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燃える大都市。多くのビルが崩壊している中、看板を見てここが今どこなのか理解した。博多駅と書いているが、もはやこのステーションも復旧は目途が立たないほど全壊だ。
その博多駅の駅前広場にて、蒼炎の大打撃を受けた魔獣が倒れている。その魔獣の前に、能力者及び小説から召喚されたらしき者二名が立っていた。
「おい、大丈夫か!」
俺たちはやっとこさ駅前広場に着き、二人の安否を聞く。すると二人は振り返り、俺たちの存在に驚いた。
「なに、俺たちが見えるのか!」
その男は、黒い着物の上から青い警官服を羽織り、頭頂部には立派な一本角が生えている。右手に刀、左手にとても重たそうな金砕棒を持って、しかも蒼炎を纏っている。武士らしくも警官らしくも鬼らしくもある筋肉ムキムキな漢だ。
「あっ、やっぱりあなたたちも……!」
女性は何やらフード付き赤いパジャマ服を着ており、上にピンク色のもふもふなマントを着ている。一見して、戦場に寝泊まりしにきたのかとふざけた恰好だが、右眼が蛇の瞳で、右眼周りだけが赤い鱗に覆われている。そして右腰のホルスターをぶら下げ、両手にリボルバー式の大きな銃と剣を持っている。
俺たちと謎の能力者は近くに会い、とりあえず話を聞く。
「なんだかお前ら、特別な雰囲気出してるな。なんかこう、異世界感というか、この読者世界に釣り合っていないというか」
「どうやらそのようだ。その言い方から察するに、二人も小説から読者世界へ召喚されたのか?」
「ああそうだぜ。まったく奇妙だよな。まあいい、俺の名は土方 歳弎だ」
「私はアンナ・ジークフリーネ・レンナーです。よろしくお願いします」
黒い着物を着た鬼のような漢が土方 歳弎という如何にも和の国っぽい名前。そしてパジャマ姿の女性がアンナ・ジークフリーネ・レンナーと、服装に似合わずカッコイイ神話そうな名前だ。
「レハベアム・モーヴェイツだ」
名乗られた以上、こっちも名乗り返すのが定石。もっとも、俺からも名乗りに行こうと思っていたが、この人たちは人が良さそうだ。
「私はワユ・アースサノだよ!」
「セロコック・スキールニリ・ストゥルルソン。スキールニリと呼んでくれ」
相変わらずと言おうか、ワユはフレンドリーに歳弎とアンナに近寄り、握手を求めた矢先。この場にいる戦士五名の耳は全員一致に音を拾った。心臓が動いた音だ。俺たちは零点一秒後に戦闘態勢に入り、倒れている魔獣へ睨みつける。
心臓を再発動させた魔獣は、倒れた姿から立ち上がり、顔の瞳で睨みつけ、腹に生えている口から威嚇してきた。
「ぐうるるるるるるる……」
俺は右肘を下にし、レメゲトンの呪文を詠唱する構えに。左手に持つダーインスレイヴに血を充満させ、肘を軽く曲げて薙ぎ払いする態勢に入る。
「どうやらまだ挨拶とか長話は一旦抜きのようだな」
土方 歳弎は中腰になり両足を広げる。左手に持つ金砕棒の先端を前に差し、右手を上斜めに掲げ、刀の切先を魔獣に向ける。
「まずはこの魔物を一緒に倒しましょう!」
アンナは左腕を下に伸ばし、左手に持つガンブレードと垂直にする。右前腕を上げ、右手に持つ大きな回転式拳銃をいつでも撃てる体勢に入る。
「ああ、共に戦うぞ」
スキールニリは右肘を軽く緩め、黄金の細剣の針先を魔獣に向ける。いつでも突く態勢に入った。
「謎の異世界で、初めて会う味方五人との共闘。武者震いするね」
ワユは中腰に構え、上半身を横にし両手で黄金の刀を持つ。
ここがどこだか知らないが、燃える都市や博多駅とかいう場所は未だに人間の悲鳴が鳴り止まず、恐怖と混乱が混ざり合ったカオスとなっている。
