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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第死章 淫魔護衛編
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死十死話 変化

 瞼を開けると、白い天井がまず目に映り、次に俺を中心に心配そうに見守る女天使たち。目が合うと、女天使たちはフワッと笑みを爆発させ、喜び叫んだ。

「レハベアム様……!」

「レハベアム様がお目覚めにっ!」

すると右に立つミカエルがベッドに寝る俺に跳びかかり、俺の上で横になってきた。爆乳がビキニの布越しに俺の顔にのしかかり、ハグしてきた。

「……んっ!」

「もう心配しましたよ。混浴中に何度も気絶しますから」

ハグで満足したミカエルはすぐに俺の上から降り、さりげなく俺の手を両手で握ってきた。俺は握られた手を引き、握手を払う。とりあえずベッドから降りる。

「……気絶を繰り返したことすら、混浴の記憶が全くない。ただ、一つだけ言えるのは、やけに体が軽いんだ。余計なもの全てドピュドピュとヌかれた気分だ」

混浴中の記憶が失せたのは不幸中の幸いか。混浴中、俺は具体的にナニをされたのか想像がつくから、恥ずかしい記憶がすぐに消えてくれて好都合だ。とにかく体が軽い。

「しかし、本当はまだ皆さん全然満足していないらしく、まだまだレハベアム様との裸の付き合いや合体をもっとしたいと言っています」

まあ、三億神の女神や百億の女天使は創世記から性欲が溜まっていると言い、挙句性欲の矛先は俺一人のみ。身体はたったの一個だ。各々が満足するまで俺の身体を弄べば、時間は永久に終わらない。メナリクは悪の手に捕まってしまう。

「……もうそれ、どうにかできないのか? 性欲を抑える方法」

「抑える方法? 軽減させる方法をあげるとしたら、レハベアム様自ら私たちの爆乳を揉んでいただけたら少しはマシになるかと思います」

「……軽減どころか増幅させている気もするが」

今度、性欲を抑える薬を俺が自ら作ってみせるか。作るのは初めてだが、参考書読めばあとはどうにでもできる。

「しかし、レハベアム様の肉体全てに聖なるベールが浸透しました。これでレハベアム様は女神の加護を受け、淫魔たちの逆強姦も軽減されることでしょう」

逆強姦される前提でそのような不吉な事言われるとやはり行きたくないが、メナリクのためだ。行くしかない。

「じゃあ、俺はさっそく行く。魔界へ戻してくれ」

「はい。ただいま」

ミカエルを先頭に他の女天使たちもこの部屋から出て行き、俺もついていく。出て行った部屋から、王の間とは真逆の進行方向へ廊下を歩む。そして一斉に女天使たちは左右に並び、その先には黒い六角形の踏み台が置かれていた。どうやらこれを踏むと俺は魔界へ帰れるらしい。

「いよいよ行くのですね」

背後から声がし、振り向くとアプロディーテーが立っていた。俺の帰りにアプロディーテーが寂しそうな表情にする。

「行かれる前にもう一度、超新鮮なミルクを直で飲みますか?」

超新鮮なミルク。アプロディーテーや他の天使たちの周りに牛などいないのに、いったいどこから搾り出すのやら。

「一応聞くが、もし俺が天界の王子になったら、俺はずっと天界に居なくてはならないのか?」

なにせ天界を統べる王子となるのだ。そんな責任重大のある役職の持ち主が別世界に居ては話にならない。

「ええそうです」

即答だ。だが俺は前の黒い踏み台を注目し、目を合わせないでアプロディーテーに言いつける。

「慣れない環境にいきなり連行され犯されたものだからな、腐った環境でずっと生きてきたから、魔界の方がよっぽど生き心地が良いらしい、俺にとって」

いくら魔界が腐った環境とて、淫女だらけの光眩しい天界よりは遥かに過ごしやすいのははっきりした。天界の王子になったあと、魔王になったら天界の冠はすぐさま投げ捨てよう。もう俺の手が届かない距離に。

