七十三話 魔列車
横に続く一筋の柔い光は、俺たちを照らし、森の暗闇も討ち払った。暗闇に隠す正体さえも。
「な、なななんで列車が迫ってるの……?」
一筋の光を放つその正体は、列車だった。しかも、頭蓋骨の形をした錆びた鉄仮面を被っている。そんな魔列車が、こちらの列車に迫ってきている。魔列車と列車の車間距離は、徐々に縮まる勢いだ。
「お、おいおいマズくねぇか……! 衝突事故になってしまうぞ!」
あの魔列車が列車に衝突してしまえば壊滅は避けられない。それほどこちらの列車との車間距離と縮めていく高速な危険運転だ。もう意図的にこちらの列車を壊しに進行している。列車が壊れてしまえば、俺たちはエチオヴィア王国に行けなくなってしまう。
「この妖圧……! まさかフェニが感じた怪しい風というのは、こいつのことか……!」
具体的に何が怪しいのか、感知したフェニックス自身も分からなかったが、今なら分かる。この魔列車の凄まじい恐ろしさはただの顔面や迫り方だけではない。ヒトの第六感は霊感も含まれるが、今俺の目の前にあるのが、不可思議な霊的現象そのもの。説明し難い妖圧や霊圧が、俺たちに与えている。フェニックスがおそらく感じ取った怪しい風とは、この魔列車の気配だったのだ。
「ヴァプラ!」
「ああ、任せてください!」
ウァサゴの命令に、ヴァプラは背に竜の翼を生やす。
「ちょっとあの運転士に注意してきますわ!」
フェニックスと同様、飛行能力を持つヴァプラが飛んで、直接魔列車の運転手に注意しにいく。だが意図的な煽り運転に対して注意喚起は成功するのだろうか。
「じゃ、行ってきやす!」
竜の翼を羽ばたかせ、錆びた鉄仮面の魔列車へ飛ぶ。列車の一号車には、運転手が乗り下りする扉があるはず。ヴァプラは頭蓋骨鉄仮面の横に飛び、扉に向かって果敢に突撃。
「ドラゴアタック!」
見事に扉を破壊し、そのまま魔列車一号車に突撃してくれた。あとはヴァプラが力づくで運転士を止めてくれるだけ。そう思ったその直後。
「うあああああああ!!! ……」
ホラーあるある『おわかりいただけただろうか……』シーンを彷彿とさせる断末魔が炸裂。その後はヴァプラの雄叫びが一回で終わり、次に鳴くことがなかった。
「……ヴァプラ……?」
「ヴァプラさんが帰って……こない?」
魔列車に突入した直後のヴァプラの異様な静寂さ。無くなった声や見せない姿から思うに、運転士の逆襲が疑い深い。
「まさか、突撃したまま拉致された?」
「ああそのようだな。フェニが帰ってこないのも、運転手の逆襲が原因かもしれないな」
「え、うそ」
「フェニはもしかして、ヴァプラみたいに魔列車に接近して、そこから捕らわれた可能性がある。だから連絡がつかないんだ、きっと」
フェニックスはきちんと報連相ができる役員だ。そんなフェニックスが報連相をしないのは、ヴァプラみたいに魔列車に拉致された可能性があるから。
「なるほどね……だったら尚更、この列車を止めないと!」
捕らわれた仲間を助け出さないといけない。アンリデウスは鞘に差す処刑執行用の剣を右手で抜いた。左手には小さな手裏ギロチンを出し、戦闘態勢に入る。
「ええ、こんなところで交通事故に遭いたくないわ」
己の拳同士衝突させ、ウァサゴも同じく戦闘態勢に。
「ああ、全くだ」
右手にレメゲトン、左手にダーインスレイヴを召喚させ、戦う態勢に入る。仲間を救うためにも、この列車を壊させぬためにも、この魔列車を相手にしなければならない。
俺たちの戦闘態勢に入ったのを視認したのか、魔列車の先頭に飾られている鉄仮面の目の部分から、機械的な赤い眼光が出た。眼光は俺たちを睨み付ける。更には汽笛を鳴らし、怒りを示したように煙突から白い煙と火種を噴霧した。列車に迫めてくる速度も上げ、貨車との車間距離は極めて近い。
