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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第死章 淫魔護衛編
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死十五話 淫魔からのお・ね・が・い

 しかし、あれこれ俺の事を一方的に称えてきた生徒たちは、一時限目から四時限目まで人間を中心に罵り、欺き、騙す授業に意欲的に取り組んでいた。救われた命として感謝はしつつも、悪を育てる授業には相変わらず熱心だ。

 さて、四時限目が終了し昼休みへ突入。俺は教室から逃げるようにせっせと生徒会室へ行き、入室。次々と役員たちと合流。役員が全員揃ったところで皆もお弁当を開き、食べる。

「にしても驚いたわねえ。まさか悪魔から感謝されるだなんて」

一口目にウァサゴが悪魔からの感謝を話題に、皆は頷き共感する。

「私はあの事件に全く関与していないけど、それでも謝られたわ」

バーゲスト襲来時、セーレは暗殺部のブネに合流していたためバーゲスト退治には参戦していないが、どのみち黒犬に化けられた生徒たちは俺たちやセーレの活躍の姿を覚えていない。そして同じ役員の仲間として、セーレも活躍したと勘違いしているであろう。もっとも、その勘違いを俺たちが正す必要はないが。

「えっ……? 皆褒められたんですか? 俺何も言われなかったんですけど……」

一方、ヴァプラは皆からの善魔生徒会役員という認識が無に等しいのか、バーゲスト襲来に大活躍したのに誰一人として評価されなかったようだ。どんまい。

「この件で悪魔たちが善魔に対する評価を少しでも変えてくれるといいのだがな」

「そうですね。でも授業体制は相変わらず人間を翻弄する目的のものばっかですね」

一年生以外にも、二年生の授業も人間を目的とした悪行の授業が行われているのか。

「そうですよシトリー先輩っ! 一応先生たちからも感謝されましたけど、悪趣味な授業をする時の先生や学生皆乗り気で馬鹿にしてました。ホント腹立ちますね」

「慌てるな。バーゲスト襲来事件からまだ日は浅い。授業体制や善魔に対する考え方がすぐに変わるのは難しいだろう。もう少し時間を待て」

「でも善魔の評価を風化させるわけにもいかない。この機をチャンスにしてドンドン善魔の評価を上げていくわよ」

「悪魔から直々に感謝されるのは、善魔の評価が右肩上がりだという証拠。だが、感謝をするのは悪魔が死ぬのが嫌で、悪行がさらにできるから、という心理的な考察もありうる。ここで浮かれて調子に乗るのは危険だ。慎重に事を進めよう」

浮かれて調子に乗ると心に隙が生じる。そこに突けこまれると評価やチームは崩壊する。気を引き締めて行動するのが得策だ。

「分かりました。善魔の評価を更に上げるために、以前よりもっと気を張って行動し、尚且つ自身の行動や気持ちは油断しないようにっ、ですね」

「そういうことだ」

今回の事件によって得られたものは非常に多い。怨念の魂を成仏させることで負の感情を正にし、光に変えることができるグラシャ=ラボラスの仲間入り。善魔生徒会の評価に、チームの結束力。暗殺部の情報と、その部に協力する依頼主ヤロベアムの情報。失ったものはグラシャ=ラボラスの生命力と、ブネとケルベロスの見過ごしぐらいか。これらすべてのチャンスを沼に落とすような失敗はしたくないものだ。

「よおし、俺は善魔生徒会役員というアピールをしまくって評価あげまくるぞおおおお」

隣の中二病善魔は善魔の評価を、自身が役員という認識を広めるついでに上げる気らしい。調子に乗るなと言った側から調子に乗り始めたな。

「ヴァプラ、癇に障るようなアピールはするなよ」

「任せろっ!」

全然任せられないからこう言っているのだが。ヴァプラのアピールはせいぜい口やかましいものなのだろうな。

 やれやれと思いながら自分の箸で弁当の具材に差そうとしたが、唐揚げが無くなっていることに気が付く。朝、確かに入れたはず。なのにない。どうして。なんとなく隣に座っているフェニックスのお弁当を覗いてみると、フェニックスの唐揚げが計四つとなっていた。二つ入れたはずなのに急激に増えるはずがない。フェニックスめ俺の唐揚げを盗みやがって。