「そのうち天界で過ごしたくなりますよ。もう永遠にイキ心地にさせてあげますから」

「ああ、そのうち本物の天国に逝くんだろうな。そうやって俺の人生は幕を閉じる。なんとも悲しい人生よ」

腹上死で本物の天国に逝くなど、とてもとても情けない最期だ。そうならないよう、さっさと天界との繋がりを断ち切りたい。

「まず死なせませんから。天界の王子として天界から一歩も出さず、永遠に私たちの女体の中でイキさせます」

「俺を死なせたくないのなら、せいぜい生きることを願ってくれ」

踏み台へ一歩踏み出すと、踏み台から黒い光が放たれ、俺を包み込んだ。

「……もし死んだら、私たちも死んで地獄に堕ちますからね。逃げられるなんて思わなきように」

ああ言えばこう言う女神様の言葉を受け、俺は光の一部となって光速で、更なる天空へ遥か彼方へ飛んで行った。

「どうかご武運を」



光速で更なる天空へ飛ばされたあと、ほんの五秒後にゆっくりと減速し、黒い光が俺の身体を離すと同時に、まだやや浅暗い日差しを差す森の広場に着陸した。広場の中心には俺の城がいつも通り置かれている。

「帰ったんだな」

天界から魔界へ、光速で飛ばされて五秒後にご帰還。天界と魔界の距離は五光年ほどか。意外と世界同士は近いものだな。人間や悪魔の足でマラソン大会すればゴールまでの時間は計り知れないほどだろうがな。

「まだ日差しがちょっと暗い」

天界へ連行されたときの日差しと、魔界へ帰った直後の日差しはさほど差がない。城のマイルームの中に入り、改めて時間と日付を確認する。俺が起きた時間は四時五十分で、まだ日差しは浅暗い。今の時刻が示す時間は、四時五十五分となっている。カレンダーを見ても、今日は六月二十九日。一日すら経っていない。

 起きて白ビキニの撒き餌に敢えて引っかかり、その間に約五分が経過した。そして俺を天界へ連行後、魔界へ帰ってから、まだ五十五分だ。俺は約三週間分を天界や謎の世界で生きた感覚なのに、魔界にとっては時間は極めて遅いのかが分かる。つまり五十五分に天界へ連行後、五十五分に魔界へ帰還というわけだな。天界と魔界の行き来の間は秒単位でいうとほんの一秒以内だ。他の者から見たら、一秒が始まった瞬間に異世界へ行ったというのに、一秒経過すらしていない僅かな単位で俺は魔界へ戻ったということになる。二つの異世界を渡って瞬間ご帰還だ。

 淫魔に追われる悪夢で起き、その後女天使たちに連行され気絶。また淫魔の悪夢を見て起き、女神王アプロディーテーと大事な話を聞き、強制的な混浴を受けさせられた。更には謎の世界へ飛ばされ、ワユとスキールニリと出会ってしまう。謎の世界での出会いで情報が集まり、推理がついたところで、また天界で目覚め、やっとこさ魔界へ戻った。この五分と一秒で俺はかなり長生きをしたな。

「(謎の世界で出会ったワユやスキールニリ、残り二人の人物と作家たちが気になるが)まずは俺はメナリクのために、この魔界で戦わなければならないな」

俺を中心に渦巻く台本に書かれた運命。謎の世界に住むカタリキヨ レアが俺たちの運命を操っているが、今はそのような事気にしたって問題は解決しない。文章が赴くままに運命に乗って、今はメナリク救出に専念しよう。魔界で裏から暗躍するヤロベアムや、謎の世界の真の黒幕を倒す考えは今は離れよう。

「……さて、じゃあせっかく早起きしたところだし、もう朝食と弁当作るか」

どっちみち今からサキュバス専門学校には行けない。行くとしてもゲーティア高校の授業もサボるわけにもいかない。一早く天界の王子になりたいが、焦りは禁物。色々サキュバス専門学校を調査してから乗り込むべきだな。

