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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第一章 黒獄の天秤編
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五話 黒

「……で、どうするんだ。どうやったら解除できるんだ。」


学校の真上に浮く巨大な暗黒星を見ながら独り言をつぶやく。このままだと魔界は滅び、術者である俺も消え去ってしまう。世界が滅んでしまう状況を前に俺は冷静に、暗黒星の消し方について考えた。

「ええっと、解除をイメージするのかな……」


あの暗黒星を生み出した怪物は緑色の巨大な酷女だ。その酷女を生み出したのが術者である俺。そいつさえどうにかすれば暗黒星は止まる可能性がある。まず頭の中で、酷女の命の終わりをイメージする。酷女が亡くなれば暗黒星は途絶える可能性がある。

 右手を酷女に差し、命が終わることをイメージし、内側から外へ魔力を流す。すると、暗黒星は一瞬にして消えた。まるで暗黒星そのものの命が終了したかのような消え方だった。

 これで世界の崩壊は免れた。俺にはまだ成すべきことがある。それまでは死ぬわけにはいかないのだ。

 内壁を見れば図書室は亀裂に覆われている。おそらく暗黒星のオーラに気圧され、学校全体に大きな損傷を齎したかもしれない。今頃学校内は大パニックを起こしていることだろう。世界が滅ぶ直前まで冷静に授業を行うクラスなど存在しない。

「ちなみに戻ってみるか。」


歴史のテキストを借りたままバックに入れ、図書室から出ていく。引き戸を引き、廊下に身を出すと、廊下までもが床や壁が亀裂で、埃が浮いている。暗黒星のオーラだけでかなりの大きなダメージを負ったな。果たして授業は行えているのだろうか。

 二階へ続く上り階段を上がる。とすると、階段上からヒトがダダダと走る音がする。その音は次第に近づき、その身を踊り場に見せる。

「レハさん!」

「シトリー?」


走っていたのはシトリーだったか。踊り場から俺を見下ろし、階段を下りながら俺に接近してくる。

「レハさん、ご無事だったんですね!」

「無事?」


あの暗黒星の危険から無事という意味だろうか。まあ確かに召喚してしまったものの、俺自身にダメージはない。むしろ他の悪魔を絶望的に驚かせて、学校に損傷を負わせてしまったのだから、俺よりも心配する対象が多いと思うが。

「ええ無事ですよ。」

と適当なことを返してみる。シトリーはフアッと安堵の笑みを浮かべ、俺に近寄る。

「おっと俺に近づくなと言ったはずだ。」


それでもシトリーは俺の言いつけを守らず、俺が踏む階段の二個上まで近寄る。

「よかったあ。レハさんにもし何かが起きたらウァサゴ先輩が悲しみますから。」

「それは素から心配しているのか、それとも俺を信用させるために善魔を演じているのか、どっちだろうな。」


シトリーはウァサゴの言うことに対し疑いを知らないようだが、俺は断じて、善魔だろうが悪魔の言うことは信じない。とはいうものの、もし本当に素から俺のことを心配しているようであれば、言い方悪いが馬鹿正直な部分が見える。

「勿論素ですよお。ホントレハさんはヒト信じないんだから。」

「そりゃあお前らは悪魔だからな。」

「だから、私たちは!」

「はいはい善魔と言いたいんだろう。もうそのセリフ聞き飽きた。」

「聞いてからまだ二日しか経っていませんよ!」

「昨日から今日にいたるまで、ウァサゴから散々己は善魔だと一貫して言い続けたのだ。聞き飽きてもしょうがないだろう。」

「だって、そりゃあ善魔だから。」


何かおかしい事でも言いましたか?的な言い方に俺は少しイラっときた。繰り返し善魔だと開き直られると後に続く言葉が失せる。

「俺は悪魔と話したくない。じゃあな。」


踏んでいる階段を横に移動してからシトリーの横を過ぎる。そのとき、スタタタと踊り場の影から逃げるような足音がした。誰かが踊り場の影で隠れていた。盗み聞きか待ち伏せか。だが逃げていったのでは追いかける必要もない。気にせず階段を上がった。

「あ、あの!レハさん。」

「レハベアムだ。レハさんではない。」


背後からシトリーが追いかけついてくる。

「あの……私、これでも二年生であなたの先輩なので、気にせず相談してくださいね。」

「お前のような頼りない先輩相手に?」

「ひ、酷い!確かに私頼りないっぽいですけど!」


そういえばこいつは昨日出会った時、俺はこいつを小娘と言ったがシトリーは年上だと反論していた。そうかこいつ二年生だったのか。どうりでウァサゴに親しくて、先輩と呼ぶわけだ。自分が頼りないと自覚しているのならまだマシな方だ。