「……俺が助けたい目標の人間界とは違うが、それでも、助けたい人間は同じだ」
身体中の闇の魔力が漲り、レメゲトンから黒い霧が溢れ出てくる。
「人々に恐れを入れる悪を断ち、救出を成功させる。たとえ俺が知らない人間界であっても、俺の気持ちに何らかの変化はありえない……!」
五人の謎の作家から召喚された、小説世界より現れた俺たち五人。VS、異世界ホールから現れた謎の魔獣。この魔獣も小説世界から召喚されたのだろうか? 戦場は俺たちが勝手に命名した謎の人間界、読者世界。小説世界では作家たちに台本通りに運命を操作されたが、作家が住む読者世界で出会ったこの数奇な運命は、いったい誰が操作しているのだ。誰の意図が混ざり合っているのだ。この問題は、俺たちが活動する小説世界単体だけの事件ではない。何かもっと巨大な真相が俺たちを駒のように動かしているに違いない。それをはっきりと暴くためにも、この魔獣を倒す必要がある。この地に住む人間たちに被害は与えさせない。
「行くぞっ!」
「おうっ!」
「はい!」
「ええ任せて!」
「我らは負けない!」
ほぼ初めて会う俺たちだが、まるで戦友のように高純潔な戦意が完璧に重なった。
やはりこの者たち、見た目以上に強い特別な雰囲気を肌以上に心で感じる。初会感は全くしない。前々から知っていたような、記憶にない感情が足の底から湧き出てくる。
「……ふっ、楽しくなってきた」
対する魔獣は負けじと威嚇を発し、背から蝙蝠のような翼が生えた。力強く羽ばたき、魔獣は宙に浮いた。
「あ、野郎……! 距離を取る気か」
両手に近距離系の武器を二つ持つ土方 歳弎が表情を濁らせる。ワユやスキールニリもあまりよろしくない表情だ。ただリボルバーガンを持つアンナはさほど大した反応は示さなかった。
だが、宙を舞い俺たちから距離を取った魔獣は、再度口腔に火炎を溜め始めた。反応を変えなかったアンナも、流石に拳銃では太刀打ちできないと思ったか、同様に表情を濁らせた。
「あいつ、都会を燃やした火炎玉を放つ気だ!」
スキールニリが魔獣の攻撃を察する。確かに、近距離で都市を破壊した火炎玉を受ければ、俺とてただでは済まない。即死間違いない一撃を受ける。
しかし俺は冷静に前に立ち、右手に持つレメゲトンを開き、第四部を詠唱する。
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
すると俺の足元から紫色のホロスコープ型の魔法陣が出現し、前方に闇の真っ黒な壁が現れた。
「な、なにこれ……? なんか不気味ぃ」
「第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』。この闇は如何なる能力や魔法を受け止め、無力化する。都市を焼ききった業火も無駄だ……」
魔獣は口から俺たちへ火炎玉を吐いた。火炎玉は闇の壁に激突するも、一切ビクともせず頑なに受け止め、更に火炎玉が闇の壁に吸い込まれていく。
「す、凄い……! 確かに火炎玉が魔法に消えていきます!」
アンナが俺の魔法に感動。その直後に、俺が言った説明に疑問点があったのか、俺に聞いてきた。
「ですがさっき、如何なる能力も無力化するって言いましたね。それってつまり、私の能力も封じてしまうってことですか?」
理解力や洞察力が高い剣銃使い兼能力者というわけか。まさにお察しの通りだ。
「ああ。だが、この闇魔法は相手や能力に触れなければ効果は発動しない。この火炎玉は俺が創り出した闇の壁に触れたことで、無に還った。相手には強い分、味方まで能力を封じる欠点がある。勿論、味方がうっかり触れないよう、闇を操作するつもりだから安心してくれ」
