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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第六章 エチオヴィア大狩猟大会編
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六十五話 魔の悪夢

 何もない真っ白な空間の中、俺は茫然と立っていたことに気が付く。

「……ここは……夢?」

俺は寝ていた。城の中にこの空間はないし、起きた記憶はないから、ここは夢の中だと理解する。しかし本当に何もない空間だ。白という概念しか残されていない空間。実に何もかも空っぽな、実に空虚な個室だ。

「今度は何の夢を見せられるんだ……」

前回はサキュバス専門学校の中で襲われレイプを受けた夢を見た――再び読者世界に転生されたわけでもないようだ。俺と思ったことと違う台詞が勝手に口から出てくる――が、今回の夢は何を暗示するのだろうか。ここ最近の俺はあまり悪い夢で悩んでいる。



――カタリキヨ レアら作家は、こういう意味深なシチュエーションにキャラクターを置きたがる習性があるようだ。このシチュエーションには、この後の予想外な展開に迎えがちだ。例えば謎の空間に謎のキャラクターが現れたりさせ、もう一人のキャラクターの心理を大きく揺さぶる。胸が熱い展開を開かせ、読者を惹かせる手法が多い。作家たちも少しは演じられる役の気持ちにもなってほしいところだ――



 だが、今回の夢はそう悪くなさそうだ。不安を煽るような黒一色ではなく、その逆の白。しかしただひたすら白い空間に一人だけ突っ立っている。むしろ疎外感に駆られ、返って不気味さがあり、緊張が全身を覆う。

 右手を上げ、親指の爪で人差し指の腹に軽く押し、痛覚があるか確認する。しかし痛覚はなく、ここは完全に夢だと再確認する。

「いったい、なんだというんだ……」

「レハお兄様……?」

突如として女性の声が背後から聞こえ、咄嗟に振り向く。すると、俺の背後には小さき女の子。地毛やローブが白い女の子がいつの間にか立っていた。

 目と目が合うと、その子はフワッと笑顔を浮かべ、次に瞳から涙を流す。

「ああ……レハお兄様だ……間違いない……!」

この俺をお兄様と呼ぶ小さき女の子。俺としてはこの子と会うのは初対面だ。だが、どこかで会ったような気がする。しかし記憶に霧が掛かっているようでなかなか思い出せない。でも、この子を見詰めていると、まるで封印されていたような懐かしい感情を思い出し、物凄い親近感が心から湧く。この俺の事を兄と呼ぶ人物は、たったの一人しかいない。

「まさか……メナリク? メナリクなのか」

そう確認した。心の中で俺はそう強く願った。

「はい! 私はメナリク・モーヴェイツです。お兄様、ああお兄様……! よくご無事で……!」

我が妹メナリクと、夢の中で再会を果たした。絵に描いたようなロマンチックな再会だ。感動の再会に感情を爆発させうれし涙を必死に流しながら、俺の胸に抱き着いてきた。

「レハお兄様……!」

そのうれし涙で俺の制服を濡らす。それほど妹は俺と会いたがってくれていたのだな。

 どうやらこの子メナリクは、俺の事を覚えているらしいが、俺は酷いことにメナリクとの記憶がない。しかも妹なのだから俺より歳が下。兄が覚えていないというのはあり得ない話だ。なぜ、俺はメナリクを覚えていない。本当に記憶が封印されているようだ。でも確かにメナリクとの懐かしさが込み上げてくる。記憶が無くても心や肌はメナリクを覚えてくれている感覚だ。



――それがどうもおかしい。俺はメナリクを知っていた。いや、正しく言えば、俺の心や記憶の中で、メナリク・モーヴェイツという存在がなんとなくあった。だけど、今までその存在を思い出したり口にすることはなかった。できなかった。もっとわかりやすく言うならば、表面上は俺はメナリクを覚えていない。だから台詞や描写からは覚えていないと言わされる。しかし、自分が小説世界のキャラクターであることを自覚した途端だ。俺の中にメナリク・モーヴェイツという記憶がずっと昔からあった。だから表面上は覚えてなくても、裏面下は覚えていた。

 作家がこの小説を書き始める際、隠し妹が存在したという設定が俺の中に昔からあり、それが読者に向けて永遠に語られることのない記憶として刻まれていたようだ。キャラクターの設定が、キャラクターの奥に眠る記憶ということだ。

 俺はメナリク・モーヴェイツというキャラクターを初期から知っていた。そのキャラクターが妹だということは昔から知っていた。だけど、設定という壁が口にすることを防ぎ、あたかも覚えていないという台詞を言わされる。

