死十八話 冠の使い道
アンリデウスと一緒に門を潜り抜け、いざ内部へ。彼女の綺麗な背肌の後を歩み、中へ案内してもらう。奥には螺旋階段があり、上へ繋がっている。
「あの階段で十三階上がれば生徒会室へ行けるわ」
「結構高いな」
学校にしては階が十三まであるのは相当高い。ゲーティア高校でさえ四階だ。それもそのはず。前にウァサゴから聞いた情報では、サキュバス専門学校の生徒数は一年で一億のサキュバスが入学するという。ゲーティア高校生の何倍だ。
螺旋階段で上がる前に、左右と前の奥に続く廊下には同様の黒ビキニを着たサキュバスたちが待ち構え、入る俺に嬉しそうに手を振るう。淫魔街にせよ要塞内にせよ学校内にせよ、全員が全員、たわわに実った乳とナイスすぎるグラマーだ。見た男性の心を一瞬で魅了し、ハートまで鷲掴みするほどの欲張りボディ。やはり夢の中で見たサキュバスたちとは、彼女らのことだったか。俺にはその魅力が伝わらないがな。
アンリデウスが螺旋階段を上がると、俺もその背をついていくように段を踏み、進む。意図的になのか知らないが、程よく大きい美尻に、パツンパツンと張り尚且つ肉に喰い込んでいるパンツが俺の視界に入ってくる。いや違う。俺の視線が何かしらの本能でパンツを注目してしまう。これは脳がわざと注目させているのか、あるいは知らず知らずのうちに俺がこんな尻とパンツに魅了されているのか。後者であれば俺もサキュバスのナイスバディに洗脳された変態の一人か。
段を進むにつれて上がっていき、十二階になると俺の小指に赤い糸が見えていき、上へ天井を貫いている。十三階にアスモデウスがいるということか。
「生徒会室には誰がいる」
俺としては誰もいないでほしい。アンリデウスは二人っきりの密室で俺の聖なるベールを脱ぐと言った。だからこの言葉が本当なら生徒会室には誰もいないだろうが、もし二人っきりの空間ならば、冠の泥棒であるアンリデウスに単刀直入に聞ける。第三者のアスモデウス等がいるとなると、冠について話が出しづらい。
「アスモデウスがいるけど、追い出すから安心して頂戴」
「ならよかった」
どうやら二人っきりの空間は確保してくれるらしい。聖なるベールを上から触れたアスモデウスや、その血の繋がりを持つアンリデウスについて、あれこれ聞きたいが、まずは冠の話についてが先だ。
「何やら私との空間を楽しみにしているようね」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあってだな」
「素直じゃないのね」
やや暗い声で一言漏らすアンリデウス。俺の意図に感づいたような声だ。
「まあな」
長い長い螺旋階段を上り切り、やっとこさ十三階めへ。学校の最上階だが、廊下の奥には部屋は一つしかなく、個室の名札には生徒会室と書かれている。その扉の前には黒ビキニを着たアスモデウスが待ち構えていた。
「レハっ! 改めてようこそ」
満面の笑顔で見つめ、高い背から俺を見下ろす。まるで可愛い小動物を見るかのよう。
「アスモ。悪いけど今レハね、聖なるベールを身に纏っているの。だから犯すのはあとでね」
「分かったわ」
俺を犯す前提で話を通し、すんなりと聞き入れたアスモデウスは潔く扉の前から退き、アンリデウスは扉を開く。ガラガラと横に引き、俺を生徒会室へ招き入れる。
「どうぞ、入ってらっしゃい」
室内の右には空間スペースがあり、最大三人が一緒に寝れそうな広大なベッドがあり、ふんわりと柔らかそうな毛布が置かれている。正面には高級そうなガラス机を設置し、四つのピンク色のソファを囲む。その奥には高台があり、その上に大きな役員デスクと椅子があり、如何にも生徒会長専用の机椅子一式が揃っている。そして、その机の上に黄金の冠が堂々と置かれていた。あれがもしや天界の王子の冠なのだろうか。