俺が詠む五つの魔法の内三つが、味方にまで影響を及ぼす場合が多い。影響を及ぼさない範囲の第一部『ゴエティア』も、射程に味方がうっかり入ってしまえば、味方諸共相手を殺してしまう想定外のケースもある。だから事前に俺の闇魔法は説明しておく必要がある。
「へえええすげぇな。まさにザ・ファンタジーな魔法だな」
魔獣は火炎玉が一方的に吸収されかき消されてしまったことが理解できず、次に雷や水砲弾を放った。だが無駄だ。雷も水も闇の壁の前にはあまりにも無駄で、貫通はおろか感電や濡れることすらせず、無力化されている。
「なんて頼もしい壁なんだ。ただ闇というのが気になるが……」
如何にも高潔な正義感を持つ女騎士スキールニリが闇魔法に少し気を引く。確かに闇魔法は主に悪者が扱うイメージがあるだろう。事実、俺の血筋は悪に染まった魔王一族だからな。
「奴め、炎だけならず他の魔法弾も放ってくるとは。だが、俺の敵ではない」
こちらも反撃だ。奴が宙に空を飛ぶというのなら、俺も闇で空へ飛ばしてみせよう。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」
レメゲトンから七百二十体の紙ドクロを宙に出し、宙に待機する魔獣へ飛ばす。
「なに、この気持ち悪いドクロの群れって、お前の魔法だったのか!」
先に戦場に到達していた歳弎やアンナは俺のドクロを目視していたか。どのみち、俺はこの魔法で二人を探す予定だったが、まあ流石に驚かれるか。しかしスキールニリや歳弎め、闇魔法自体が悪いイメージと根強いからと言って引くのはやめてくれ。俺にとっては生まれつき肌にあるような離せない大事な魔法なのだ。
「最初は監視という小手調べだったため、数は出していなかったが、今回は七百二十体の紙ドクロを出した。まだまだ序盤な数字だが、あの魔獣には十分だろう」
最大一億ページ分の紙ドクロを出せば、国の一個や二個消滅することも容易いが、その分俺の魔力を大幅に消費する。だが、魔獣如きならその程度の軍隊でも問題はない。
七百二十体の紙ドクロはあっという間に魔獣を完全包囲し、闇のレーザーを放つ。先ほどの包囲網より数が多いと恐れたか、魔獣は翼を羽ばたかせて高速により空へ昇り、包囲網から無理矢理逃げた。
「あっ! あの魔獣、ドクロ軍団の包囲網から抜けたよ!」
「ああ、そうだな」
包囲網から脱出されたことは俺にとってさほど大事ではない。むしろ魔獣の体力を無駄に消費してくれた方が嬉しい。なぜなら、逃げることも想定して包囲網外に、生き残っていた一体の紙ドクロを上空に配置させていたからだ。
「逃げた魔獣の翼を断て」
魔獣は上空へ雲を突き抜けたが、その先には紙ドクロが浮いており、出会い頭にレーザーを放った。着弾点は魔獣の左翼の根本。それさえへし折ってしまえば、奴はもう空へ飛べない。
「俺に攻撃することも闇から逃げることもできない。行く果てのない混乱の迷宮に入るがいい……」
紙ドクロはレーザーを払い、左翼を断った。断たれた左翼は無様にも千切れ、魔獣は落ちた。
「ギュビイイイイイガアアアア……!」
一つの翼のみでは空は飛べまい。重力に従って地上へ落ちてしまう魔獣。奴の落下中に七百二十体の紙ドクロが地上に配置し、背に向けて一斉射撃。
一斉に放たれた七百二十本のレーザーは落下中の魔獣の背に直撃、したかと思われた。
「ギュガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
腹の口から光の帯を放ち、背を覆った。
