七十四話 決戦
実習が3月29日から始まり、終わりが4月16日になります。実習が始まるまでに一話が書き終えましたので、一話のみ投稿となります。
魔列車との戦い第二ラウンドになります。どうぞ
列車から線路へ突き落とされ、魔列車に線路の上で壮絶に追いかけられる。見事に幽霊たちの策にひっかかってしまったわけだ。挙句、アンリデウスは肉の巨峰の重い揺れで走りにくく、俺の魔力も減ってきている。これが長期戦になってしまうと確実に魔列車に轢き殺されてしまう。エチオヴィア王国はおろか港町エイラドすら行けない。妹メナリクも救えないわけだ。だからこそ負けるわけにはいかない。
「逃げてはラチがあかないわね」
魔列車に轢かれないように逃げる俺たちだが、この状況を打開するのにピッタリな発言をウァサゴが口から零した。
「ああ、どうやらそのようだな」
この列車旅は三日間に及ぶエイラド直進のノンストップ。今は二日目。まだまだエイラドには着かない。エイラドに着くまで一日中逃げるというのは流石に不可能だ。魔力も光速移動する量は残っていない。となれば、逃走しながらあの魔列車の破壊をしないと助からないというわけだ。
「……ええいままよ! 私も走るぐらいなら戦うわ!」
男から惹かれる肉の巨峰を揺らしながら走って、いずれは魔列車に轢かれる運命と、腹をくくったわけだ。アンリデウスも戦う意思を示してくれた。
「じゃあ、まずは殴る!」
ウァサゴは走りながら背後の魔列車に向かって跳び、右肘を引いた。ウァサゴの間合いは魔列車にすぐに入り、肘を伸ばして拳を放った。
「おらぁ!」
ウァサゴの拳は頭蓋骨の鉄仮面に真正面に直撃。ただの強打で終わらせることはなく、右拳が分身するほど超高速な連続突きで攻撃している。時速移動の能力による素早さ操作で、右拳でたった数秒に及ぶ数万の強連打をしている。
「おららららららららららららら!」
最後はドロップキックし、宙返りして線路の上に着地。見事華麗なとんぼ返りをしてみせたわけだが、鉄仮面が数か所窪んだぐらいで魔列車の進行は緩くなることはなかった。そのまま相変わらずの猛スピードで走って、ウァサゴも着地後すぐに走った。
「かなり頑丈ね……」
魔列車は頭蓋骨の口を開け、ウァサゴに向けて車輪を放ち仕返し。車輪はウァサゴの背に直撃。
「いでっ!」
背後を車輪で突かれたのにも掛からわず、怯まず走っている。流石は屈強な肉体というわけだ。
光の剣を持続するたびに消費していく魔力。これを一秒でも振るわないのはもったいない。魔力の無駄遣いだ。俺も攻撃に転じる。
ここで足を止め、身体を魔列車に振り向く。右肘を引き、光の剣先を魔列車に向ける。左手を軽く光の剣身に添えて、狙いを定める。狙いは鉄仮面の眉間に突き刺さった柱槍。光の剣で柱槍ごと突き、急所を刺す。地を蹴って跳び出し、狙いの的に目掛けて肘を伸ばす。光の剣先は柱槍の柄尻を刺し、剣身は真っ二つに裂いていく。そのまま刺し貫き、眉間の奥の機械肌を刺した。手応え有りだ。
これが生物相手であれば絶対的致命傷、いや、即死だ。しかし相手は機械の乗り物。魔列車はビクともせず進行を止めない。
「ちっ、全然効かないのか」
傷口から光の剣を抜き、鉄仮面にキックを入れ身を撥ね返し、線路に着地し、そのまま走る。
「やはり、俺と機械は相性が悪すぎるようだな……」
「そ、そそそ、そんなに落ち込まないで! きっと、どうにか、なるよ!」
しどろもどろに励まされても嬉しくない。どういうフォローの気持ちで励ましてくれたんだウァサゴは。
それはそうと、魔列車の煙突から突如と、くすんだ液体の大粒が真上に放たれた。
「な、なに。こんどは何を撃ったの」
くすんだ液体を上空に撃ったが、何も変化が起きない。と、思った直後、上空から一滴の雨粒が鼻頭に落ちた。
「む、雨……?」
雨粒を触覚で感じた途端、すぐに雨がザザザと降ってきた。さっきまで雨が降る様子はなかったというのに、まさかの急なドシャ降り。と思いきや、そのドシャ降りはものの数秒で落ち着き、雨は止んだ。
「えっ、酸っぱっ!」
