死十二話 女神が住まう世界(挿絵付き)
気が付くと、俺は暗い部屋で寝ていた。前の記憶が思い出せない。前の記憶は、俺はいったいなにをされたっけ。そう思いながら上半身を起こそうとする。と、そのとき。
「どこに行くのお? 私たちのレハちゃん」
真背後からいきなり上半身を抱かれ、後ろに引っ張られ、無理矢理横に倒されてしまった。
「な、なんだっ?! ――んっ!」
後頭部にとてつもなく柔らかい何かが二つ、その間に挟まれて包まれた。その何かは女性のような温もりが伝わり、脳がとろけてしまいそうだ。だが、背後に俺の下敷きになっている者は俺を抱き着き、両腕で拘束する。
「この、離せっ!」
怒鳴り上げ、ついでに左手からダーインスレイヴを召喚しようとするが、また左手に魔法陣が現れない。
「な、なんで剣が出ないんだ……!」
理由が不明のなか、天井に突如ピンク色の灯りが照らされた。俺の周りには、多種多様な色の艶肌をして、肉体美を誇るサキュバスたちが囲んで立っており、俺を見下ろしていた。
「第二ラウンド、行くわよ」
「まだまだ死なないでねえ」
(イラストレーター:モツ煮子美 様。
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俺を色っぽい瞳で見下ろし、ニヤニヤと微笑む無数のサキュバス共。このハイパーモデル並みの肉体美を持つサキュバスで思い出した。
そう、前の記憶では俺は運動場でサキュバスたちに囲まれて、俺の身体に肉身と爆乳をズリズリと擦りつけて圧してきたんだ。そして最後はサキュバスに恐ろしいキスをされて、そこからの記憶がない。第二ラウンドと言っていたから、俺はあの後気絶して、この場所に運び込まれたのか。道理でダーインスレイヴやレメゲトンが出ないわけだ。
俺を囲むサキュバスたちは一斉に立ち、片足を俺の股間の上に置いた。
「うっ……!」
各々が片足で股間の上でグリグリと揺らし、踊らせる。
「ねえ、どおお? サキュバスの足で踏まれた気分」
「最強にキモチイイでしょ?」
「イってしまいそうでしょ。でしょっ!」
「き、気持ちいいなわけがあるか……! 踏まれて気分が良いなんて、ただのドMだろうが!」
実に不愉快だ。悪魔の腕で拘束されて、身動きが取れない俺に一斉に悪魔の足で踏むなんて、俺の人としての尊厳に対する冒涜だ。いや、所詮は悪魔。悪魔の辞書に尊厳は守るべきことと書かれているわけがない。卑しめ傷つけるものと書かれているに違いない。
すると一人のサキュバスが俺の腹に騎乗し、顔を俺の顔に近づけた。俺の目の前で口を開け、次の甘い言葉を直に出す。
「じゃあ、私があなたをドMに矯正してあげるわ。これから一生、サキュバスの性処理奴隷として、ね」
「性処理……奴隷だと?」
性処理奴隷は、つまり奴隷の如く、サキュバスの性欲を無理矢理処理させられるということか。とことん人としての人権や尊厳を馬鹿にする奴らめ。
「だって、あなたはそのために魔界で生きているのでしょ?」
「そんなわけがあるか……!」
「それに、あなたが居てくれてよかったと皆心から思っているわ。わざわざ人間界に行かなくても、学校に残って人間のイケメン魔術師から高質な精子を搾り取れるものっ!」
顔の接近を離し、皆に問いかけると、
「「「「「「ねえええっ!」」」」」」
一斉に皆が大共感。各々が心底嬉しそうに笑う。
「黙れっ! 俺は決してお前らの元に堕ちんぞ。何が何でも抵抗してやる」
悪魔全てに対する憎しみを込めて叫ぶと、騎乗しているサキュバスは俺の頬を両手で固定し、舌を出して俺の鼻を舐めた。
「ああいいわぁその態度。負け犬の遠吠えのように叫ぶその強気な姿勢。どんどん強がって頂戴。サキュバスの真の恐ろしさをたあっぷり教えて、その快楽の地獄の元でレハちゃんが崩壊した瞬間! イき顔になっていくのが楽しみなの……!」
