五十七話 魔王の遺伝子と究極の遺伝子
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
第四部の闇をダーインスレイヴの剣身に纏わせ、闇を纏う魔剣をつくる。これでレーヴァテインや振り子の攻撃に防御するだけで纏う能力はかき消すことができる。オロバス自身にも斬り付けば、傷口から闇の針を血管に流し、針が体内を循環している限り、振り子の能力は封じることが出来る。ダーインスレイヴの能力の血液操作はできなくなるが、今はオロバスの能力を封じることが優先。
十三階から中庭に着地し、そのまま運動場を目指す。俺を必死に追いかけるオロバスも着地し、鬼気迫る勢いで走ってくる。あっという間に俺とオロバスの走行距離は縮まって間合いが近くなっていく。
「ごおら待てぇっ!」
馬の脚力で地を蹴り踏み潰し、凄く駆ける。右手を上げ、糸を伸ばし、地震計の振り子を回転させる。
「オロバスは馬の下半身のせいで機動力が優れ、しかも振り子の能力で糸を自在に伸ばすこともできる。奴の総合的な間合いは広い」
馬ならではの機動力と、振り子の糸の範囲が奴の得意分野。間合いを取りたがる俺や他の魔術師にとっては、機動力と広範囲で追跡を逃がさないタイプは苦手だ。
「だが、懐に入りさえすれば機動力と広範囲は何も役に立たない。むしろ足を引っ張る」
逆に、機動力と広範囲がウリの敵は近接が苦手。そういった意味では、オロバス自身も狭い廊下で戦うのはやや不利なはず。それを補うために俺やオロバスは剣を持ち、近接にも対応してくる。いわば、俺とオロバスの地的不利有利は平均となった。第四部の闇さえ詠唱すれば俺はどうとでもなる。オロバスも広い地形で思う存分戦えられるのだ。運動場の戦いがより激しくなる。
「俺の脚力と振り子から逃げられると思ってんのかっ! この馬鹿めがっ!」
右手を俺に振り、地震のエネルギーを纏った重り玉が俺の背後に襲い掛かってくる。対する俺は、走りながら重り玉に振り向き、第四部の闇を纏った魔剣で重り玉を防御。その際に重り玉は第四部の闇に触れたことで、地震のエネルギーが闇に吸収され、無効化に成功。更には振り子自身も能力の具現化によるもので、衝突した部分だけ重り玉が吸収され、欠けた。
「ちぃっ……厄介だなあの闇魔法……!」
仕方なくと思ったそうなオロバスは欠けた重り玉を回収しようとし、糸を引いた。
「今だ……!」
振り子の能力が使えない今がチャンス。運動場とは逆にオロバスに駆け、一気に間合いへ攻寄る。高く跳び、闇を纏うダーインスレイヴを振り上げ、オロバスに落下斬り。対したオロバスはレーヴァテインの剣身で受け止め、剣身同士の摩擦で火花が発ち舞う。だが、黒炎は闇の剣身に吸収され、黒炎で隠れていた鉄肌が表れた。
「あああクソっ! 俺の振り子と魔剣の能力消しやがってぇっ!」
苛立つオロバスはむしゃむしゃに愚痴を漏らす。二つの能力さえ無力化させてしまえば、ただの変態人馬。俺の敵ではない。
「お前……普段から振り子を揺らして卑猥な事しているだろう。催眠術が効かない敵には、地震計をぶちかまし、得意な距離で楽している。それがお前の強みだ。そのせいで近接距離の慣れが足りない。そんな状態で俺の剣術に耐えられるか、試してやる」
「な、なんだと……! お前だって遠くから魔法詠んで、近接に慣れてないだろうがっ!」
「馬鹿。お前みたいな突っ込んでくる脳無しが山ほどいるせいで、詠める隙がないからその度に剣で斬りつけているんだ。その経験で俺の剣術は成長していっている。むしろ、相手の肉を断つのに快感を覚えるタイプだ……!」
俺が魔術師である以上、敵視点は魔術書は詠ませまいとして突っ込んでくることが多く、魔術師に対する対応はそれが基本だ。詠唱する隙や距離があれば魔術師が有利。なければ不利。不利な状況が多いから、先ほど言ったように剣を持ち、近接してくる相手を斬りつけている。その多くの経験が積み重なり、俺の剣術は高くなっていく。正直な話、悪魔を殺す感覚を楽しむには魔法ではダメだ。剣でなければ面白みはない。
