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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第死章 淫魔護衛編
41/88

死十一話 ハーレムって意外と怖いな

「うおあ、く、来るなっ!」

とある学校内、俺は全速力で走っている。いや、走っているを越えて逃げている。俺の背後に、とてつもなく恐ろしい悪魔が複数、俺の背を追い続けているんだ。

「待ってえレハあ」

「あなたの精子ちょうだああい」

「私たちをたっくさん気持ちいいことしようよお」

「にんげぇえん、サービスしてあげるよおおお」

たわわと実り、もはやバランスボール並みの大きい乳を二つぶら下げる多種多様な肌色をした悪魔が群れを成して、人間の俺を全力で追いかけている。

 黒ビキニを着て素肌を大胆に晒し、脚は細く長く、肌は光沢が照り、突いたら指が軽く沈みそうなほど柔らかそう。顔も申し分ないほど部位が全てバランスよく整っており、スーパーを越えてハイパーモデルとして活躍はまず間違えないほど。そんな美少女たちが、圧倒的存在感を誇る強調された爆乳を全力で揺らしながら、媚びた声で逃げる俺の名を呼ぶ。

「こ、ここはまずどこなんだっ!?」

廊下には至るところに右側に教室が並んでおり、ここはまず学校なのは間違いない。しかし後ろの美少女たちはここの生徒なのか知らないが、学校内で黒ビキニを着ている。まさか、黒ビキニがこの学校の制服なのか。だとしたら随分と風紀が乱れた学校だ。少なくともここはゲーティア高校ではないのは確か。

「それに、なぜ魔術書が出ないんだ」

一番肝心なのは、俺の手にレメゲトンやダーインスレイヴが現れないこと。普段は魔法陣の中で保管しているのだが、魔法陣すら俺の手に出てこない。武器がないと戦えないことはないが、格闘術はそんなに自信があるわけでもなく、あの悪魔共、サキュバスと呼ぶべきか、俺を全力で捕らえる気だ。その執念に恐れて接近戦に持ち掛けたくない。捕まったら終わりだ。だからとにかく逃げるしかない。

「まあってええええ」

いつぞやアスモデウスが言っていた。サキュバスは人間の精子を糧とする。魔界に住む人間の俺は、サキュバスにとって格好の餌だと。だとすると俺は今、サキュバスの学校にいるのか。ここで俺はウァサゴの言葉を思い出す。サキュバス専門女子高校が存在すると。

「はっ、ここはまさか、サキュバス専門学校なのか……! なんで俺はこんなところにいるんだ!?」

だとするとなぜ俺はここにいる。自らの意思で来たわけではない。気が付いたらこの学校内に居て、いつのまにか追われている。前の記憶がさっぱり思い出せない。

 ここで曲がり角が見えた。階段を使って下れば逃げられるはずだ。だがそのとき、俺の視界に色い絶望が映る。下階からサキュバスの群れがここで降りてきた。逃げ道は塞がれてしまった。