先程の雨に酸性が含まれていたらしく、そのせいで酸っぱい臭いが充満している。鋭い酸っぱさで嗅覚から側頭葉に電撃が走るようだ。
「ゴホッゴホッ……どうやら煙突から発射したのは、酸性雨を降らすものだったらしいな」
くすんだ色をしていたし、上空に向けて発射したものであったことから、この酸性雨は自然現象ではなく、魔列車の仕業であるようだ。ものの数秒で止んだのは、相手の嗅覚を刺激させ戦闘能力を失わせるのに充分だからだろうか。
「クゥゥゥゥ……酸っぱいの苦手なのにヤダ……!」
アンリデウスは酸っぱいのが苦手らしく、酸性雨に濡れて失望し、戦闘能力が著しく低下している。今度アンリデウスに肉体的に襲われたとき、咄嗟にレモンを取って口にブチ入れてやる策を思いついてしまったが、今はそれどころではない。
「清潔な天使に得体のしれない液体をぶっかけるなんて、卑猥ねこの魔列車は!」
それを言うならレモン汁も卑猥な液体になってしまうが、まあツッコミはどうでもいい。失望から怒りに気持ちの切り替えが早いアンリデウスは、左手に手裏ギロチンを五枚並べ、魔列車に向けて投げた。五枚の手裏ギロチンはまっすぐ飛ばされ、鉄仮面に突き刺さった。
一方、ウァサゴは右掌を半上げて、己の手を見詰めていた。その手を握りしめた途端、指の隙間から薄い光が飛び出た。俺はその一部始終を目撃してしまった。
「ウァ、ウァサゴ、今の光はいったい……!」
ウァサゴが光を扱うところは見たことがないが、俺はウァサゴの体内で光を見たことがある。
ウァサゴが無数のバーゲスト体で巨大な黒犬になったとき、心臓部から光が照らしていたのだ。それは善魔としての覚悟の現れであり、光が出てきているというのは、善魔の心得を完全に理解する予兆だ。悪魔でありながら善魔の覚悟を持つ、グラシャや暗殺部部長アンドロマリウスがそうだ。まさか、体内に宿していた光が、遂に体外へ出せるようになったというのか。
「……いや、わかんないの。でも、少しずつ、アンドロ兄のように光が出せるようになってきた」
「善魔の覚悟が、いよいよ実を結ぶということか?」
「いや、それはまだない。でも、ちょっとこの光の力で、ぶつけてみるわ……!」
自信の塊であるウァサゴが珍しく自信なさげに答えるあたり、光の力は完全にマスターしているわけではなさそうだ。だが、予兆がきていたのはウァサゴが既に知っていたようだ。
「いい、見ててよ……!」
ウァサゴは走りながら、光を掴んだ右拳の付け根に左手を添えて、両腕の緊張を緩めて肘を軽く曲げる。撃つ体勢に入ったところで、後ろに振り向き、軽く跳んだ。両腕を伸ばし、同時に右拳を開き、
「ライトキャノン!」
ヴァプラがお気に召しなさそうな安直な技名を叫びながら、掌から光の太いビームを解き放った。光のビームは鉄仮面に直撃し、更にビームの勢いで魔列車がグイグイと押された。
「これが、善魔の力……! 悪魔とはとても思えない……!」
天界出身の死神天使もびっくりな技だ。それも、自信が無い割には、相当な光の量を使った魔力砲であった。ウァサゴが善魔として成長したことで獲得できた技だ。
掌からビームは止まり、ウァサゴは着地後すぐ前方に走った。
「……これで少しは、距離は、稼げたわね」
魔列車の猛走を押し留めるほどのライトキャノンの反動か、ウァサゴがやや疲れた様子で表情が萎んでいる。だが、走る姿勢は崩れず、走る体力もまだありそうだ。
「助かったぞウァサゴ」
「や、やるじゃない」
ウァサゴを見直したか、アンリデウスがウァサゴを上から称えた。だが、魔列車の勢いはまだ衰えたわけではない。まだまだ突っ走ってくる。
ここで魔列車は汽笛をボオオオオっと鳴らした。すると窓から幽霊たちが現れ、逃げ走る俺たちを追いかけてきた。
「また幽霊たちか! キリがないわね」
倒しても倒しても現れてくる幽霊たちを相手にしていた二人からすれば、もう飽き飽きだろう。しかも走りを止めないで幽霊と戦うというのは至難の業だ。ここは俺の魔法で追い払うしかない。
「二人はそのまま走れ! 俺の魔法で打ち抜く」