「どうもご丁寧に殴ってあげるわ!」
ウァサゴは魔列車に向かって果敢に、貨車の床を蹴って走る。助走をつけたところで貨車から跳び、拳を引いて魔列車相手に距離を詰めていく。赤い眼光はしっかりと、攻めてくるウァサゴを睨み付けていた。
そのとき、頭蓋骨の口の部分が縦に開き、車輪を放った。
「なにっ」
ミサイルでもなければレーザーでもなく、まさかの車輪発射にウァサゴは驚き、瞬時にガードする態勢に入るも間に合わず、放たれた車輪がウァサゴに直撃。
「がふぁ」
車輪の勢いでウァサゴは後方に飛ばされ、貨車の床に背をついて倒れた。
「大丈夫かウァサゴ!」
俺とアンリデウスは倒れたウァサゴにすぐさま走り寄るが、寄るまでもなくウァサゴはすぐに立ち上がった。さすがのウァサゴも口から血が一滴溢してしまうほどの急所だったらしい。
「ちっくしょう。なんで車輪を発射するの。予想外すぎるわ」
車輪を発射する列車は後にも先にも二度と見ない異物だろう。ヒトが口から足を発射していると同義だ。
魔列車は更に口から車輪をショットガンのように散弾。更にマシンガンのように連続して放つ。飛び散る複数の車輪が辺り一面の視界を覆うほど、広範囲に俺たちを襲う。一つ一つの車輪の間に、避け潜り抜ける隙などない。
咄嗟にアンリデウスがウァサゴの前に立ち、負けじと複数の手裏ギロチンを連続して投げ散らす。手裏ギロチンは放たれる車輪を断ち、魔列車の攻撃をかわすことに成功。
「さあレハ! 今のうちに詠んで!」
アンリデウスが車輪攻撃を防いでくれている間に、俺はコンテナの後ろへ走る。コンテナの背後であれば車輪の射程外だ。
「よし、ここなら……」
レメゲトンを開き、第三部『アルス・パウリナ』の詠唱にとりかかる。レメゲトンから紙で作った紙ドクロを飛ばし、上空からレーザーを放射する作戦だ。
と、思った矢先。左から嫌な視線を感じた。非常に敵意のある視線であり、気配はとても近い。気配の正体を視認する前に、瞬時に左手に持つダーインスレイヴを左方に振るい、近い気配を斬った。斬撃は手応えあり。その後斬った正体を目で確認すると、驚かれるものを俺は斬ってしまった。
「え、幽霊……?」
肉身を全て白いローブで覆い隠し、顔はフードの濃い影で隠し、存在そのものが薄透明な魔物だった。いわゆる幽霊という異物を、俺は斬った。腹を裂かれた幽霊はそのまま消滅。一個体だけではなく、既に上空や貨車周りは同じ幽霊が複数、浮遊していた。
「なんで幽霊がこんなにいるんだ」
この血塗りの呪われた森に幽霊はいても何ら不自然ではないが、魔列車が襲ってきたタイミングで奇襲はどうもおかしい。
それはともかく、複数の幽霊は俺を上から囲い、見つめていた。顔を覆い尽くすほど深いフードを被り、顔に目が見えないが、凄まじい視線を感じる。それも敵意を示した眼差しだ。そんな上空から見下す幽霊たちが掌を俺に向けて、黒色のエネルギー弾を放ってきた。
「なに」
降り注ぐ暗黒の魔力の弾。全弾を防御できる第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』を今から詠唱しようにも間に合わない。咄嗟に左手に持つダーインスレイヴを上に向けて、剣先から俺の血を放ち、ドーム状に展開させ、凝縮させ硬める。幽霊達の暗黒弾は血のドームで防ぐことに成功したが、なにせ多くの幽霊達が暗黒弾を連発で放ってきている。血の鉄壁も保たない。かといって、詠唱をするには、群れの相手には圧倒的に不利。そのために血の鉄壁を乱用すれば、俺の血はあっという間に抜けていく。状況は最悪だ。
「……仕方ない。ここはあれを使うか」
魔法陣から天界の王子の冠を取り出す。この光の魔力であれば、光の剣を作り、幽霊達を退けることができる。光の剣を持続するにはその間魔力が抜けていくが、血よりは遥かにマシだ。