 ほどなくして朝日が眩しい六時五十分。俺はグラシャ=ラボラスが使っている部屋へ朝食を運び、届ける。

「ありがとうございますレハベアムさん」

グラシャ=ラボラスは体力の低下や人体的損傷によりまともに歩くことすら難しい。基本はベッドの上で横になってもらい、活動するときは車椅子に座って移動している。が、車椅子が通るにはこの城は全くバリアフリーがなく、部屋の外に出てもバリアが多くかえって危険なため、常に部屋の中にて居させてもらっている。当然、階段から降りることが出来ないため、俺が朝食を運ぶようにしている。グラシャ=ラボラスは自分で食べたいという意欲はあるが、どうしても手腕が上手く動かせず、難しい日は俺がグラシャ=ラボラスの口まで食材を運んで、食べていただくようにしている。

「今日は調子はどうかな」

ベッドの机に朝食を置き、俺は椅子に座り、目線を合わせる。気持ちの良い朝の下でラジオ体操はできないが、起きたら日課として、ベッドの上で関節可動域訓練をしていただくようにしている。調子が良い日は自分で食べられる日は多い分、悪い日は俺がグラシャ=ラボラスの食事に手伝うことにしている。

「今日は少し調子がよくないです……」

調子が悪い日のほとんどは精神的苦痛や落ち込みによるやる気低下が大きく影響している。精神の影響に肉体は敏感だ。そのときは俺が必死にグラシャ=ラボラスを慰め、なるべく心の本音を言っていただくようにしている。

「……前のラボラスのことか?」

グラシャの大きな悩みといったら、心身の疲労は勿論、もう一人の人格であったラボラスが亡くなったこと。たいていのグラシャの悩みはそれに当たり、ズバリ言ってあげると頷く。

「やっぱり、ラボラスがいないと生きるのって不安になってくるなって……今まではラボラスが先導して勇敢に生きていたから、不安に押しつぶされて」

「頼れる姉貴肌ってわけだな。確かに、ラボラスは自分の意思で選択していった。悪い道も覚悟も全て」

グラシャにとってラボラスは悩みの種であった。悪行や殺しをして回ったラボラスに、グラシャは反面教師として善魔となっていき、ラボラスが悪魔らしく成長するたびに、グラシャはそれに応えて善魔として成長した。ラボラスが勇敢に悪く立ち回る度にグラシャとの距離は離れていった。だが、それでも肉体を先導して進んでいったのはラボラスであり、堂々と歩める分、ヒトと接する事がほとんどなかったグラシャにとって頼れる性格でもあった。今や肉体には一つの人格しか残らず、肉体を動かすのは自分だけ。いつも先導してくれた姉貴肌のラボラスがいないこの時、いつも人格の影に隠れていたグラシャが肉体を動かすだけでも不安でいっぱいだろう。

「はい。ラボラスは私にとって怖い友達であり姉です。悪いことをするラボラスは大嫌いでした。正直、今でも妬んでいます。でもラボラスの勇敢さは一部の憧れでした。……やっぱり、ちょっと不安です。いくらレハベアムさんたちが心強いだからといって」

「グラシャ。お前にこんなこと言っていいのか分からないが、おそらくグラシャがラボラスを失ったあと、そうやって後悔するのは、あの世で反省しているラボラスにとって失礼だ」

「レハベアムさん……」

「ラボラスはあんな強気な性格だからな、自分一人だけ地獄に堕ちたんじゃ腑に落ちないだろう。グラシャを道連れにしたかったとほざいているかもしれない。それでも頼れるところはあった。失った姉でくよくよしているところをもしラボラスに見られたら、もうさぞかし心配そうにして怒鳴るだろう。『なに怯えてんだ。正々堂々と生きろっ!』てな」

グラシャがラボラスを姉のように思える部分があれば、その逆にラボラスがグラシャのことを頼りなくて優しい妹と見ていたかもしれない。もしそうでなくても、ラボラスも弱気なグラシャが魔界に一人だけ残り、生きていることにとっても不安しているに違いない。