「ひ、ひぃぃ……!」
「行くぞっ!」
第四部の闇を纏った状態で冷たい殺気の刃を上乗せし、切れ味をより繊細にさせたところで一度レーヴァテインの剣身から離し、連続して高速に振り、斬撃の嵐をお見舞いする。唐竹から零点一秒後の逆風。高速な切り返しから袈裟斬り。斬り下すと同時に身を軸にして三回転させ、袈裟斬りを繰り返す。オロバスはレーヴァテインの剣身で必死に防御するが、それでも複数の斬撃全て受け止めきれず、様々な肌や部位に斬撃が飛ぶ。更に逆袈裟。つまり左斜め下から右斜め上へ切り上げ、剣身で受け止めるレーヴァテインの防御体勢を崩し、胴体をがら空きにさせる。
「や、やべえ……!」
腹に右薙ぎし、斬りつけると同時に傷口の中にナノレベルの闇の針を注入させ、これでオロバスは振り子の能力が出せなくなった。レーヴァテインから出る黒炎はオロバスの能力ではないため封じ込めることはできないが、剣身に闇の粘土でも包んでやれば、斬撃も封じ込めることもできる。が、振り子能力を出せなくさせたことは非常に大きい。
「ええい酒落臭ぇっ!」
オロバスは無理矢理、崩された防御の構えから攻撃に転じ、打ち上げられたレーヴァテインを俺に振り向けてきた。下される斬撃を受け止めるが、鍔つり合いの状態でオロバスが前へ歩み始めた。歩む度に俺は後方へ押され、次第に地を蹴るスピードが高まってくる。いくら俺でも、馬の膨大な脚力には耐えられず、グイグイと押されていく。
「猪口才な。このまま押し切ってやる……!」
猪突猛進な性格らしく、小賢しい戦術に苛立ち、このまま力押しか。俺の足底がじりじりと地面に摩擦し、ひたすら後方へ、中庭から運動場へ押されていく。
「なんて馬鹿力だ。だが、お前は俺に近過ぎだな」
レーヴァテインは俺を押すのに使い、斬撃が出来ない状態。対する俺もダーインスレイヴで押しを受けて、斬撃が封じられている状態だ。だが、右手に持つレメゲトンが暇を弄んでいる。つまり、オロバスが攻撃できない状態で詠唱する隙が十分にあるということだ。
ダーインスレイヴで防御し、後方に押されながらもレメゲトンの第五部を開き、詠唱を始めようとする。
「な、おいてめぇっ! 詠むのはやめやがれっ!」
オロバスが急ブレーキし、詠唱を阻止しようと鍔つり合いからレーヴァテインを離そうとする。しかしそれを見過ごさない俺は、剣身を包む第四部の闇を粘土状に形状変化させ、離れようとするレーヴァテインの剣身に粘土を付着。瞬く間に闇の粘土は広がり、固定。レーヴァテインの剣身は鍔つり合いのまま闇の粘土で固定し、攻撃を阻止に成功。
「あっ?! なんだっ、これ小賢しいっ!」
「憎き大天使ミカエルよ。 光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ」
詠唱を終えると、左手に赤い魔力が煮え始めた。一旦、ダーインスレイヴの柄から煮えたぎる左手を離し、オロバスの左手首を掴んだ。
「お前は今まで、その剣でどれだけのヒトを殺してきた……?」
赤い魔力はこれまでオロバスの殺害履歴を検索し、数値が高ければ高くなるほど闇のエネルギーが溜まっていく。
「この、なんか不気味な手を離しやがれっ!」
「どれだけ死者の恨みを買ってきた……? 因果応報ってやつだ。お前の悪い行いを全て衝撃として放つっ!」
赤い魔力が爆発し、凄まじい衝撃波が地と空気、オロバスの肉体を叩く。
「ぶふああああああっ!」
オロバスは衝撃波に吹き飛ばされ、高く宙を舞ったあと、運動場中央の瓦礫の山に落ちた。レーヴァテインとダーインスレイヴは地面に落ち、俺の魔剣は魔法陣の中に消えた。
俺の足元は、深いクレーターで凹んだ。挑発に弱いという点から察して、気に入らない相手は容赦なくレーヴァテインで殺し、多くを焼いたことだろう。それが招いたこの威力。普段の学校生活を手に取るようだ。