「フェニ……!」

「え、えへへへへごめんレハ。でも唐揚げが少ないから悪いんだよ」

微笑むフェニックスはまるで俺が悪いように言い、更にマヨネーズを取り出して俺の唐揚げごとマヨネーズをぶっかけた。

「んんんまああい。レハの唐揚げマヨネーズ。スパイシーな辛さとマヨネーズの甘さがくぅぅぅぅたまらない」

唐揚げにマヨネーズ掛けられると、もう取り返す気が毛頭失せてしまった。なんで悪魔はヒトの食べ物さえ強奪するのだ。どんだけ食に飢えているのだこいつら。許すまじ。

 仕方なく箸でご飯をつまみ、口に運び入れようとしたそのとき。右手の小指に締め付けられる感覚がした。食うのをやめて、右手の小指を見てみると、小指の第一関節に赤い糸がくっきりと姿を現した。赤い糸は壁をすり抜けて廊下の内から伸びている。

「アスモデウスか……」

赤い糸は横に廊下側の壁をすりぬけ、引き戸に到着。内側から引き戸を開けてアスモデウスがやってきた。

「レェェェェハァァァァ!」

俺のあだ名で呼び、赤い糸の引き先で俺をすぐさま注目する。

「ああ、アスモデウスさん!」

俺はアスモデウスの登場に心底がっかりしているが、隣のフェニックスは友人が来てくれたのが嬉しいののか、名を呼んだ。

「やあフェニちゃん! でも今は愛しの人間ちゃんに用があるの」

そう明るい声で言うと無断で生徒会室へ入り、逆U字型机の外側へ走り、俺の隣へ。俺の机領域内に股を跨いで座り込み、七段式の大きなお弁当を置いた。

「はああい、サキュバスの技術をふんだんに詰め込みました、サキュバス特性、媚薬弁当っ!」

「び、媚薬弁当……」

発情を盛んにするお薬でお弁当を作ったのか。もう既に不味そうだ。アスモデウスは俺の心の準備なんてお構いなく弁当箱を開け、多くの具材を俺に見せてくる。ご飯は勿論の事、卵焼きや太いウインナー、唐揚げにつくね棒、サラダに大学芋、ハンバーグ、鮭の塩焼き等々、お弁当の定番な具材が勢揃い。しかし媚薬と言っていたからなんとも薬品臭が物凄い。

 アスモデウスはフォークでハンバーグの一切れを刺し、俺の口へ運ぼうとした。

「あぁぁぁん」

「あああいや、俺はもうお腹いっぱいなんだ……こんなにたくさん食えない」

媚薬を使われた薬品臭いお弁当を食うのは流石に物凄く嫌だが、だからといって頑なに断れば、せっかく愛を込めて作ったであろうヒトに失礼だ。全然空腹だがお腹いっぱいだということでこの場を回避しよう。

「えええレハ。まだお弁当を全然食べていないじゃない。いくら私が唐揚げ二個盗んだだからといって嘘はいけないよ!」

ここでフェニックスの余計な一言が俺の耳や心にダイレクトアタック。作ってくれた弁当を食べたくないがゆえに嘘をついた俺の心にぶっ刺さるが、俺の唐揚げを盗んだフェニックスに説得力なんてない。余計な一言のせいでアスモデウスの心象が悪くなったではないか。別に心象悪くて俺の事失望して別れてもいいのだがな。