「なに、あいつ光属性まで出せるのか!」
光を覆った背へ闇のレーザーが当たるも、光の防御によって威力が半減し、貫通に至らなかった。
魔獣は光属性まで操ることができ、しかも闇属性を光で防ぐ知性まで備えている。弱点を突いても、その弱点で補う賢さがある。
「なんでも出せるのあの魔獣?」
「悪いが、俺の闇魔法は如何なると言ったが、光は防げないんだ」
闇魔法の弱点は光。深い漆黒の闇でも光によって溶かされてしまう。
「な、なんだってぇ!?」
七百二十本のレーザーによる貫通攻撃を防いだ魔獣は地上に着陸。頭に生えている瞳で俺を睨みつけ、走ってきた。更には俺の弱点を知ったうえで、右拳に光のエネルギーが覆っている。光の鉄拳で俺を潰す気だ。大きな足で地を連続で蹴り、地鳴りが凄まじく、こちらへ突進してくる。
「それに、俺の闇はあくまで能力や魔法のみを防ぐ効果。物理だけは防ぐことはできない!」
もう一つの弱点が物理攻撃。能力や魔法には滅法強い分、物理攻撃だと闇の壁は容易く砕かれてしまう。光まで加われば、俺の闇魔法では太刀打ちできない。
と、そこにスキールニリが俺の前に立った。
「十分だ。お前は我々を護った。残る弱点は光と物理。それを補うのが我々の仕事だ」
冷気を覆う針先を迫ってくる魔獣に向けた。スキールニリは魔獣の攻撃に秘策があるようだ。
「お前の闇が魔法攻撃に強い分、物理攻撃に弱いというのなら、私の氷はその逆……」
細剣の針先から分厚い氷の壁を出した。魔獣は光の鉄拳で氷の壁を殴るが、壁は一切揺れ響かず、衝撃を真っ向から余裕で耐えた。
「なんて頑丈な氷なんだ!」
「主君を護るための氷の盾。硬くなければ護れはしない。無論、炎には弱いがな」
主君を護衛するために頑丈に磨けられた氷の盾。なるほど、流石は騎士だ。その冷たく厳格のある性格はまさに氷を強く象徴していると言える。
「おっと、逃がすか」
氷の壁から氷が発生し、殴った魔獣の手を凍らせ、壁に固定させた。
「ギュビビガガガ……? ギュギュグギギギギギギッギ……!」
左手で、氷の壁に張り付いた右拳を抜こうと引くが、氷の頑丈さによって抜けない。苛立つ魔獣は腕に筋肉を分厚くさせ、再度引こうと努力するが、やはりどうしても右拳を抜くことができない。
光と物理に弱く、能力と魔法を無力化する闇の壁と、炎に弱く物理に滅法強い氷の壁。俺の弱点をスキールニリが防いでくれるのであれば、スキールニリの弱点は俺が護ってくれよう。今は協力して戦ってくれる味方。俺も全力で協力してみせよう。
「スキールニリさん、そのままお願いします!」
魔獣が氷によって近接で手こずっている間に、アンナが前へ名乗り出た。氷の壁の外側に回り、回転式の大きな拳銃を魔獣に向けた。しっかりと銃口を頭に差し、引き金を引くと爆発。銃口からマグナムが放たれ、ピンク色の弾道が生じた。
「ピンク色の弾道……?!」
遠くからしか見ていないが、あのピンク色の弾道はアンナの仕業だったのか。それに命中した魔獣は寝てしまったが、やはり能力なのか、魔獣は氷の壁に前のめりになって寝た。
「夢の夜想曲……!」
アンナが能力名らしきものを言うと、アンナの身体からピンク色のオーラが現れた。そして同時に、魔獣の頭から吹き出しが現れ、その吹き出しの中には、魔獣が目覚めたまま棒立ちしている。
「アンナ、これはいったい?」
ワユがアンナにこの能力の説明を求め、アンナは口早く語った。
「私はトラオム・ノクターンという、眠らせた相手に夢を見せる能力を持っています。眠った相手に夢を見させています。あの吹き出しが魔獣が見ている夢です」