 キャラクターには設定が付き物だ。性格や話し方、武器、戦法、私生活、癖、何から何まで全てが総称して個性と纏められ、その個性で読者を惹かせる。カタリキヨ レアはきっと、設定上は記憶にない兄とある妹の世界を跨いだ感動の再会を書いたのだろう。見世物にされた嫌な作り話だ――



 しかし、どうしても俺はメナリクという妹との記憶がない。俺が感じているメナリクからの懐かしさは、ただの勘違いや気のせいかもしれない可能性だってある。改めてメナリクに俺の事情を伝えなければならない。

「メナリク。申し訳ない話が君にある」

そう言うと、メナリクは「えっ」と引いた声を発し、嫌な話を察したような顔を俺に向ける。その瞳は、やや空っぽに、生力が消えていた。

「君は俺の事を覚えてくれているらしい。だが、俺は、君の事を覚えていないんだ」

メナリクという大切な妹の記憶が無いことをはっきり言うと、瞳に映る生力が益々失せ、嬉し涙から悔し涙を次々と流す。

「そ、そんな……う、ウソですよね……?」

「……俺としても、とても不思議なことなんだ。なぜ、俺は兄なのに妹の顔が覚えていないのか、と」

「……っ!……」

メナリクの再確認にトドメの無慈悲なダメ押し。メナリクは俺から離れ、身をゆっくりと引いた。心にガラス片でも刺したかのような強いショックに耐えきれず、涙はドンドン零れていく。

 こんなに可愛い妹の心を傷つけた俺は、とてつもなく最低だと思える。兄として失格と言われても何も言い返せない。せっかくメナリクは俺の事を覚えていてくれているんだ。世界を越えた長年の再会を無駄にさせてしまったようなもの。立場が逆だったら俺も傷ついてしまう。本当に俺は最低だ。

「……っう……」

「すまない……」

俺の謝罪にメナリクは言葉が出せない。絶望のあまり、言葉を失せさせてしまった。ただひたすらメナリクの泣き声だけが無慈悲に空間内に響き、沈黙が続こうとした矢先。突如として、メナリクの背後の空いた空間が黒に染まった。メナリクを中心に、俺が立つ領域は白一色。対して奥が黒一色の領域と化した。

「最低な兄貴だな。表歴史の我よ」

黒い領域に扉が出現し、開かれた。その扉から現れたのは、全身の肌が黒く、こめかみに角が生えた俺そっくりの悪魔。頭には禍々しい色の王冠を被り、赤いマントと黒い王族の服装を着た、如何にも魔王という雰囲気の者だった。

 その者は俺と同身長でありながら、俺を見下す態度をし、笑みを浮かべていた。

「き、貴様が……裏歴史の俺……ヤロベアム……!」

裏歴史で俺が悪魔として生まれた存在。表歴史の暗殺部に俺の暗殺依頼をしたり、メナリクの誘拐依頼を申した暗躍者だ。その目的は未だに不明。謎多き悪魔だ。

 肌色や角を除けば、本当に俺と瓜二つだ。ただ、邪悪さは俺より強い。そう、こいつは裏歴史で俺より先に魔王に君臨したと聞いている。裏歴史の魔王が遂に、俺の前に現れたということだな。

「クククク残念だなぁメナリク・モーヴェイツよ。貴様は我の事を兄様と勘違いし、誤解を解いたところで我は夢を通して本当の兄を会わせた。だがどうだ。本物の兄はお前を覚えていない! クハハハハハハハハハハハハハハハハ笑える話だぁ! 悪魔の我に騙され、人間の兄から忘れられ、辛いだろう。生きる気力を失った心触は、気持ちいいかぁ?」

だからメナリクは強い絶望感を抱いていたのか。俺が妹を覚えていないことに限らず、誘拐後、メナリクがヤロベアムを兄だと勘違いし、騙されたというショックがあったから、既に心が傷ついていた。

「……あっ……」

煽るヤロベアムに、メナリクは脚に力が抜け、深い絶望感とショックで倒れてしまう。

「メナリクっ!」

急いでメナリクの元へ走り、倒れるメナリクに近寄りしゃがむ。右腕を首後ろに通して後頭部を肘窩に乗せてあげ、右手で左肩を支え上げる。呼吸はやや不安定だが過呼吸ではない。