「どうだ。少しは効いたか。いや、十分か。少なくとも一人の悪魔が七十二回、それ以上で死ぬレベル。喰らって平気でいることが異常だ」
空気すら弾き飛ばす威力。頑丈な壁があろうと砕け散る。
ミサイルの爆破で砕かれた天井の瓦礫の山に、オロバスが落ちるのもまた因果応報か。だが、瓦礫の山の頂点にて、オロバスが立ち上がった。
「……や、野郎……はぁ、はぁ」
まさか本当に立ち上がるとは思いもしなかったが、肉体という肉体全ての肌には亀裂が浮き、血が零れ、肌が剥がれている。あれではやがて死に至る。これでもかと強いトドメを刺したと思ったが、あと一息か。
だが、亀裂から電気が漏れ、放電している。少なくとも、オロバスの肉体が普通じゃないのは既に分かっていること。あの肉体には何かが隠されている。
「ぐへへへ……ぐぶふぉ」
吐血しながらも、真っすぐ怒りの目で俺を睨み、瓦礫の山を下っていく。弱っているからか、ゆっくりと下るが、派手に転げ落ち、運動場の地へたどり着く。それでも立ち上がり、弱った様子で俺に歩み寄ってくる。
「よ、よくもやったな……俺の肉体に傷つけやがって」
「お前は助からない。その肉体に刻まれた亀裂。修復は不可能なほど細胞が死んだ。だから潔く死に、もう楽になれ」
そんな弱り切った姿で俺にはもう勝てない。俺に近寄ってくるのはあわよくば道連れを狙う気か。
「俺の肉体が……細胞が死んだ……? それは本当かどうか、よく見てから言ってみろ」
死にかけなのにまだ余裕を垂れるオロバス。何か怪しい。それもそのはず、奴の身体中からウイーンと機械が起動する音がしてくる。
「何をする気だ」
「ナニをする気だって? そりゃあ、ここから俺のこらしめタァァイムだ」
オロバスの肌という肌全てが剥がれ落ち、全身に黒い艶のある機械肌が表した。
「機械?」
傷だらけの化けの皮が剝がれ、得体のしれない黒い機械肌の人馬男が現れた。
「ふははははは驚いただろう。これサイボーグっていうんだぜ? 生身の肉体と機械が合わさった奴をよ」
「サイボーグ……? 自分の身体に機械を埋め込む技術があるのか」
自然の肉体と人口の機械を融合させる技術が存在するとは、魔界では理解を超越する業があるものだ。
「俺の身体の九割は機械。一割は脳とデケエ男性器のみ。つまるところ、俺は生体を創る遺伝子を持った機械なんだ。どうだ、怖ぇだろ」
機械でありながら生態系の遺伝子を持つ者だというのか。このような性欲の高い機械がこの世に存在するとは、世も末か。いや、それほど人間界の技術の力が凄まじいということか。悪魔は人間を虐げ、人間の技術さえも奪い、悪用するとは許せん。
「そもそも俺に宿る美しい究極の遺伝子っていうのはな、それを継いだ子供は、自動的に肉体に銃火器や兵器の一部が生えるんだよ。手腕や両脚に拳銃やライフル、火炎放射器が生えるのは勿論、本気を出せばバズーカやミサイル砲、レーザーカノンだってポケットから出す感覚で瞬時に装備可能。地を走る戦車や空を飛ぶ戦闘機にだって変身することができる」
「なっ……! そ、そんなことがありえるのか……!」
「ふははははははは、まあ流石に人間界ではそんなことはありえないが、魔界の魔法技術なら簡単な事だ。そう、俺が造りたい子供軍団ってのは、銃火器や兵器が生えた最強の兵士ってことさ。一人一人の殲滅力が高く、歯向かう馬鹿共の抵抗さえ許さない無慈悲な弾。そんな弾が山ほど飛んでくるんだぜ。国の一個や二個滅ぼすなんて空気を吸うように簡単だ。これこそ最強の兵士を造り出す、まさに究極の遺伝子……!」
サキュバス専門学校に進撃してきた地を走るヘイキ、戦車だというのか。そんな大きな機械がヒト型サイズになり、そんな生体が群れとなって掛かれば、確かに国を滅ぼすのは非常に容易い。数の暴力でミサイルが雨のように放たれれば、その地域にいる者たちの生存確率はほぼゼロ。ブネは生物兵器を造りたがっていたが、このオロバスは兵器悪魔を造りたいというのか。