マグナムで眠らせ、眠った相手に夢を見せる能力。吹き出しが相手が見ている夢の映像。そう聞くと、なんともヘルメンチックな可愛い能力と思った矢先。あの吹き出しの中に紙ドクロの軍団が映った。俺は何も詠唱も操作もしていない。
「なに、俺の魔法が……?」
「いいえ、これは私が操作する夢の一部です」
すると吹き出しの中で、紙ドクロ軍団が魔獣目掛けてレーザーを一斉狙撃。多くのレーザーが魔獣を貫き、痛そうにダメージを表情に出す。夢の中でダメージを受けていると、眠っている側の魔獣も同じ表情になり、夢の中の攻撃に魘されている。
「夢の中のダメージは眠っている相手への精神攻撃。だから魘されています。そして、眠っている相手は隙ががら空き。この間に皆さん、好きなだけ大ダメージを与えてください!」
眠っている相手に攻撃をしろと言うアンナに、歳弎が当然のように質問する。
「眠っている相手に攻撃したら、目覚めるんじゃねぇか?!」
眠っている相手に大胆な行動すれば、不意に目覚めるのは当然だ。本来、眠るという行為はその人が安心して眠るもの。その際に物音に目覚めれば、それは安心が不安へ切り替わり、敵意を表すのだが、アンナはまるで違うと言いたげな表情だ。
「私の夢の夜想曲は、そう安々と目覚めることは決してありません。たとえドリルで身体を貫こうとも、相手は起きることはありません」
そう言うと、アンナはガンブレードを上げ、寝ている魔獣の腹に大振りして斬ってみせた。大振りから成る大胆な一閃に、腹の口に縦の傷口が開かれ、血を噴き出した。しかしそれでも魔獣は目覚めず、吹き出しの中による夢のダメージで魘されているままだ。
「す、すげぇ……!」
「ホントだ起きない……!」
確かに、斬撃でも起きない頑な夢だ。能力でなければ納得できない夢だ。
「私は、眠らせた相手に夢の中で精神攻撃、現実で物理攻撃して、ダメージを二倍にする戦法を使っています。そして」
アンナが左手に持つガンブレード。それの引き金を引くと、火薬が爆発し、剣身にピンク色のエネルギーが覆った。その状態で、ガンブレードの剣身を皆に見せつけた。
「そして最後は、相手を夢から覚ますことを条件に、この斬撃で斬ることで、特大のダメージを負わせます。二倍と特大のダメージで魔獣に大打撃です」
なるほど。アンナ・ジークフリーネ・レンナーの戦い方が理解できた。まずは相手を眠らせ、夢の夜想曲によって夢を見させる。夢の中で相手に攻撃を操作し、精神攻撃を与える。一方、現実では眠りから起きることのない隙だらけの相手に、好きなだけ攻撃を与え、夢と現実で相手は二倍のダメージを負わせる。そして、最後は相手を起きらせる代わりに、剣身を覆うピンク色のエネルギー斬で、二倍の連撃ダメージと一緒にもっと特大のダメージを与えるというわけか。とんでもなく恐ろしい能力だ。
「目には目を、歯には歯を、悪夢には悪夢を……それが私の夢です」
悪を行った者に激痛の悪夢を見させ精神攻撃。まさに悪夢には悪夢をか。上手いな。
「さあ皆さん、相手は起きないということは証明しました。好きなだけ、大打撃をたっぷりと……!」
そう言うと、ワユと歳弎が戦前に立った。ワユは左手を柄から離し、右手で黄金の刀を回転し始めた。
「ふっふっふ、じゃあ眠っている悪い子に、たぁっぷりと悪戯をしちゃおっかな」
歳弎は、左腕と金砕棒に蒼炎を大量に送り込んだ。すると、左腕の筋肉が更に分厚くなり、金砕棒を軽々と振り回す。
「そんじゃあよう、デケェのをぉ、一発、武っパなすぜっ!」
次に両脚に蒼炎を送り込むと、両脚の筋肉も大きくなった。そしてその脚力で歳弎は高く高く跳んでみせた。その飛距離は上空の雲貫く手前にまで至る。
「なんていう身体能力……!」