「そ、そうだぞレハ後輩っ! お弁当を作ってくれるヒトなんて羨ましいぞおっ?!」

隣の善魔は黙っとけ。

「そうよ。温かい愛を込めて作ったんだから、早く食べないと冷めるわよ。だから、はい。あぁぁぁぁぁん」

刻一刻と媚薬入りハンバーグが俺の口に迫っていく。初めて食いたくない恐怖を知った俺は頭の中で現実逃避を繰り返し、自然と涙が溢れ出てきた。

「……て、いうか……!」

ここで突然と、なぜか怒りをこみ上げたアスモデウスが左手でナイフを持ち、即座にウァサゴに投げつけた。突如の投げに対し、ウァサゴは眉を微動にも動かさず、小指でナイフの先端を受け止めた。皮膚の硬さで刺さりもしなかった。

「あなた生徒会長でしょうっ! ゲーティア高校の汚い男共がサキュバス専門学校に来て迷惑しているのよ。淫魔たちが怯えているわ、生徒の長ならどうにかしなさいよっ!」

俺の口に媚薬ハンバーグを近寄らせながら、アスモデウスはウァサゴに顔を向けて怒鳴り散らしてきた。

「ん、どういうこと?」

アスモデウスの唐突な文句にウァサゴは理解ができず、詳細を求める。アスモデウスの注意がウァサゴに向いている間に俺は椅子ごと後ろに引き、俺の弁当を急いで食って物理的に満腹にさせる。

「私が言ったことまんまよ。ゲーティアの男子高校生がここ最近、昼休みを使ってサキュバス専門学校の門前に集まるのよ。セクハラ発言を大声で叫んできたり、壁にチンポだしてしょんべんするのよ……! 周回するし侵入しようとするし、おかげで淫魔たちは怯えてまともに学校生活を送れない! どうしてくれるのよ!」

サキュバスにしてゲーティア高校生のアスモデウスが、サキュバスを代表してサキュバス専門学校の訴えをゲーティア高校の生徒会長に聞かせているというわけか。

「……アスモデウスさん。私たちは今食事中なのよ。食事中にそんな下品な発言言わないで」

確かに俺たちは今食事中だ。挙句俺は媚薬入りのハンバーグを食わされそうとした。食べながら食事中に相応しくない言葉を聞くと、せっかくの味も美味しくなくなる。ウァサゴのド正論に対しアスモデウスは、

「男子共のセクハラ行為の方がよっぽど下品だわっ!」

それもそうだと納得する正論をぶつける。

「分かったわ。このあと被害届を提出してちょうだい。ポスターを作って皆に知らせるから」

「ポスターの宣伝如きで男子たちの性欲止められると思ってんのっ!?」

アスモデウスの激怒は収まらずまだ怒鳴ってくるに対しウァサゴも呆れ、相手にするもの面倒そうに肘を机に置き、手の甲を顎に乗せる。生徒のトップなのに他の学校の被害をその態度で聞き入れるのは、責任を真に受ける姿勢が見受けられない。

「じゃあ私直々言ってあげるから。それで問題解決でしょ」

ゲーティア高校において一番恐れられているウァサゴ自ら注意したら、セクハラ男子勢も死の宣告と勘違いして下手に行けなくなるであろう。抑止力としては十分だ。

「いいえ。それは私は許さない」

生徒会長自ら注意するという抑止力が一番強い提案を否定。これに対しウァサゴもイライラが抑えきれないのか、机を叩いた。

「じゃあどうしてほしいの?」

「レハをサキュバス専門学校の用心棒にさせなさい」

「ぶふうっ! な、なんだとっ?!」

サキュバスの代表アスモデウスとゲーティア高校生のトップウァサゴの言い争いの末、アスモデウスが提案した内容に本人の俺が心底驚き、お茶を噴き出す。

「淫魔たちはゲーティアの男子高校生に心底うんざりしているわ。おかげで学校に対するモチベーションは最悪。寮に引きこもる生徒も出始めた。そこに淫魔の大好物である人間が来てくれたら、皆やる気が上がるし、学校門の用心棒として守ってくれたら、皆レハベアムにメロッメロ。ただでさえイケメンなのに淫魔たちを守ってくれたら心さえ魅了されるわ。モチベーションは最高潮にまで跳ね上がる。あなたの注意如きで淫魔たちの気持ちは上がらないのよ」