「しまっ……」

更に上階、奥の廊下からもサキュバスの群れが集まり、前後ろ共に、サキュバスの群れに挟まれた。ある程度の間合いを保てられるが、完全に逃げ道がない。

「もうこれで逃げられないわねえレハちゃん」

「爆乳淫魔の群れに挟まれちゃってとてもうれしそう」

「このまま、私たちの身体ぜええんぶ、あなたの身体にズリッズリしちゃおうかなああ」

「緊張すると気持ちよくならないよ?」

サキュバス各々が俺に対し、色っぽい瞳でニヤニヤ微笑みながら見つめる。

「わ、わわ悪いが、おおおお俺はお前らに全く、興味はない」

なんで口調がしどろもどろに慌てているんだ。俺は決して、奴らの身体付きや谷間に魅せられなんかいない。絶対にいないんだ。

「ええい、こうなったら……!」

左側に窓がある。右の壁に背をつけて、一気に助走。ドロップキックで窓を蹴り、この身を窓の外に放り出した。

「「「「「「ええええええっ!?」」」」」」

「「「「「「外に逃げ出したあ?!」」」」」」

幸いあそこの廊下は二階。地面になんなく着地に成功する。外に出られたところでここは運動場だ。必ずどこかに希望の出口があるはず。そこから逃げよう。

「逃げられると思った?」

ここで突然と学校からの放送声が全体へ響き渡る。

「なに……?」

ここでなんとなく運動場の奥を見る。すると運動場一面、サキュバスの超大群が立っており、俺一人を見詰めていた。

「オーマイゴッド……なんて数だ」

そういえばウァサゴがこう言っていたな。『一年で平均一億人のサキュバスが入学するというわ』と。一年生でさえ一億人のサキュバスが入ってくるということは、仮にこの女子学校が三年制だとしたら、ざっと三億人の女子生徒が在学しているというわけだ。まさか、運動場を埋め尽くす淫魔の数は三億人なのか?

「……はっ、集団逆強姦……奴らの目的は、一人の俺に対し三億人のサキュバス全員で犯すことなのか!?」

奴らにそんな習性があるのか知らないが、魔界に唯一の人間である俺は、魔界全てのサキュバスにとって格好の餌だ。つまり、奴らは俺の事をもっとも犯したがる。奴らに性欲を我慢する知恵があるのか果たして怪しいところだ。あんな超大群に犯されたら、間違いなく搾り取られて死ぬ。

「もう逃げられないわよレハ。このままサキュバスの餌となって、私たちの中で永遠に生きてっ!」

放送室からの最後のメッセージを一斉に、超大群のサキュバスたちが俺に向かって走り出した。

「レハああ!」

「たっぷり愛してあげるからねっ!」

「私たちの肉でとろけさせてあげるっ!」

今はまだ遠い間合いだが、一分も経たずうちにサキュバスの突進に直撃し、そのまま囲まれていくであろう。まるで大自然の平野の上でヌーたちの大移動による走り込みのような、群れの勇ましさが俺に特攻されていく。もう大地がグラグラと揺れている。

「ヤ、ヤバイ……!」

そして、サキュバスの第一人目が俺の間合いに入り、腕を広げて俺にハグしてきた。

「……っ!」

こいつの大きな胸が俺の胸板に炸裂。その柔らかさか、爆乳が俺の胸板でクッション状に潰れている。これだけに終わらず、第二人目、第三人目、第四人目、第五人目・・・次々と一気に俺の身体を各々がハグし、爆乳をところかまわず当てていく。

「は、離れろっ……!」

俺も体を動かそうと必死に抵抗するが、両手に乳の柔らかすぎる感触が当たり、挟まれた。また、サキュバスの肉体と乳の押し合いで体が潰れて固定され、抵抗しようにも体が動かせない。

「さあ、レハ。私とのファーストキス、し・ま・しょ」

目の前のサキュバスが両手で俺の頬を挟み固定。現実は非常か、サキュバスが唇を立てて、俺の唇へゆっくりと近づけていく。

「い、いやだ……」

俺の言葉が震えている。だが俺の恐怖なんか全く気にせず、目の前の唇が刻一刻と近づいてくる。そして互いの唇が衝突する瞬間。

「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ここで一気に上半身が反射的に起き上がり、雄叫びを上げながら同時に目を覚ます。俺の視界は、サキュバスの群れから一転して、やや浅暗いマイルームへ映り替わった。

「……夢か……はあ、とんだ悪夢だった」

現実の世界へ帰還した感覚で、俺が見た映像が夢であることを理解する。とてつもなく悪趣味な悪夢であった。悪汗が大量にパジャマや布団に染みてて、べとべとして気持ち悪い。

「……そういえばサキュバスは、淫魔いんまと呼べるが、夢魔むまとも呼べるな……まさか……」

そういえば夢の中でサキュバス共の一部が、自分の事を淫魔だと言っていたな。それに関連して、咄嗟に右手の小指を見る。が、小指には何の変哲もない。

 俺の小指には、赤い透明な糸が巻かれており、巻かれている実感はないものの、いくら遠かろうがアスモデウスと繋がっているらしい。アスモデウスが近づくと赤い糸は姿を現す。色欲の大罪を背負う夢魔が城に侵入して、寝ている俺にそんな悪夢を見せたのかと思ったが、ただの夢らしい。気のせいでよかった。