 メナリクの悲しみに怒りで血が煮え、ヤロベアムに殺気を込めた目つきで睨みつける。

「貴様ぁぁっ! 俺の妹になんてことを言ってくれる!」

それでもヤロベアムは不敵に俺を嘲笑う。

「貴様こそ実の妹を長年忘れていたではないか。むしろ感謝するのだ。この我がわざわざ、情けない兄妹を世界を越えて再会させてあげたのだからな……クハハハッハハハハハハハハハハハハハハハ!」

腹から爆笑するヤロベアム。奴の言うことは現実味を帯びている。ヤロベアムがメナリクを攫う依頼をしなければ、俺はメナリクをずっと思い出すことは無かった。俺たちがこうして再会することができたのは、皮肉にもヤロベアムの仕業というわけだ。それに関しては情けないながらも言い返せなかった。

「くそ……」

「まあいい。お前がメナリクを忘れている理由は大凡その予想はできている。お前が一方的に記憶を失ったわけではない」

「なに?」

「我と貴様は魔王の素質を持って生まれた存在。我らが父ソロモンは次世代の魔王として育成すべく、誰に対しても無慈悲な判断をしなければ国は背負えないため、妹という愛おしい存在と共同生活していては、その心に慈悲が生まれる。魔王ソロモンは余計な感情を省くため、兄であるお前の記憶からメナリクを消したのだ」

魔王ソロモンは虐殺と破壊を繰り返し、最後は世界さえも消滅した大罪を背負う悪魔。その伝承を息子である俺たちに引き継ぐためには、心に慈悲という感情があまりにも邪魔すぎるという理論か。だから俺はメナリクとの記憶が無い。一方で、メナリクは俺との記憶がありながらも、なぜ人間界に存在していたのだ。

「魔王の素質、か。話は変わるが、俺はレメゲトンを持っている」

メナリクをゆっくりと床に下ろし、横にさせる。立ち上がり、右手にレメゲトンを召喚させ、ヤロベアムに見せびらかす。

「この通り、俺にはきちんとソロモンという悪魔の血が継ぎ流れている。対して貴様は悪魔の肉体でありながら、俺と逆に人間の血が流れているはずだ。なぜお前がレメゲトンを扱える!」

俺は人間の身体でありながら、モーヴェイツ家特有の悪魔の血を継いでいる。これによりレメゲトンを触れることが出来るが、ヤロベアムは俺の対となっている存在だ。悪魔の身体だが、人間の血を継いでいる。だからレメゲトンに触れるはずがないのだ。なのに奴はレメゲトンを詠唱し、表歴史に魔法を出している。本来ならレメゲトンに適合できない者は触れただけで生命力が奪われるのだ。

「ほう、よく我の身体と血が逆だと知っていたな。この我がレメゲトンを扱える……? それが何の疑問点なのだ」

ヤロベアムは左手に半に上げ、黒色の魔法陣が出現し、俺と同様のレメゲトンが落ちてきた。魔術書レメゲトンの背を、奴は確かに左手で握っている。生命力を奪われる様子はない。レメゲトンとヤロベアムは俺と同様に適合されている。

「いいかよく聞け。このレメゲトンが歴史に表と裏の分岐点を生んだ。同時に、レメゲトンを受け継ぐ所有者は必ずこの世に誕生する。そうしなければ歴史は未来へと進まないからだ。貴様と我が表裏の存在である通り、身体と血は逆になる。ならば、レメゲトンの適合条件も逆になるのだ」

「では、お前がレメゲトンに適合できているのは、その悪魔の身体だからなのか……?」

「そうさ。端から人間の要素は関係ない。モーヴェイツという身体と血のどれかのうちがレメゲトンの適合条件である。我と貴様は表裏の存在であることを忘れるな。身の程を知れ、人間が」

表の魔王は血、裏の魔王は身体を条件としてレメゲトンに選ばれる。ヤロベアムは既に魔王に成りあがっている。表裏の歴史が全て逆であれば、なるほど、道理でレメゲトンに触れるわけだ。