俺が守ることで抑止力はウァサゴより劣りそうだが、サキュバス専門学校の生徒たちのやる気は上昇。説明だけ聞けば俺の方がメリットがあるように聞こえる。

「そういうわけだからレハベアム・モーヴェイツをもらう……じゃなくて借りるわ。責任者なら当然オーケイわよね?」

「おいおい待て待て。俺が良いって言ってないぞ俺は」

「ええオーケイだわ」

「ウァサゴ……!」

俺の了承抜きで生徒会長の渋々ながらな許可が出た。そのことにアスモデウスは満足したのか両腕を上げて喜んだ。

「やったあっ!」

机に立ち、俺に跳び込みダイブ。俺の顔はアスモデウスの爆乳に衝突し、制服の上から包み込まれた。身体同士も衝突し、椅子ごと俺たちは転倒した。

「やった、これでレハはサキュバス専門学校の守り神ね……!」

「お、おい待てとりあえず離せ! いきができない」

「いいえ、私たち淫魔でレハをイキさせてあげるわ……!」

俺の息をアスモデウスはイキだと勘違いしている。淫魔も俺を殺す気か。だが潔く離してくれてくれて、お互い立ち上がるが、アスモデウスは俺が逃げないように事前に俺の手首を握る。

「じゃあ早速連れていくわ。レハ。準備は良いわね?」

「ま、待て。心の準備が……」

急展開なことになり俺はサキュバス専門学校に連れていかれるが、天界の女神王アプロディーテーが言っていた。天界の王子に必要な冠が生徒会室に保管されているということを。サキュバス専門学校は鋼鉄の要塞で包まれて天使や男生徒が侵入できない場所だ。そこに淫魔に人気である俺が行けば、もしかしたら潔く中に入れるかもしれない。となると冠を盗み出したカイトロワ・アンリデウス・サンソン生徒会長に接近することができ、隙を見つけて冠を見つけ出せる可能性がある。しかし入って逃げ出せられるかは別のお話だ。まさか侵入できる機がすぐに訪れたとは驚きだが、この機を逃すわけにはいかない。危険が多い分、天界の王子として偽王国を滅ぼし、メナリク救出に行かなければならない。

「良いだろう」

考えた末、俺も許可を出す。たとえどんなデメリットがあっても、メナリク・モーヴェイツという俺の妹の危機に比べればかわいいものだ。顔こそ知らないが唯一の家族だ。守るのが兄の使命だ。

「しかし条件がある」

「なに?」

「俺がサキュバス専門学校の用心棒になるんだ。守った分を仇で返すなと誓えるか?」

サキュバス専門学校の用心棒になるのは別に構わないが、だからと言って守る対象の淫魔たちから酷い仕打ちされるのはごめんだ。俺が見た悪夢のように。

「ええもっちろんよっ! アンリデウスも会いたがっているわ。早く行きましょ」

互いの利害が一致したところでアスモデウスは俺を引っ張り、部屋から出てしまう。

「気をつけてらっしゃい」

「お気をつけてぇ」

ウァサゴやシトリーが白いポケットを振りながら俺を見送る。

 一方、アスモデウスは俺を連れるのがそんなに嬉しいのか、スキップしながら廊下を進む。

「スキップするな。俺の腕を振るな」

「だって人間がサキュバス専門学校に来るんだもの。あまりの興奮でビキニの紐ちぎれないか心配だわ。喜んで全裸になりそう」

学校なのにビキニという発言は、悪夢で見たとおりの黒ビキニなのだろうか。全裸になるということはマシマシ俺を犯す気満々じゃないか。悪夢で見た淫魔たちの激しさが本当にそうなのかそうではないのか、もう既に怖いんだが。