走りながら左手に持つレメゲトンを持ち、第三部を開く。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」
今度こそ詠唱は成功し、レメゲトンから十枚の紙が飛び出していく。紙一枚一枚は自動的にドクロ状に折りたたまれていき、紙ドクロ軍団を形成。紙ドクロ軍団は幽霊たちに向かって口から黒いレーザーを放った。レーザーは幽霊たちを貫き、消滅に成功した。
「ちょっとレハ、最初からそれしてよ。私の今までの努力はいったいなんだったのよ」
数の暴力には数の暴力で制することができる第三部の魔法で、ウァサゴはそれを最初から倒してほしかったと我が儘なことを言ってきた。無茶言うな。
「詠唱しようにもすでに囲まれていたからできなかったんだ。だから頼んだんだ」
詠めば有利に傾くことが容易い魔法である分、詠む間は隙だらけ。だから詠めず不利に傾く。そればかりは仲間のサポートが大事なのだ俺にとっては。
「で、この魔法にはレーザーを放つ以外にもこんなことができるんだ」
幽霊たちを消した紙ドクロ軍団は、レメゲトンに帰ることはせず、折りたたまれた頭蓋骨は、折り目に戻り、ペラペラの紙になった。そのまま鉄仮面の赤い眼光に向かって突撃し、眼に紙が覆った。
「これで相手の視界を奪った」
これで魔列車はアームクレーンや車輪攻撃をしてきても、狙いが定まらなければ当たることは無い。
「そういう使い道もあったのね、レメゲトンって」
ここで魔列車が左右からアームクレーンを出してきた。ここでアームクレーンを出したところで、視界が塞がれては攻撃は当たらない。ましてや、レメゲトンの紙はただの紙とは違う。キャッチャーの爪で裂いたところですぐに再生する。だが、キャッチャーの掌部分が縦に開き、砲口が出た。その砲口から火炎が放射し、鉄仮面に向けて視界を防ぐ紙を燃やした。
「え、自分で自分を燃やした!」
視界を塞ぐ紙は燃え、赤い眼光が再び俺たちに向けられる。火炎を止め、砲口をキャッチャー内にしまい、閉じられた。
「列車を追い込める悪趣味な列車。当然武器もたくさん搭載しているというわけね」
ここで魔列車全体が薄青いオーラに包まれた。そのとき、魔列車は走りながら車輪が線路から離れ、車体全体が浮き始めた。
「なな、魔列車が浮いた……!?」
薄青いオーラを纏った瞬間から浮いたのだ。何かしらの能力や魔法によって浮いたと思われる。人を運ぶため地を走る列車が浮いては、それは列車の形の意味が失せるような気もしないが、とにかく魔列車は浮き、先頭車から上空に向かって飛んで行った。
「なぜか空に飛んで行くわ」
魔列車が飛んで行く予想外な行動だが、俺たちは必死こいて逃げ走りまくる必要がなくなったわけだ。助かりにも俺たちは脚を止めた。最終尾も続けて線路から距離を離し、遂には魔列車は曇天の中へ姿を入れた。
「ま、まさか逃げたとか?」
「分からない……だが、なんとか助かったな」
魔列車の行動も不可解だが、それはともかく、もはや立つことさえ許されないほどの脚の疲労。凄まじい筋肉痛で今にも線路に尻を下ろしたいくらいだ。
「ほ、ほんとよ……」
アンリデウスはすぐに線路に座り、はしたなく脚を広げて開脚する。重たくデカいものを二つ、胸部からぶら下げて走っているのだから、肩の筋肉も短時間で一生分の疲労を負ったことだろう。筋肉馬鹿のウァサゴですら、腰を曲げて両手を両膝に付けて息を切らしている。汗もたらたらと流している。
「と、とにかく、今は休憩を……」
俺も膝を下ろし、安楽な姿勢で荒い息を整える。なんとなく暗い空を見上げた途端、曇天から赤い眼光が濃く見え隠れしていた。
一安心した束の間、上空の曇天から魔列車の先頭車が突き出てきた。
「お、おい……上から……魔列車が……」
すぐ二人にその危険性を伝えると、ウァサゴとアンリデウスは、肝を冷やしながら上空を見た。
「か、帰った、わけじゃないらしいね……」
「う、うそ……もう私、走れないわ……」
頭蓋骨の鉄仮面から出ている赤い眼光は、地上の線路を、いや、休憩して脚を休ませている俺たちを睨んでいた。
「お、おい……逃げるぞ……!」
