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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第死章 淫魔護衛編
58/88

五十八話 ロフォカレの兄

「……さて、これで卑猥運動に終止符を打つことが出来たな」

オロバスが死んだ今、作戦は無事に断つことができた。男性器も溶けたことだろうし、遺伝子配りも阻止し、銃火器や兵器が生えた最強の子供軍団の未来も閉ざされた。これにて魔神マシンオロバスの時代へ進むことがなくなり、完全に俺たちの勝利、善魔生徒会の大勝利だ。

「念には念を、あの機体を完膚なきまで潰しておくか。もしかしたら暗殺部が取り戻しに行く可能性がある」

オロバスが溶けたことで、あの機体はもはやただのガラクタ。しかし厄介な銃火器を揃えている。誰かの手に渡らないように、今のうちに機体を潰して、再生不可能にまでしてやろう。

 天界の王子となっている今でも、右手にはレメゲトンが召喚できる。まるで光と闇の属性を両立しているような感覚だ。今の俺なら、闇魔法で相手を封じつつ、光の力で悪魔を叩きのめすことができるかもしれない。

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり」

第一部『ゴエティア』を詠唱し、俺の背後に魔法陣を出す。あとは俺の指示で七十二本の柱槍を放つだけ。そうすればあの機体は木端微塵に砕けよう。

「まあ待ってくれ、レハベアム」

そのとき、背後から低く若い男の声がした。咄嗟に振り向くと、溶けた城門から照らされている運動場へ男が歩み寄ってきた。その服装は獄立ゲーティア高等学校の黒い制服で、髪色は白かった。

「あ、アンドロマリウス……!」

ゲーティア高校の運動場でウァサゴと戦っているとシトリーから情報を聞いた。そんなアンドロマリウスがなぜサキュバス専門学校に来たのだ。いや、それ以前に、ウァサゴと戦っているのならば、ここに来れるはずがない。

「咄嗟に嫌な予感がして、ここに瞬間移動してみれば……なるほど。この光」

俺とオロバスの死闘を、アンドロマリウスは照らされる光を見て納得をした表情に。するとアンドロマリウスは日差しを精一杯浴びるように背伸びした。

「……ふう、やはり太陽の下で背伸びは気持ちいいものだ」

「せ、聖域の中で背伸び……やはりお前は……善魔っ!」

光を操れる能力に、平和的思考を持つ悪魔は、善魔の証。心臓の中に光を秘めるウァサゴや、死者の魂を労わり聖なる力に変えるグラシャ=ラボラスと同じ力だ。

「お前はウァサゴと戦っていたはず。なのになぜお前がここに」

率直な質問をするとアンドロマリウスは腕を下げて、オロバスの機体に向かいながら、素直に答えてくれた。

「ええ戦ってたよ。しかし、南の方向に曇天の切れ目、その上日差しが見えたものだから、まさかと思い、急いで戦線離脱した。ぼちぼちウァサゴも僕を追いかけてくるだろう」

ゲーティア高校の運動場からでも、俺が作った雲の切れ目と日差しが目立っていたらしい。南の方向だと知り、その上天界の王子の冠があるとなると、オロバスの身に危険が迫っているのは誰でも理解できる。仲間の危機を助けるために、ウァサゴとの戦いを一旦中断したということか。

「待てアンドロ!」

怒鳴り声と共に、剛速球に城門から運動場へ走る者が現れた。その者は俺の側で急ブレーキし、凄い土煙が舞う。

「レハ大丈夫ね」

「ごほっ、ごほっ、ああ大丈夫だ。オロバスは倒した」

相変わらず無茶苦茶な登場してくるウァサゴ。噂をすれば影が差すレベルではないド派手な登場だ。オロバスの危機に戦線離脱したアンドロマリウスを追いかけて、ここまでやってきたということか。しかし、時速で移動できるウァサゴ相手に、よくアンドロマリウスは退避することができたな。さっき奴は瞬間移動したと言っていたか、その能力だろうか。

「よし、よくやったわ。じゃああとはアンドロだけね」

土煙が下がり、日差しを再び真に受ける俺たちとアンドロマリウス。だが、アンドロマリウスの表情には一切の動揺や怯えはなく、非常にリラックスしている。それどころか、俺たちをよそ見してオロバスの機体の肩に手を置き、空っぽの身体を見た。