「でもなぜお前がサキュバス専門学校のために訴えたんだ? 淫魔の仲間だという理由で分かるが、そもそも学校が違うだろう」

アスモデウスは制服を着ているどおり、ゲーティア高校生だ。サキュバス専門学校の生徒が全員淫魔で、同種族だから心配するのは分かるが、学校を代表して訴えた動機はそれだけではなさそうだ。

「私はサキュバス専門学校の生徒よ」

「……え?」

「本当の私はサキュバス専門学校の生徒。いわゆるスパイとしてゲーティア高校に入学したの」

「つまり、二つの学校の生徒なのかぁ!?」

本職はサキュバス専門学校の生徒。裏職はゲーティア高校の生徒。一つの身体で二つの学校生なのか。そんなことが許されるのか。いや、偽王国はほぼ無法地帯だ。崩壊した法を無視しても誰にも罰することはできない。

「しかしなぜスパイとしてゲーティア高校に来た?」

「だって、人間が行きそうな学校ってゲーティア高校しかないでしょ? 卒業証書で人間界に行けるものだし。私はスパイとしてあなたに接近して、サキュバス専門学校に連行する気でいたの」

「れ、連行……」

俺の志望動機が淫魔にバレバレとは。俺の目論みが理由でゲーティア高校に入学したとは、淫魔の執念恐るべし。女天使なり淫魔なり、どいつもこいつもなぜ俺を連行したがるんだ。殺す気か。

「でも安心して。私はスパイだからあなたに接近したけど、私のあなたに対する発情は真実よ。あなたのこと好きで好きでたまらない……早く犯したいっ!」

「お、おいきさまっ! 図ったな。サキュバス専門学校をうろつく奴らを俺が退治するために連れてきたんだろう!」

サキュバス専門学校を周回する変態を追い出すために俺は淫魔たちの用心棒として連れてこられたが、アスモデウスの口からはとんでもない目論みが零れて出た。やはりこいつら、俺を犯すために連行するつもりだったのか。

「いいえそれは違うっ! 本気でサキュバス専門学校の用心棒になってほしいのっ!」

アスモデウスの淫顔から真剣な表情に変わり、俺の怒鳴りを真っ向から反対する。

「淫魔たちは怯えているのよっ! 豚みたいなオッサンボディの男性生徒共が、馬みたいな発情で淫魔たちを犯したいってサキュバス専門学校の周りをうろついているのよっ! 本気でセクハラ発言で叫んでくるし、外壁にしょんべんやセクハラの落書きして、淫魔たちは毎日安心して生活が送れないっ!」

アスモデウスの口から出た感情が籠った訴え。その瞳も怯えや恐怖、求める救済、俺へのメロメロ、様々な感情が映り、真剣な眼差しが俺の瞳に差す。

「……とりあえず、まずはサキュバス専門学校を見させてもらおうか」

信じたつもりではないが、原因や事実が存在しなければその瞳や声に心は存在しない。俺を犯す目論みもかなり見え掛けているが、どうやら行くしかないようだ。

「一刻も早く彼女らを助けてあげて……!」

アスモデウスは俺の手を引っ張り、急いで廊下を走り、階段を下った。

 程なくしてゲーティア高校から南へ二キロ。ピンク色のイオンが眩しいアヤしい街に入った。いつもの曇天で上は灰色の雲しか見えないが、ここの街は全体的に影が多く暗い。だから尚更イオンが眩しい。アスモデウスの背をついて歩くが、かくあるビルの窓から多くの視線を感じる。俺という男が怖いから卑猥そうに見るのか、人間だから喜んで犯したそうに見るのか。多くは後者であろう。

「皆ね、レハベアムが来てくれたのが嬉しいんだよ」

「前もって住民たちに説明しているのか?」

「この街はもう既にレハベアム歓迎ムードだよ。ほら」

歩きながらアスモデウスが奥の先に指を差す。その指先にはピンク色のイオンで『レハベアムさま、ここにアソビにおいで♡』『人間大歓迎っ! たっぷり精子をくださいっ!』と明らかに俺ピンポイントで男の本能を挑発している。俺は全く興味沸かないが。