「ド、ドS共……!」
「ねえ、私もあなたの唇に触りたい……クチュクチュしたいの……だから、いい?」
再度顔を近づけて、唇を立ててきた。
「や、やめろ……おい。やめろおおおおおおおおおおおおお」
唇が俺の唇に大接近中。そして唇同士の柔らかい触感が当たろうとする寸前。
「レハベアム様……!」
俺を様で呼ぶ声がしたと同時に目が覚め、勢いよく上半身を起こす。
「はぁ、はぁ……」
息が乱れ、荒呼吸を繰り返しながら深呼吸も交え、正常に戻していく。また悪汗が全身に身を纏い、ベタベタして気持ち悪い。
「……またあの夢か」
サキュバスに襲われる夢だ。一度目の悪夢ならまだしも、二度目の続きの悪夢を見せられるとはっきりした。夢魔が意図的に俺に夢を見させているのか。サキュバスたちに犯される夢を二度も見せてくるあたり、なにか悪意のあるメッセージ性がある。どうやら本格的に淫魔夢魔たちに本格的に狙われるらしい。なにか対策を立てなくては。
そんな汗だくの俺に心配するそうに注目する周りの白ビキニ天使の大群。俺は彼女らに四方八方囲まれてベッドの上で寝ていた。完全に逃げ道が塞がれている。
「レハベアム様大丈夫ですか……?」
右に立つ、名をミカエルと言っていたか、爆乳を俺の上半身にさりげなく当ててくる。
「あの、よかったらタオルを」
天使と名乗る者が俺にタオルを差し出し、とりあえず悪汗を拭きたいからタオルを見ずに受け取り、髪や頭を拭く。そういえばやけに上半身と下半身がスース―するな。空気と一体感しているような、実に解放感だ。下を見てみると、俺はパンツ一丁でそれ以外は全て素肌をさらけ出ている。
「……お前ら、なんで俺を脱がした?」
脱衣させた犯人はどうみても、今の俺と同じく露出度が物凄く高く、セクハラ発言、行為をした天使と名乗る者たちだ。
「そ、そそそそそれはレハベアム様のパジャマが濡れていたものでして……ねえ?」
「う、うんうんうん!」
俺の問いに明らかに動揺し、しどろもどろになったな。挙句、味方を巻き込んで共感を図り、皆必死に頷いている。まさか俺が寝ている間に俺の裸の全てを見たのではないだろうな。
まあいい。どうせパジャマも悪汗でずぶ濡れだった。どのみち体を拭きたいと思っていたから良しとしよう。受け取ったタオルでまずは上半身を拭くが、そもそもタオルの布が肌触りに合わなすぎる。不自然に思い、タオルを見てみると、それはタオルではなく、白ビキニだった。とことん奴らのセクハラ行為に呆れ、周りに立つ天使たちに聞く。
「……お前らの世界では、これはタオルと呼ぶのか?」
すると、ベッドを囲う天使たちの中に、唯一白ビキニを着ていない、上半身の全てを完全に晒し出している変態がいる。しかも堂々と。
「……脱ぎたてホヤホヤのビキニをタオル代わりにしたってことか」
俺が男だというのに全く恥ずかしそうにしていない。やはりこいつら、変態レベルとしては圧倒的高水準すぎる。悪魔男の性欲を遥かに超越している。
「そ、それにしても酷い汗です。水分補給してください」
左の天使から、ミルクが入ったコップを手渡された。確かに喉はカラッカラに乾いている。今すぐにでも水分を補給したいところだ。有難くコップを受け取り、ミルクを飲む。ミルクは俺の口腔を癒し、喉の荒れ地に滝が流れ、回復した。
「味はどうですか」
水分補給という理由で渡したのに、ミルクの味を聞かれた。唐突な質問に起きたばかりでまだ意識がはっきりしていないが、とりあえずそのままの感想を言う。
「ただのミルクとは違うな。濃厚さがうんと違う。なのに舌触りがとてもなめらかで喉越しも良い。とても甘いのにしつこくなく、いくらでも飲めてしまう。それに自然な体温と似たミルクの温かさは、どこかホッと安心する」