「ここのサキュバスたちはイイ身体してる……俺の一割残った肉棒で犯せば、さぞかし噴水の如く放たれ、そのエロエロボディを内側から毒す。腹の中ですくすくと育ち、出産。栄養満点なミルクと殺戮の知識を与えれば、ほおら簡単に完成だ、最強の子供がな。いずれ俺の子供軍団だけで暗殺部は構成され、更に繁殖し、魔界はいずれ俺の血筋だらけとなる。つまり俺は魔王ソロモンを越え、そして絶対的な悪の繁栄期を創りし、他の世界から永遠に怯えられる超伝説の魔神として崇められるのだっ! フハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハ」
今、オロバスを止めなければ、この先未来の魔界は完全に地獄絵図。魔神オロバスの血と遺伝子を継ぐ、銃火器や兵器が生えた子孫で埋め尽くされ、もう永遠に魔界を救うことはできなくなる。それどころか、悪の弾は他の異世界へ放たれ、滅び、宇宙そのものが悪に染まってしまう。
そういえば天界にて、天界は俺のために誕生したと言われた。その目的は、悪の勢力図の中に一つの弱い光である俺を救うこと。その光が消滅すれば、宇宙は悪に染まる、だとか。今がそれだ。今オロバスを止められるのは俺だけ。俺がここで死ねば、魔界の未来はオロバスの遺伝子に染まる。宇宙は悪に染まる。人間界を救うことが不可能になる。
「……外道め。そんな目的、俺の前でよくもベラベラと話せたものだ」
煮えるマグマのように凄まじい怒りが腹から湧き出る。怒りのエネルギーが俺の肉体に走り、筋肉が厚くなる。
「だがお利巧だ。貴様が言ってくれたおかげで、悪魔共に対する怒りが……! 俺をもっと強くした……!」
全身から漲り、そして放たれる殺気と怒りの波動。溢れ出る殺気の刃で地を切り刻み、怒りで周囲の空気が逃げていく。
「怒りが強くするだぁ? 俺が一番怒ってんだよっ! 俺の性処理奴隷を奪おうとしやがってっ!」
右前足を上げ、足底を俺に向ける。すると足底が前に九十度倒れ、開かれた中には小さい穴があった。
「なにか、まずい……!」
直感的に、あの穴から何かが放たれる。そう危険を察知し、ダーインスレイヴを召喚して、回避する態勢に入る。その僅か零点七秒後、穴から小さいミサイルが放たれた。
案の定、射撃を行ってきた。咄嗟に右へ地を蹴り、自らを軌道から外す。ミサイルは俺の側を通過し、そのまま奥へ飛んで行った。
「まさか足から放つとはな。だがそんな見え見えの軌道避けるのに訳ない」
銃口さえ分かれば軌道は薄々分かる。だが、オロバスの表情は不敵な笑みを思い浮かべ、まるで射撃失敗を気にしていないようだ。
そういえば、ミサイルが放たれたときの空を切るような、ヒューという音が未だに鳴り、その上爆音がなっていない。それどころか、その音が後ろから近づいてきている。
「……! まさか」
振り向いて確認してはダメだ。先に振り向けば防御が間に合わない。咄嗟に防御し、状況を確認すればいい。ダーインスレイヴを地に刺し、敵諸共の吸収した血を周囲に流して、瞬時に壁を張り硬化。零点一秒後に背後の鉄壁が爆破によって、血の壁が崩壊するも、俺は無事に済んだ。
「ほおう、判断が鋭いな。初見では見事に騙せたものの、まさか追尾型ミサイルを防御できたとはな」
「追尾……?! ミサイルがヒトを認識するのか」
猪のようにミサイルはそのまま真っすぐに放たれるものだと思っていたが、機械や人間界の技術には驚かれるものばかりだ。流石異世界の技術は凄まじい。これでは避けてもミサイルが俺を追尾してくる。場合によっては、詠唱しようにもミサイルが追いかけて妨害してくる。
「合計四脚に大量の追尾小型ミサイルが仕込んである。お前はもう、どこに逃げても隠れてもミサイルが永遠に追いかけ続ける……! 当然、詠唱なんかさせねぇぜ!」