中に入ると、アンリデウスが扉を閉め、鍵を閉める。アンリデウスは迷わずと役員デスクに向かい、椅子に座らず、机に尻を乗せて座った。脚を組まず、太腿の間と奥の股間を俺に見せびらかし、パツンパツンなパンツの奥を垣間見えさす。
「座って頂戴な」
立ち話も疲れるし、遠慮なくソファに腰を下ろさせてもらおう。アンリデウスの股間が見えてしまう真正面のソファではなく、不愉快かつ下品なそれを視界から外すように左のソファに座る。
「なんとなくあなたの企みは理解しているわ」
まず最初に聞きだしたのはアンリデウス。その表情と言葉の意味で、俺の一番の目的を察したか。
「天界から受けた聖なるベール然り、泥棒の協調然り、そんなに天界の女神様たちに媚びを売るほど好きなの?」
「戯言を抜かすな」
「私はあなたをヌかしたいわ」
「俺はお前が盗んだ天界の王子の冠を返しにここにやってきた。それさえ返してもらえれば俺はここを出て行く」
「ヤだね。返すつもりもないし出て行かせるわけにもいかない」
「やはりそうか」
潔く冠や俺を外へ返すはずもなく、真っ向から否定。予想はしていたし覚悟もしていた。その反応も既に分かっていたことだ。
「じゃあ何のために冠を盗んだ」
まずは天界の王子の冠をなぜ淫魔が盗んだのか、肝心な理由が不明のままであった。その動機を聞くとしよう。
「そんなに聞きたい?」
机に置いてある冠を手に取り、股の間に挟んだ。頑なに冠を返されるのが嫌らしい。
「まあ、一応」
「この私がこれを盗んだ理由……そんなこと、端からハッキリしているわ。あなたを淫魔街の王子にするためよ」
「俺を?」
人間の精子と性器に貪欲なサキュバスたちは俺を犯したがる理由なのは、悪魔よりも人間の方が濃厚だからだと前からハッキリしていたが、天界に置かれている冠を盗んだ理由もまた、性欲に忠実に従ったものだというのか。
「人間を淫魔街の王子にさせれば、私たちサキュバスはあなたの忠実な僕となり、契約させることでいつでも召喚させてもらう。そうなれば人間王子は己の性欲のままにサキュバスを召喚し、私たちは人間の性器を舐めることができる……」
利用するために俺を王子にさせるのが目的なのか。なんとも忠実さに見せかけた腹黒いことを考える部下だ。
「要は俺を淫魔師にさせることか」
淫魔師とは、淫魔法を扱う魔術師とのこと。女性に催眠を掛けて、意識を封じ込める。女性本能を崩壊させて性欲を高めさせ、後は術者の赴くままにその女性を意のままにコントロール。或いは淫魔を召喚させる術を扱う者をそう呼ばれている。主に腹が膨れ上がった中年の男性が目指したがる職業だ。
「そう。でもあなたはサキュバスの乙女心を全く理解しようとしない。まあ、下心丸出しな男もキモイし汚らわしいから、そんなものがないあなたも魅力的だけど、でも無さすぎる。高すぎもなく低すぎもない中間な下心の人間が良かったのに、あなたはサキュバスに魅了されなさすぎよ。おかげで淫魔街の王子にさせても犯せられそうにないじゃない」
俺にサキュバス共への下心が無さ過ぎて、淫魔街の王子もとい淫魔師にさせても、サキュバスを召喚させることがないから、サキュバスの性欲が晴られそうにないとまさかの予想外な出来事に困惑しているようだ。
「悪いな。生活環境上、そういうの疎いものでな」
なにせ俺は母性の温かさを知らなかった。昔から母性さえ知っていれば多少なりとも俺にも性欲があったかもしれない。