「フーム、なるほど。光の対策は毛ほどもしていなかったということか。じゃあ今度は光対策としてミラーアーマーでも付けさせてみるかな。ただそれだとオロバスが焦げ死にそうだ。ウームどうしようか」

「相変わらずよそ見して……なめるんじゃないわよっ!」

アンドロマリウスのよそ見に苛立ち、ウァサゴが時の力を解放。瞬時にアンドロマリウスの間合いに入り、その拳を放った。だが、アンドロマリウスは手の甲でウァサゴの突きを防ぎ、受け止めた。

「と、時の速さから繰り出される正拳突きを片手で……!?」

そのうえ、アンドロマリウスの手は脱力している。指が下がり、一切の力がない。それなのにウァサゴの圧倒的超速突きを防いだとは、いったい何事だ。

「ち、相変わらず強いわね……兄貴っ!」

「あ、ああああああああああああ兄だと……っ!?」

我らが善魔生徒会会長の兄上が、暗殺部部長という驚愕の事実がウァサゴの口から吐き出された。

「いいや、お前も十分に強い。零点零零零一秒後れいてんれいれいれいいちびょうごに生まれた愛する妹よ」

ということは、あの暗殺部部長アンドロマリウスにも苗字のロフォカレという名が入っているのか。獄立ゲーティア高等学校のツートップ、善魔生徒会会長と暗殺部部長がまさか兄妹、そのうえ善魔だとは飛んだひねくれた運命だ。ていうか零点零零零一秒後にウァサゴが生まれたのなら、ほぼ同時に生まれたようなものではないか。兄妹だとしてもほぼ同時に生まれたのなら同年齢の双子。つまり学級も同じなのは納得がいく。

「力が無い者は未来を変えることはできない。有る者が力を振るい、現実、そして未来を変えられる。お前はその両方を変える力は十分に兼ね備えている。だが、お前は相変わらず力を欲している」

「なにっ……!」

「強欲が過ぎ、信念を無視している。現実を変える素質があるが、お前が好む理想にたどり着くことはできない。お前が進行している覇道とは、力で現実を変えまくり、力で未来を強引に変え、その先にたどり着く未来は力の環境。各々が好きに力を振るい、弱き者は淘汰される……お前が言う真の平和は、その程度なのか? そんな環境では涙が止まないとでも思っているのか?」

暗殺部部長の善魔兄の正論が、ウァサゴの私生活から普段の態度、何から何まで図星が突き刺さっている。ウァサゴは力の加減が非常に下手で、尚且つ力で強引に物事を進めている。それだけに収まらず、非常に厳しいトレーニングを積み重ね、まだ力を追い求めている。ウァサゴへの図星が正論としてぶつけられた瞬間に、敵対している俺でさえ納得のいくというもの。

「違うっ! そんな弱肉強食な環境が平和なわけないでしょっ! 私が進みたい未来は、悪魔の悪事を止めて、悪魔の悪い思考を取り除き、魔界が良い世界に変えることよ」

「理想の設計図が成っていないっ! そんな不安定な道のりで平和への覇道が成り立つかっ!」

脱力したまま防いだ手の甲を払い、突風が生じた。ウァサゴは突風に飛ばされながらも俺の側に着地した。丁寧口調から一変して兄らしく真面目に叱り、あのウァサゴを黙らせた。

「所詮、正の悪を掲げる妹は筋肉単細胞だということだ。未来を視る能力を持ちながら未来を観ない。愚かなこと」

「くっ……! 好き放題言ってくれれば……!」

ここでアンドロマリウスの口から、気になるワードが耳に残った。

「正の悪?」

「君たち善魔生徒会が掲げる正しき悪の事だ。悪という完全な負に、正という、汚らわしい異端のことだ」

「それはどういう……?」

「そもそも、正義と悪は二種類ではない。四つに分けられる。絶対的に正しき正の正義、正当化のみ追い求める負の正義、絶対的に間違った負の悪、間違いを正さんとする正の悪。君たち善魔生徒会は、悪魔でありながら魔界という間違いを正そうとし、秩序が保たれた世界を作り変えたい。そう目的として動いているだろう。それが正の悪」