後ろ脚のみで立ち上がり、前足を俺に向けた。左足底も開かれ、両足から再び、追尾小型ミサイルが二発放たれた。
詠唱する隙も無ければ、ミサイルを防ぐ血の鉄壁も容易く破壊され、そう何度も張れば今度は俺の血を使う。そうなれば俺の血が少なくなり、益々戦闘能力が低下していく。
「一旦、退避せざるを得ない……!」
追うミサイルから退却し、後方へ走る。
「おいおい、俺を脱皮させておいて逃げはないだろうが、この弱虫がっ!」
戦略的撤退する俺に叫んで挑発。だが今は無闇に突っ込んではオロバスの思うつぼだ。
退避する俺を認識に追尾してくる二つのミサイル。しかし、オロバスの前足から数多に発射され、無数のミサイルも後を追う。
「ほれほれっ! 逃がすか馬鹿」
まず一発目のミサイルが運動場の中を駆ける俺に迫っていき、俺は右に回避。その直後にミサイルは地面に激突し、爆発。だがすぐ背後に二発目のミサイルが迫り、前に転がって回避。ミサイルは命中せず地面で爆発。
「追うミサイル、極めて厄介だ」
三発目以降のミサイルは群れとなって俺にまっすぐ高速に向かっていく。ダーインスレイヴの剣先を群れに向けて、一発、血の弾を放つ。血の弾はミサイルに衝突し、爆発。周囲のミサイルも爆破に巻き込まれ、連鎖的に合わさって大爆発。
土煙が舞い、お互い標的を目視できない状態。これならばオロバスや追尾ミサイルは俺が見えず、射撃もしづらいもの。今なら詠唱が可能だ。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍な」
「詠唱はさせねぇって、ってんだろっ!」
オロバスの怒鳴り声の後に土煙の奥から、無数の銃弾が俺に飛んできた。一旦詠唱を中断し、ダーインスレイヴで襲う鉛玉を弾く。
土煙が止み、オロバスの姿が目視できるほど霧が晴れると、オロバスは両手腕を俺に向けていた。手首から少し手をそのまま下しており、手首の切断面に銃口が五つあった。
「土煙を利用して詠もうと思ってたぜ。極上ミルクより甘ぇんだよ、あ? この自称エリート人間野郎馬鹿馬鹿魔術師さんよぉ」
両手を上げて切断面の銃口を閉ざした。
「まあ、お前が詠唱したい魔法ってのはどうせ、小賢しいドクロを出しまくってレーザーでイクッ! って感じなんだろ。それも無駄だ。俺には合計十個の銃口がある。レーザーよりも俺の弾の方が速く容易に貫く。紙なら尚更だ」
俺が詠唱したかった第三部『アルス・パウリナ』の行動パターンまで先読みされていた。俺の戦術さえも見抜かれ、このオロバス、見た目以上に賢い。挑発に弱い性格だから知性は全くないと油断していた。
「さぁて、お遊びもいい加減お終ぇだ。俺の全力を受けろ……!」
オロバスは上半身を下げ、両手を地に置いた。すると逆立ちする勢いで下半身後ろ脚を天空へ差し、上半身両手と下半身前足で立った。
「何をする気だ……」
オロバスめ、何かをし出す体勢に入った。嫌な予感は火を見るよりも明らか。それもそのはず、逆立ちの体勢から、下半身の背を上半身の背に下ろし、ガチャンと互いの背がセッティングした。逆立ちから下半身の背が九十度回ったことで、後ろ足底がまっすぐ俺の方向へ指し、更に下半身前足が地から離れ、前足底も俺に向けた。オロバスは両手のみで立っている。
「M二百二ロケットランチャー……!」
後ろ足底と前足底が同時に下され、追尾小型ミサイルを放つ四つの砲口が俺に向けられた。ヒト並外れた機体の構造に俺は惑わされながら、嫌な予感の答えを目視してしまう。
「ふはははははどうだ、素晴らしいだろうっ! 自身が最強の肉体になれたからこそできる業を。俺様こそ歩く兵器。馬の如く走る災厄っ! これぞ魔神のロケットランチャーだ……!」」
「……最強を求め、見出した答えが自身を改造したということか。哀れめ」
肉体に歯車が搭載されたサイボーグならではの芸当というわけか。情けすら零れてしまうほどの何とも哀れで滑稽な姿だが、流石に四つの砲口は非常にまずい。完全にミサイルをたくさん放つ気だ。