ウァサゴが時の力による早送りで、脚に二十四時間分の力を一秒に短縮したときの脚力とほぼ同じだ。あの歳弎とやらも、自在に筋肉量を増やせるのか。
対して、ワユが回す黄金の刀から、微小で細かい斬撃波がワユ周辺に拡散した。
「よぉおおし、斬撃チャージ完了……!」
ワユが斬撃とやらをチャージし、刀の回転を終えた。すると刀身の周りには、ワユ周辺に漂っていた微小な斬撃波が集中している。うっかり刀身に指を近づけば、指全体に無数の深い切れ目が入りそうだ。最悪、指の細胞全てが斬られ、指そのものが塵になるほど。
いったい、ワユと歳弎は何をしでかすつもりだ。まるで大打撃をするためのルーティンをするかのようだ。二人の大打撃チャンスに、俺たちはよからぬ結果を脳裏に思う。下手したら、俺たちをも巻き込みかねない、正真正銘の特大大打撃が来るのではないかと。
「一旦、二人の攻撃から退避しよう……!」
「ああ、何か嫌な予感がする……!」
スキールニリとアンナは、俺と一緒に一旦退避し、ワユと歳弎の大打撃アタックを見守ることにする。
「行くぜおいっ! 一気に、デケェ一撃を武ちかますっ!!」
今度は上空から、空を蹴り、真下の眠る魔獣へ急速に落下。その際に、蒼炎で燃える左肘を引き、金砕棒で突く構えに。
対してワユは、右手に持つ黄金の刀の切先を天空へ差した。
「だったら、こっちもデカい斬撃を落すよ……!」
ワユも何か能力で魔獣へ攻撃する態勢に入った。自信満々なあの姿勢、やはりとんでもない一撃が飛んでくるはずだ。
高速に落下する歳弎の間合いが、眠る魔獣の頭上に入った。そのタイミングで歳弎は左肘を伸ばし、
「鬼門破城鎚ッ!!!」
技名をしっかりと怒鳴り、力強く蒼炎で燃える金砕棒を突いた。
時を同じくしてワユは、天に差す刀を思いっ切り力強く下へ振るった。だがおかしい。ワユが振るった斬撃には、軌跡が無かった。
「ムラクモカリバー……!」
振るうと同時に、まるで軌跡が天空へワープしたかのように巨大な斬撃が出現し、眠る魔獣の頭へダイナミックな唐竹が下る。
歳弎の鬼門破城鎚による超特大大打撃と、ワユのムラクモカリバーによる超特大大斬撃。二つの一撃が同時に、眠る魔獣の頭に衝突。その圧倒的な二つの衝撃は、魔獣の身体に激震し、更には地面までが大きく揺れる。突風も嵐十個分の威力で、辺りの破片や炎がまとめて空の彼方まで消し飛んでしまう。
「危ない……!」
一瞬早く、スキールニリが再度氷の壁を展開。凄まじい突風から氷の壁が俺たちを護ってくれるが、頑丈さを謳う氷の盾でも軽い亀裂が生じてしまうほどの威力。
「なんてありえない威力を出すんだあの剣士たちは……!」
突風や地震が収まると、辺りはあっという間に深いクレーターの陥没地帯。その中にワユと歳弎と、未だに眠るう仰向けの魔獣がいた。歳弎の蒼炎で溶けたか、氷の壁が消滅し、右拳が解放されている。
「おい女侍。なんだいまの斬撃はっ! 天空から巨大な斬撃が来てびっくりしたぞ!」
歳弎が金砕棒で突いたその隣で巨大な斬撃が舞い降りたのだ。驚くのは当たり前だが、怒るどころかニヤリと笑みを浮かべている。
「えへへ、これはムラクモカリバーっていう、私の能力なんだ」
「ムラクモカリバー?」
「うんっ! 斬撃を自在に操るんだ。斬撃の軌跡の方向を変えたり、斬撃そのものをチャージして、一気に斬撃を大きくしたりして叩っ斬るんだよ」
そう言えば前にツルギガミチ アヤバの背後に回り、ワユが主人公の小説の一部を読んだ。そのとき、ワユは最初に斬撃を変えた描写を見たが、あれがそうだったのか。ムラクモカリバーとは、能力の名前だったか。