何やら固真面目に正義と悪の難しい持論を語り始めてきた。悪者が持論を語るとき、何やら相当長い時間をかけて一方的に話したがる傾向があるのだが、果たしてアンドロマリウスはいったい。

「対する我々暗殺部は、絶対的な負の悪を護るために構成された完全悪の組織。正義という剣から、魔界の闇を護るために目的としている。正義とやらは、我々のような悪を毛嫌いし、一方的に悪を滅せようとしかけてくるが、その行いそのものがダメなのだ。正義は平和のためにと悪をその剣で殺し、さぞかしや平和への一歩に近づいたとほざく。正義とは、悪の命を奪う愚か者共。この世に白しか許さぬと思っている現実を見ない者共だ。この世には光と影、太陽と月があるように、白と黒は一方的に無くすことは不可能なのだ。そのような常識すら知らぬ正義の軍団は、根こそぎ悪を殺し、この世から影を、月を、黒を消そうと無駄な努力をしている。自らバランス崩壊を招き入れ、秩序を壊そうとしている。だから悪を護るのだ。正義は………………」

この後もずっと、軽く一時間語りっぱなしだった。アンドロマリウスはまさにその口だった。持論を語るとき、表情はいっさい表れてないが、さぞかし夢中で楽しそうにしていることであろう。俺はもう、後半からはほぼ聞いていない。

 まあ要は、魔界の間違いそのもの、つまるところ負を護るために暗殺部があるというわけか。正の悪とやらを掲げる善魔生徒会や、正義の軍団を暗殺するのが負を護る暗殺部の目的か。

「ねえ兄貴。ちょっと話の路線ずらすの辞めてよ」

「路線? おっとそうだった」

やはり無我夢中に語っていたな。無我夢中に難しい持論を語る兄と我が儘で他のヒトを巻き込む妹。一度路線に入ると勝手に突き走るあたり、本当に兄妹だと思い知らされる。

「とまあ、そういうことで大事な仲間のオロバスが危機に直面しており、駆け付けてみたものの、間に合わなかったということか。だが、オロバスの死体にまだ傷をつけようとするレハベアムよ。これ以上死体蹴りは僕が許さない……!」

仲間意識が高いアンドロマリウスは、魔法陣出しっぱなしの俺に睨み、敵意を示した。

「君だってそうだろう。善魔生徒会の諸君を殺し、僕が仲間を蹴ったら怒るんじゃないか? もっとも、僕はそんな汚い真似はしないが」

「負は悪そのもの。この世から消えるべき存在だ。悪という汚点は可能性から消さなければならない……!」

「正の悪も消えるべきだ。負は絶対的に負でなければならない。どうやら僕は君を過大評価していたようだ。君なら負の悪に染まり、魔王になるのでないかと思っていたのだがな……」

「……っ!」

アンドロマリウスが俺に対し魔王と言ったが、ここは決して表情に驚きを出してはいけない。出せば、俺がそうなるということを認めることになり、その血筋であることを知られてしまう。

「ポーカーフェイスを気取っているのか、無視しているのか、君は本当に謎が多い人間だ。まあ、詳しくは僕らの常連依頼主、ヤロベアムに聞いてみるかな」

「……俺に暗殺を依頼してくる奴だな」

俺の暗殺を頼み、人間界に居るという妹のメナリクを捕らえてもらうと依頼した謎多き者。レメゲトンをも扱える者だ。明らかにそいつは俺たちがモーヴェイツ家であることを知っている。知っているが故に暗殺を依頼してくる以上、そいつはいったい何者なのだ。