「俺としても、おそらくラボラスとしても、悩むほど嫌いだけど頼りになれたラボラスがもっと心配しないように、胸を張って生きてほしい。ラボラスはそう思っているはずだ」

「……はい」

グラシャの青い両瞳に薄い涙が浮き上がり、感動してくれた。

「そういうわけだ。食わないともっと元気にならないぞ」

「そうですね。ラボラスが心配しないように生きなきゃ。強く」

「その意気だ」

「はいっ!」

落ち込みから威勢よく元気になってくれたところで、グラシャはゆっくりと手腕を動かし、スプーンやフォークで食材を持ち、自分の口で運んでくれた。

「もし具合が悪くなったら生徒手帳で呼んでくれ」

グラシャ=ラボラスは正式に善魔生徒会メンバーとなり、白い生徒手帳に名前が加わった。これでグラシャ=ラボラスの連絡が離れていてもできるようになった。

「ありがとうございます」

「では、俺はあの三人を起こしに来る」

椅子から立ち上がり、この部屋から立ち去るときがきた。

「ええ、今日も一日頑張ってください」

「当然だ」

扉を開き、部屋を出たあと、最後にグラシャ=ラボラスに目と目を合わせたところで扉を閉めた。

「……さて、おおい朝だぞおお」

グラシャ=ラボラスが使っている部屋の隣、ウァサゴ、シトリー、フェニックスが眠る部屋の扉を強くノックし、無理矢理起こす。あとは勝手に自分で起き、俺はリビングルームに戻る。

「おはようレハ……」

「おはようございます……」

「ふあああ……眠い」

ほどなくしてウァサゴ、シトリー、フェニックスがパジャマ服を着たまま寝ぼけた顔でリビングルームに集結し、椅子に座る。それぞれ席の前にバターロールパンとオニオンスープ、森牛から搾りたてのミルク、サラダや焼きウインナーを置いている。全て手作りだ。各々はいただきますと言わずに、勝手に食べ物を食していく。悪魔全員がそういう特性なのかは知らないが、少なくともこの三人は朝が非常に弱く、この時間はお喋りなどせずとにかく静か。元気になっていくのはお昼からだ。

「お弁当だ」

キッチンから食材を詰め込んだウァサゴのピンク弁当箱、シトリーの青弁当箱、フェニックスの赤弁当箱を持ち、ガラス机の中央に置いた。

「ありがと」

「ありがとうございます」

「ありがとお。唐揚げは入っているう?」

「今回は二個だ。いつも食ってると太るぞ」

「ええええ少ない」

「ちゃんと健康に気を遣え」

軽くフェニックスに足止めとして言っておくと、隣のウァサゴがお弁当蓋を開け始めた。

「いただきまあす」

朝食が足りないのかまだ寝言を言っているのか、昼食用のお弁当を朝食のおかわりだと勘違いしている。開けられる前に蓋に指を置き、おかわりを防ぐ。

「それはお昼だ」

「えええええ」

この三人、とにかく朝が弱い。まだ寝ぼけているからか、バックに今日の授業で使う教材や筆箱を忘れていないか毎朝俺がチェックしたり、宿題のやり忘れを思い出したりされると俺が急いで教えたり、櫛で絡んだ髪を解いたり、脱ぎ捨てたままの制服をアイロンがけしたり、口に入れたミルクを零したり、とにかく世話が焼ける。今までの生活習慣が悪すぎる。酷いときは皿をうっかり落とし、割ることも多い。顔洗いも歯磨きもサボり、どうしてもやらない場合は俺が実行する事もしばしば。パジャマから制服のお着換えも面倒だと言い張ることもあるが、それに関しては俺は一切やらない。

 対してグラシャ=ラボラスは体が弱っているというのに、身の回りのことはちゃんと自分でしようとし、できている。勿論、彼女一人ではできない生活場面があれば、俺が手伝ったり、俺に任せてくれるときもある。なのにあの三人は心身共に自立しているのに堕落すぎる。グラシャ=ラボラスを見習ってほしい。