「悪いが俺は善魔とは組まない。話すら聞きたくない。」

「ウァサゴ先輩が言ってましたよ。私たちは既に仲間だと。」

「戯言を。善魔らしい腐ったセリフだな。」


やや駆け足で階段を上り、シトリーから距離を離す。対するシトリーも追いかけてくる。

「もうなんだお前は!ついてくるな!」

「わ、私だって上に上がりたいんです!」

「じゃあ俺が上がってからにしろ。存在そのものが不愉快なんだ。」

「レハさん私先輩ですよ……先輩にそんな口聞いていいんですか?」

「俺は人間だから問題ない。」

「いや種族以前の問題でしょう!」

「つまり俺はお前と話したくないということだ。理解できたか?」

「うう……やっぱレハさん怖いです……。」

「大丈夫。お前は悪魔だから一応はお前も怖いに含まれている。」

「善魔だからそんなこと言われても嬉しくないです……。」

「開き直るな。」


なんだこのショートコントは。この俺がなぜシトリーとこんなに話しているのだ。いかんいかん人間としての自覚を取り戻せ俺。

 シトリーは立ち止まり、俺は容赦なく階段を上る。一年H組の教室の様子を見るために。





「ウァサゴ先輩?」


踊り場から上がってくるシトリーが、レハから逃げた私の名を呼ぶ。

「ああ、ここにいる。」


三階へ続く階段の壁に隠れているところから身を出し、上がってきたシトリーと面と面向かう。

 レハが階段を上がるの知って、私は逃げ出した。いや、距離を離したというべきか。レハベアムが一年生の教室の廊下を歩いたのを、私は廊下の壁に隠れてレハベアムが過ぎ去るのを待っていた。黒獄の天秤で戦う約束をしてしまった以上、心配したとはいえ会うのが気まずくて逃げた。

「いつも堂々としているウァサゴ先輩が珍しいですね。逃げるだなんて。」

「本当ね。私も思うわ。」


ヒト前では私は誰であろうと堂々としているつもりだが、気まずさ故に階段を上るレハベアムと面と会うのが嫌だった。しかし暗黒星の消え方でレハを心配したものだが、別に何のこともなくてよかった。

「なんでレハさんから逃げたんですか?」

「黒獄の天秤で戦うことになったからよ。」

「黒獄の天秤と言ったら、六月六日の体育祭イベント……!なんで戦うことに?!」

「かくかくしかじか。」


勝てばレハは仲間に。負ければ死ぬことに。死ぬなんてことを今更シトリーには言いづらい。一年で卒業できるフライングチケットを見せても頑なに断り続けるものだから、正直黒獄の天秤で賭けを申し込んだのは勢いだ。もしあの場にシトリーがいれば、シトリーは負ければ死ぬことに猛反発していたであろう。こうなったら何が何でも勝たなくては。

「もう、かくしか言っても分かりませんよお。でも大丈夫なんですか?いくらウァサゴ先輩といえどレハさんは、あのレメゲトンを持っているわけなんですよね?魔王ソロモンが持っていた魔術書を。」

「勝つしかない……。この魔界の滅びる運命を変えるために、ね。レハを孤独から救い、仲間として向かい入れる。そしてレハと一緒に訴えるのよ。平和の実現と悪の意思の脱却を。」












廊下を歩き、一年のA組からF組までの教室を覗くと各四十名の生徒が野次馬みたいに、窓を見つめて空を確認している。明らかに授業の雰囲気ではない。世界滅亡寸前までだったから授業を聞いているどころではないと大騒ぎしている。

「おい、今さっきの黒いのなんだったんだ!」

「俺に聞くなよ!でも怖かったな。」

「ほ、滅ぶのかと思ったぜ。」


この大騒ぎで教卓に立っている教師も空に唖然している。教室には床に倒れ込んでいる生徒もいる。暗黒星のオーラに気圧されてショックし意識が飛んだのだろう。

 一年H組に到着するも、同様に多くの生徒が窓に集まり、もう暗黒に覆われていないいつもの曇天を眺めている。もはや世界滅亡にまで魔界は陥ったんだ。授業をする場合ではない。

 キンコンカンコンとチャイムが鳴る。学校からのお知らせだ。

『さきほど空を覆った巨大な暗黒の物体により、危険ですので、念のため直ちに生徒の皆さんは急ぎお帰りください。繰り返します。さきほど・・・』


俺が召喚してしまった暗黒星のせいで、臨時学校閉鎖となったようだ。多くの生徒は世界滅亡寸前から一変、学校が早く終わるその嬉しみに歓喜の雄叫びをあげた。

「いええええい、早く学校から帰れる。」

「なんかよく分からんけど、学校終わるならラッキー。」

そんなに早く学校から早く帰りたいのなら毎日暗黒星起こすぞ。毎日学校早めに帰れるかもしれないぞこれなら。

 多くの生徒は早速鞄を持ち、それぞれが教室から急いで出て行った。あっという間に廊下は悪魔に埋め尽くされようとなり、帰宅ラッシュに巻き込まれないよう急いで廊下を走る。