冠を被り、聖なる光が俺の体内や筋全体に走り、神聖な神々しさを身に宿す。
一旦レメゲトンを魔法陣に戻し、空いた右手に魔力で出来た光の剣を形成。血を吸う魔剣と邪を払う光の剣の二刀流スタイル。まずは光の剣を上に向かって、血のドームごと払い斬り、斬撃波を放つ。光の斬撃波は上空の幽霊たちをまとめて切断し一掃。幽霊たちは消滅していった。
防御に使った血の鉄壁にダーインスレイヴをつけ、血はダーインスレイヴの剣身に吸われて、俺の血管に戻っていく。
「魔列車と幽霊の襲撃、まさか……」
魔列車の襲撃と幽霊たちの遭遇、二つのポイントは偶然にして重なったものではないと考え、それを確かめるためにコンテナの上に跳び、魔列車を高い所から見た。そのまさかだった。魔列車の一つ一つ連なる車両の窓から、幽霊たちが続々と飛び出て行くのを視認した。
「やはりな。あの魔列車の乗客は幽霊さんだったか」
二つのポイントの関係性は判明した。血塗りの森を進行する魔列車とそれに乗り込んでいる幽霊たちは共同体だった。しかしそれが分かったところで戦闘の状況が変わるわけでもない。窓から幽霊たちの増援は収まらない。時が進むごとに貨車を囲む幽霊たちは多くなっていく。ウァサゴとアンリデウスは貨車の後方に立ち、大勢の幽霊たちに囲まれていた。それでも臆することなく戦っていた。
「何よこの幽霊!」
「邪魔をするというのなら、この場で処する」
ウァサゴは拳で幽霊を殴り、アンリデウスは剣で幽霊を断つ。それでも増援は止むことはなく、続々と窓から出てきている。これではキリがない。幽霊の増援を止めるには、奴らの乗り物である魔列車をどうにかするしか方法がない。
「ウァサゴ、アンリデウス! この幽霊たちは魔列車の車両から次々と飛んできている。幽霊たちを相手にしていたらキリがない!」
コンテナの上から二人に戦局を伝えた。ウァサゴとアンリデウスは戦いながら俺を見上げた。アンリデウスは俺が天界の王子の冠を被った姿に少し驚いていた。
「あ、あれは、天界の冠……!」
無数の群れを成す幽霊相手に果敢に殴り、蹴り、暴れるウァサゴはイライラ気味に指示を促してきた。
「じゃあどうしろってんのよ!」
「お前らは幽霊の相手を頼む! 俺は魔列車を浄化する」
ウァサゴとアンリデウスには引き続き幽霊を倒してもらう。俺はその間に魔列車に立ち向かうことにする。こちらの列車を守るため魔列車を相手にしたいが、幽霊の群れが妨害してきてそれどころではないこの戦状。三人で幽霊の群れを相手にしたって、無尽蔵に増援してくるのであれば消耗戦だ。その間に魔列車が列車を粉砕しに襲う可能性だってある。数の暴力と走る列車という地の利を活かした戦法で、俺たちはとことん不利だ。それを乗り切るためにも、二人で幽霊を倒し、残る一人で幽霊の乗り物の破壊に、役割を分けた方が効果的だ。
「承知っ!」
「御意っ!」
二人は俺の指示に素直に従い、引き続き幽霊たちを戦っていく。
残る俺はコンテナの上から貨車の床に跳び下りる。揺れる貨車の床の上、俺は迫り来る魔列車に歩き寄る。戦闘を続投する二人の生徒会長の背を過ぎ、鉄仮面を被った魔列車の目の前に立つ。
「背は預けたぞ、善魔生徒会長、サキュバス生徒会長!」
頭蓋骨の鉄仮面から輝く機械的な赤い眼光が俺を睨む。
鉄仮面の左右後方から、五つの鋭い爪を搭載させたキャッチャーのアームクレーンが出てきた。爪の先端は赤く染まり、所々錆びが覆っている。点検はそんなにやってないようだ。だからこそ恐ろしさに迫力がある。
「キャッチャーか、フン。この俺を捕まえてみるがいい。一回逃すごとに、ワンコインの代わりに光の剣で斬り付けてやる」