「斬撃を操る? どういう意味かよく分からねえが、とにかくすげえ能力だってのはよく分かった」
「ってかトシゾーも凄いパワフルだったね! その炎熱くないの?」
「いいや全然。この加具鬼炎っていう鬼火はな、鬼の身体を燃やすことで、意図的に火事場の馬鹿力を発揮させるんだ。そしたら筋肉量が拡大に大きくなって、よりデケェ一撃を武っパなせられるんだぜ」
歳弎を覆う蒼炎とは、鬼が出す火、加具鬼炎という能力なのか。歳弎が自身の肉体に加具鬼炎を纏うことで腕や脚の筋肉が分厚くなったのは、火事場の馬鹿力を発揮させていたから。頭上に生えている鬼の角も、彼が鬼であるなら納得だ。
「へえええ凄いねっ! なんか羨ましいかも」
「やめとけやめとけ。この鬼火は鬼の専用特権なんだ」
斬撃を操作するワユと、筋肉を操作する歳弎というわけか。どちらもパワフルでダイナミックな戦法を取る剣士。味方ならばとても頼もしい二人だが、少しは味方に来る影響を調整してほしいものだ。
それより、通常なら巨大な魔獣百人分が滅びるレベルの一撃が与えられたはずなのに、魔獣の頭にはいまだに吹き出しがあり、吹き出しの中で未だに苦しみ、現実で魘されている。まだ生きているとでもいうのか?
「なんて耐久力持っているの……? あんなありえない大きな大打撃を受けてもなお、夢が消えないなんて!」
アンナの反応から見るに、やはり魔獣は生きているのか。とても信じられない耐久力と生命力を持った魔獣だ。
「だけど、物凄く良い大打撃を受けたから、夢の中でも同じ再現したら、流石に死ぬと思います」
するとアンナの身体から再びピンク色のエネルギーが湧き出てきた。能力である夢の夜想曲を脳内で操作しているんだ。
魔獣の吹き出しには、ワユと歳弎が与えた超絶特大級の大ダメージの映像が流れ始めた。現実で受けた一撃を今度は夢の中で再現し、夢の中で魔獣がその一撃を受けている。
「グッ、ギュギャギャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……! グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!」
流石の魔獣も夢の中で超絶特大級の一撃を与えられては、魘されて恐怖で声を上げてしまうか。しかし、それでも目覚められない魔獣は、夢の恐怖から逃げられない。夢に縛られるとはなんとも恐ろしい力だ。
「よし、現実と夢、双方で圧倒的な深手を負いました。あとは私のバルムンクで斬り裂けば、あの魔獣は倒せるはずです」
バルムンクと言うのか、そのガンブレードの剣身にピンク色のエネルギーを覆った状態で眠る相手に斬り付けると、相手が起きる代わりに特大ダメージを与えるというトドメか。
「よし、では行くがいい!」
「はい」
アンナは氷の壁の防御範囲から戦前へ走り向かった。眠る魔獣へ一直線に走り、ワユと歳弎の側へ過ぎ去る。
「いっけえええ!」
「トドメを武ちかませ!」
アンナは眠る魔獣を間合いに入れると、跳んで、魔獣の腹に生えている口、その口腔へ落下。ピンク色のエネルギーを覆った剣身で口腔の奥、咽頭へ突いた。その瞬間、魔獣の瞳が目覚めたとき。
「ギュガガガガガアアアアアアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!!」
目覚ましによる特大ダメージで魔獣は特大級の断末魔をあげ、大激痛を全身で味わい、身体が激震している。アンナはさっさとバルムンクを抜き、腹から降りて、間合いを取る。
「どうですか、悪夢による精神攻撃と現実のダメージ。あなたが見た夢はもう既に正夢になっているんです」