ありのままの感想を言うと、天使たちは一斉に大歓喜の雄叫びを上げる。
「やったっ! レハベアム様がミルクをほめてくださいました!」
「嬉しいっ!」
「丹精込めて育てたかいがあった!」
まるで喜び方が自分のようだ。例えるならテストで満点を取り、親に褒められたかのような駄々喜びだ。ただミルクの味を褒めただけなのに。
「もう一杯いりますか? 飲み放題ですよ」
おかわりを聞かれるが、一杯で十分な俺は「いやいい」とコップを返した。
「レハベアム様専用のミルクタンクはたっくさんありますのに……」
「それよりもお前ら帰れ。この不審者共め」
俺の城に侵入したセクハラ天使共。もう武装で追い出したりしないが、とにかく帰ってほしい。目の保養ですらない。ただの目障りだ。
「帰れって、いったいどこにですか?」
「お前ら天使なんだろう。じゃあ天使が住むような世界があるだろう。天界みたいな」
悪魔が住む世界を魔界。人間が住む世界を人間界と呼ぶように、天使が住む世界を天界と呼ぶような世界があってもおかしくなさそうだが。少なくとも神聖な生き物なら魔界の希少な聖地以外の地ではまず住めない。なら居場所があってもおかしくない。
「ああ、そのことでしたら、私たちはもう既に帰っております」
「……へっ?」
俺が帰れと言ったのに、天使たちはもう既に帰っているという返し方に違和感を覚えた。気絶する前は俺の城に居たが、あれから時間がどれほど経ったのか分からない。天使たちが帰っているのなら、なぜ俺は天使たちの側にいるのだ。
「……お、俺はいまどこにいるんだ?」
「天界の女神国。我ら天使が住んでいる聖城でございます」
「て、天界? それって……」
「天使が住まう天の世界。略して天界です」
天使が住む世界を天界って本当にあったんだ、と理解し、また別の意味でも俺がこの場にいることがどんなことを表すことも理解してしまった。
「……ああなるほど。ついに俺は死んでしまって、魂が天国に逝ってしまったのだな」
俺が天界にいるということはすなわち、谷間に沈められて最期、呼吸困難の末、本当に息を引き取ったのだな。奴らにとって俺の暗殺は無事成功したというわけだ。人間界へ帰れず、魔界の使命もお役御免か。
「魂が成仏してここにいるのではありません。体の感覚がありますでしょう」
「体の感覚? 確かにあるな」
関節を動かせば動くし、皮膚を突けば感覚があるし、強く突けば軽い刺激が筋に走る。俺の身体はちゃんと生きている。
「ええ、ですのであなた様は死んでおりません。あなた様は成仏したのではなく、その身がそのまま天界へ転生されたのです」
「……俺、異世界移転したのかああああああああああああああああああ?!」
今までずっと魔界で過ごしてきたというのに、俺の身体ごと天界へ転生されたのか。いやいや人間界へ帰るつもりなのに、なんで俺が天界へ行ってしまったんだ。
「そうです。それでも疑うのでしたら、窓の景色をご覧ください」
すると左のスペースに埋め尽くす天使たちがどき、窓に続く道ができた。俺はベッドから降り、窓を見る。窓から覗く外の景色はというと、雲一つない完全な晴天で水色の天空がどこまでも広がり、太陽がギラギラと輝いている。太陽光が白い建物が並ぶ街全てに照らし、まさに光の世界だ。
「悪魔が住める環境ではないのは確かでしょう?」
「……いいや。もしかしたら俺が見ているのが幻として、誰かが俺に幻覚の魔術を掛けているのかもしれない」
何が何でも信じるな。俺に接近してきようとする奴は全員怪しいのだ。幻術士が俺に幻を見せて、あたかも俺が天界を見ているように魔法をかけているかもしれないのだ。