慌てて俺たちは立ち上がり、再び前方へ逃げ走る。疲労しきった脚に更に負担をかけ、一回一回懸命に線路の上を蹴り走る。俺は走りながら上空の魔列車を様子見して伺う。
魔列車は赤い眼光で俺たちを狙い、口を開けた。すると青いエネルギーの塵が口腔内に集結し、球体になった。再び青いエネルギーの力で攻撃仕掛けてくる気だ。だから空へ飛び、真上から叩きつける作戦で来たようだ。決して俺たちを逃がしてくれるわけではなかった。
「気を付けろ、魔列車は青いエネルギーで上から攻撃してくるぞ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
伝えると、俺たちは今の走行の二倍で、限界を突き破って更に速度を上げて走った。攻撃の危険性が更に俺たちを脅し、命を守るための逃走能力を底上げする。
最後に詠唱したのが、紙ドクロを自動操作する第三部『アルス・パウリナ』だ。これなら詠唱せずとも紙ドクロ軍団を放つことができる。レメゲトンから紙を満遍なく落とし、ペラペラの紙が紙ドクロに変形させる。紙ドクロの軍団を形成させ、上空の魔列車へ突撃させる。あの青色のエネルギー体に刺激を加えると暴発し、魔列車の破壊に役に立てる。レーザーを放ち、暴発させる作戦でいく。
しかし、魔列車の窓から幽霊たちがゾロゾロと現れ、紙ドクロ軍団に真正面から突撃してきた。攻撃対象を数の暴力で防ぎ、魔列車のチャージの時間を稼ぎに来たか。紙ドクロは飛びながら迎える幽霊たちをレーザーで打ち貫き、幽霊はレーザーを避けて暗黒弾で紙ドクロを潰し、上空は俺の魔法と幽霊の戦争が突発した。
本来の攻撃対象である口の中に、レーザーを打ち込むだけで阻止は可能だ。だが、幽霊たちも頑張って阻止し、なかなかレーザーをぶち込む暇ができない。しかし紙ドクロのレーザー攻撃が当たらぬとも、幽霊たちの交戦を利用して、赤い眼光は今、地上の俺たちを把握できなくなっている。逃げて距離を離すのなら今のうちだ。
上空の戦争から、紙ドクロの視野から俺の脳内へ中継している。魔列車の口腔内のエネルギー体は、あっという間に溢れんばかりに大きくなった。もう今にも口からエネルギーを発射しそうだ。いやもう、すぐにでも発射される。
「二人とも、今にもエネルギーが発射されるぞ。今の全速力を貫いて、もっと走ろぉ!」
一段階の限界を貫いた全速力程度では、魔列車のエネルギー攻撃は命中は免れるにせよ、爆風でショックを受ける。今すぐにでも二段階の限界を貫かれば、ショックは避けられない。
「あ、当たり前よおおお!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
極度の緊張感と危険性を背負って自分を追い込み、更に空気を貫き走るが、残念ながら俺たちの全速力は向上できなかった。残り少ない体力と身体の疲労がのしかかり、二段階の限界の壁は貫くことができなかった。
そして中継映像では、たった今、魔列車の口の中から青いビームが発射された。その瞬間に中継は一方的に途切れてしまった。青いビームが紙ドクロ軍団を一掃したのだ。二三秒後、幸い直撃が逸れたが、背後から三百センチの地上に激突。その場の地上や木々、線路を砕いて大爆破。まさに紙一重の回避だった。だが、強烈な爆風が背後から襲い掛かり、俺たちは激しく突き飛ばされた。
「ぐふぁ……!」
吐血しながら宙を舞い、重力に引っ張られ線路の上に叩きつけられる。それでも急いで立ち上がり、周囲を確認。ウァサゴは腕や脚を震わせながら起き上がるが、一方でアンリデウスはうつ伏せで倒れ、起き上がる様子がない。
「あ、アンリデウス……!」
アンリデウスの元に走って寄り、顔の側でしゃがむ。アンリデウスの身体を返して仰向けにし、表情を観察すると、口呼吸は荒く吐血し、瞳には光がない。
「おい、しっかりしろ!」
アンリデウスに強く声をかけるも、その間には魔列車は上空から急下降し、線路に着地し、相変わらずの速度で突進仕掛けてくる。
「もう、私は……走れない……」
微かに声を絞った結果、失望に帯びた返事をした。