「今何時だ」

窓の外を見て、まだ空が浅暗いから早朝なのは分かるが、とりあえずベッドの台に置かれてある時計を見る。

「四時五十分……」

俺が起きる時刻は五時半から六時だが、今日は悪夢のせいで早く起きすぎてしまった。全く迷惑な夢だ。

「とりあえずシャワー浴びるか」

悪汗が染みたパジャマのままベッドから降り、マイルームから出る。と、そのとき、俺の足底で変な感触の物を踏む。

「……ん?」

足元を見ると、俺が踏んでいたのは、この城の恥と言える誰にも知られたくない、白ビキニだ。

「な、なんでだっ!? なんでこれが落ちているんだ」

これはいったい誰の悪戯なのだ。城主の俺に、城の恥をマイルーム前に置くとは、これは喧嘩を売っているのだろうか。

 この城に住んでいるのはウァサゴとシトリー、フェニックス、そして昨日片づけた新しい部屋で寝ているグラシャ=ラボラスだ。あらかじめ皆には、白ビキニが隠されている多くの部屋は死者の呪いが詰まっていると嘘を言い、誰にも近づかないよう言った。シトリーやフェニックスは怖いものが嫌いだから近づかない。グラシャ=ラボラスは身体的に弱っており、歩くこともままならない。部屋から出ることは難しく、更に彼女は素直な性格だからまず入らないはずだ。もっとも、死者の呪いや怨念を成仏できる能力を持つが、とにかく能力を使うなと念を押し、グラシャ=ラボラスはマイルーム前に白ビキニを置く悪戯はまずしない。よって、三人は除外だ。問題なのは勇猛果敢で身勝手な生徒会長だ。ウァサゴには一時的自由の封印による言いつけが全く通用しない。他者の言葉を全く受け入れず、己が感じたままに我が道を歩く覇者だ。ウァサゴのことだから、城の禁止区域に問答無用で入りそうで怖い。

 やれやれと憎悪を燃やしながら白ビキニを拾うが、その一歩手前にも白ビキニが落ちている。更に一歩手前にも白ビキニが落ちており、それが幾つもまっすぐに繋がっており、獲物を物でおびき寄せる撒き餌方式で白ビキニが複数落ちている。

「……ここまで見え見えの馬鹿らしい罠を仕掛けるのは、ウァサゴでも流石にしないな」

しかも俺のマイルームからスタートしていることから、おびき寄せる対象が俺ということになる。性欲高めな男なら白ビキニの撒き餌で素直に引っかかるのかは知らないが、かといってこのまま落ちている白ビキニを床に放置するわけにはいかない。それに、この城内で誰がこの俺をおびき寄せようとしているのか、はっきりする必要がある。よって、俺は敢えて撒き餌に釣られることにする。

「念のため、戦闘態勢に入っておこうか」

左手にダーインスレイヴを召喚し、俺をおびき寄せようとする輩から襲われても対処できるように構えておく。右手で白ビキニを拾いながら進み、ロビーへ出る。ここで白ビキニは方向転換し左へ。石像の奥にある大きな階段へ白ビキニがまっすぐ落ちている。拾いながら進み、階段を上がっていく。段一つ一つ丁寧に白ビキニが置かれており、踊り場から右へ白ビキニが連なっている。

「右の廊下は使用禁止の部屋が連なる場所。まだ白ビキニが大量にしまわれている禁止区域の部屋だ」

踊り場から左の廊下には善魔生徒会役員が利用している部屋だが、右の廊下にある各部屋は白ビキニがまだ隠されているため、呪いの部屋だと嘘をついている。

「白ビキニが隠された部屋へ俺を誘い込む奴め、いったい……」

正直な話、この悪戯の犯人はウァサゴではないと思う。ウァサゴも馬鹿だが、こんな見え見えの罠を仕掛けるほど脳も筋肉の塊ではない。城の地下にある監獄部屋には、暗殺部の部員が眠っているが、まさか脱走しこのような罠を仕掛けたか。いや、そんなはずはない。仮に牢獄から脱走しても、この城の秘密を捕らわれている部員が知る方法はない。よって、暗殺部部員が白ビキニの撒き餌で俺を釣るってこともまずない。となると本当にこの悪戯は誰なのだろうか。右の廊下の先で分かるはずだ。