「やけに俺推しだな。ここの街は女性しかいないのか?」

「多くはサキュバスだけど、中には男のインキュバスも過ごしているよ」

「ならインキュバスから精子取ればいいじゃないか。俺である必要性があるか?」

「必要だからここに連れてきたのよ。お互い性欲が高くてね、どうしても我慢が出来ない場合はヤり合っている。でもインキュバスより人間の方が濃密で濃厚なの。栄養価も十分」

「要はインキュバスは食事で、俺はより豪華な食べ物ってわけか」

「そういうこと」

俺を歓迎ムードの淫らな街だが、非常に闇が深い。壁や地にでもピンク色のカラーで俺を歓迎するような文が書かれているのだが、あちこち落書きし放題で汚れが目立つ。ゴミも平然と転がり、清掃すら全く気にしていないようにも見える。更には歓迎する文章に、黒色のカラーで『レハベアムは死ねっ!』『犯すのならこの俺にしやがれ』と憎しみを込めたような上書きがされている。ピンク色の落書きで『レハベアムを犯したい』と書かれているのに、俺の名前の上に黒色のカラーで落書きした本人であろう各々の名前が書かれている。『○○○○○(自分の名前)を犯したい』となっているせいで、あたかも落書きした本人がサキュバスに注目の的のようにされている。これがアスモデウスの言う、ゲーティア高校の男子高校生の落書きか。至る所からアンモニア臭も強く、壁に染みている。

 街の荒れようを観察している俺を見たか、アスモデウスは愚痴をこぼす。

「ホント嫌よねえ。男子共の卑猥な落書き。平然としょんべんまでしていって」

それを言うならサキュバス共の落書きも十分に卑猥なのだが、サキュバスがこの街の環境を支配しているため、環境を汚すゲーティア高校の男子高校生たちを憎むべき相手としか見えていない。他人が思っているより意外と自分を知らないものだ。サキュバスやインキュバスたちは自分も卑猥な存在だとは多くは知らないだろう。

「専門学校はどこだ?」

「この奥にまっすぐ。ほら、あの鋼鉄の要塞があれ」

この一本道の奥に建っているもの。やや錆びて部分的に茶色化しているが、確かに鉄で出来た立派な城壁が見える。城壁が高くて学校や建物が見えないが、あの中にサキュバス専門学校があるという。

「で、あれが噂に聞こえた変態たちだな」

硬く閉じられた城門の前には黒いブレザー制服を着た生徒が群がっている。俺が着ているゲーティア高校の制服だ。自分好みにアレンジして改造しているもの特徴的だ。

「あれを払えばいいだな」

「お願い。この街の英雄になって」

淫らな街で英雄になれば淫らな雌が集まる。自然界もそうだ。強い雄の元に雌が集まる。強いものの下になるのは惚れたから、側に居ると守ってくれるから、理由は様々だ。ゲーティアの男共を払うのは簡単だ。その後が俺にとって大修羅場の始まりだ。

「気が進まないが致し方ない。助けるぞ」

あの学校にある王子の冠を手に入れるまで逃げるわけにはいかない。なぜサキュバスの学校に天界の王子が被る冠があるのか、なぜ盗まれたのか、意図や理由は不明にせよ必ず取り返すぞ。人間界を救うために。メナリク・モーヴェイツを助けるために。

 右手にレメゲトンを召喚し、掌に置くと開き、第三部を詠唱。

「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」

俺の足元に紫色のホロスコープ型魔法陣が浮き上がると、レメゲトンから紙々が離れ、紙ドクロに折りたたまれていく。ざっと七十枚の紙ドクロは城門に群がる生徒に向かった。生徒の頭上に浮くと、各々が口を開き、レーザーを吐いた。レーザーの雨が群がる変態たちに降り注ぐ。