どうやらアンリデウスはさっきの爆風で、心身的に大打撃を受けたようだ。多く迫る幽霊たちを次々と断ち、重く大きい乳を揺らしながら走りまくったのだ。体力はとうに限界に達し、ダメ押しの爆風が追い打ちとなり、酷使した身体面、絶望してもなお抗い続けた精神面には決定打だ。
「諦めて、女神王が許すと思うか!」
「……!」
カイトロワ・アンリデウス・サンソンは、善魔生徒会のメンバーであり、天界の使者。更には後の死神代表だ。魔界のこんな呪われた森で天使が死ねば、女神王や他の天使たちが悲しみ、多大な戦力も失ってしまう。裏歴史から表歴史へやってきたのだ。ここで死なせるわけにはいかない。
アンリデウスの身体を抱き上げ、腹部を肩に乗せる。ここで俺はアンリデウスの体重を察してしまった。
「うっ、重……」
「し、失礼ね……乳が重たいだけよ……」
体重の話題はレディーには失礼なのは勿論知っているが、いやはや、まるで肩に一トンの重りが押されているようだ。
そんなアンリデウスを抱え、線路を蹴りながら走る。一歩一歩が線路の上に強く重くのしかかり、脚や膝の負担が凄まじい。
「や、辞めてレハ! 負傷した私を抱えて走れるわけがないじゃない……!」
「黙れ!」
「……っ」
確かに、俺も体力は残り少ない。アンリデウスを抱えたまま魔列車から完走できるのは、あまりにも勝算はない。しかし、犠牲が付き物という悪魔の考えに乗っ取ったりすると、俺は悪魔と同類の生き物になってしまう。それだけは嫌なのだ。だからせめて、誇りある死に方を選ぶ。勿論、死ぬ気はさらさらない前提だ。最後まで抗うのみ。
一方でウァサゴは俺の前方に既に立っていた。ただ立っていただけではない。俺たちの逃走経路に背を向けて、身体の前を魔列車に向けていたのだ。
「ウァサゴ何をしている走れ!」
魔列車が迫っているというのに逃げないのは正気の沙汰だ。それどころか、ウァサゴは魔列車に向けて突撃し走った。
「ウァサゴ!?」
逃げ走る俺と突撃するウァサゴは高速ですれ違いつつ、ウァサゴは笑顔を俺に向けて、手をグットにした。
「ちょっくら、相撲しにくるね」
すれ違い様にウァサゴが正気の沙汰な発言を残し、走り去った。
いくら馬鹿力なウァサゴと言えども、魔列車のような機械による馬力とは比べ物にならない。あまりにも無謀過ぎる。しかし、様々な奇跡を筋肉で引き起こし、破壊を楽しんだウァサゴを、微かに信じしまい、そのまま俺は逃走経路を走った。
信じたとはいえやはり心配だ。とはいえ一瞬の刹那ですれ違ったのだ。もう今更足を止めることもウァサゴを止めることもできない。走りながらも顔を後ろに向け、魔列車に突撃するウァサゴを見守った。
ウァサゴの両腕の筋肉が分厚く膨らんだ。魔列車との間合いが重なった瞬間、両掌で魔列車の突撃を真正面から受けた。だが、走行を完全に受け止めることは流石にできず、走行速度が一ミリも軽減されないまま、機械仕掛けの馬力でウァサゴを押している。
「うううううぅ……!」
ウァサゴの受けをもろともしない魔列車の突撃で、ウァサゴの足底は過度な摩擦で豪快に削れていく。それでもウァサゴは魔列車の下敷きにはならず、腕の筋肉は次第に膨らみ続けていた。
「ウァ、ウァサゴ……!」
受けて耐えただけで奇跡だ。それでも腕の筋肉がまだ膨らむということは、ウァサゴは力をもっと増幅し、巻き返すほどの力を有している。だが、押して押されての状況では必ず一方が体力勝負で敗れる。ましてや、相手は列車だ。ウァサゴが不利な状況は依然と変わらない。
その一瞬、線路の凸凹がウァサゴの踵に直撃。
「あっ」
凸凹のせいで、ウァサゴの身体が後方に傾いてしまった。そのせいで両掌は魔列車から僅かに離れてしまい、ウァサゴの身体はそのまま魔列車の下に吸い込まれていくように下敷きとなった。
「ウァ、ウァサゴおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!!」
ウァサゴは決して、魔列車に力負けしたのではない。ただ、線路の設備管理不足が招いた敗北なのだ。たったそのようなしょぼい負け方で、俺たちの大将が、魔列車に轢かれてしまった。
