六十六話 合わさる歴史
「こんのおぉぉぉ……いい加減、起きなさいやっ!」
度重なる腹痛によって悪夢から目覚めた俺は、急いで瞼を開ける。すると、俺の目の前には、俺に騎乗しているウァサゴが拳を上げ、俺の腹に拳を下そうとしていた。その腕の筋肉は、一週間分の時間を要するチャージ分の分厚さとなっていた。例えるなら体重二百キロの肥満体の腹部だ。
「や、やめろっ!」
「えっ? あっ止まらな」
目覚め一発目の声にウァサゴは気が付いたが、時すでに遅し。気が付いたころには拳が俺の腹に隕石が如く落ちてきた。その衝撃ときたら、何京光年先から落ちてきた隕石が俺の腹にピンポイントダイレクトアタックしてきたかのよう。
「ぐがあああああああああああああああああああああああああああ……!」
内蔵が抉れることすら全く無慈悲な威力。腹から全身へたとえようのない激痛が走り、更にはお気に入りベッドはおろか、ベッドの下の床さえ割ってみせた。あまりにも強い衝撃で、水風船が割れたような口から血の噴水。目覚めた途端、一気に体力が失われた。
割れたベッドから俺は落ち、その激痛で床を全力で転がる。激痛が徐々に収まり、転がるのをやめ、ゆっくりと立ち上がりながらウァサゴを憤怒で睨みつける。
「おはようレハ。なんだか悪夢に魘されてたけど大丈夫だった?」
まるまる厚くなった筋肉を縮ませ、元の細い腕に戻った。何度も腹パンチしたことによる謝罪よりも、悪夢に魘されていたことを先に心配した自己中心なウァサゴに、もう俺は怒りを溜め込むことができなかった。
「貴様ぁぁ……ヤロベアムの夢よりずっと悪夢だったわっ!」
少ない血の量で頭に血が上り、ウァサゴに膝蹴りをかます。
「ごべぇぇぇぇん」
俺の反撃でウァサゴをかっ飛ばし、壁に激突。
「ひぇぇええ!」
窓側に立つフェニックスとシトリーは俺たちの喧嘩を怖がりながら見守っていた。
気が付けば、俺の口周りやパジャマにはたっぷりと血の跡がこびりついている。俺から鉄の匂いが充満し、鼻が不愉快だと言っている。
一方ウァサゴは俺の反撃が通じていないのか、涼しい顔で壁に埋め込まれた体を自身で引き、平気に歩いた。
「いやいやごめんごめん。いやだって、悪夢からいくら声かけても揺さぶっても起きないものだから、強行手段として何度も殴ったの」
「だからといってその筋肉量で殴るの辞めろ! なんども吐血して痛がってたの分かってたろうが!」
夢の中でヤロベアムを追いかけようとした直後に、俺が何度も腹痛を味わったのはこいつのせいか。悪夢で魘されて目覚めないからといって、ヒトを殺すような鉄拳で起こそうとされたら、起きるどころか永眠となっていたんだが。一生目覚めない悪夢の中を冒険していたのだが。
「おかげで夢の中でも倒れて吐血もした」
現実からの攻撃によって夢の中で吐血した人物はおそらく俺が初めてだろう。今までの悪夢で堂々の一位を獲得した一番痛い夢であった。
ウァサゴがあの時殴らなかったら、俺はヤロベアムに接近し、奴を追いかけることが出来た。とはいえ、所詮夢の中。追いかけようが俺はヤロベアムの元へは行けるはずがない、か。
「でも起きてよかったわぁホント」
それでも満面の笑みで俺が悪夢から解放されたことにホッと安心する。相変わらず呑気でマイペースすぎる。
「嫌でも起きるんだが……」
純粋に力加減が下手なウァサゴにはもう二度と、目覚めの合図を受けたくない。次も受けたら今度こそ死ぬ。
「と、とりあえずレハ。一旦回復しようね」
フェニックスが負傷した俺の元へ小走りし、両手に回復の炎を纏う。その燃える両手で潰れた腹部に触れてくれた。炎は俺の深手のダメージをみるみると癒し、青い打撲痕が消えていく。
「ありがとうフェニ。お前だけが癒しだ」
「癒しの回復だけに?」
回復の炎は熱くない特別な炎だが、フェニックスが寒いダジャレなんか炎で焼かれているはずなのに寒気を感じ取ってしまう。不思議な感覚だ。
「それにしてもレハさん。今さっき、ヤロベアムっていう名前を言いましたよね。悪い夢でそいつを見たのですか……?」
俺が口にしたヤロベアムという名にシトリーの耳が引っかかったか聞いてきた。今はウァサゴに文句言っている場合ではない。