「さて、オロバスが死んでしまったことで最強の子供軍団計画が消えてしまった。ここは一旦引いて、また作戦を練り直そう」

アンドロマリウスはオロバスの機体を持ち上げ、肩に乗せた。銃火器がふんだんに装備された機体を持ち帰って、何かを企む気だ。

「むざむざと逃がすわけないでしょっ! このクソつよ兄貴っ!」

ウァサゴが構えた瞬間にアンドロマリウスが掌を差し、止まれと示した。

「僕とお前の戦闘能力の差は明らかだとまだ理解していないのか? 善魔の覚悟が中途半端で信念が足りない時点で僕に勝てるのは不可能だ。この世で非常に愛おしい妹よ」

「くっ……!」

もはや戦うまでもないと言い回され、ウァサゴは頭の中で自ら理解してしまっているからか、戦闘態勢に入っておきながらも手も足が出せていない。この戦闘狂なウァサゴでさえ黙らせる兄貴、その戦闘センスは格別だ。

「次に会うときは、正と負を決める戦争、聖魔戦せいませんだ。その時、暗殺部は裏から攻めさせてもらう。お前ら善魔生徒会は表からだ……歴史の狭間で会おうぞ」

「歴史の狭間……」

オロバスを抱えたまま自身が光の矢となり、陽光が差す天空へ放たれた。

「待てっ! ……な、なに。光が出ない……?」

俺も光で動くことができる身。その証拠として俺はオロバスのミサイルを避けた。だから俺もアンドロマリウスをおいかけることができるはず。だが、俺の肉体は光速になれず、瞬間移動ができなかった。光速移動は限りがあるというわけか。天界の王子の冠について取扱説明は聞いていないから、使用感はまだ分からない。

 暗殺部の作戦にて最後の戦場、サキュバス専門学校の運動場からオロバスと部長アンドロマリウスが消えたことで、やっとこさ戦争が終わった。だが、残るのは地の傷跡。そして葛藤、悔しさだ。喜びなんてとても薄い。

「……どうしたら私は兄貴を越えられるの……この私に足りないのは……信念……」

いつも自信過剰で力の加減が下手なウァサゴが落ち込んでいる。前しか見ない姿勢を貫くウァサゴが、後ろと前、その間にて立ち止まっている。

「ひとまずゲーティアへ戻ろう。実はアンリデウスがオロバスのロボットによって暗殺部の本部室に捕らわれた」

「ロボット? もしかして上半身だけの」

ロボットは獄立ゲーティア高等学校からサキュバス専門学校へ進撃し、上半身だけを切り抜き、アンリデウスをゲーティアへ連れ去った。その際に運動場で戦場となっていたウァサゴらはロボットを確認しているはず。あの図体で空を飛んでいるのだ。確認できていない方が難しい。

「ああ」

「兄貴と戦っていたとき、そいつを目にしたから壊そうと思ったけど邪魔されたわ。そのまま中庭で着地した。まさかアンリデウスが捕らわれていただなんて」

光の速さでアンドロマリウスが、アンリデウスが捕らわれた暗殺部本部室に向かったと思われる。ただでさえ暗殺部本部室の居場所が未だに分かっていないから、アンリデウス救出がかなり難しくなってきた。オロバスが死んだため、もはやアンリデウスを捕らえる必要はないが、なんにせよ心配だ。

「急ぐぞ」

一旦、サキュバス専門学校から離れ、急いで獄立ゲーティア高等学校に走り、到着。運動場に目が付くと、戦車は未だに置かれているが、暗殺部部員共はまとめて縄に縛られていた。

「ウァサゴ先輩っ! レハさん!」

シトリー、フェニックス、セーレ、ヴァプラら善魔生徒会メンバーが勝利を収め、制圧に完了していた。獄立ゲーティア高等学校に到着した俺たちの元へ集合し、ウァサゴは皆に詳細を話す。

「いい皆、重大な問題が起きた。今回の依頼主であるアスモデウスに関連するヒト、サキュバス専門学校の生徒会長アンリデウスが暗殺部の本部室に捕らわれたらしいの」

「ええええっ!? 本部室って、未だに見つけられてない暗殺部上級生の部屋ってことですか?」

「ああそうだ。今回の作戦の主犯格オロバスの撃破は成功したものの、生徒会長が暗殺部に捕らわれた。何をしでかすか分からない。今から意地でも本部室を探し出し、アンリデウスを助けるぞ」

つまり俺たちはアンリデウス救出のために、今まで見つけられなかった暗殺部本部室を見つけ出すことになる。当然、俺たちは休憩する間もなく暗殺部本部室に攻め込むことになる。そのまま戦争だ。しかも相手はウァサゴよりも強いアンドロマリウス。そして、相手を犬に変えるブネ。心して掛からなければならない。