「レメゲトンも出しておくか」

いざという時に非常に助かる俺の肌ともいえる魔術書レメゲトンを右手に召喚し、俺は完全に武装状態に。さていざ行かん敵の罠へ。

 恐る恐る右の廊下へ進むと、既に廊下の壁に設置してある蝋燭に火がついている。蝋燭は生体探知式でヒトの気配を感じると自動的に火がつくもの。つまり、罠を仕掛けた者がすぐそばにいますよと隠す気無しだ。案の定、並ぶ部屋の数々の先、一つだけ扉が開かれており、灯りが漏れている。撒き餌の白ビキニも扉の前で終わっている。

「あれほどまでに隠す気無しだと、俺をおびき寄せて殺すということはなさそうだな」

暗殺部の部員なら、気配を隠して影から暗殺するもの。それを堂々と生体探知でひっかかり、灯りさえもわざとなのか扉を開けっぱなしで漏らしている。挙句、何やら女性の話や笑い声が聞こえてくる。

 複数いることから、ウァサゴではないのは確か。暗殺部の部員が脱走して俺をおびき寄せる説も、隠す気無しでお喋りさえしている。となるとあの部屋で話している者はいったい。

「おびき寄せるのは正解ですけど、殺す気は毛頭ありませんよ」

ここで突如、俺の背後から女性の声がした。咄嗟に一歩二歩走り出し、助走をつけて前に跳び、バク転。背後に立つ者から間合いを一気を広げる。

「何者……! って、え?」

この俺の背後を取るとは、なかなか気配を抑えるのが上手い奴。床に着地後、すぐさま後ろに振り向き、怒鳴って睨む。が、俺の視界にはとてつもなく変なヒトが映っていた。

 たわわと実り、もはやバランスボール並みの大きい乳を二つぶら下げる肌白い悪魔が群れを成して、人間の俺を色っぽい瞳で見つめていた。

 白ビキニを着て素肌を大胆に晒し、脚は細く長く、肌は光沢が照り、突いたら指が軽く沈みそうなほど柔らかそう。顔も申し分ないほど部位が全てバランスよく整っており、スーパーを越えてハイパーモデルとして活躍はまず間違えないほど。そんな美少女たちが、圧倒的存在感を誇る強調された爆乳を全力で俺に見せびらかす。

「な、なななななんで白ビキニを着ている」

この城に隠されている大量の白ビキニをなぜ、侵入者たちが着ているんだ。いやそれ以前にまず驚くべきことがあるであろう。なぜ城に侵入できているんだ、と。

 城を覆う深い森は、蠢く木々が侵入者を食す。だから森を突破することは不可能だ。不死鳥襲来のような翼を持つ悪魔なら侵入はできるが、この肌白い悪魔共に翼など生えていない。

「なぜこの城に居る。俺の首を狙いに来たか、悪魔共っ!」

城の汚点である超大量の白ビキニを着る女悪魔共め。いったい何を企んでいるんだ。

「だからレハベアム様。私たちはあなたを殺すつもりはありません」

「……様?」

俺の聞き間違いか、肌白い悪魔が俺の事を最後に様と付けた。

「あともう一つ訂正があります。私たちは悪魔ではありません」

「じゃあ、何者だっ!」

「名を名乗るのが遅れました。私の名はミカエル。私たちは天使です。あなたを護る使命を持つ者です」

「て、天使? 護る使命?」

すると天使を名乗る者たちは、背に白い翼を生やした。

「翼を隠せるのか」

群れて共に過ごすとき、翼があると体面積が広がり、ヒトと当たりやすくなるから隠せられるのだろうか。よく見れば奴らの全体的に白がよく際立つ。白ビキニにせよ白い翼にせよ肌が白いにせよ。悪魔は白を嫌う色だ。自ら嫌う色をする悪魔は極めて珍しい。だがまあ、そんなことはどうでもいい。なぜ天使と名乗る者がこの城にいるのだ。