「……ウァサゴが……死んだ……? そんなまさか……!」
目の当たりにした現実があまりにも受け入れられない。ウァサゴが轢かれた瞬間を確かに見てしまったが、何も見なかったことにして顔を前方に向ける。脳から轢かれた記憶のみを大至急で消去したいぐらいだ。
現実とはあまりにも理不尽だ。数々の奇跡を筋肉で壊してきた我らが大将が、たったの凸凹程度で足を引っかけ、魔列車の下敷き。魔列車が停まらぬ限りウァサゴの身体は永久に摩擦でズタボロ。俺たちの善魔生徒会長が、あんな不名誉な死に方で俺が納得できない。
「えっ、ウァサゴが……死んだ……の?」
抱えられ状況が視認できないアンリデウスは、俺の失意の言葉に反応し、再確認してきた。が、今の俺にはそれをハッキリと正しく答えられないほど、精神が動揺している。現実を受け入れられず、心の中で虚しく反発して、それが空回りと分かっていても。
「おい、私を勝手に殺すなぁぁぁぁ!!!」
背後から、ウァサゴの雄叫びがジョイント音に混じって聞こえる。ああ、幻聴に違いない。ウァサゴは不名誉な死に方であの世で旅だって行ったんだ。いや、魔列車に轢かれたのだ。旅へは乗客しているのだろう。
「……ウァサゴ、死んでないようだけど……?」
俺の肩にぶら下がるアンリデウスは、状況をうまく視認できず困惑しているが、幻聴でウァサゴの死去が違うことを俺の耳に告げる。
「……えっ、えええええええええええええええええ?!」
急いで顔を後ろに向け、魔列車を視認。しかしウァサゴの姿は線路からは確認できない。いったいどこから声を飛び出しているのだ。まさか、魔列車の中から声を出し、幽霊の仲間入りとなったのか。
「私は、轢かれていないっての! 轢かれて……ないっ、てぇぇ……のぉおおおおおおおお……!!」
その瞬間、鉄仮面をつけている一号車が斜め上に大きくめり上がった。ウァサゴが下から一号車を、力んだ声を出しながら持ち上げた。
「な、なにっ! なんという怪力無双だ……」
ウァサゴは魔列車に轢かれたのではなく、魔列車の下に潜り、部品か何かに掴まっていたようだ。そして自分の足で線路につき、下から一号車を持ち上げるとは、とんだ呆れた強引尽くしの馬鹿怪力だ。更には巨人のような分厚い脚を屈曲させ、突風が出るほど力強く伸展。魔列車を持ち上げながら高く高く跳んだ。ウァサゴと魔列車はそのまま曇天を貫いていった。
「ゆ、ゆめ……か……?」
鋼鉄装甲の列車を下から持ち上げる怪力はともかく、魔列車を持ち上げながら脚力で跳ぶ芸当は、まさに所業。並々ならぬ鍛錬程度で成しえる業ではない。あれぞ、筋肉と時の力で数々を破壊してきた善魔生徒会長だ。
呆れに呆れ、もはや走ることさえ忘れてしまい、足を止めてしまった。ウァサゴの所業を見守り、一撃と帰還を願った。
そして、曇天から魔列車が重力に引っ張られて落ちてきた。車体は天地逆転となって、ウァサゴは車体の底を持って一緒に落ちていく。あれほどの大きな列車を力任せに落してしまえば、魔列車は物理的に大打撃を受けるのは間違いない。あれぞ正真正銘の破壊だ。
「ブッ壊れろぉおおおおおおお!」
魔列車の天井が勢いよく線路上に大激突。その刹那、魔列車から大爆発が発生。再び爆風が俺たちを襲いかかってくる。飛ばされないよう、足底を地につけて耐える。数十秒に及ぶ爆風が止んだ後に、ウァサゴが俺の側に着地。魔列車に線路を叩きつける前に離れ、爆発には巻き込まれなかったか。
勝利を確信するに十分な一撃だったが、ウァサゴの表情には、勝利の笑みや破壊を楽しんだ爽快感がなく、暴れ足りないような不服そうに眉間に皺を寄せていた。まさかの予感を察し、尋ねてみた。
「……やったか?」
あの爆発で木端微塵になったはず。誰もがそう確信する一撃だった。あんな一撃を俺がまともに喰らえば即死だ。なぜトドメを刺したウァサゴは喜ばない。
「いや……てごたえがなかった……」
「……なに?」
天空から叩きつけ、あの爆発。だがウァサゴ自身は手応え無しと答えた。だから不服なのか。あれほどの会心の一撃と大爆発を引き起こしてもなお、未だに走ってくるというのか?