「くらえ、四つの砲口からミサイルを滅茶苦茶にイかせてやる。これでお前の肉体は完全に消失だぁ!」
案の定、四つの砲口から小型ミサイルが無数、俺へ放たれた。ミサイルは標的へしっかりと突進し、衝突。爆破していき、標的を砕く。それが複数、猪の群れの如くミサイルの軍団が突進していき、数と爆破で粉微塵にしていく。
「ふははははははは砕け、破れ、壊れろっ!」
塵と化すには既に充分放ってもなお満足していないのか、未だに、無慈悲なオロバスの無慈悲な四脚から無慈悲なミサイルを雨のように撃ち、標的をオーバーキルしていく。
やっとこさ満足したか、ミサイル連射を止め、足底を上げて砲口を閉ざした。M二百二ロケットランチャーの体勢から、下半身後ろ足を前に下ろし、地を踏む。流れるように前足も下ろして、地を踏んずけ、セッティングさせた背を離して、背を九十度立たせ、人馬の体勢に戻した。オロバスは土煙が舞う爆心地を見て、表情から笑みを零す。
「……ふっふっふ。ふははははっはははははははははは、馬ぁぁぁぁぁぁ鹿めっ! この男の王にして魔王ソロモンを越えるオロバス様の妻を奪おうとするからこうなるんだ。このクソ生意気な人間風情が!」
最後まで塵となった標的を罵り、最大限にまで笑い馬鹿にしていく。しかし、土煙が舞う爆心地の元に、上から光が差した。
「な、なんだ。なぜ光が」
オロバスは光の差し口を見て、顔を上に向けると、ロボット下半身兵器が最後っ屁として無数のミサイルを放ち、要塞の天井を壊した大穴から陽光が差したのを理解する。だが、肝心の陽光がなぜ曇天を貫いているのかまでは理解できていない。
「なぜ俺がお前を運動場へ誘ったか分かるか。全てはこの為だからだ」
「な、なにいいっ!」
俺の気迫で土煙を飛ばし、更に濃い陽光を俺の身に浴びさせる。
「な、なぜお前が生きて……。いや、あのミサイルからどう受け止めきれたんだっ!」
M二百二ロケットランチャーの構えから放たれた無数のミサイルの雨、普通ならまともに受ければ俺の肉体はあっという間に砕け散る。そう、普通なら。
「俺の肉体は、光属性を得た。今の俺なら光速に動けられる」
光の力を得た俺は、光速に動くことも可能。ミサイルを受け止めたのではなく、爆心地から遠くその様子を眺めていただけだ。
「ひ、光属性だと……? そ、そんな馬鹿な。お前は闇の魔術師のはず。光を隠していたのか……!」
「いや、さっきまでは俺は光を持っていなかった。だが、間に合ってくれた。そう、こいつがな」
右手を上げ、親指を頭上に乗せているものを差し、オロバスに見せつける。
「そ、それは、天界の王子の冠……!」
サキュバス専門学校の十三階、生徒会室に保管されていた冠。ミサイルに当たる直前に咄嗟に被り、俺は天界の王子となった。
「お前の第一のお目当てはこの冠だ。この冠でお前は性王になるために十三階の生徒会室へ直行した。俺はお前を生徒会室から離れさせる必要があった。だから、天井が壊れた運動場へ誘い、その間に紙ドクロで冠を銜えさせて、俺まで運ばせた」
オロバスさえ生徒会室に居なければ、冠は無事に保管される。オロバスを外に誘発させている間に紙ドクロを使って冠を移動させたのだ。万が一俺が負け、オロバスが性王にならないように、行方を不明にさせたかった。或いは俺が天界の王子になるために、ここまで運ばせた。
「っ……! だからお前は俺を挑発したのか。だが、あの廊下でお前は一度も詠唱していない。つまり紙ドクロが出ることはありえないぞ。そもそも俺が詠唱させるわけがない」
「ああそうさ。俺も廊下から外に出るまでは詠唱していない。だが、俺はお前のロボット兵器を相手してたとき、最後に詠んだ魔法は第三部『アルス・パウリナ』だ」
「……!」