「ああ。ヤロベアムとメナリクに会った夢を見た……」
夢の内容は意外と覚えている。最初はメナリクと夢の中で世界を越えた再会を果たしたが、メナリクとの記憶がないと判明した途端、待ってましたと言わんばかりにヤロベアムが現れた。
「何を思ったか、俺はメナリクに傷つけることを言ってしまい、ヤロベアムはそんな俺を罵り、挑発した。思い出しただけで腹が立つ夢だ」
夢の中で俺のレメゲトンが小さき鍵であることが判明し、対するヤロベアムが持つレメゲトンは大いなる鍵。そして二つの魔術書を融合させ、究極の鍵で未開の世界を開くとかほざいていた。あとは、エチオヴィア王国のエルタアレ火山で、人質メナリクと俺のレメゲトンを交換と言われたが、所詮は夢。現実とリンクしてなんかいない。だから気にすることは無い。そもそもヤロベアムは裏歴史に居る存在だ。俺と奴が現実で対面できるわけがない。
「そっか……攫われた妹の感動の再会も傷つくこと言ってしまったし、それを見たヤロベアムに煽られたのね。でも不思議ね、なんでレハは悪夢に魘されていながらも目覚めなかったのかしらね。殴る前は揺さぶりまくったわよ」
「もうウァサゴ先輩ったら。あれは揺さぶり、ではなく回してましたよ。身体を」
「えっ?」
シトリーの発言に俺の口から呑気な一言が零れ、シトリ-にそれを確認する。シトリ-は俺の瞳を見て、こう答えた。
「実はウァサゴ先輩は、起きないレハさんの足を掴んで遠心力で回してましたんです」
致命傷を負わすような殴り起こす前の暴行為の前にも、俺の足を掴んで回していたのか。それのどこが揺さぶっているんだ。血が先端に集中して下手したら死ぬぞ。
「あのなウァサゴ……」
呆れ、頭が下がる。
「えへへ」
寝ている無力な俺に暴行とは、流石は善魔生徒会会長。彼女は悪夢に苦しむ俺を起こそうと善意でしてくれたのだろうが、行為そのものに善意の欠片もない。彼女にはこれが悪という自覚が無さすぎる。お前の行いが善だと強く思っているから、こいつの暴力も善だと相変わらず勘違いしている。
「あとそれと、ウァサゴ先輩がレハさんの耳元で大声で起こそうとしたのですから、さっきまで私たちも鼓膜潰れちゃったんですよ」
殴り起こす、回し起こす。更には鼓膜を破壊するレベルで叫び起こす。もうダメだ。寝ている間はウァサゴを城へ追い出したい。今までよちよちと眠れていた方が奇跡だ。
「私が回復したからもう安心だよ」
フェニックスの回復の炎は万能すぎる。負傷を癒すだけでなく、今まで切断されてきた腕や脚さえも再生し、鼓膜までも修復してくれる。これからもう二度とフェニックスを他の奴に渡してなるものか。
「ありがとう……もう一生俺から離れるな」
「……っ! そ、それってプ、プロ、プロポ―……?」
俺の発言にフェニックスの表情が紅色に染まった。ん、俺は何か不味いことでも言ってしまったのだろうか。
「まあ、もういい。今までも変な悪夢見てきたし、その時も恐怖に青ざめながら目覚めるのが遅かった。殴られても起きない夢もあるんだろう」
普通は起きそうな夢だが、この際考えても謎は解けない。そういう夢もあるんだとポジティブに考えておこう。内容はかなりネガティブな夢であったが。
「うっ……ぐう……」
そのとき、突如としてウァサゴがめまいでも起きたか、立ち眩み、右手を目の腕に置いた。立ちながらも姿勢を崩し揺れながら後退した。
「ど、どうしましたウァサゴ先輩!?」
「ううう……」
次に右手を離し、ウァサゴはその瞳で空を見詰めた。
「ウァサゴ先輩……?」
ウァサゴの突如な奇行にシトリーが心配する。しかし、俺は今ウァサゴに何が起きているのか、その瞳を見て理解した。
「未来だ。今、未来を視ている」
「えっ、本当ですか!」
シトリーとフェニックスがウァサゴの未来視発動に驚き、全員一同ウァサゴを見守る。
長時間チャージを一秒に『短縮』、時の流れに身を任せる『時速移動』、殴った相手の時を止める『ストップ』。そして四つ目の時能力、未来を先に視る『未来視』が発現し、今ウァサゴは未来に起きる現象を誰よりも先に視ている。今までもウァサゴは未来を視たことがあったが、このようにめまいをすることは一度もなかった。
「ああ、瞳を視ろ。背景が映っている」