「忘れ物ないか?」

出発前に確認すると、必ず誰かが忘れる。今日は誰が忘れるのだろう。

「あっ、包帯っ! 喧嘩する用の包帯忘れてきた」

「ああ眼鏡拭き忘れました。ウァサゴ先輩柄の」

「唐揚げ用のマヨネーズ忘れるところだった」

今日の朝は全員一致だ。眼鏡拭きならともかく、包帯やマヨネーズは必需品ではないだろう。だが三人はそれぞれの部屋に徒歩でゆっくりと戻っていき、程なくして「あっれぇぇどこかな」「無くしましたぁぁ」「いつもここに置いているのにっ!」と叫び、自分の部屋なのに必需品を紛失する。その度に俺も探すのを手伝い、結局八時四十分に出発になることも少なくない。

「急ぐぞ……」

「なんで朝ってこんなにもめんどくさいんだろお」

「そもそも学校って嫌ですよねえ。特に月曜日」

「もうがっこおサボろっかなあ」

「ダメだフェニ。サボることは許さない」

「ええええそんなあ。なんでよ」

「いくらあそこの授業体制がクソであっても、学びは非常に大切だ。それに卒業証書は欲しいだろ」

「……まあ、確かに」

「だったらわがまま言いなさんな」

「はああい」

靴を履くが、三人は紐を結ぶことに時間がかかり、遅刻しそうな時刻になっている場合は俺がもう結ぶ。

「ったく、俺はお前らのお世話役じゃないんだぞ」

「何言っているの。この城の主は私ウァサゴ・ロフォカレ様よ。お世話役がいて当然じゃない」

「寝言は寝てから言え」

「え? じゃあ寝ていいの?」

「……寝るつもりで学校サボりたいのなら、今すぐ生徒会長の役職を俺に渡せ。生徒会長が学校をサボるなんて前代未聞だ」

「授業中で寝えちゃお」

「学校で寝ればいいって話ではない」

朝が弱すぎて俺がいないとダメすぎる。やれやれと思いながら城を出て、朝の陽光が差す聖域に入る。俺とウァサゴは朝の一日を知らせる温かい聖域へ入り、陽光をこの身に浴びる。

「あああ良い天気ねえ。きいいいもちいいいい」

せいいっぱい背伸びし、陽光を浴びればウァサゴはすぐに元気になる。

「ヨォォォロリロリヨホホイッ、ヨホホイッ、ヨォォォォホイホイヨホホイッ、ヨホホイッホ」

陽光の温かさが嬉しいのか、ぐるんぐるんと回り踊り歌い出す。今はとってもご機嫌良いらしい。太陽の女神様が見ていたらさぞかし喜ぶ踊りだろうよ。

「森を出れば悪い天気だがな」

森の内は太陽の日差しが差すため聖域だが、森の外は分厚い曇天で陽光が完全に遮られている。ウァサゴは光を体内に秘めるほど善魔としての意思が強い分、シトリーとフェニックスは日傘を差して陽光を遮っている。

「ほんとうにウァサゴ先輩凄いです……日差しの中歩けるだなんて」

「私たちも善魔なのに、どうしてこんなに差があるんだろう」

二人も善魔なのだが、光がまだ生成されていないことが原因で単純に光属性がなく、太陽光に弱い。善魔としての意思、自覚、覚悟がまだ弱いというほどだな。

 森の広場を出れば森の外へ続く一本道があり、出入口に日傘入れに日傘を差して、森の外に出る。

「あああ悪い天気ねえ。気持ち悪い」

森を抜ければ、うって変わってどんよりとした悪い天気。分厚い灰色の曇天により日差しの完全シャットアウト。ウァサゴのやる気が急激に下がり、機嫌も悪くなった。これほど日差しで左右される生物が居れば、太陽の女神様も落ち込むであろうよ。

「学校はなぜ遠くにあるの、あの学校はなぜ私を待っているの……教えてレハさん。教えてレハさん」

「おい、不気味」

テンションが下がりまくりだ。正義のために戦うといって、喧嘩が大好きで学校が面倒くさがり屋にはたして生徒会長が務まるのだろうか。ここまで頑張ったというのに善魔生徒会の解散は俺も嫌だぞ。