「ならばレハベアム様。あなた様の魔術書で幻術士の魔術を無効化すればよろしいのでは?」
「第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』のことか」
仮に第四部の闇をこの部屋全体に広げたら、幻術士はそれを踏み、闇が幻術を無効化する。すると俺が見ている幻術は消え去り、真実を見ることが出来る。しかし、このミカエルや他の天使共々め、自信に満ち溢れた表情で断言し、俺をまっすぐ見詰めている。それほど幻術士がいないということに自信があるようだ。
「……もういい。そこまで幻術士がいないということが言えるのなら、本当の事なんだろう。俺は今、天使たちに囲まれて天界にいるんだな」
はっきりと自信を持って言えるということは、俺が詠んで闇を展開してバレるという恐怖がないということ。詠むだけ魔力の無駄だ。
「やっと信じてもらえたのですねっ!」
女天使たちはキャッキャッと心底嬉しそうに微笑む。そこまで素直に喜ばれると、疑い続けた俺がまるで馬鹿みたいだ。
城に残された白ビキニは、天使たちが着用している白ビキニと一致し、森の広場には太陽光が差し込む聖域がある。この時点でこいつらの正体が天使だということは立証されたのだな。そのうえ太陽光が全体に差し込む景色がなんとも美しい。どんよりとした魔界の空に比べて、本当にとても綺麗だ。悪魔が住めるような環境ではない。
「そういえばお前らの真の目的を聞いていなかったな。それは俺を天界へ連行することが目的か?」
「連行という言い方はやや引っかかりますので訂正を申し上げますと、私たち天使の使命は、レハベアム様を天界へご招待することです」
「俺が気絶しているうちに運び、ご苦労なことだが、俺は一言も天界へ行くとは言っていないぞ」
「私たちの話に応じなかった場合は、強制的に連れていくつもりでしたので」
「それを連行というのだがな。あるいは拉致ともいうべきか。女性の乳房で気絶させやがって。やっていることは悪魔と一緒だな」
乳房で俺を気絶させるという時点と強制的という発言で、明らかな攻撃性の意図がある。少なくとも連行されそうになったら、俺は自分の身を守るために魔術書と剣を出して戦っただろう。
「しかしレハベアム様。これはあなた様のためにれんこ……じゃなかった。ご招待したのです」
「連行と招待の意味が全然違うぞ。いいから肝心の目的を言え。俺を天界へ連れていくってだけが本当の目的ではないだろう」
ただ連れていくだけなら、俺は天界の景色を見て天使たちの目的はそれで達成だ。そんな安い目的のためにわざわざ俺を異世界移転する必要性はまずない。何かしらの目的があるから、連れてきたのだろう。
「はい。ではまず、ここ女神国の女神王が座る王の間へ来ていただきます。ついてきてください」
天使たちは俺に背を向け、群れが奥の扉からゾロゾロと出て行こうとするが、
「お、おいまて。女王に会いに行くのか?」
「はい。どうなされましたか? 嫌でしたら無理矢理引っ張っていきますけど」
こいつらに俺の拒否権があるのを知らないのか。使命を果たすから強制的に連行してもいいとは思えないぞ。
「パンツいっちょだと大変失礼すぎやしないか……?」
この国のお偉いさん相手に、しかも神の女王だ。パンツだけの恰好で会いに行けば非常識すぎること。相手の心は女だ。ドン引きして俺を処する可能性がある。王族には然るべき恰好で会うのが当然の筋だ。
俺のド正論を受ける天使たちは、互いの顔を見詰め、首を傾げる。
「どこの何が失礼なのですか……?」
皆、心底分からないような表情の真顔で俺を不思議そうに見つめてくる。
「ああいや、なんでもない。し、失礼なわけないもんな。あはははははは」