「では、貴様の目的はなんだ。なぜ俺の命を奪いたがる!」

ヤロベアムは裏歴史から表歴史の暗殺部に通じて俺の暗殺依頼をしてきた。暗殺部の活動をサポートしたりと、俺の暗殺に関しては魔王のくせに協力的だ。

「我が表歴史の我を倒したい理由。それは、お前のレメゲトンを強奪し、究極の鍵を完成させることだ」

「究極の鍵……?」

「お前のレメゲトンの表紙には、鍵のマークがついているだろう。それも、小さめのな」

今まで気にしもなかったが、レメゲトンの表紙には、中心にアンティーク調な鍵のマークが描かれている。

「我のレメゲトンは、鍵のマークが大きいのだ」

そう言うとヤロベアムは俺にレメゲトンの表紙を見せた。その表紙には、鍵以外のデザインは完全に一緒だが、鍵は俺のレメゲトンより大きめに描かれていた。

「なぜ鍵のマークに差がある?」

「ククク、お前と違って先に魔王に到達している超エリートの賢者だ。しかし、裏歴史では世界一優しい悪魔でもある。だから教えてあげよう。そんな我に愚民共は頭を地に下ろし、深く深く感謝しなくてはならない……どうした、教えを乞うためにひれ伏せ」

性格がかなりひねくれ、捻じ曲がっている。俺もヒトの事は言えない性格だが、裏歴史の俺がこうだと思うと、未来の俺が心配だ。

「戯言はいい。言え」

「我が魔王になるときの話だ。実際に我はエルサレム神殿の地下に入り、そこに待つソロモンと会った」

「ソロモンに……!?」

俺もゲーティア高校の校長バエルに、卒業したらエルサレム神殿に入り、死んだと思われるソロモンと会い、魔王伝承をするようと言われたが、まさかヤロベアムは既にソロモンに会って儀式を受けたのか。

「ああ。そこでソロモンから教えてもらった。レメゲトンが二つあるということと、二つが異なる鍵だということ。そして、二つの鍵を融合させることで、全知全能の神々さえ知らぬ未開の地へ行けることもな」

「神も知らない地……?! どういうことだ」

「それはソロモンですら知らない事だった。だが、神共も辿り着けない未開の世界は確かにあるのだ。それを開くには、貴様が持つ表の小さき鍵と我が持つ裏の大いなる鍵を融合させ、究極の鍵を完成させなければならない。かつてソロモンもそのような野望を持っていたようだが、表のソロモンに敗れ、その野望を俺に受け継がせた」

「俺のレメゲトンの鍵マークはそういう意味が……!」

ただのデザインだと思っていた。このレメゲトン自体がただの魔王の魔術書だと思い、武器として使っていたが、レメゲトンによって歴史が二つ理由も全ては小さき鍵マークと大いなる鍵マークが融合するためだったのか。だからヤロベアムは俺の命を奪おうとしていた。理解できた。

「我の野望はただ一つ。新たな扉を開き、我が神になること! 全てを創造し、全てを支配する神になるのだ。魔王など取るに足らない地位はもう興味が失せた。次は神となり、我が掌で運命を握る」

暴君の貪欲さは神の地位さえも欲しがるか。とても愚かだ。悪魔風情が神になれると思うなと言いたいところだが、奴の言うことが本当に確かなら、尚更俺のレメゲトンを渡すわけにはいかない。

「神になったところで、所詮貴様はただの悪魔だ。悪魔風情が図に乗るな」

「この我がただの悪魔なら、貴様こそただの人間だ。人間風情が魔王になるな。それでは民は王に従わん」

「構わない。俺は端から悪魔の命や魔界の政治は根っから興味はない。人間界を侮辱し攻撃する悪魔さえ殺し、守れれば」

「そのような青臭い言葉を出すな! このモーヴェイツ家の恥が。表歴史の我がこんな吐き気も出る愚言を言うとは、ああああ全身にGの群れがウヨウヨしている気分だ!」

俺の台詞にヤロベアムが激昂。それほどGの群れに匹敵するように聞こえたか。根っからの悪党でこちらも吐き気が出そうな気分だ。

「分かった。お前からレメゲトンを奪ったら、お前が守りたい人間界を、我は全力で破壊し尽くしてやる」

裏歴史の俺が遂に宣戦布告。今度は魔王ヤロベアムが人間界を襲いに行くのか。魔王の力であるレメゲトンで人間界で暴れられ、虐殺を図れば一時間で全滅になるのは非常に容易い事だ。