「天界の支援にせよあなたの性格にせよ、全てが予想外のハプニング。挙句冠を返しにやってくる始末。どうしてサキュバスの思う通りになってくれないの? 人間」
「そういう考え方がそもそも人間を舐め腐っているということだ。いつの時代も人間が悪魔の利用の駒になると思うな」
古くから人間は悪魔に虐げられる存在。故に悪魔は人間を道具とし、金儲けや奴隷、八つ当たり、こっ酷く扱うのが当たり前になっている。俺はそういう悪魔の考え方が嫌いだ。真っ向から対立してやる。
「私が舐めたいのは人間の性器だけなの」
「だからはいそうですかと差し出す俺ではない」
「潔くサキュバスに性器を出せばいいものを……」
呆れるアンリデウスに俺は立ち上がり、机に座るアンリデウスに近寄る。
「俺や人間界の人間はお前ら悪魔に苦しんでいる。だが、俺の手で終わらせてやる。人間の首輪を引く悪魔共の飼い方をな」
どのみち偽王国を滅ぼして、人間界へ急がなければならないのだ。ならばついでにサキュバスもろとも悪魔共を皆殺しして、少しでも人間の犠牲を減らすまで。今はまだ殺らないが、戦争になれば女天使を率いて血祭りにあげてやる。
「もう、悪魔が人間を虐げる時代は終末期だ。だから俺はお前やサキュバス共の言いなりにはならない」
善魔生徒会の目的は魔界全土にある悪の意思。それを拭い、人間界と魔界の間に平和をもたらすこと。だが悪魔共がすんなりと悪の意思を拭うわけがない。ならば根本的に悪の意思ごと殺し、その声を黙らせるまで。
「救世主気取りなら辞めて起きなさいよ。あなたがサキュバスに興味がないのなら、矯正させてあげる。この冠が似合う男にさせるまで、学校から逃がさない……!」
頑なに捻じ曲げず、意思を貫く。冠を似合う男に矯正させるとは、つまり淫魔街の王子にさせるということか。アンリデウスの企みを強行させ、俺を閉じ込めさせる気か。
「受けて立つ。俺もその冠を手に入れるまではここを出て行くつもりはない」
改めて俺とアンリデウスの対立が浮き彫りとなった。冠を手に入れ偽王国を滅ぼす俺と、俺に冠を被せ淫魔街の王子にさせるアンリデウスの衝突。男と女の戦いが始まってしまった。
「絶対にサキュバスの性処理王子にさせてあげるからね」
「なるつもりはないが、サキュバス専門学校の要塞を襲った襲撃団はゲーティア高校の暗殺部だ。俺はそいつらを倒す役目がある。セクハラ行為対策のために、この学校の秩序は守るということだけは約束しよう」
元はと言えばアスモデウスの依頼内容がそもそも、サキュバス専門学校周辺でセクハラ行為をするゲーティア高校生たちを追い払うようとのこと。受けた依頼は仕事上きっかりと達成させたいし、暗殺部の動きも非常に気になる。一概に依頼の一言で済むような事件ではないのは確かだ。
「最初に言ったけど、この学校に残るのなら聖なるベールを脱ぐのは絶対条件よ」
「……いいだろう。脱いだ上でお前らに立ち向かってみせよう」
本当に俺は何のために天界で犯されたのか、かえってサキュバス共に逆効果だったしあの時間のほとんどが無駄だった。だが、サキュバス専門学校で俺が閉じ込められるのは最初から分かっていたこと。冠を手に入れるまでここに残されてくれるにはどうしても聖なるベールを脱ぐことが必要条件だ。
「どこで脱げばいい」
「あのベッドの上で転がってくれるかしら。全裸になって」
さっきまで対立が浮き彫りになって口論しても俺を犯す気満々じゃないか。どんだけサキュバスは人間の精子に欲張りなのだ。その姿勢や心までもお下劣だ。
「……聖なるベールを纏った状態で俺を犯すつもりか?」