 ゲーティア高校から脱出し、俺はいつもの城へと戻る。ゲーティア高校は外壁が亀裂で覆い、今にも崩壊しそうだ。

「第二部『テウルギア・ゴエティア』の影響力恐るべし。」

世界を破壊するための禁忌暗黒魔法、レメゲトンの第二部『テウルギア・ゴエティア』の影響力は凄まじいものだと、この有様を見て納得した。


 帰宅から十七分後に我が家の森入口につく。しかし入口の隅に黒い物体が縦長に置かれていた。

「……猫?」


近づいて遠くから見ると、黒猫が香箱座りして何かを待機している。猫が俺の存在に気が付くと、立ち上がり、背伸びしてから俺に近寄ってきた。俺の足元に頭から媚びるようにすりすりと、己のにおいを他の者にこすりつける。やけに人懐っこい猫だ。

「可愛いな。」


しゃがみ、猫との視線を近くして、体に擦ってくる猫の頭を撫でた。すると猫はその手に懐くように力いっぱい擦ってきた。ぐるぐると気持ちそうに鳴らす。

 立ち上がり、森の出入口の前に立つと、木々は左右に移動し、俺は森の中に入る。続いて黒猫が俺に着いてき、森の中に入ろうとする。

「この森は侵入者を食す森だが、猫ぐらいならいいか。」


この森の正しい一本道を歩み、猫も俺の後を追いかける。正直言ってこの猫が初めての来訪者だ。ちょっと嬉しいから存分におもてなししてあげよう。

 広場に出ると、天天とまだ十時の朝日が広場を照らす。猫は咄嗟に俺の背後の影に身を移し、避難した。そうか、悪魔だけならず普通の動物も太陽の日差しには弱いのか。この広場は太陽の光が差し込む聖域。普段から浴びない生体としては影に隠れたがるのも仕方ない。俺が歩く影にそって猫もついていき、なるべく遅めに歩く。万一影から猫がはみ出ないように。城門に到着すると、自動で門が開き、猫は門まっしぐらに影から城内に入る。城内は日差しが入らないからもう安心だ。

 双璧に並ぶロウソクに自動で火が付き、城内廊下を照らす。猫は廊下をまっすぐ走り、ロビーにつくと興味津々に辺りを見渡す。俺もロビーにつき、右の部屋に行く。猫も興味津々と俺の背後についていき、猫を我がマイルームに入れる。

 猫が俺が使っているソファに跳び、そこで体を丸くして毛づくろいを始める。

「あ、そういえばまだ焼いていないハンバーグがあったな。それを食わせてあげるか。」


生肉状態のストック用のハンバーグがある。それを焼いて猫ちゃんに食べさせてあげよう。

 キッチンに入り、ガスで火をつけてその上にフライパンを置く。熱しられたらオリーブオイルを引き、ハンバーグを二個乗せる。程なくして両面に焼き目がついたら、皿にハンバーグを乗せて、皿を運ぶ。ソファの近くに床にハンバーグの皿を乗せる。黒猫はハンバーグに釣られ、そのハンバーグを一口食す。すると、

「にゃおお。」

と美味しいとでも言ったのか鳴き、食いつくようにどんどん食す。あっという間に一個目を食し、病みつきになったかのように二個目を食べる食べる。

「よかった。」

俺の調理の腕は、五つ星だと報道されたほどだ。まあ悪魔に食わせてやる飯などないが。だがこうして猫に役に立つと、俺も嬉しいと思う。

「さて、では俺は……。」

俺もソファに座り、鞄から歴史のテキストを取り出し、開く。自宅学習だ。勉強しないと成績が落ちる可能性があるから、迷わず勉強だ。

 猫はあっという間にハンバーグを食べ終え、ソファに跳ぶ。そして俺の膝の上に乗っかり、体を丸くして横になった。その可愛さについ左手が伸び、猫の艶の良い毛並みに触れ、撫でる。猫はぐるぐると鳴らし、気持ちそうにしている。

「可愛いな……癒される。」

ストレスしか与えられない劣悪な環境の中、唯一安心して尚且つこんな癒される猫。ああ幸せだ。


 昼から夜まで共に暮らし、そのとき、黒猫がマイルームの扉を爪で掻いた。出たいということか。猫は夜行性だから外を活発に出たいのだな。扉を開け、猫はロビーから廊下へ走り、俺も出迎えをして、城門も開けてあげる。すると猫は城門を出た後、頭を僕にふり向き、目と目が合う。合ったら黒猫は夜の広場から走り去り、暗闇に消えていった。

「また遊びにおいでよ。」

去った黒猫に遅く告げ、城門を閉める。

「さて、俺も寝るか……。」

マイルームに戻り、ベットに横たわった。

 今日は暗黒星を召喚しちゃったせいで臨時学校閉鎖となったが、明日には学校生活が戻るであろう。明日から本格的に、嫌な学校生活の一日を過ごそう。







読んでくださりありがとうございます。ええ今回五話は六話に続く伏線のために、短く書きました。っていうか六話に書かねばならぬことが多いので、その分五話が短いという感じでしょうか。まあたまには短くてもいいかな、っという感じです。

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