ウァサゴの瞳には、何やら背景、いや、都市が映っている。この偽王国と言ったら、ヴェルサレム都市ぐらいしかない。だが、瞳が小さすぎて俺たちからは詳しく内容を見れない。
「な、なにこれは……! 何が起きているの……!?」
俺たちはウァサゴの小さな瞳に映る未来しか見れないが、ウァサゴの視界全体には先の未来しか視れない。よって、詳しい未来はウァサゴにしか分からないが、何やら激しく動揺している。
「み、皆……! もうすぐ地震が発生するわ! ベッドの下に隠れて!」
未来を視ながらウァサゴが地震の予知を皆に伝える。
「え! じ、地震ですか!」
シトリーが地震の予知に驚き、戸惑う。
「お前が俺のベッド割ったろうが!」
俺のベッドはウァサゴの正拳下段突きで勝ち割られている。身を隠す場所といったら机しかない。
「皆、あの机の下に隠れろ!」
マイルームの机にシトリーが急いで跳び込むが、フェニックスは腕に翼を生やし、獣人状態になって飛んで宙に浮いた。
「私は大丈夫だよ! レハも隠れて!」
そういうとフェニックスは足で窓を開けて、空へ飛んだ。翼を持つ者は空さえ行けば地震や二次災害の影響は喰らわない。
まだ未来視の途中で、現実とリンクしきれていないウァサゴも地震の影響を喰らってしまう。急いでウァサゴを抱えて机の下に入れなくてはならない。
しかし、ウァサゴの頭上に透明な板が出現した。机に逃げ込んだシトリーを振り向くと、青い魔導書を開いており、既に詠唱を終えていた。あの板はシトリーの空間魔法。一部の空間をバリアーにして完全防御を展開するシトリーの得意な魔法だ。
「さっ、レハさんも急いで!」
「ああ」
俺も机の下に避難した。狭い空間をシトリーと共有し、肌と肌が近接してしまう。シトリーの不安げな荒い鼻息が俺に当たる当たる。なんか保健体育の授業で性欲男たちから逃げるシトリーに、俺も一緒に女子トイレに引き込まれた記憶を思い出すが、おっと、いきなり強い揺れが発動。ウァサゴの未来視通り、地震が現れた。
「きゃあああ!」
思ったより強すぎる地の揺れに、俺も思わず身体も左右上下に大きく揺れてしまう。机の脚を掴み、必死に耐える。地震の強さで城の床や壁、天井に亀裂が走り、城の耐久性も根こそぎ奪われてしまう。天井も崩れ、瓦礫がマイルームに落下。崩れていく天井だが、ウァサゴの頭上に張った空間バリアーのおかげでウァサゴの頭部が守られる。しかし未来を視ながらも強い地震の中突っ立っている、その体幹バランスはもう筋金入りだ。
「なんだこの揺れは……!」
震度が限界突破された数字に至るほどの強い揺れ。全自然を破壊する勢いの力だ。だが、徐々に地震は収まり、揺れが終息した。
「収まった……?」
机の避難所から身体を出し、窓から外を眺める。聖域の広場はやはりか地全体に亀裂があり、地面の一部が盛り上がっている。木々も地震の影響で倒れている。
「うわあ……ひどい……」
シトリーも窓から顔を出し、その様子を一緒に眺める。
「レハ」
ここでウァサゴが俺の名前を出し、振り返る。その瞳は元の色に戻っており、自我が戻っている。
「どうしたんだ」
ウァサゴは真顔だが、やや不安そうにしている。まるで、視てはいけない未来を視てしまったような。
「驚かないで聞いてちょうだい。この地震は、ただの地震ではないことを」
確かに異常に強すぎるほどの地震であった。ただ、強すぎたという理由だけが、ウァサゴが視た未来ではないような言い方だ。
シトリーも振り向き、その顔を覗いた。
「……っ。いったい、何を視た?」
心して聞く。ウァサゴは口を開けて答えた。
「この魔界の北半分全て、全ての大陸が陥没したわ」
「なにぃ……!?」
「え゛っ?!」
今さっき起きた地震が、魔界の北から全ての大陸を陥没させたのか。地震の影響で大陸が陥没するということが、本来あり得るのか。
「この偽王国のエルサレム神殿から、とにかく北全てよ」
エルサレム神殿より北方角の大地や大陸が陥没しては、今の魔界は、エルサレム神殿より南方角の大陸のみで成りあがっている。世界全体のバランスが南に傾き、魔界が今にも崩れてしまいそうだ。
「それだけじゃない……もっと、異常なことが発生したわ」
「まだあるのか」