「順を追って説明致しますと、私たちは天界からやってきた天使であり、この邪悪な魔界で過ごされる人間。そう、レハベアム・モーヴェイツ様を護るために来たのです」

「なぜ俺の名を知っている」

「それはあなた様をずっっっと、天界から見守ってきたからですよ」

「それはなぜだ。何を企んでいる」

「レ、レハベアム様。私たちは企んでなんかいま」

天使が話している最中に、後ろの灯りが出ている部屋から、奴らの仲間なのか白ビキニを着る者が群れとして現れ、

「あああ! レハベアム様っ」

俺に接近しようとする。対する俺はレメゲトンを魔法陣の中に消し、空けた右手でダーインスレイヴの柄尻を触り、柄尻から俺の血で作った短剣を引っ張り出す。俺を挟む天使と名乗る者の二つの群れにダーインスレイヴと短剣の刃を示し、警戒する。

「近づくなっ!」

怒鳴り、殺気も放ち、後ろから近づこうとする白ビキニの天使と名乗る者の群れは接近を止める。

「レ、レハベアム様……」

落ち込み気味に頭を下げたが、俺は一切怪しい奴らの接近は許さない。決してだ。

「お前ら、どうやら天使と名乗っているようだが、まずはっきりしろ。お前らは本当に何者なのだ。なぜこの城に侵入した。目的を言えっ!」

警戒マックスで城の侵入者たちに怒鳴る。するとミカエルは一歩寄り、代表して口を開いた。

「第一の質問に関しては先ほども申し上げたどおり、私たちは天使です。第二の質問、なぜこの城に侵入したのか、それはこの城は元々私たち天使のものです」

「な、なに? この城、お前たちのものなのか?」

「ええ、今あなたが力強く握りしめているそのビキニが何よりの証拠です」

「つ、強く握りしめていない……!」

右手に持つ拾った白ビキニをまとめて落とし、強く握りしめていないと強調する。

 そうか、だから天使と名乗る者たちはこの城の白ビキニと同じものを着ているのか。群れ全員が全く同じ白ビキニを着ていることから、どうやらあの集団にとって城の白ビキニは共通の衣服らしい。しかも俺を挟む大勢の女性と、城に不自然なほど超大量にある白ビキニの数を合わせて、その謎が今に合点した。だが尚更謎が深まる。男性はどうしたのだろうか。この城に残っていたのは家具と白ビキニだけ。男性が過ごしていたような跡はなかった。

「まだ疑うようであれば、私たちが今着ているビキニとそのビキニ、触って感触を確かめてみますか?」

ミカエルは両人差し指で自分が着ているビキニの布にちょこんと触れ、俺をいやらしく挑発する。

「ば、馬鹿言え」

「ちなみにあなた様が拾ってくれた白ビキニは、さっきまで私たちが丹精込めて着用していた物です」

「え」

「どうでしたか? 脱ぎたてホヤホヤの白ビキニの感触は」

「バッ、バッチいっ!」

なんで脱いだ白ビキニを撒き餌に使ったんだ。レベルが高い変態ですらそんなことしないぞ。ビキニで釣られた俺がまるで正真正銘の変態だ。一生の汚点だ。

「汚くなんかありませんよ。私たち天使はいつも清潔です。神聖な生き物なのですから穢れなどまずありえません。話は逸れましたが、第三の目的は、あなた様に会いに来たからです」

「会いに?」

「具体的な目的はもっとありますが、今はその説明を省きます。さて、立ち話も疲れますし、部屋に入って、座ってお話ししましょう。レハベアム様に飲んでいただきたいミルクもちゃんとご用意していますから」