 オロバスめ、本当は俺を倒し、冠を被ってサキュバスたちを本部室に捕らえ、アンリデウス諸共犯すつもりだったろうが、殺したあとでも厄介事残すとはなかなかやりおる。

「でも、見つけられる保証があるの?」

「セーレ先輩の言う通りだレハ後輩。ずっと見つけられなかった本部室を気合で探すのは無理だ。ここは一度作戦を練ってから」

「いいや、ダメだ。今回の依頼主アスモデウスが殺された」

するとフェニックスが青ざめた表情を浮かべ、一歩身を引いた。

「えっ……」

フェニックスにとって、アスモデウスは学校生活でできた友達。隣の席という運命に導かれた、そばの新しい友人が失ったことが、信じられない。きっとそう思っていることだろう。

「依頼主が殺された以上、その血筋を持つアンリデウスまでもが捕らわれ、その末殺されたら、オロバスの作戦を崩壊させても依頼は失敗だ。取り返しのつかないことになる前に今救出するんだ」

俺の言葉に、セーレはフッと微かな笑いを零した。

「全く、真面目さは見た目通りだけど、その目障りな熱血さや青臭い正義感は見た目には程遠いわね。とてもこんな汚れきった環境で育ったとは思えないほど」

「セーレ、今は毒舌吐いている場合ではない」

「ええそうね、こうして話している間も、そのアンリなんとかの身が危ない。さっさと助けてあげましょうよ」

やれやれと言いたげな表情で救出活動に乗ってくれた。心の中では一早く救出してあげたいと思っているくせに素直じゃないやつ。

「おおおっ! 俺もそのアンリなんとかを助けてやるぞっ! 絶対に救出してやる」

さっきまで、一旦撤退し作戦を練たほうがいいと、珍しく冷静な提案をしたヴァプラも、セーレの言葉に乗って、自らの意見をひっくり返した。フェニックスも、友達の死で未だに動揺しているが、瞳は熱く燃え滾っている。

「ああ、行くぞ」

善魔生徒会メンバー勢揃いでゲーティア高校正面口から入り、それぞれ分裂して学校中を探し回った。俺も第三部『アルス・パウリナ』による紙ドクロ軍団を出して、より視野の範囲を広げた。

「くそ、なぜ見つからない」

捜索から一時間後。俺たちは探し回った。善魔が届かない範囲は紙ドクロ軍団一億枚に調べさせた。全ての廊下、全ての教室、校長室や教員室を除く全ての多目的室、全てのトイレ、全ての他部活室や全ての暗殺部部室、全ての床や壁、何から何までだ。暗殺部はあくまで部活。校長室や教員室に本部室の存在はありえない。

 一旦俺たちは三階の善魔生徒会室前に集い、情報共有をするが手掛かりはあまりにもない。

「いったいどこに隠れているんだ暗殺部上級生共は」

「まあ、相手は暗殺者。そう簡単に見つかるような部屋、わざわざ設置しないわね」

腕を組んだセーレの口から零れた正論に、皆渋々と納得してしまう。暗殺部は言うほど、暗密かつ静寂に任務を全うするような暗殺者アサシンの集まりではない。むしろ暗密や静寂とは真逆に、殺しに名を上げ目立つことに喜びを思う戦闘狂が集う武装集団だ。目立つようであれば部室なぞ隠す必要性あるまいし。