天使の普段着が白ビキニだから、神の女王様も露出度高いというのが今察した。露出度に合わせて俺もパンツいっちょで神の女王様に会わねばならないようだ。棒読みで笑い、なんとか誤魔化す。
「さ、行きますよ」
次々とこの部屋から天使たちが行き、俺もこの部屋から流れるように出て行く。廊下内は床や壁、石像が白を強調しており、なんとも煌びやかで豪華な室内となっている。ついていくように天使たちの背を追うが、四方八方白ビキニの天使グラマーに囲まれて、まるで超VIP対応だ。
「今更ながら質問するが、なんでお前ら女性なんだ。そもそもなんで国の名前が女神なんだ」
不自然な疑問は昔から今に至る。城に残された超大量の白ビキニからして、昔は白ビキニの天使たちが住んでいたのは分かる。だが男性はどうした。それが今でも、ここ女神国と呼ばれる国で俺の周りは女性の天使のみ。まるで男性がいない国だ。
「ここ女神国に男性は存在しません」
「え、なんでだ」
「その理由も女神王様から告げられます。確かな事が一つ言えるのは、女神国はおろか、天界そのものに男性が入ったのは、今回が初めて。レハベアム様だけです」
「お、俺が最初?!」
男性がいない世界というのは架空かと思っていた。それ以前に数多の世界の頂点に君臨する天界がまさにそうだったとは。いやはや驚きだ。俺に対するセクハラ行為も、高潔にして神聖な儀式であれば、意外と天界も大したことないのだなと思ってしまうのだがな。
「ええ、極上のハーレムが堪能できるかと」
「いや、別にハーレムはいらないんだが……」
「そうおっしゃらずに。天界全ての天使や女神様はレハベアム様を心から大歓迎しております。ただでさえ天界は男性がいない世界ですので、皆、溜まっているモノが溜まっているのですよ」
「溜まっているモノ? なんだそれは」
「女の口から言わすなんて、レハベアム様ったら女心分からないのですね」
「男だからな」
「フフッ、そういうところが尚更ステキです」
皆も俺の発言に心底微笑んでいる。俺は何かおかしい事を言ったのだろうか。その溜まっているモノをはっきりと言わないから疑問に思っただけなのだが。
「さて、もうすぐ到着いたします」
「もうすぐ到着……といっても、前が見えないんだが」
天使たちの綺麗な背が複数、俺の前に群がっているのだから、王の間が全く見えない。だが、天使たちの背を越える、奥にある高い高い階段があり、頂点には玉座が二つ置かれていた。その右側に座る、見た目からして品格のある女性が座っていた。遠くから見てもやはり露出度は高い。ほとんど素肌のように見える。
「アプロディーテー様。レハベアム様をお連れしました」
俺の周りに群がる天使たちは、俺から離れ、左右に縦の列を作り、そこに並んだ。俺は玉座へ続く階段の元へ歩み、そこで止まる。
「ようこそよくおいでくださいました。レハベアム・モーヴェイツ様。私の名はアプロディーテー。以後お見知りおきを」
階段の頂点からお声をかけられた。その者は椅子から立ち上がり、一歩一歩ゆっくりと上品に階段を下る。まだ遥か高く遠くにいる存在で、顔やどんな格好しているのか分からないが、肌白さが全体的に占めている。
それにしても神の女王様ですら魔界育ちの汚い人間を様呼びか。上位に立つ者が下位の者に気を遣うような行為はあってはならない。王としての品格、風格が損なわれるものだ。天界に場違いな下界の者を連行して、何を企んでいるつもりだ。
「悪いがさっさと要件を言って俺を帰らせてくれ。皆の分の弁当作らないといけないし学校に遅刻もしたくないんだ」
もはや失礼でも何でもない。この俺に散々セクハラ行為をして、挙句パンツいっちょの恰好にし俺に恥をかかせ、俺の拒否権関係なく連行する天使たちの姿勢。更に礼儀を知らない奴らの破廉恥な恰好。相手がたとえ上界の者であってもそんな態度をとるのなら、俺も同じく悪い態度で立たせてもらう。