「うおおっ!」

「こ、ここにもレーザーの雨が!」

突然と襲う雨に動揺する生徒たちだが、一人が後ろを振り向き、俺の姿を見る。すると大声をあげ、皆に知らせる。

「あの人間っ! レハベアムが仕業だっ!」

「暗殺部を殺す魔人……!」

「暗殺部に歯向かう奴がここに来るとは……!」

奴らの口から暗殺部というワードが出た。それも強い憎しみを込めた言い方や言色。暗殺部に所属する生徒らか。

「あいつら暗殺部なのか?」

どうやらレーザーの雨が降ると俺がいるというのは暗殺部にとって定番の情報らしい。

 そのとき、一瞬だけ火薬の臭いが俺の鼻に差す。直感的に俺の頭に銃弾の軌道が浮かび上がり、即座にしゃがむ。僅か零点一秒後に頭上に銃弾がまっすぐ放たれ、回避に成功。左手にダーインスレイヴを召喚し、立ち上がると同時に後ろに振り向き、左腕を振るいダーインスレイヴを投げる。横に回転し投げられた魔剣は、拳銃を持って背後に立っていた生徒の胴体を真っ二つに斬り裂く。

「どうやら俺対策して行動しているようだな」

まさか城門に群がる生徒ら以外にも、その背後を守る暗殺者がいたとはな。性欲に身を任せて行動しているわけでもなさそうだ。

 それよりもここはもう戦場だ。ゲーティアの暗殺部の生徒らがなぜサキュバス専門学校を襲っているのは理由が謎だが、襲うのなら俺も対処せねばならない。

「アスモデウスっ! ここは戦場だ。住民を急いで避難させろ!」

俺の側にいてはアスモデウスは危険だ。暗殺部の生徒が居るのならば街の淫魔たちが危ない。悪魔ではあるが無実。殺される筋合いは存在しない。

「わ、わかったわ!」

俺の側から走って離れ、建物の狭い間を通る。

 一方、かくある建物の窓を突き破り、銃を持った暗殺部の生徒が姿を見せ、銃砲を俺に向ける。左右の建物からの銃砲で俺に逃げ場がない。

「その魔術書を詠ませる隙は与えねえ!」

俺が呪文を詠むよりも先に銃弾が俺の身に衝突する。当然詠唱は間に合わない。

「銃に囲まれちゃ、もう逃げられんぞ」

「これまで逆に暗殺された暗殺部の怒り、とくと味わえ!」

一斉に引き金を引き、無数の銃弾が俺に向かって放たれる。対する俺はレメゲトンを魔法陣の中に消し、右手を空ける。気を集中させ、足先や脚、指に殺気で作った刃をイメージさせる。

「ちょいとウァサゴのモノマネをしてみるか」

一つ目の銃弾が俺の右肩にまっすぐ飛んでくるが、対する俺は左手の指を振るい、銃弾を横に断つ。二つ目の銃弾は左から来るが、対して右手の指で銃弾を切断。第三発目、第四発目は右脚を振るい、脚を纏う殺気の刃で銃弾を斬る。振るうと同時に着地し、左脚を振るい、纏う殺気の刃を放ち、雨あられと飛んでくる銃弾をまとめて斬る。

「見える……奴らの軌道……!」

今の俺に映るのは、早く飛んでくるはずの銃弾がゆっくりと進む摩訶不思議なシーン。銃弾が遅いのではなく、ましてや俺に時の力があり、時速移動で俺が早すぎて銃弾がスローになる現象ではない。銃弾の軌道が直感的に読めて、銃弾が俺が思った通りの軌道を通る。読む直感と直感が正解になる間のシーンが僅かな差でさえ、俺の瞳に映るのは、軌道通りに進む銃弾。その僅かな差がスローに見えるのだろう。その間に全身を纏う殺気で銃弾を断つ。