ミカエルは手を部屋へ差し、俺を部屋へ入れたそうにしている。が、俺は首を左右に振り断る。

「嫌だな。部屋に入って、逃げ場のない空間に閉じ込められるのはな」

「ええ、部屋にあなた様を入れたら、まず迷いなく部屋はロックさせていただきます。私たちとあなた様の密室で堪能な空間を、善魔様に邪魔されたくありませんから」

城内全ての各部屋はシャワーやトイレなどの個室、キッチンやリビングルームなどが設置しており、家具もたくさん置けるほど広い。一人や家族などでも十分に生活環境は整えられる。それほど広い部屋の中に、俺とこの場にいる全ての白ビキニを着る天使グラマーの大ハーレムは流石に堪えるな。それ以前に、今視界に映るだけの天使と名乗る者が全員、いくら広い一個の部屋に入るのは無理がある。人口密度がとんでもないことになりそうだ。

「お前の言う密室で堪能な空間とは、密室の中、殺害本能を抱くお前らが俺を殺すにはうってつけの空間、という意味だよな?」

白ビキニを着てこの城の元主と証明しようが、白い翼を生やそうが、それらの前提があっても俺が信じる材料にはならない。もしかしたら白に特化した悪魔なのかもしれないのだから。閉じ込められた部屋の中で、一斉に武器を出されたら、突破口を自力で開ける自信はあっても、殺される可能性は僅かでも避けるべきだ。

「まだ私たちがあなた様を殺すなどと思われているのですか? 私たちが天使と幾つか説明申し上げましたが」

「逆に他の理由があるというのか? 今やこの城の所有者は俺だ。お前らには説明するまでもないことだろうが、この城を囲う森は侵入者を食すことから普通の突破は無理。だとしたらお前らの翼で越えるしかないこと。そして城前の広場は聖地で、昼間は太陽光が差し出ている。仮に森を突破しても太陽光が悪魔の体を溶かす。今は早朝だが朝日はまだ来ていない。よって、悪魔がこの城に侵入できるのは朝日がまだ出ていない夜の間ってことだ。太陽光が差している間にお前ら天使が城に侵入したら、まあ少しは納得してやる。だが朝日が昇っていないこの時間にやってきた。警戒するのは当然の筋だ」

この城の元持ち主なら、森の性質や昼間の間は聖地であることは知っていたはず。なのに聖地ではない時間にやってきたという点は、いくら悪魔の反対といえる天使と言えども流石に怪しすぎる。

「レハベアム様。私たちがこの早朝であなた様をおびき寄せたのは、いくら善の心を持つ悪魔と言えども、私たちの姿を見せるのは不味いからです。私たちの目的はレハベアム様に会いに来たため。ですから部屋を閉じ込めるつもりなのです」

「どのみちお前らが俺を閉じ込めて、密室で殺すって可能性はある」

「……大変ご無礼覚悟の上言わせてもらいますが、私たち天使がレハベアム様を殺害する理由って、具体的になにがあるのですか」

「理由なんて最初から聞いていない。この魔界では、理由を信じた者はまんまと黙られる。それが魔界だ。お前らが自分の事を天使と名乗っていても、真の姿は悪魔だと俺を騙す可能性さえある。俺は僅かな可能性すら避けていくタイプだ」

「わ、私たちが、悪魔だとおっしゃるおつもりですかっ!」

「あくまでその可能性があると言っているだけだ。この俺に信じてもらいたくば、己が悪魔ではないということと、真の目的を、口ではなく、この場でしっかりと証明してから来い」

俺のド正論に対し天使たちはあわわと慌ててたじろぐ。

「証明できないのであればこの城から出て行ってもらおうか。……ああついでに白ビキニも持ち帰ってな」

奴らが着用している白ビキニが、城の白ビキニと一致し、その持ち主がはっきりしたところで、この城に置きっぱなしにされている白ビキニも持ち帰ってもらい、城の真の平和がついに叶う日が来た。もう恥の汚点全てなく、呪いは完全に撤去される。