一歩一歩と降りてくる女性は俺に微笑み、次に口を開く。
「ふっ、神に対し悪態を取るとは、魔王の遺伝子はやはり嘘はつきませんね」
「なっ、なぜそのことを知っている……!」
あの女王、俺が魔王ソロモンの息子であることを知っている。初見の変態のくせになぜだ。
「なにせ天界の住民は、十割がレハベアム様ファンでありまして、その内一人も私が入っています。四六時中、皆が皆、厳重警備体制で天界からレハベアム様の私生活や奮起、戦い、睡眠、入浴、何から何まで全て見守ってきており、レハベアム様の全ての情報を掴んでいます」
俺に関する情報は全て筒抜けというわけか。今後に繋がる大事な情報だけならず、俺の私生活まで覗き込み、睡眠や入浴などどうでもいい情報まで掴んでいるというのか。
アプロディーテーと名乗っていたか、神の女王が近づく度に奴の身体がこの目ではっきり映っていく。とても目の保養にならないような破廉恥な恰好で、特に子供が絶対に見てはならないものだ。乳首にハート形のニップルシールを張り、その上に透明な布のビキニを着て、乳首と乳輪以外、乳肉全てさらけ出している。下半身は白いパレオをつけているが、奴が階段を下りる際、ヒラッとパレオが開いた。そのときたまたま見えてしまったが、あの女王め、パンツを履いていない。下半身の大事なところをパレオ布一枚で隠している。
「どうやら変態として最上級職級でありながら、ストーカーとしても超最上級職らしい。プライバシー侵害だ」
ニップルシールやパレオだけで大事なところを隠しつつ、露出度を最大限に高めた、まさに無駄のない恰好。もはや変態として超が何個でも付けられるほど超一流だ。挙句、十割と言っていたからほぼ全ての女性から私生活を覗かれて、知られたくなかった情報まで知られているから、プライバシーの侵害として究極の傷だ。女神の慈悲もない。
「ええ、おかげさまでレハベアム様が好きすぎて、健康被害が多数呼び寄せられています。その内の一人が私でもあります」
「じゃあ、健康被害を止めるためにわざわざ天界まで連行して、俺に流れる魔王の血を滅ぼすため処すつもりなのか? お前ら天界の者からしたら、魔王の血だけで大変危険視するものだろうな」
俺の言い分にアプロディーテーは歩みを止め、ちょっと何を言っているのか分からない、とでも言いたげに首を傾げる。次にミカエルを見て、その視線でミカエルにフォローを求める。
「アプロディーテー様、レハベアム様ったらもう何回も勘違いするんですよ。私たちがレハベアム様を殺すって」
ミカエルのフォローでアプロディーテーは右手の拳で左掌を叩き、疑問に納得したようなはっきりした表情を浮かべる。
「ああなるほど。確かに、レハベアム様の人生を考えたら私たちでさえ警戒するのは当然ですね」
再度歩みを始め、階段を下り切り、俺の前に立った。
「レハベアム様。はっきりと言いますが、天界にいる全ての天使たち、全ての女神たちはあなたの味方です」
「味方? なぜだ」
「確かにレハベアム様がおっしゃる通り、私たちにとって魔王ソロモンの血だけでも忌まわしいものです。ソロモンは数多の世界で虐殺を図り、命が空っぽになったところで世界を滅ぼしました。奪った命でソロモンは魔王になりました。彼は究極の大罪を背負う者です。しかし、産まれてきたあなた様の命、血、身体に罪はありません。レハベアム様がソロモンのような真の悪魔にならない限り、私たちは悪に怯える全てのヒトの味方です」
「ごもっともな精神だ。で、なぜ俺のファンなんだ。皆が俺に厳重警備体制で注目しているのなら、俺を危険視しているということではないのか?」
「危険視! フフフ冗談がお好きなのですねレハベアム様」