そのとき、空から慌てて窓へフェニックスが帰ってきた。足を窓の下に着陸させ、俺たちにその報せを早口で言う。
「大変! 陥没したデッカい大穴から、なんか妙な大陸が這い上がってきたの!」
「妙な大陸が、這い上がった? なんだそれ」
フェニックスが言う、陥没した大陸から、別の妙な大陸が現れたということだろうが、なんにせよとても意味が分からない。だが、未来を予知したウァサゴなら、この事態をもう視ているはず。咄嗟にウァサゴに振り向き、確認する。
「ええ、フェニの言う通り、新しい大陸が王国を運んで、陥没地から現れた」
実際に見たフェニックスと視たウァサゴが言うのだから、地震によって陥没した大陸から、別の大陸が這い上がったということは、信じ難いが本当のようだ。
「分かった。実際に俺たちも見てみよう」
百聞は一見に如かず。グラシャ=ラボラス以外の善魔生徒会メンバーを連れて急いで城から出て、王都ヴェルサレムに向かう。
南出入口に到着し、無法地帯で古びた王都だが、地震によってその有様は酷いの一言。多くのビルが派手に欠陥し、真横に崩れ、歩道を塞いでいる。あちこちと火災が発生しており、偽王国の繁華街がまさに地獄絵図だ。
「酷い光景ね……」
「なんでこんなことが起きてしまったんだ……!」
俺たちは勿論、セーレやヴァプラも全壊した王都ヴェルサレムの有様に引いている。
「もっと凄いのは、どうみてもあれだろう」
ヴェルサレム王都の北には、天まで続く紫色の巨大な壁が貼られている。壁の正体を探るべく、塞ぐ壁を次々と砕いていき、ひたすら北へ壁が貼られる場所へ向かう。
到着すると、その圧倒的な大きさを誇る紫色の魔法壁に茫然する。曇天をも貫いており、横も地平線の彼方までだ。透明な壁だが、触れても何も起きない。殴ってもビクともしない。シトリーの空間魔法によく似ている。
「保護壁か」
そしてウァサゴの言う通り、ヴェルザレム王都の中心であるエルサレム神殿より北側が、別の大陸となっており、明らかに俺たちが知らない地域が広がっていた。その証拠に、見たことのない別の城が建っている。陥没する前の北地区が、落ちた大陸ごと完全に消え失せてしまっている。
「何なのあの城……! 別の大陸ごと城がやってきているわ」
その形状は黒を単調とし、蝙蝠の翼も生やさせて、とても禍々しいデザインであった。
今の魔界は、エルサレム神殿より南が残った偽王国。北が現時点で正体不明の大陸と城が成りあがっている。偽王国の南に位置する城と謎の国の城がちょうど対立となってしまっている。
「はっ、見て。壁の奥から誰かがやって来る」
陥没した大陸の代わりに突如現れた別の大陸。その王国に住む者らしき、その四人がこちらに来る。三人は俺たちも見覚えのある奴らだ。そいつらも壁の前に立ち、対立となった。
「ブネ……!」
フェニックスが警戒して声を上げた。そいつはフェニックスを見て、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「あらら、可愛い不死鳥さんじゃないの。今度はあなたを狙ってたの。あなたの素敵な身体を私に寄こさない……?」
暗殺部の上級生で医者だ。同時にマッドサイエンティストであり、かつてはグラシャ=ラボラスの身体を弄り、ケルベロスにさせた。今度はフェニックスの無限に再生する不死の血を狙っている。
「えっ、なんでオロバス先輩が生きてんだ……?!」
次に、俺が昨日倒したはずオロバスが機体の状態で現れた。オロバスは太陽光が差す聖域に立ち、改造によって残された少ない肉体が溶けたはずだ。それの報せを受けた全員一同、生きてるオロバスの存在に驚愕する。そいつは他の者には一切興味がないのか、俺を強く睨み、恨んでいる。
「よおレハベアム……昨日は小賢しい策で溶けちまったが、俺は太陽光に溶かされただけであって、お前には負けていねえ。このサキュバスにモテモテな二枚目野郎、絶対ぶっ殺すからなぁ……」
負けたくせに、決定打は太陽光であって俺のトドメではないことを敗北として認めない意地っ張りな姿勢を出す。オロバスが生きている限り、常に女性陣の生理的危機は永遠に続いてしまう。
ゲーティア高校から消えた暗殺部が、現れた大陸から姿を出したということは、もうこの大陸の正体が掴めてきた。