ロボット下半身ロボが切断面からミサイルを無数放ったとき、俺はミサイルの雨を破壊すべく第三部『アルス・パウリナ』の紙ドクロのレーザーを放った。この魔法が、サキュバス専門学校の十三階から外に行くまでに最後に詠唱したもの。この第三部『アルス・パウリナ』は、次に詠むまでに、魔力が持続するまで紙ドクロは自在に操れる。
「そ、そんな目論見があって……!」
「そして、お前のロボットが天井を壊してくれたおかげで、陽光の差し口ができた。俺が冠を被り、正式に天界の王子となったことで陽光を差させた。閉ざされていた要塞に陽光が差された今、ここは聖域。お前ら悪魔が苦手な光がこの場を包み込む」
ミサイルの雨の爆破で要塞の天井が崩壊したことで、長らく閉ざされた要塞に外の空気が流れただけでなく、陽光が差し込む入口までもができた。冠を遠ざけるだけでなく、オロバスを運動場へ誘うことで、紙ドクロによって移動させておいた冠を俺が被ることで、天界の王子となり、光の力を取得。その力で陽光を閉ざす曇天を開かせ、大穴が開いた要塞の運動場へ陽光を差した。つまり、オロバスは自らこれから開かれる聖域へ足を踏み入れたということだ。
曇天の切れ目が広くなり、その分陽光も厚くなり、目一杯にサキュバス専門学校の運動場を照らす。オロバスの機体にも陽光が差し、頭から湯気が出た。
「ぐうぅぅ……ぐああああああああああああっ!」
陽光に包まれたオロバスは、凄まじい激痛か、これでもかと途轍もなく苦しんでいる。両手で頭を抱え、光を防御しようとしているのか分からないが、光は光速で肉体にたどり着き、肉を焼く。
「いくら機体とはいえ、確か肉体は一割残したと言ってたな。脳と性器だったか。悪魔の肉体は光を受けるとゆっくりと蒸発していく。一割しか残っていない肉体では、蒸発し終えるのはそんなに時間は掛からない」
頭から出ている湯気は、オロバスの脳が溶けている証拠。脳が完全に溶けたとき、オロバスは思考が無くなり、生きることすら忘れ、やがて死ぬ。
「最強の装備を揃えたことが仇となったな。サイボーグよ」
肉体の九割を改造し、苦手な光属性を更に弱体化させたことが敗因。滑稽なほど自身を改造させ、サイボーグにさえ姿を変えても、光には打ち勝てない。
「す、全ては……この時のために……俺を……運動場へ……!」
「ああ」
要塞の天井が崩壊させたのはオロバス。自ら聖域を作りに来てくれたものだ。オロバスに冠は被せまいとして生徒会室前から運動場に誘発させ、その間に紙ドクロで冠を俺の元へ移動させ、俺が被り、運動場を聖域に変えた。挙句、一割残した肉体のせいで、陽光による蒸発は短い。俺の作戦に気がつかなかったオロバスにどのみち敗北は決定的だ。
「光に包まれたお前に、生きる可能性は零。聖域から脱することも不可能。もうお前は光に溶かされて死ぬんだ。だから、もう動くな」
もはや俺自らトドメを差すことすら不要だ。じっくりと陽光に溶かされるがいい。太陽を拝みながら。
「お、おのれ……! み、みと……みとめ……ねぇ……」
陽光を受けて苦しみながらも、必死に俺を睨みつけ、ゆっくり、ゆっくりと俺に歩み寄ってくる。しかし、徐々に足踏みは弱くなっていく。
「俺たちは訴える。それ相当の裁きを」
最期は動くことすら無く、空っぽの機体が立ったまま、湯気も収まった。
投稿が遅れて滅茶苦茶申し訳ございません……!!! どうにか投稿スピードを高めることはできないか、めちゃめちゃ考えてこれからも書いてみせます。どうかよろしくお願いお願い申し上げます。
『ソロモン校長の七十二柱学校』のあれこれコーナー
●第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』
ホロスコープ型の魔法陣から闇の液体と物体を放つ。液体と物体はすぐに性質変化し、使い分けることが可能。広がることを得意とするこの闇は、能力者や魔術師本体、能力や魔法弾が触れるとその間、能力や魔法が発生しなくなり、完全無効化できる。ただし物理攻撃や光属性には滅法弱く、容易く打ち砕かれる。