夢で見たこと現実になるのが正夢。確かに夢の中で魔獣はワユと歳弎の超絶特大級の一撃を与えられ、現実でもそれを味わっている。夢の出来事と現実の出来事が同時に正夢として重なっている。
「そして、バルムンクに仕込んでいるこの獏型マグナム。肉ごと、あなたの悪夢を喰らいました!」
ガンブレードバルムンクのシリンダーには、獏型マグナムという、相手を夢から起こすことを条件に特大ダメージを与える火薬が入っているのか。獏は夢を喰らうという。とても考えられたネーミングセンスだ。
「次は、無限に終わりのない死への夢でも見ていてください」
第五章のメナリク・モーヴェイツ編にモツ煮様が挿絵を描いてくださいましたが、実はレハベアムの隅っこに魔術書レメゲトンが描かれていたんですよねっ!
レメゲトンのデザインが下になります。めちゃめちゃカッコイイですよねっ!なので、レメゲトンの魔法の解説文もまとめたので、豆知識として読んでいただければ嬉しいです。
レメゲトン
※左が表紙 右が裏紙
魔法陣
~魔法一覧~
★第一部『ゴエティア』
→七十二本の柱槍を放つ。魔法でありながら魔法弾ではないため、物理攻撃に分類され、無力化はできない
……エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり
★第二部『テウルギア・ゴエティア』
→超巨大な暗黒星を落し、世界を完全に滅ぼす。落す位置の微調整で世界を壊さずにすることもできるが、落された地は広大なクレーターが生じ、自然が二度と回復しない地となる
……穢れ有き醜悪なる魂に、悲しみの闇を身に包みし、地獄に示したまえ。穢れ無き善良なる魂の恨みを、悪魔に示せ。悪魔に虐殺されし魂の涙を拭く時来たれり。罪無き逝った魂の願いを叶える時来たれり。
今こそ、全ての悲しみが終わる時、来たれり。悲しみに満ちた天国からの裁きが下る時。血塗られた哀れな世界を滅せよ
★第三部『アルス・パウリナ』
→レメゲトンの紙をドクロに変えて外に飛ばし、遠隔監視、遠隔射撃を群れで行い、口から貫通力に優れた闇のレーザーを放つ。各紙ドクロたちの視神経は魔術師に繋がっており、魔術師本人は遠くから監視することができる。魔術師の指示や各紙ドクロの自動的な良判断で相手を徹底的に追い詰め、数で囲い込み、全方位からレーザーを放つ
……我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ
★第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』
→魔法や能力が触れたら無力化する、固体や液体状に形状変化ができる闇を生成する。闇を床全体に広げて、地に立つ者の能力や魔法を封じ込めたり、足元から鎖を出し行動を縛ることが可能
……我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ
★第五部『アルス・ノウァ』
→左手に赤い魔力を集中し沸騰させ、殺害歴豊富な相手に触れると、殺害に応じて爆発する。又、その地での死亡数が多い地に触れると、地に亀裂が生じ、死亡数に応じて死者の叫び声が放たれる。それを聞いた者は、死への恐怖に飲み込まれ、精神が崩壊してしまう
……憎き大天使ミカエルよ。 光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ
~その他能力~
モーヴェイツ家の悪魔の血を持たない者がレメゲトンに触れたり当たったりしてしまうと、生命力を根こそぎ奪われてしまい、しばらくの間活動不可能に陥ってしまう。