ただのサキュバスでは聖なるベールを覆った状態の俺に犯すことは不可能。それを知っているうえで犯すつもりでいるこの態度。更にアスモデウスは聖なるベールの上から俺を触れた。その血の繋がりを持つというアンリデウス。行為の最中でその謎の正体を知れるかもしれない。
「不思議そうな目で見つめてくるものね。アスモデウスがあなたを触れたり、その血の繋がりを持つこの私が触れそうだったり。そう考えているんじゃないかしら」
俺の思考はバレバレだったか。ポーカーフェイスのつもりだったが、誰だって不思議に思うのは道理だ。
「質問を質問で返すな」
「私たちの体質は闇だけど、一部は光を持つ。だから聖なるベールでもあなたを上から触れる。どう、珍しいでしょ?」
普通の悪魔の体質は闇属性純度百パーセント。よって光や聖に途轍もなく弱い。太陽の日差しを浴びるだけでも肌が焦げるほど。ただ、例外があり、強い光の心を持つ善魔ならば体質に光が加わり、光を受けても致命傷にはならない。だからウァサゴは体内で光を作れたり、グラシャは日差しを受けても平気でいられる。だが、アスモデウスやアンリデウスに善魔のような姿勢やオーラは欠片ほども無く、従来の悪魔そのもの。なのに体質には光属性が混じっているというのは、つまり光をも平気で受けられる悪魔になる。特質して極めて珍しい身体だ。道理で光眩しい天界へ悪魔が侵入できたわけだ。
「聖なるベールを纏ったのは誤算だけど、あなたにとってもそれを触れる私たちの存在も誤算のはず。それに、私には聖なるベールを脱がす方法もある。あなたの方が断然不利ってわけね」
聖なるベールを纏ったことでサキュバス側は俺を犯せられない誤算があったわけだが、アスモデウスとアンリデウスはそれでも俺を犯すことができるという点と、それを脱がす方法があるという点で俺も誤算。挙句、脱がされたら他のサキュバスまでもが俺に触れるようになる。数の暴力というものもある。俺が不利なのはどう転んでも覆すことはできそうにない。
「ところで、その脱がし方というのは具体的にナニをするんだ」
脱がすついでに俺を犯す気らしいが、その聖なるベールを脱がす方法というのはまだ具体的に聞いていない。一応聞いておいた方がいいかもしれない。
「天界の女神と天使たちが全裸になって、あなたの肌に擦りつけてきたでしょ? それと同じことをするだけ」
「なぜ混浴のことまで知っている……?!」
光属性を持つ体質だけならず、聖なるベールを纏う儀式、混浴の詳細までも知られている。アンリデウスは天界の王子の冠を盗んだだけならず、なぜその仕組みまで知っているのだ。尚更怪しい奴め。
「まあ、泥棒だからね。知識まで盗んでやったわ」
知識を盗んだと言えるこの自信。ただなんとなく知れたとか空振りの知識だけでは到底言えることではない。何かしらの根拠や絶対的な理由があって言えるものだ。ただでさえあの混浴は、今まで男性という概念が俺以外存在しなかった天界において、創世記から今に至るまで一度たりとも行われなかった儀式だ。いわゆる言い伝えが古から守られてきたもの。それを知っていなければ、簡単に口には出せない。盗んだという言葉は表状の嘘で、本当の意味が隠されているかもしれない。
「さて、話が長くなったわね。じゃあ早速脱いでもらおうかしら。その汚らしい制服を」
いよいよ始まる。サキュバスに犯される悪夢が、正夢に変わるときが。
「それとも、この私が脱いであげましょうか?」
「ふざけるな」
ニヤリと微笑む女の挑発。下らないと思い否定した。
「ん……?」
ここで右手の小指に何かしらの違和感が発生した。縛られ続けられたものから解放されたかのような緩くなった感覚だ。右手を上げ、小指を見ると、小指を縛る赤い糸が文字通り緩くなり、解けた。