「あああどこに隠れてやがんだ暗殺部っ!」

「許せない……殺しておいて隠れるだなんて……!」

見つけられない苛立ちにヴァプラとフェニックスの精神面が揺らぐ。気持ちがイライラし始め、足や指に無駄な動作を繰り返す。

「どうしましょう、レハさん」

「諦めるわけにはいかない……だが、ここまで視野を広げたのに見つからないというこの不自然さ。明らかにおかしい」

なんとなく右手を、善魔生徒会室の扉、その横の壁に置き、重心を傾かせる。

 とそのとき、手が壁をいとも簡単に貫通した。

「……っ!」

手が壁をすり抜けたことで重心が一気に崩壊し、手首、腕まで壁を貫通。流れるように身体も壁へ転げ、そしてすり抜けた。その先の床に俺の身体を叩きつけてしまう。

「な、なんだってぇっ!」

さっきまで俺は廊下に居たのに、壁をすり抜けた途端、すり抜け壁の先からは真っ暗だ。暗闇の室内に入ってしまったようだ。

「レハさんっ!」

「レハ!?」

「レハ後輩どうしたんだ」

廊下側の壁はやや白く、シトリーやフェニックスの声さえも余裕ですり抜けてくる。急いで立ち上がり、恐る恐る俺をすり抜けた白い壁に手を通すと、やはり手が白い壁を通過した。

「うあああレハが壁をすり抜けたっ!」

まさかこの学校の壁の一部、それも俺たちの本拠室である善魔生徒会室前の壁がすり抜ける素材でできていたとは驚きだ。

 今度は身をすり抜けさせて、廊下側に戻った。

「大丈夫かレハ」

「ああ、それよりもこの壁の奥、中は暗かった」

「中? なにか怪しいわね」

善魔生徒会室前の隣のすり抜け壁、その先に在る秘密の暗い部屋。実に怪しい。わざわざすり抜け壁を用意しているのだ。何かが隠されているはず。この隠された部屋が最後、全ての部屋を調べたことになる。

「うん、調べるぞ」

セーレとシトリーは自分の武器を出し、ヴァプラとフェニックスは能力を両手に出す。明らかに怪しい部屋に突撃するのだ。戦闘態勢に入っておく必要性がある。

「ええ行きましょう」

先に入った俺を先頭に善魔生徒会メンバーが壁をすり抜け、全員で暗闇の室内に入る。

「火力を上げます」

フェニックスの燃える癒しの炎が増し、暗闇を照らす。するとこの室内は塗装が完了していないコンクリートまる剥げの廊下であることが判明し、その先には扉があった。

「尚更怪しい雰囲気ふいんきね」

雰囲気ふんいきな」

「どっちでもいいわ。それよりも調べましょ」

廊下を進み、俺が扉のドアノブを触る。全員がこの部屋に乗り込む心の準備ができたところで、ドアノブを下ろし、一気に開け、室内に入る。

「たのもうたのもう!」

道場破りしにきたようにウッキウキと敵襲しながら叫ぶウァサゴだが、返ってくるのは静寂の無音。

「誰もいない……?」

まさにもぬけの殻。だがヒトがいたという痕跡は目に見えるように確か。テーブルを挟んで二つのソファ。壁には何かが貫かれたような針状の穴と血。資料を整理したようなファイルが収納されたボックス。等々、家具が揃っている。とても薄暗い部屋で、悪魔が好みやすい室内環境だ。

「誰もいないなら好都合だわ。とことん調べ尽くしましょ」

セーレはファイルボックスに手を突っ込み、ファイルを開く。

「なになに、オセにアミ―、カイムにブネ、オロバスにアンドロマリウス。はああなるほど。つまりここが暗殺部の本部室ってわけね」

暗殺部の本部室だということを判明したセーレ。俺も横からファイルを覗くと、対立したことがあるような暗殺部部員の顔と名が面々と丁寧に載せられている。パラパラとめくると下級生や中級生だけでざっと千枚の顔。

「まさにビンゴ。っていうかすぐ隣じゃないっすかっ!」

「灯台下暗しってやつね」

「え、なに、トーダイモト暮らし? このトーダイモトという部屋で暗殺部が暮らしていた、ということですか?」

善魔生徒会室にドリルでも持って壁を突けば、すぐに探し当てる距離に暗殺部本部室は隠されていた。広い範囲なら探し出せるが、懐の距離ほど思考は弱いものだ。

「ほら、これですともうヤバいのがちらほらと……」

シトリーが開けたファイルには、ライオンにゾウ、カバ等々数多の獣の顔が載せられている。この獣たちの共通点は、糸で縫い貼り付けたような四角の肌。それらの肌で獣たちの筋肉を覆い隠している。