お前が紛らわしい冗談を言うから俺も敵意丸出しで質問しているんだ。
「言ったでしょう。私たちは悪に怯える全てのヒトの味方であると。魔王ソロモンやその母は人間であるあなた様を育児放棄し、独りに残していきました。悪魔から出会い頭先々人間と罵られ、数々の暴言、暴力を受けてきました。あのような過酷で劣悪な環境を人間の身体で生き続け、自力で希望を見出すため、異世界へ渡れる卒業証書を目指して勉学に集中して取り組んできました」
「そこまで筒抜けか」
「更に、人間界に莫大な悪影響を及ぼすであろう暗殺部の部員たちを倒し、あなた様は魔界に居ながら人間界を守ってくださった。そして、あなた様は心の中で、魔王となって魔界から悪の意思を払拭させようと考えている」
「……! ウァサゴですら秘密にしていた俺の心の言葉まで……」
今まで口にしていない俺の悩み。今までは人間界へ帰るために目標にして生きてきたが、もう一つの選択肢である、魔王の座を継ぎ、魔王の権限で平和な世界に変える目標も悪くないと考えていた。人間界へ帰るか、魔王になるか、俺はいったいどっちにしたい、というのが悩みだ。
「あなた様は魔界で影ながら人間界のために戦った。今なお悪魔に苦しむ人間界は、あなたの存在を知らず、功績は全く気が付かないでしょう。しかし、天界は全てを見破り、あなたの功績を大全力で称えます。常に孤独でありながら地獄の逆境を生き、一生懸命に努力したあなた様を、我々天界が見過ごすわけにはいきません」
「称えなどいらない。俺は誰かに褒められたいから功績が欲しいからの理由で戦っているわけではないんだ」
俺はあくまで俺や人間界のために戦う。守るために戦い、命を奪ってきた俺の人生は既に血で塗れている。称えなど受けられるはずがないんだ。だからいらない。
「いいえ、あなたは称えられるべきです。そのために、天界は生まれたのですから」
「天界が生まれた……? それはどういうことだ」
まるで俺のために、数ある世界の中で頂点に君臨する偉大な世界が生まれたような言い方だ。
「宇宙が誕生する前の、遥か遥か古の時代です。創造神様は宇宙の誕生前に、宇宙は正義と悪の勢力に分かれてしまう未来を視ました」
「未来視……!」
ウァサゴと同じ能力を持つ未来視だ。俺が魔界を滅ぼす未来や、二つの勢力に分かれるなど、運命を左右する場面に未来視が発動するのだな。
「正義と悪の勢力は睨み合い、時に戦争を始めました。しかしソロモン率いる悪の軍は強く、猛攻の末、今や宇宙はおよそ七割、悪魔が攻め込んでいます。宇宙に悪が染めようとされるなか、悪の勢力の中に僅かに輝く光を見たとのこと。光はとてつもなく弱く、今にも消えそうなほど。しかしまだ光り続けようとずっと弱い光を出し続けたそうです。そう、あなたのことです」
「俺が……光?」
「もし弱い光が消滅したら、宇宙は完全に悪に染まると視た創造神様は、宇宙を出産後、天界と我々女神、女天使を出産し、悪の勢力の中に生きる弱い光を救うよう指示しました。天界の光と女神たちの慈悲で弱い光を包めば、光は大きくなり、やがて救世主となるであろうと告げ、お亡くなりになりました。私たちが女性なのは、あなた様を母性で包めという意味なのです」
「あなた様が住んでいる城も、創造神様が魔界に置いていただいたものなのです」
アプロディーテーの説明後、フォローを入れるようにミカエルからも付け足しが横から来た。
「なに。じゃああの城も、俺があそこで育つと予知して……」
「はい。あなた様の何から何まで、創造神様は見破っていたのです」
俺はたまたまあの城の中で育ったが、それも偶然ではなく必然だったということなのか。何という運命の悪戯か。