「これは……?」
アスモデウスが仕掛けた赤い糸が勝手に解けた。小指からひらりと落ち、先端から消滅していく。消滅が続くにつれて物理を無視する薄透明な赤い糸は真後ろの扉に向かっていく。
「え、レ、レハ。この赤い糸ってアスモデウスよね……?」
アンリデウスが質問し確認してきた。俺は平然に「そうだ」と答えると、その表情をゾッとしたように青く染める。
「あ、アスモっ!」
慌ててアンリデウスが俺の側を過ぎ、扉に向かって走る。アンリデウスの反応や赤い糸の消滅で、何か悪い予感がした俺も扉に向かって歩み、アンリデウスは急いで扉を開ける。その先の廊下にて、その様子が物語っていた。
「アスモ……っ?」
廊下の床で、アスモデウスが転がっていた。アンリデウスの声や扉の引く音さえ無反応。それもそのはず。辺りの床には醜い血溜まりがあり、その腹には深い傷穴があった。
「あ、アスモデウス……!」
倒れるアスモデウスにしゃがみ込み、安否を心配する。だが、何も応答をせず、その瞳は完全に死んでいる。俺も部屋を出て、慌てるアンリデウスの背中と血だらけのアスモデウスを静かに見守る。
赤い糸が消滅したのはアスモデウスが何者かによって殺されたからだったのか。しかしなぜ殺されたのだ。
「……アンリデウス。不謹慎なこと聞くが、アスモデウスは誰かに恨みを抱かれるような奴だったか?」
アスモデウスが一方的に俺を彼氏、もといセックスフレンドとして好感を抱かれていたが、彼女だと認定していない俺は、アスモデウスがいったいどのような性格だったかはっきりと知らない。もし恨み妬みを持たれるような人物がいたら、そいつが怪しいところだが。
「いいえ、そんなことありえない! 私たちサキュバスはとっても仲良しよ……! 男みたいな下らない喧嘩はしないし、共有のセフレであるあなたについてアスモデウスから笑顔で語り合えるぐらいよ! 皆レハベアムの話でワクワクしていたほどよ」
サキュバス専門学校でのアスモデウスの日常生活を聞くに、他の生徒からは恨みや妬み、殺意はない。アンリデウスが知らない範囲ならともかく、他の生徒らに俺の事を話して女子会したっていうイメージから推測するに、その話は信憑性はある。少なくとも他の生徒がアスモデウスを殺したっていう線は薄そうだ。それに、スパイとして潜り込んだゲーティア高校にも、フェニックスという友達もできて、間柄は二学校でも良好のようだ。親切に俺に怪我の看病もしてくれるし、本性は意外といい奴だ。
「ならば、第三者が殺した可能性が高いな。見ろ、胸の谷間と顔についている液体を」
俺がさっきから着目している怪しい点は、アスモデウスの谷間と顔についている白く濁った液体だ。それも、まだ軽く煮えていてアンモニア臭がする。
「えっ……? これ……」
アンリデウスは指先で恐る恐るその液体に突くと、粘り気が強く、汚物を触ったかのように反射的に指を離す。
「ひぃぃぃ……! これは……精液……?!」
「アスモデウスは犯されたんだ。その末、殺された……犯人は男だ」
物音無くアスモデウスが犯され、殺された点について疑問が非常に多いが、まずはアスモデウスの死体に残された精液に着目するに、これは決定的証拠だ。サキュバス専門学校に俺以外の男が侵入している。
「そ、そんなまさか! サキュバス専門学校内に男性がいるっていうの!?」
男性を禁じて入れなかったサキュバス専門学校の誇りを信じて疑わないアンリデウスが俺の言葉を否定する。
「でなければこの精液が存在しない。あの時の襲来で本当に暗殺部が侵入していたんだ」