 歩くこと七分、全員のモチベーションがダダ下がりな今、多くの生徒が学校門の下で埋め尽くされていた。

「な、なんだあれは。何があったのかしら」

「交通路を塞ぐとは邪魔臭いな」

何事が起きたのかは知らないが、学校門を群れで塞ぐとは交通の邪魔だ。本当に悪魔は嫌がらせ行為が好きだな。

「お、おいっ! 来たぞ!」

一人の生徒が俺たちの通学に気づき、大声で知らせる。群れる生徒らは俺たちの通学を待っていたのか、次々と俺たちに体を向けてきた。

「なんか用かしら?」

学校門を埋め尽くす生徒らに対しウァサゴは一歩踏み出し、堂々と強気な態度を出す。

「私たち遅刻しそうなの。通してもらっても良くて?」

遅刻する原因はウァサゴらの朝の弱さにあるのだが、自分たちよりも多い群れにも臆さない姿勢は朝でも健在だな。もっとも、烏合の衆がウァサゴ単体に突撃したって何の意味もなさないのは、奴らも十分に知っているはず。あるいは恐れを知らない蟻共か。

「ダメだなあ、セイトカイチョーさん」

「まずは今までのお礼をしなきゃあ、気が進まねえなあ」

「通してもらいたきゃあ、まずは止まってもらおうか」

やはり蟻共か。ウァサゴという善魔に恨みを持つ悪魔たちだが、いくら恨みを束ねてもウァサゴの間合いに入るだけで命の無駄だ。

「おい、いいからそこを通せ。お前らが一斉に突撃しても、俺たちには勝てん」

別にウァサゴ単体でも十分で、俺たちは朝の紅茶を飲みながらゆっくり観戦しててもいいが、それではウァサゴが暴れすぎて奴らに深い傷を負わせかねない。そこで圧倒的戦力にプラス俺も加えることで、烏合の衆との総合戦闘能力は更なる桁外れの差が生じる。二つの強大な戦力に烏合の衆は恐れ、決死しにくくなる。わざわざこちらから命を奪う必要はない。

「ほおお? 言ってくれるじゃねえか」

「まずはてめえからやってやろうかっ!」

「調子に乗りやがってっ!」

しかしそれでも臆さない。もうこれは恐れそのものを知らない、単なる無知だ。恐れよりも憎しみが強いからそう言えるのかは分からない。

「はあ、もう好きにしろ」

どちらにせよ動機に呆れ、もはやレメゲトンやダーインスレイヴを出すまでもない。体術だけでも十分だ。

「行くぞおおおおおおおお」

「「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」」

勇敢か無知な、大きな掛け声に応じて烏合の衆は一斉に突撃し、俺たちに向かってきた。

「「ひ、ひええええええええええええっ! お、助けをおおおお」」

シトリーとフェニックスは俺たちの後ろで怯えるが、既にシトリーがバリアーを囲い、自分たちの分だけ守っている。怪我でもされたら困るから俺たちから余計な手間が省けて良い。

 第一人目が拳を引いてウァサゴの間合いへ入ろうとする。対するウァサゴは拳を出して、いつでも受ける態勢に入った。その瞬間、悪魔は偶然こけたのか、突然と前のめりに倒れた。いや、倒れ方にしてはわざとらしく、自分から四つん這いになり、更に膝や肘、腰、頭さえも下した。

「助けていただき、ありがとうございますぅぅぅう!」

殴りにかかってきたと思われたザコが土下座し、後ろに続く決死隊も一斉にこけて土下座。

「「「「「「ありがとうございますぅぅぅう!」」」」」」

烏合の衆が自ら土下座し、俺たち善魔生徒会役員に大声と共に多大な感謝を仕掛けてきた。

「「「「……へ?」」」」

流石の俺たちもこの状況が理解できず、マヌケな一言が零れてしまう。事もあろうか有難みを知らない悪魔から感謝されたことが大きな驚きだが、大前提として感謝されることに心当たりはない。