「あ、あいつ、武器を持っていないのになんで銃弾を斬ってんだ!?」

「傷一つつかねえ!」

次々と飛び交う銃弾の嵐に対し、俺は踊るように高速で指や脚を振るい、殺気の刃で断っていく。次第に襲う銃弾の数が少なくなり、弾切れになっていく。

「ふん、今度は体術を極めてみせようか。ウァサゴにも一発殴りいれたいしな」

ウァサゴは時の力を使わずとも小指一本で余裕に大地を深く陥没させる。平然と自然破壊できる腕力を持つほど体術のレベルが桁違いだが、俺も鍛えればいつかはウァサゴの頬に俺の拳が届くかもしれない。

 一方、暗殺部の連中は俺の殺気の舞に恐れをなしたか、表情を青ざめる。

「奴、人間のくせに強すぎだろ!」

「人間ができる真似じゃねぇ!」

「ふざけた体術使いやがって……!」

銃の包囲網を作り一斉に狙いの的に全弾当てる作戦が見事に崩壊したというわけだ。もはや俺と暗殺部部員との戦力差は大幅だ。

「に、逃げろお!」

「勝ち目がまるでねえ!」

勝ち目のない戦いから逃げる最善の賢い行いを実行する逃走犯共は、窓や入口から次々と身を外に出して、街の出入り口へ逃げる。

「逃げることも……」

出入り口先の道路の上に、紙ドクロたちが横一列に並び、道路に向かってレーザーを吐き、暗殺部部員の逃走を防ぐ。

「く、くっそおお!」

逃げ道が塞がれあわわと慌てる生徒たちの中、一人が俺に睨みつけ、剣を抜く。

「あの魔術師を殺せばレーザーは止まる!」

勇敢かつ勇気の判断だ。掛け声に生徒たちは冷静さを取り戻し、次々と振り向き、身体を俺に向ける。

「そ、そうだな……この剣でちょいと突き刺せば死ぬんだ」

「今やあいつは無防備! 一斉に斬り付ければ!」

各々が決心した表情を浮かべ、腰から短剣や剣を引き、群れで俺を睨んでくる。まさに背水の陣というわけだな。逃げ場がない絶望な状況のなか、それでも生きるために戦う奴らの覚悟。美しきかな。だが闇に蠢く者共をこの世に居させるわけにはいかない。

「かかれぇっ!」

群れは俺へ一斉に突撃。各々の足音で地面が揺らぐ。対する俺は全身から殺気を放ち、この場に包み込ませる。殺気の冷たい風を受けた奴らは脚を止め、更に震えあがらせる。

「な、なんだ……脚が動かない……?」

「この寒気はいったい……」

知らず知らずのうちに恐怖の渦に飲み込まれた奴らが止まっている間に右手に魔法陣を出す。

「近寄ることもできない……お前らが向かうべき道の先に待つのは俺ではない。本物の地獄だ」

魔法陣からレメゲトンを引き出し、第一部『ゴエティア』を開く。

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり」

俺の背後に魔法陣が浮き、殺気に凍った暗殺部部員たちに七十二本の柱槍を解き放つ。

「あ、あああああ……!」

「お、おいやめろ……俺たちはもう既に戦意ないんだぞっ!」

恐怖に飲み込まれ、死を覚悟する悪魔共の戯言を無視し、放たれた七十二の無慈悲な柱槍は群れに直撃。次々と部員たちを貫き、肉を地面ごと破壊する。

「グラシャに代わって祈るよ。お前らが地獄で反省するということを」

紙ドクロがレメゲトンの元に集まり、ペラペラな紙に戻ってレメゲトンの一部に帰った。全て帰るとレメゲトンをパタッと閉じ、魔法陣の中に消す。投げた後地面に刺さったダーインスレイヴも自動的に魔法陣に消えた。

 とりあえず淫魔街の環境を汚す変態共は止まった。あとは死体を埋葬するだけだ。

えええながらく投稿を待たせましたすみません……

 と、いうわけでありまして、遂にレハベアムは淫魔が巣食う学校に行きます。全てはメナリクに迫る危機を拭うため、天界の王子の冠を目指し、サキュバス専門学校へ進撃します

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