生憎、ユーフォ―キャッチャーの難易度は高めだ。なぜなら俺には光の速さで回避することができる。それでもチャレンジするというのなら、存分にコインを無駄遣いするがいい。その度にキャッチャーに光のお見舞いをしてやる。
魔列車は右のアームクレーンを上に動かし、キャッチャーを俺に叩き下してきた。攻撃の軌道を容易く見切れる攻撃では光速を使うまでもない。左に体を回して回避するだけだ。
案の定、キャッチャーは派手に空振りし、俺の側で貨車の床を叩きつけた。アームクレーンがキャッチャーを引く動作を行った。そのキャッチャーを引くまえに、光の剣を上げてキャッチャーに振り下す。光の斬撃は機械を切り、ダメージを与えることに成功。切口から機械の筋が生々しく露になり、血飛沫の代わりに火花が出た。魔列車は右キャッチャーを引き、今度は左キャッチャーを握りしめて、アームクレーンを屈曲させて肘を引いた。その拳は俺に向かれていた。
「オロバスが操縦していたロボットヘイキにせよ、この魔列車にせよ、ただの銃にせよ、全ての攻撃は直線的。回避のチャンスを与えているだけだ」
握りしめられた左キャッチャーが、俺にパンチをしに襲ってくる。対する俺は後方にバク転し回避。パンチは俺に当たることなく、貨車の床に直撃。バク転して床に着地したあと、床にめり込んだキャッチャーに向かってジャンプ斬り。床に着地すると同時に光の剣で切った。キャッチャーの甲から掌まで切り、同様に機械の筋と火花が露になった。魔列車は左キャッチャーを引っ込め、怒ったように汽笛を鳴らし、煙突から火花が噴き出た。
「クレーンゲームも終わりだ。さあ、フェニックスとヴァプラを返してもらうぞ」
次に魔列車は頭蓋骨の鉄仮面の口を開け、無数の車輪を放ってきた。最初の車輪攻撃と同様に、連続散弾してくる車輪一つ一つの隙間に、身を避わすほどの幅はない。ならば、車輪を断ち、避わすしかない。
放ってくる車輪を光の剣で次々と断つ。断つたびに連続して腕を振るう。
「はああああああ!」
その時、魔列車の煙突の後方から三本目のアームクレーンが現れた。キャッチャーは車輪を斬る俺に向かって真っすぐ襲ってきた。車輪を放ちながら三本目のアームクレーンを操作するとは、運転士はなかなかの器用だ。俺は光の剣を振るいながら左足で床を蹴り後方へ回避。その直後。
「うおっ」
床を蹴るつもりが、既に転がっていた車輪を蹴ってしまい、しかも車輪が滑り、俺が後方に転倒してしまった。
「しまった」
それでもお構いなし三本目のキャッチャーが俺を襲い、掌を転んだ俺にダイレクトに当てる。
「ぐふぁ!」
押しつぶされ、更に五本の爪で俺を握りしめてきた。両腕もろともキャッチャーに挟まれて身動きが取れず反撃ができない。アームクレーンを引いて、掴まった俺を頭蓋骨の鉄仮面の正面に近づけてきた。赤い眼光がすぐ側だ。三回目のクレーンゲームにて隠し玉のキャッチャーに掴まるとは、掴まえてみろと豪語した俺が情けない。
魔列車は車輪攻撃を辞めたが、それでも口を閉ざしはしなかった。それどころか、口腔内に青色のエネルギーがチャージされ、エネルギーの球体が徐々に大きくなっていく。俺を掴まえて、直にエネルギー弾を当てる気か。これは流石にまずい。
俺を握るキャッチャーの中で必死に抗うが、ダメだ。機械は硬くて身動きが取れない。そんなキャッチャーの中で見動く俺を逃がさまいと、左右のアームクレーンを動かし、二つのキャッチャーで三本目のキャッチャーを強く包み込んできた。計三つのキャッチャーが俺を握り、圧してきた。
「ぐぐっがぁ!」
三つのキャッチャーで握り絞められ、三倍の機械馬力で潰されていく。吐血し、骨もヒビが入ってゆく。
一方で魔列車の口腔内は、徐々に徐々に青いエネルギーの球体が大きくなっている。あれを当てられたらかなりの痛手だ。