「……俺たち、こいつらを助けたことあったか?」

「ないわね」

「ないですね」

「ありえないね」

ウァサゴシトリーフェニックスの意見一致したところで尚更謎が深まるこいつらの救出。俺たちはいつ悪魔たちを助けたか。

 ウァサゴに殴りかかろうとした生徒が頭を上げ、下からウァサゴのミニスカートを覗き込み、ニヤニヤしながら熱い声を発してきた。

「バーゲストが襲来して、俺たちを黒犬にさせたじゃないですかっ! そのとき、俺たちからバーゲストを取り除き、負傷したところを回復させてくれたと後から聞きまして、こうして感謝会見をしているところです。命を救っていただき、本当にあ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずっ!」

「……ああ、あの件のことか」

暗殺部三年生のブネがバーゲストを召喚し、ゲーティア高校生たちを黒犬に化けさせたあの事件の被害者たちが俺たちに感謝をしているということか。

「そういえばそんなことあったわね」

「あれは大変でしたねえ」

「そうでしたねええ」

そんな過去を優雅に思い出す俺たち。もうすっかり忘れていたよ。あの時はセーレが突然と見失ってヒヤヒヤしたものだ。更にはウァサゴがバーゲストに取り込まれたときのストレスは半端なものではなかった。

「ま、まあ、なんでもいいからとりあえず頭上げなさい」

ウァサゴが右足を上げ、思いっきり地面を踏む。圧倒的な衝撃波が地面に伝わり、土下座する悪魔たちが大きく撥ね上がり、物理的に頭ごと上げさせた。各々が地面に落下し尻餅をつく。

「私たちは善魔だから、助けるのは当然の事よ。そういうわけだから道を通して」

最後にそう言うとウァサゴが転がる悪魔の群れの中、堂々と真ん中の道を通り、俺たちも続いてウァサゴの背を追い、学校門を通る。

「ぜ、善魔に万歳だ! 万歳しろっ!」

「「「バンザーイッ!」」」

「「「バンザーイッ!」」」

背後に万歳と叫ぶ悪魔たち。まさか悪魔から感謝と万歳を聞けるとは、意外と時代は移り変わりやすいものなのだなと感じた。

「やっぱり平和が一番ね」

「後ろの悪魔共がそう思ってくれればいいな」

学校の敷地で俺とフェニックス、ウァサゴとシトリーは離れ、それぞれの教室へ行く。その道中、廊下の掲示板に貼られている善魔生徒会のポスターの変化に目が行き、止まる。

「あれまあ」

「落書きが消えているな」

消した跡がくっきり残っているが、ポスターの落書きが消えている。善魔生徒会の活躍がこれほどまでに悪魔たちに影響しているとは驚きだ。

「ふふん、分かればいいんですよ分かれば。善魔生徒会のすばらしさをね」

あれほど善魔生徒会の方針に愚痴を言っていたくせに手のひら返しが凄いなフェニックスは。とはいえ、善魔生徒会の酷評がうって変わって右肩上がり。騙すことを得意とする悪魔は、評価の値に関しては結構すんなりと左右されやすいのだな。

「悪魔の救世主レハベアムだ!」

「おおお人間だあっ!」

「善魔生徒会のロリ代表フェニちゃん!」

「傷を癒してくれてありがと!」

ポスターの前に立つ俺たちに次々と生徒たちが集まり、各々が俺たちに歓喜の声援を送る。まるで俺たちが英雄みたいな扱いだ。

「フェニ。一応言っとくが奴らは悪魔だ。俺たちを褒めまくって、浮かれている間に殺そうって魂胆だ。間違って心を許すなよ」

「分かった……で、でも、なんか照れるなああああ」

「おいフェニ。浮かれるな」

その後教室に戻っても英雄やら救世主やら恩人やら歓迎されたが、とりあえずうるさいから俺から殺気を放ち、教室内に重圧かけて黙らせた。

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