俺も驚きなのは間違いないが、アスモデウスの乳の中に射精してしっかりと痕跡を残したんだ。何のために射精してまで精液を残したのかは謎。わざわざ侵入者がいることを自ら教えているようなものだが、確かにこの学校に男性は侵入しているのは確かだ。それに、魔物寄こしてまでセクハラという単純な目的だけで襲来したとは思えない。侵入したのには暗殺部の何かの企みがある。とすると奴らの真の目的は俺と同じく冠か、この学校の秘密か何かが。
「湯気が出ているということは、まだ射精してからそんなに経っていない。近くに男がいるはずだ」
精液が煮えて湯気が出ているから見るに、射精してからまだ数秒単位。下の螺旋階段にまだいるはずだ。しかし誰にも気づかれず、俺たちの後を追い、挙句音も気配もなく速やかに仕事をするとは、暗殺部らしく静かなる暗殺者だ。これは手練れとして見ていい。
「悪いが聖なるベールは後回しだ。調べさせてもらうぞ」
アスモデウスの死体を過ぎ、螺旋階段を下ろうとする。そのとき、アンリデウスが俺の手首を掴み、行動を止める。
「……ホッント、男ってウザいしキモいわ……男禁制の学校って言っているのに侵入し、私の大切な妹を犯して、最後に殺すなんて。ホントウに男って最低な生き物ね」
俺から言わせてもらえば、無理矢理数の暴力で犯そうとするサキュバスも最低最悪な生き物としか見えないのだが。アンリデウスが見る男のクズさと、俺が見るサキュバスのクズさは同等だ。大切なヒトに手出しはされていない分、アンリデウスに襲った心の傷は大きいだろうが。
アンリデウスへ振り向き、その瞳に強く睨みつけて口を開く。
「いいか。それが悪魔の仕業だ。平気で惨いことをやり残すことをする奴ら。そして、お前も俺に対し悪意を込めた計画を実行していたな。それも悪の意思によるもの。結局は悪魔の行いが回り回って己に罰として返ってくるのさ」
自分の悪い行いを反省せず、他人の行いに腹を立てて仕返しを考える。それが悪魔だ。そういう日頃の行いがやがて自分に返ってくる。それが悪の意思を持つ者への罰だ。
「だからって、アスモデウスが殺されていい理由にはならないわっ! 私の可愛い大切な妹を……」
その瞳から涙を零し、感情的に俺に訴える。
「確かに、アスモデウスは殺されるべき奴ではなかったかもな。ゲーティア高校でもサキュバス専門学校でも、悪魔なりの仕事はしていても皆に愛される存在だった。少なくとも俺は許さないよ。アスモデウスを殺した奴を」
「え……?」
大胆な怪我を背負う度にアスモデウスが治療に手伝ってくれた。明らかに悪い意図があって俺に接近していたのは分かっていたが、それでもアスモデウスのおかげで俺は立っている。恩がある以上、アスモデウスを殺した奴にはそれなりの罰を背負ってもらう。俺自身が認定していないが、少なくとも俺の彼女として、仇を討つ。
「その男が気に喰わないのなら手伝え。俺の仕事はもとより、淫魔を守るためにここにやってきたんだ。依頼主が殺されてしまった以上、更にその顔に泥を塗るような恥は俺が許さない」
アスモデウスが願いを込めて依頼した、サキュバス専門学校を脅かす男共の駆除。その正体が暗殺部ならば尚更、俺が倒してみせるまでだ。助けを求めた依頼主を殺す暗殺部の外道を、止めるのが俺の最大の仕事だ。
「ぜひ協力させて頂戴。アスモデウスを殺した奴を殺すためならなんだってやるわ……!」
殺意を露出すアンリデウスだが、いきなり殺したらその意図を聞くことができない。捕らえて拷問し、情報を吐かせてから死刑だ。
「俺に作戦がある。それまではアンリデウスは何もするな」
「作戦って、何……?」