圧しられながらも必死にもがき、幸い左腕の脱出に成功した。抜け出せた左手に魔法陣を出現させ、レメゲトンを掌に落とす。急いで第一部を開き、詠唱する。反撃の始まりだ。
「エ……エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり……!」
握り潰されながらも必死に声を絞り、俺の頭上に魔法陣が出現。詠唱は成功した。エネルギーは更に大きくなっていき、今にも発射されそうだ。急いで七十二本の柱槍をエネルギーに叩き込む必要がある。
「く、くらえ!」
頭上の魔法陣から七十二本の柱槍を発射。柱槍はまっすぐ魔列車の先頭に向かって放たれていった。頭蓋骨の鉄仮面にダイレクトに突撃し、鉄を抉り、車内へ極太な槍が貫く。口腔内のエネルギー体にも直撃し、エネルギーは激しく暴発。青色のエネルギーは分散し塵々に。そして爆発の反動は凄まじく、魔列車が大きく揺れた。キャッチャーの圧力も緩まり、俺の身体は貨車の床に落下し着地する。
「なんとか危機一髪だな」
エネルギーの暴発により大打撃を受けたか、魔列車の進行速度は一気に緩くなり、車間距離が大きく広げられていく。貨車を取り囲む幽霊たちも、魔列車の暴発や速度低下に驚いたか、急いで魔列車に一斉退却。もはや今の魔列車は突進するほどの迫力はなく、ボロボロになったことで機械力が失せたようだ。
「ふん、おとといきやがれっての!」
幽霊たちが半壊状態の魔列車に帰っていく有様に、悪役みたいな捨て台詞を吐く。
「ダメだ。ここで逃げられたらフェニとヴァプラを見失ってしまう」
「……だぁ! そうだった。捕まったままだったわね。コラー逃がすかっての!」
逃がしまいとウァサゴは、勇猛果敢に貨車から跳び降りた。それを見たアンリデウスは、走る列車から跳び降りる大胆な自殺行為に、目が半飛び出すほどの仰天をした。
「えええええええええええええええ!?」
屈強な脚力で線路に転ぶことはなく着地し、後退していく魔列車に向かって走っていった。普通は走る列車から線路へ跳び降りたら、線路に叩きつけられ激しく転ぶ自殺行為だが、ウァサゴは例外だったようだ。
「相変わらずの突進脳だな。ウァサゴのサポートをし、二人を救出するのだ」
第三部を開き、詠唱。紙ドクロ軍団を放ち、ウァサゴをサポートしつつ、魔列車の車内へ突撃だ。その前に、魔列車の電灯は光射しなくなり、魔列車もウァサゴも、森の暗闇に飲み込まれてしまった。貨車からでは視認しにくくなってしまった。見失う前に決着をつけたいところだ。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受」
と詠唱している最中。背後から何かが俺に強く体当たりをしてきた。
「ぐふぉ!」
突き飛ばされた俺は貨車から空中を舞い、線路に落下。列車の速度の勢いで派手に転んでしまう。
「きゃあっ!」
すぐ直後にアンリデウスの悲鳴が聞こえた。咄嗟にアンリデウスへ顔を振り向くと、アンリデウスの後方には幽霊が浮いており、手を突き出していた。落下したアンリデウスも線路に叩きつけられてしまう。
「っててて……」
「大丈夫かアンリデウス!」
落下したときに右腕の骨は折れたが、立つことはできるほど怪我は薄い。線路の上で転がったアンリデウスに走って寄った。アンリデウスの側でしゃがみ、抱いて表情の様子を伺う。
「大丈夫か」
「え、ええ……いっててて」
返事ができ、目線も弱くない。幸い意識はあり、自分で力を振り絞って立ち上がってくれた。
「ああしかし、ヤバイわね」
「ああ、かなりヤバイ」
幽霊によって、俺たちの移動手段であった列車から突き落とされ、今は線路の上。そんなことはお構いなく列車は猛スピードで進行。荷物は全て列車の上だ。すぐに追いかけなくては、移動手段も荷物も失ってしまう。エイラドは徒歩で移動しなくてはならない。それ以前に、フェニとヴァプラ救出を優先するか、俺たちで列車を追いかけるか、大きな選択が生じた。
