を出た。体術や剣術を少し見直し、そして魔術の素質を高めなくてはな。



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