「新創世記の神になるのは後だ。どのみち、表歴史の偽王国を我の手で壊滅させなければ、人間界と魔界の世界の壁は取り除けられないからな……」

「そうはっきりと宣戦布告して、この俺がすんなり許すとでも思ったか」

「ククク、忘れたか? お前の可愛い人質は我が掌にあるということを」

俺の足元で横にさせたメナリクがパッと霧になって消えてしまった。メナリクの消滅に、俺はヤロベアムに腹の底から怒鳴った。

「貴様ぁぁっ! メナリクをどうした!?」

「クハハハハハハハハハハハハハ、クフゥハハハハハハハハハハハハハハ!」

俺がまるでおかしいように嘲笑うヤロベアム。その笑いは清々しいほどにまで至るほどとても心地よく響いた。

「安心しろ。メナリクはただ目が覚めただけだ。我が真ヴェルサレム王城の牢屋の中でな……」

そういえばここは夢の空間であった。俺たちは夢を見ているだけでこれは本人ではない。夢から消えたのは単純に夢から目が覚めただけであったか。

「ただ、我は自身でもうっかり屋のくせが強いと自覚していてだな、数千年の前から禁欲の刑を受けた男巨人百人の牢屋の中に入れてしまったんだ……」

「巨人が百人……?! 存在するのか」

「ああ、で、ちょうど今年の七月から禁欲の刑が終わるんだ。つまり、男巨人百人たちは千年分の性欲が溜まっているが、それの解放が許されたのだ」

「な、なにぃ!? そんな汚いところ入れられたら……!」

「今は二日目。一昨日で既に禁欲は解禁された。その牢屋の中に突如入れられた、可憐な女の小さき人間は今頃どうなってるかなぁ。夢から目が覚めちゃったのも、その巨人たちのせいなんだろう。ただでさえ奴らは気性が荒く大陸を小指一本で引けるほど筋肉ゴリゴリだし、ずっとシャワー浴びてないから雄臭たぁぁあっぷりだしなぁぁ? 女の裸を見たのも千年ぶりだろうガハハハハハハハハハハハ」

明らかにヤロベアムのうっかりミスではない。故意で無力な人質メナリクを危険な牢屋の中に入れた。そんな危険な牢屋の中にメナリクが囚われれば、命が非常に危ない。巨人たちに集団で強姦されてしまう。

「妹の表情ときたら、相当怖がっていたな……なにせ、雄臭に満ちた肉のきのこの森に入れられたのだからな。まあ問題ない。我の大切な人質だからな、殺させはしない。その巨人どもにたっぷり犯されたまま、生かしてやる。弱ってたとしても無理矢理延命させる魔法もあるから大丈夫だぁハハハハッハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハ!」

「……き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

度重なる挑発で血が煮え、これまでにない激怒で怒鳴り、ヤロベアムに走る。左手にダーインスレイヴを召喚し、怒りのままにヤロベアムに特攻する。間合いが近くなると、俺は跳び、一気に間合いを詰める。

 対するヤロベアムは左手に全体が金色の盾を召喚し、俺の斬撃を受け止めた。その場で着地し、強くヤロベアムに睨み付ける。そんなヤロベアムは大笑いの表情が冷め、一気に真顔になり、俺に提案してきた。

「それほどメナリクを救いたくば、偽王国から遠くの南、エチオヴィア王国に来るがいい」

「なに、どういうことだ……!」

「エルタアレ火山にて、人質メナリクを持って、貴様を待つ」

「だから、貴様は何が言いたいんだ……っ!」

「簡単だ。お前の小さき鍵レメゲトンと、我の人質の交換ということだ」

「交換だと?」

ヤロベアムはこれを目的に俺の妹を交換材料として暗殺部を使って捕らえさせたのか。俺のレメゲトンを欲するために。

「互いウィンウィンじゃないか。お前は可愛い妹を取り返し、我は新創世記の神になれる。お前は、古い現代期の余生を妹と過ごすがいい。我は究極の鍵を差し、誰も見らぬ知らぬ未開の世界で神となり、創世記を始めるのだからな!」

未開の地でヤロベアムが創世記を作れば、その世界に住むヒトビトはヤロベアムに邪悪な支配を受けてしまう。それこそ究極の暗黒時代だ。

「この宇宙はとても汚い……悪が許されない風潮が異世界にある。ならば、未開の地に悪の華を咲かせ、息を吸うような虐殺や暴力で繁栄する悪の美しい時代を一から創るのだ。そうなればもう誰も正義は育てまい! 悪が空気となるのだ!」

「悪の華は咲かせない! 貴様なんかに創世記を担わせるか……!」

「〝正義〟は可能性から根絶やしにせねばならん! だが、もうこの宇宙は根っこから正義がある。いくら我でも引っこ抜くことはできん! だから正義の根が一ミリも存在しない創世記を創らなければならないのだ!」

根っからの悪魔だ。未開の地で自身が神となり、悪の創世記を始めたら、もうその地に未来はない。だからこの俺がヤロベアムを倒さなければならない。これ以上、悪で苦しむ者が増えてはならない。