負け犬の遠吠えをするオロバスに興味がなく、それよりも、そいつの隣にいる男に驚く。その男が、大陸の正体の何よりの証であった。
「ヤロベアム……!」
さっき夢の中でもヤロベアムを見た。まさか現実でもすぐに会ってしまうとは。しかし、夢でも現実でもヤロベアムの姿形に差は全く無い。奴は俺の瞳にまっすぐ見詰め、口を開けた。
「もう一度言う」
ヤロベアムはそんな俺を初対面ではないように話しかけてきた。
「七月二十七日。エルタアレ火山にて待つ」
夢の中で何度も繰り返し告げられた約束を現実でも言われた。
「……! あ、あの夢は……自然ではなく、貴様が掛けたものだったのか!」
朝の夢はごく自然に見たものではなく、ヤロベアムの意図や企みがあったもの。でなければヤロベアムは夢の中で約束された条件を現実でも言わない。だからいくら殴られても起きなかったのか。
「我が大いなる鍵レメゲトンを持って表歴史にやってきたことで、二つの歴史は融合された。南は未だに魔王が居ない偽王国。北は我が魔王として君臨する、真のヴェルサレム王国だ」
ヤロベアムが大いなる鍵レメゲトンを持って現れたことで、表と裏の歴史が一つに合わさり、地震によって陥没した大穴から裏歴史の大陸が現れたということか。ではさっきの地震は、大陸がこちらへ転移した際の影響だというのか。
「歴史は確かに融合した。あとは、鍵も融合すべき! お前の可愛い人質を返してほしければ、その日に小さき鍵を持っていくことだ」
最後にそれを言うと、ヤロベアムは振り向き、自身の城へと向かって行った。暗殺部のブネやオロバスもヤロベアムの背後についていくが、そういえば暗殺部部長のアンドロマリウスの姿がない。そして、スーツ姿の白髪の中年が、青い瞳でこちらを見て、軽く上品に一礼した。その後ゆっくりと振り向き、続いてヤロベアムの後を徒歩で追いかけた。
白髪に青い目、どこか血の繋がりの雰囲気があると思えば、ウァサゴの顔に振り向くと、その顔が静かに仰天していた。
「と、父さん……」
ウァサゴ・ロフォカレが、スーツ姿の中年の男に父さんと呼んだ。
「なに、父さんだと? 確かに髪と瞳の色はお前と一緒……お前の兄も」
ウァサゴにアンドロマリウス、そしてあの男の共通点は白髪と青い目。白を嫌う悪魔として白髪の資質は途轍もなく珍しいロフォカレ一族だ。そのうえ悪魔にしては礼儀正しい姿勢も、あの男とアンドロマリウスは全く同じものに見える。ウァサゴは礼儀は全く成っていないが、正しさを追い求める姿勢はアンドロマリウスも同じ。魔界に珍しき善魔の一族だ。
「なのにどうして、お前の父さんが裏歴史の魔王の近くに?」
「……分からない。けど、もう事前に未来予知していたから驚きは少なかったわ」
確かに、歴史を越えた親子の再会だ。もっと激しく驚いてもおかしくはない。俺だって世界を越えた再会を夢の中で果たしたときは驚いたものだ。父さんだってそうだ。娘と会ったというのに礼儀の姿勢は崩さず驚かなかった。
「くそっ、待て貴様ら!」
高くて頑丈な魔法壁を叩き、奴らに声を必死に上げるが、無視されている。左手にダーインスレイヴを召喚し、壁を叩くが、切れ味が全く通用せず、弾いた。
どんどん遠のいていく魔王と暗殺部。その背を追いかけることはできなかった。
壁が妨害し、裏歴史の大陸へ進むことが出来なかった俺たちは、一旦城へ戻ることにしたのであった。
……本来なら、二話まとめて投稿するはずで、この話は二週間前に書き終えていたんです……。しかし、次の話があともう少しで書き終える直前に、学校から大量の課題がやってきたので、執筆を一旦止めました。
なので、今回は一話だけ送らせていただきます。
学校が再開するのは六月一日。その日から投稿スペースが空きそうで怖い分、やっとこさ学べるので嬉しいですね。(課題地獄も終わりますしね……)
課題をやらなければ点数にはならないという恐怖感に煽られ、課題をやろうにも、ぐうたらできる家の中ではやる気が出らず、いつやろうにも悩むせいで課題の存在だけで体調が悪くなります。でもやらなければならないという重い使命感に駆られ、結果、また体調を悪くして……
無 限 ル ー プ っ て 怖 く ね ?