「レハベアム様。さっきから私たちの事を警戒してばっかです……」

っと、意外な展開が。天使と名乗る者の群れが一斉に泣き始めた。各々が悲しそうに涙をたくさん零す。

「な、なんでお前ら泣く……?」

俺の威圧や言葉遣いで怖がらせて泣かせてしまったのだろうか。まるで俺が女の子を泣かせたような嫌な罪悪感が。いや、俺はそんなに甘い人間ではない。いくら女性だろうが幼児だろうが、この俺の城に侵入してきた者は警戒する。誰だってそうだろう。我が家に無断で入ってくる泥棒を歓迎に招き入れるか? 答えは否。無条件に警戒するのが正しい心理だ。だから俺は悪くない。悪くないんだ。

「……こんな外道に塗れた魔界の環境が、あなた様にここまで警戒心を植え付けたのですね……」

「え?」

深い哀れみの感情が籠った声を言い放ち、溢れんばかりの涙でコーティングされた綺麗な瞳で俺を見ながら、一歩、また一歩と近づいてきた。

「来るなっ!」

もう一度怒鳴るも、ミカエルは俺の警告を無視し、涙ながら俺へ歩んでいく。

「……っ!」

止むを得ないが、女性だが侵入者であることに間違いはない。このダーインスレイヴで斬りかかるしかない。左腕を上げ、近寄ってくる女性にダーインスレイヴを振るう。が、なぜか俺の左腕がピタリと止まり、剣身は女性の頭の上で静止した。目の前の女性も、俺の攻撃に全く微動にも驚かず、斬撃が止まったということを当然のように見つめている。

「な、なぜ、剣が止まった……?」

この目ではっきり見た。ミカエルは剣を止めるような能力は発動していない。なのに、俺の斬撃が止まった。これはいったい。

「なぜ止まったのか、それはあなた様が私たちを傷つけたくない、と優しい気持ちがあるからですよ」

「つまり、俺自身が止めたというのか? いや、そんなことはない。確かにそこまで素肌を晒けだしている変態なお前らとて、女性の肌に切れ込みは入れたくない。そんなことをしたら一生後味に悪いものが残る。ところかまわず襲う外道な悪魔とは違うんだ」

いくら無防備な女性悪魔といえども、相手から襲い掛かってくるなら流石に斬るが、相手から襲ってこないのでは、俺も襲う理由はない。……あれ、自分で言っていることと行っていることが矛盾している。俺はこの女性に対し剣を振るったが、俺の心の中では、襲う理由はないと言った。いいや違う。侵入者はきっと、殺す気はないと言いながら俺の懐に入り、一気にナイフで刺すつもりでいる。その前に俺はこの剣で事前に止めようとしたのだ。矛盾ではないんだ。

「ふん、悪魔からすれば俺は甘いと言われるだろうな。その甘さが命取りになると、よく上から目線で言われたよ。お前のような怪しげに近づいてくる悪魔からな」

すると目の前のミカエルは、涙を零しながら俺の言い分がおかしいのか微笑し、右手でダーインスレイヴの剣身に触れ、ゆっくりと下ろす。

「その甘さが優しさなのでは……?」

「ふざけるなっ! 俺は、俺は……誰も信用したくないんだっ!」

下ろされたダーインスレイヴをもう一度振り上げ、剣身を女性に下すが、それでも頭寸前で静止してしまう。斬撃しようにも、この女性め、俺を信じ切った強くて優しい瞳で見つめてくる。

「……その目、ウァサゴにとても似ている。奴は優しさと強さを併せ持った瞳だが、お前らの瞳は、優しさに満ち溢れた強い瞳だ。泥水で洗ったかのような汚い瞳ではない。悪魔の目ではない」

グラシャ=ラボラスやウァサゴのような善魔ならではの綺麗な瞳だが、この天使と名乗る者たちの瞳はルビーのように美しく、母性に満ち溢れている。まるで俺が赤子のようだ。

「あなた様は今までこの魔界という、過酷な環境で長年生き、悪魔たちに痛ぶられ、虐げられてきました。普通の人間ではそんな苦痛の毎日、とても耐えられません。しかしあなた様は今日までよく耐え、生きる希望を自力で見出せ、行動してきました。善魔の集まりに入り、人間界に悪影響を大きく及ぼす悪の組織に立ち向かい、人間界を護るために戦う。更には魔界を変えるために善魔に手を貸し、より過酷な戦地へ赴きました。あなたは十分すぎるほど戦い、同時に傷をお負いました。私たち天使たちや女神たちは、人間界と魔界のために多くの傷を背負い、苦しむあなた様をもう見たくないのです……!」