「それともなんだ。お前の妹の命が欲しくないのか? 命よりレメゲトンの方が愛着があるというのなら、メナリクは我の妻にしてやってもいい。まあ、身体が人間だから悪魔に造り直すがなぁフハハハハッハアハハハハハハハハ」

「どこまでも……ゲス野郎が……!」

「クフゥハハハハハハハハハハハハハハ! あああもっと褒めてくれ! 罵るがいい! 悪魔にとって、罵声こそファンファーレなのだクハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

確かに、俺はレメゲトンよりもメナリクの方が大切だ。だからといって、すんなりとこいつにレメゲトンを渡せば、ヤロベアムの野望が達成してしまう。俺としてもそうはさせたくない。今の俺には、メナリクかレメゲトンか、地獄の天秤で吊るされている。妹を取るか、未来を取るか。

「あぁまあいい。引き渡しは七月の二十七日。我はメナリクを持って、エチオヴィア王国のエルタアレ火山にて待つ。その日に来なければ、メナリクは我が妻にしてやる。悪魔に造り変えてな……」

「メナリクは絶対に渡さん! だが、レメゲトンも渡したくない」

「じっくり悩むがいい。だから三週間の猶予を与えた。どうだ、我は優しかろう……?」

「黙れ! このクソカスが!」

ヤロベアムは金の盾を振るい、俺をかっ飛ばすも、空中で態勢を正し、床に着地する。間合いが離されてしまったが、もう一度攻撃すればいい。

『起きて! 起きてレハベアム! どどどどどどうしよう……魘されているのに起きないよ!』

『待って落ち着なさいフェニ。起きないのなら、無理矢理起こすまでだわ』

この夢の空間外からフェニックスとウァサゴの声が内に響く。

「なに、なぜあの二人の声が?」

「クフフフ、どうやらお前は我と一緒の空間の夢を見ているから、それが悪夢になっているようだ」

ヤロベアムが夢に映れば賛同一致で悪夢なのは間違いない。とても不愉快だ。そうか、俺はヤロベアムが用意した悪夢に閉じ込められ、現実で魘されている俺は起きられないのか。

「我もお前が居る夢は実に不愉快だ。しかしまあいい、我から伝えたいことはきちんと伝えた。では、七月の二十七日、エルタアレ火山でメナリクと一緒に待っているぞ……」

最後にそれを言うと、ヤロベアムの背後に扉が出現した。ヤロベアムは扉に振り向き、扉へ進んでいく。

「待て!」

ヤロベアムを逃がさないため、俺はヤロベアムに走った。しかし、途中で走ることをなぜか辞めてしまった。

「ううっ……な、なんだ。なんか、い、痛い……」

物凄い腹痛が俺を襲い、走る体力や意識が軒並み低下。やむなく膝を床に下ろし、激痛に苦しむ。おかしい、俺は夢を見ているはずで、最初に痛覚を確かめた。だが痛覚は無かった。ではこの痛みはいったいなんだ。

 その間もヤロベアムは扉に進み、遂に中の道に入ってしまった。

「ま、待て……ぐ、ぐふぁ……!」

遂に吐血。夢の中で血を吐いてしまい、白色の床は赤く染まってしまった。そしてヤロベアムが進んだ扉は閉じられ、その扉も無に消えてしまった。

「逃がしたか……だが、この痛みはいったい……まるで殴られている気分だ!」

何度も腹に謎の正拳突きが炸裂している気分だ。

 しだいに眠気も襲い、跪いた姿勢からうつ伏せに倒れ、重力に従って重い瞼も閉じられてしまった……。








自身が小説世界のキャラクターであることが判明したレハベアムは、読者世界で台本通りにシナリオを進められる最中、キャラクターとしての心が作中でメメタァな発言(―で囲っている文章)をしていますね。当然、読者世界にいる読者たちは、レハベアムのメタな発言は目に見えていません。


 いよいよレハベアムが悪魔として生まれた存在ヤロベアムが公に姿を現しましたね。レハベアムとヤロベアムの因縁に目が離せないよう、今度も書いていきます。








 それはそうと、皆さんに謝ることがあります。投稿スペースが思いっきり空きましたこと申し訳ございません……!!!!

(建前)くっ、せめて先生たちからの愛が込められた宿題とオンライン授業さえ無ければ……

(本音)なんか筆が進まなかった。


なんにせよ言い訳にならないよう、まだまだ書いて続けるつもりでございます! ではまたお会いしましょう

 

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