俺の心配とウァサゴの攻撃後の違和感は、最悪にも的中。黒灰色の煙から魔列車が現れ、相変わらず俺たちに突進歩行してきた。
「ど、どんだけ頑丈な列車なんだ……もう、この世のものとは思えない……」
魔界より更に質の悪い世界、霊界に存在する呪われた列車みたいだ。確実にターゲットを殺し、魂を乗らせ、霊界に連れ去る。そうなれば二度と元の世界へは帰れないことだろう。あれはもう、魔界に存在してはならない乗り物だ。
「と、とにかく、走るわよ」
「あ、ああ……」
執拗な走行と頑丈さに言葉が失いつつあった。だが、心身は絶望に塗れてはいない。体力はもう底が見えているが、まだ走れる。
俺とウァサゴも前方の逃走経路を走り、再び逃げる。
「ええいしかし、今までで壊せなかったのはこいつが初めてよ」
破壊が大好きなウァサゴにとっては、壊せなかったというのがプライドや戦意に大きく直結しただろう。俺も驚きしかない。
「ああ、もうまともに相手にしたら余計に体力を削るだけだそうだ。めげずに走るしかない」
俺の第一部『ゴエティア』にウァサゴの隕石拳、他の攻撃を加えてもなお耐える魔列車。残り少ない魔力や体力を考えてこれ以上の攻撃は繰り出せない。今はもう戦うことは避け、逃げるに越した方が生存率は高い。
「どうやら、そうね」
とはいえ、肉の巨峰が重たいアンリデウスを抱えて走るのは流石に負担が大きい。そして如何なる攻撃を耐え走行速度を変えない魔列車。しかもゴールの見えない血塗りの呪われた森。絶望的な状況は変わらない。背後に迫る魔列車から汽笛がボオオオオと鳴った。これだけでもプレッシャーは大きい。生存率はどう転んでも低い。
ここで突如として、俺たちの前方から突風が襲う。
「ううっ!」
向かい風とは運が悪い。向かい風に抗って走れば俺たちの走行速度が減ってしまう。一瞬でも体力を緩めれば、魔列車に轢かれかねない状況で向かい風は最悪の決定打だ。
「あっ!」
ウァサゴの耳介に掛けていたフェニックスの尾が外れ、突風に乗ってしまった。ウァサゴは走りながらも急いで腕を尾へ伸ばすが、手は届かず、魔列車へ飛んで行く。
「諦めろウァサゴ。今は逃げることだけを考えろ」
友情の証であるフェニックスの尾を無くすのは心悲しいが、命まで無くしてはフェニックスが永久に悲しむだけだ。
「ちっ、そうね……」
友情の証と自らの命、天秤に掛けるまでもない。ウァサゴは腕を戻し、風に乗り去るフェニックスの尾を見捨てた。
フェニックスの尾は風に吹かれるがままに、真正面から突撃してくる魔列車の鉄仮面に当たる。その瞬間。魔列車から雷が撃たれたようなショック音が響いた。
「な、なんだ!」
雷撃のようなショック音が突如と響き、状況を視認するため俺とウァサゴは顔を後ろに振り向く。すると、鉄仮面にフェニックスの尾が張り付いており、魔列車の車体がどんどん透けていった。
「え、え?」
「ええ?」
さっきまでの頑丈さがウソのように、車体が空間に溶け込んでいった。
実習が始まると、しばらく書けないので、4月16日以降までお休みします。では、頑張ってきます