「どうする? 今すぐ列車を追いかけて止めるか、仲間を助けるか」
とアンリデウスが問いた直後、後方から汽笛が聞こえた。一筋の光も照らされ、俺たちの前方には影が大きく伸びている。すぐに後ろに振り向くと、さっきの魔列車が現れた。鉄仮面に複数の柱槍が突き刺さったまま進行速度を上げ、線路を突き走っていた。俺たちにその線路の上に立っている。
「「え」」
魔列車の再起動により突進。電灯も光を照らし、柱槍が突き刺さったまま鉄仮面から赤い眼光が俺たちを睨む。そして、俺たちは線路の上という最悪な状況を瞬時に理解し、マヌケに一言が零れた。
さっきの幽霊が俺たちを貨車から突き落としたのは、魔列車で引き殺す作戦だからか。このままでは車輪に潰され、轢かれ殺されてしまう。
「に、逃げろぉおおおおおお! お前らぁあ」
再び迫りくる魔列車の前に、ウァサゴが線路上で猛烈に逃走。逃がしまいと追いかけてたウァサゴが、逆に線路の上で追いかけられているではないか。
「い、いやぁぁあああああああああああ」
ウァサゴに言われなくとも、本能がままに逃走を実行。俺とアンリデウスは前方方向へ全速力で走る。魔列車は赤い眼光で逃げる俺たちを睨み付け、強く汽笛を鳴らした。
「ウァ、ウァサゴ! これはどういうことだ」
追いかけたはずのウァサゴが逆に追いかけられているこの状況、走りながら瞬時に説明を求めた。
「それはこっちの台詞よ! なんでアンタたち降りてんのよ?! 馬鹿じゃないっ!?」
宿題をサボり後先考えず突進する筋肉脳なウァサゴに、馬鹿認定されてしまった。ああ悔しい。しかし今は口喧嘩している場合ではない。ウァサゴは俺たちが突き落とされたときを目撃しているわけではない。だから降りたと思われても致しない。
「幽霊に突き落とされてしまったんだ」
「えええええ!!?」
「もう最悪よおおおおおお!」
線路上で魔列車と追いかけっこはあまりにも分が悪い。走れば走るほど体力がそぎ落とされて、速度が落ちそうだ。
「あ゛あ゛あ゛もうダメ゛……このデカすぎる胸が邪魔で走れない……」
アンリデウスにぶら下がっている二つの肉の巨峰が、コート内でブラブラと大地震が発生していよう。間に挟まれているフェニックスの尾がシェイクになっているのが想像できる。それはともかく、白いビキニの紐が千切れないか心配だ。とにかく肉の巨峰が重く揺れ、アンリデウスの猛ダッシュに勢いが低下してきている。このままでは轢かれ殺されてしまう。
「おまえ、翼があるじゃないか!」
「あっ! それがあったわ!」
アンリデウスは天使だ。なぜ己の天使の翼で飛んで逃げるという発想が出てこなかったのか不思議だが、それほど取り乱れているようだ。
アンリデウスは走りながらコートのファスナーを掴む。コートを着ていると背に生えている天使の翼が出せない。ファスナーを下ろそうとした瞬間、ブチッと何かが切れる音が響いた。
「あっ」
何かが切れる音はアンリデウスから聞こえた。この音に聞き覚えがあったのか早くも察し、ファスナーを開けるのを辞めた。
「……ビキニの紐が切れたのか……」
「……」
白ビキニの紐が切れれば、巨峰は隠すべき素肌を晒してしまう。しかし天使の翼を展開するには上半身を晒しなければならない。それでも飛ぶか飛ばないか、手からファスナーを離した時点で、飛ばないことを選択したようだ。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
投稿が二が月ぶりとなりまして申し訳ございません!
次の投稿が5月になると思います。実習頑張ります