ミカエルは涙を流しながら、悲しみや哀れみを最大限に籠らせた声で力強く訴えてきた。

「……! なぜ、そこまでして俺のために涙を流す」

その涙や瞳から伝わる深い悲しみや哀れみ。本気で泣いている女性に対し攻撃するのは、恥をかくのはこの俺だ。ダーインスレイヴを下ろす。

 だがまだ信用はしない。本気で泣いているのは俺を騙す巧妙な演技で油断させるかもしれないからだ。さっき天界から見守ってきたと言っていたが、相手からしたら、そこまで俺の情報が筒抜けになっているのか。

「どうかもう、休んでください……! 私たちの元で!」

するとミカエルは一気に俺に接近し、懐に入る。その瞬間、天使は俺に抱きついてきた。

「……え」

抱かれた瞬間、その身体の温かさと、肉身に伝わる母性の波が俺を包み込み、不思議と緊張が緩んでしまった。左手からダーインスレイヴを落としてしまい、魔法陣の中に消えていった。

「レハベアム様……!」

「レハベアム様っ!」

前と後ろの群れから次々と天使たちが俺の身体を抱きに来て、俺の身体はあっという間に天使たちの綺麗な生の肉体に包囲されてしまう。各々の爆乳がビキニの布越しに俺の身体を包み込む。

 なんでだろう、初対面で浜辺ですらないのに白ビキニを着ている不審者の女性らに抱かれたのに、俺の内から敵意が出てこない。殺意すら出ない。それよりも重大なのは、俺が安心しているということだ。何気に抱かれるのは初めてであり、何より女性の温もりがこんなにもホッとする。いや、してしまっている。この孤高の俺がだ。これ以上抱かれると俺がおかしくなってしまいそうだ。

「ああんレハベアム様……!」

しかし、始めに抱き着いてきたミカエルが両腕を俺の首に巻き付け、引き、俺の顔を爆乳の谷間に下した。

「……っん!!」

マシュマロのような極上の柔らかさと花畑のような自然的な香り、太陽のような温もりが漂う谷間に顔を沈められ、息ができない。流石に苦しいから、埋もれながらも手を叩き、離せと教える。

「は、はなれてくれ……!」

「嫌ですっ! あなた様が負った全ての深い傷を癒すまで、いえ、永遠に私たちは離れません……!」

いや側を離れないという意味ではなく、物理的に離れてくれと言っているのだ。

「あなた様は今まで孤独に生きてきた分、私たち天使がたっぷりと愛を込めて側に居ますから……!」

「い、いきができない……」

「いいえ、きさせてあげます。だからもう心配しないで死なないでください……!」

俺が言っている息の事を、こいつら天使は生きと勘違いしている。死なないでくださいと言いつつも、俺を窒息死させる気か。

 谷間に沈められて顔を必死に上げようにも、天使たちめ、俺の後頭部を固定している。これでは顔が上げられない。この天使たち、やはりこの俺を油断させておいて、女の乳房ぶきで俺を殺すつもりだったのか。だが、もう時すでに遅し。次第に目の前の肉が遠く見えてくる。肌に肉が当たってズリズリされているというのに、もはや触感すら感じなくなっていく。

「女体に沈んで死ぬとは、これが俺の最後か……」

俺の最期がこんな死に方とは、正直情けないが、俺の甘さが命取りとはまさにこのことだ。運の女神様は俺を見放した、ということだな。……。








えええついに、死十一話からスタートの四つ目の編に突入しました。

 今回はハーレムに特化しつつ、今後の物語において重要なスタートとなるので読んでいただけると嬉しいです。



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