「ブネが造った飼物かいぶつたち……!」

確定だ。数ある暗殺部の部室の中で、ここが一番の上級生トップにしか知らされない秘密の部屋。ここから各暗殺部部室に命令を送っているという、本部室だ。

「だったら尚更おかしい。アンドロマリウスはあそこからいったいどこに……」

アンドロマリウスはオロバスを連れて光のワープで暗殺部本部室に戻ったと思われたが、ブネまでいないととても怪しい。それも、部員たちを置いてまでだ。そういえば、俺はアンドロマリウスが言っていた謎の言葉を思い出す。

「アンドロマリウスは『裏から攻めさせてもらう』と言っていたが、まさか……」

その謎に深い言葉に、俺は心当たりがある。それは暗躍するヤロベアムに直結している。とりあえずアンドロマリウスら暗殺部上級生の行方は後に考えよう。

「まあいい。今はアンリデウスを助けることが優先だ。アンドロマリウスがいないというのならむしろ好都合」

「そうね。オロバスが死んだことで、もはや暗殺部はサキュバス含めアンリデウスはどうでもいいはず」

「ああ、隅々まで探そう」

とはいえ、上級生らが行方をくらましたついでに、アンリデウスまでも連れ去っている可能性だってある。まだ満足はできない。

 ワンルームではなく、リビングの奥にはカーテンで仕切りられている。そこに向かい、手でカーテンを開けると、そこには棺桶が置かれていた。

「これは……」

暗殺部本部室に棺桶。ブネが利用していた思われる部屋に棺桶があると思うと、眠らされているヒトはいったいどんな姿に……と嫌な脳裏が走る。

 と、そのとき、棺桶内部から壁を叩く音が。ドンドンと中から叩き、外部の者に自らの存在を必死に教えている。

「ひ、ひぃぃぃいやぁあっ! ま、まさか飼物かいぶつが目覚め……!?」

シトリーが震える棺桶に驚愕し、棺桶の中で目が覚めた得体の知れないものを予感させる。

「ま、まさか……!」

その棺桶にアンリデウスが閉ざされているのか分からないが、棺桶に腰を下ろし、耳を当てる。

「……! 女性の声だ」

澄まして聴くことに集中すると、口が塞がれているのか、言葉ではない恐怖に染まった声が僅かに聞こえる。

「待ってろ、今助ける!」

棺桶に閉ざされている女性に言い、立ち上がる。左手に持つダーインスレイヴの剣先で棺桶の間に刺し、てこの原理を利用して棺桶をこじ開ける。ギシギシと木が裂ける音がし、こじ開けた。棺桶に眠っていた女性の姿が目視できた。

「アンリデウス……!」

黒ビキニセットの上から黒いコートを着た、サキュバス専門学校の生徒会長アンリデウスだった。やはり口はテープで塞がれ、手腕や両脚は鎖で巻かれ行動さえも封じられて棺桶の中に横にさせられていた。とはいえ、よかった、アンリデウスはアンドロマリウスらに連れ去られていなかった。オロバスの指示通り、本部室に捕らわれていたな。

 開けるとすぐにアンリデウスは上半身を開け、慌てるように塞がれた口で何かを必死に訴える。

「慌てなさんな」

テープを剥がし、口を解放する。剥がした途端にアンリデウスは何かを訴えていたことをリピートする。

「さ、サキュバス専門学校のサキュバスたちは……!?」

助かった喜びや生きている感動を口するよりも、アンリデウスが大好きな学校と生徒の身を案じていた。

「ああ無事だ。ただ、要塞に天井が開いて、太陽光が差してしまったがな」

そう言うとアンリデウスは俺が被っている冠に注目する。

「そ、それは……天界の王子の冠……!」

「ああ、これで、アンリデウスの本当の目的が達成できたというわけだ」

サキュバス専門学校の生徒会長アンリデウスが心の中で秘めていた、冠の真の野望が叶うことになった。それは俺を淫魔街の王子にさせることではなく。俺の一言でアンリデウスは涙目にうんと頷くが、

「え?」

「アンリデウスの」

「本当の」

「目的?」

ウァサゴ、シトリー、フェニックス、ヴァプラが当然のように疑問に浮かぶ。

 俺はアンリデウスを縛る鎖を解きながら、軽く皆に説明する。

「ああ、実はな……」

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