「……だが、悪の勢力の中に弱い光なら、それなら別に善魔であるウァサゴと解釈しても何の違和感がないんだが。こじつけすぎやしないか」
俺よりもよっぽどウァサゴの方が光を出している。事実、まだ体内だがウァサゴの善魔としての意思が光を放っている。グラシャのように体外へ出すのには善魔の意思をもっと格段に育てなくてはならない。俺なんかより、よっぽど勇者だ。
「それなら私たちは女ではなく、男性として生きているはずです。父性でウァサゴを包むよう言っているはずです」
『父性でウァサゴを包む』というパワーワードを聞いて、頭の中で想像が映像として流れた。筋肉ゴリゴリなゴリマッチョの男神たちや男天使たちが小さいパンツいっちょで、ウァサゴという女の子たった一人の周りを囲い、一斉に抱くというのか。流石のウァサゴも、男性密度百パーセントのハグの花にされたら、多大なる不愉快さを覚え、時の拳で血祭りにしてしまいそうだな。考えるだけでむさくるしい。
「光の正体が分からないのに、性別だけでそこまで運命が変わるのか……?」
「包むというのはそれだけでなく、あなた様は母性を知らない。普通、赤子が育つ以上、母性は大切です。なのに、母の身体がない環境で育ってしまいました。酷く言われ、心の傷を癒そうと母性に甘えるなか、あなた様だけ母性という回復手段がない。あなたの心は、育幼期から今に至るまでたくさんの傷を負っているのです。私たちは、光が弱ってしまっている原因を癒すために、女として生まれたのです」
「悪いが俺は母性で安らぐほど、もう幼くないんだ。俺は十五歳だ。こんな歳で母性に甘えようなど思わない。恥ずかしい」
するとミカエルがクスクスと笑う。俺はミカエルに睨みつき、不快を覚える。
「私にハグされたとき、素直に緊張解いてくれましたよね。あれが母性です」
「なに?」
あの安らぎが、あの温かさが、母性だというのか……?
「そして今さっき母性に甘えたりしないと仰っていましたが、あなたと同じくそう思っている思春期大絶賛な年生は山ほどいます。その期間の中で母性に背くことを、反抗期と呼ぶのですよ」
「こ、この俺を馬鹿にしているのかっ! そのくらいの意味知っている」
「その発言や反抗的な態度も、反抗期によくある傾向です」
ミカエルの言葉巧みに俺がもてあそばれている。これ以上反抗したら、『それも反抗期の特徴です』と返されそうだ。
「反抗期が嫌なら、素直になって私たちに甘えてください。女神様や我々女天使は、あなたに甘えられるために生まれてきたのですから」
全世界の上に浮く最上級の世界。そんな世界が誕生した理由が、こんなちっぽけな人間の俺のためだというのか……?
「この美しい女体や大きい乳、異世界からすれば淫らな恰好も何もかも、あなた様が甘えやすいように、あなたが私たちに発情しやすいように設計したようです」
「は、はははははははははははははははははははは発情などす、すすするものかっ!」
発情しやすい母性を設計した創造神め。余計な事して許さないぞ絶対。
「全ての話が終わり次第、レハベアム様は全ての女神と女天使たちが一堂に入っているお風呂に入ってもらい、癒しの温泉を共にしてもらいます。最後は極上の泡で包めた総勢三億神の女体と乳であなたの身体をゴシゴシと、隅から隅まで拭かせてもらいます」
「や、やめろ……そんなこと俺はされたくない……! そんなの俺は嫌だ!」
「嫌? 嫌なら逃げてもいいのですよ。しかしここは天界の女神国。仮にこの聖城から抜け出せても、街中の天使たちがあなたを女体で捕らえ、お風呂に連れていくことでしょう。それに、あなた様がまだ私たちに発情していないにせよ、そんなもの時間の問題に過ぎません。創世記からずっと性欲を溜めてきた私たちの猛攻で、あなたは確実にイくからですよ」
「この淫神めっ!」




