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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第一章 黒獄の天秤編
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四話 悪を学ぶ

四話まで読んで頂きありがとうございます。誠に嬉しい限りです。ちょっとこの作者の私は眠いので、あまり深くは語れませんが、とにかく読んで頂けて、狂喜乱舞してしまうほどモチベーションが上がります。以上。

生徒会室から出た後、教室に戻ろうとしていた。


 アモンの突っかかりにあって喧嘩を振られた直後にウァサゴが仲裁に入り、俺は生徒会室に連行。それからは本来授業が行われているというのに、授業を抜けた形となってしまった。こうなってくると成績にかなり響く。まるで遅刻したような感じで戻らなくてはならないのだが、正直悪魔が集う教室には行きたくない。しかし足は勇気の一歩を繰り返しながら、廊下を歩いた。


 廊下の曲がり角から走るシトリーが現れ、

「あっ!レハベアムさん!」


俺の名を怯えた声で呼ぶ。シトリーが廊下を走っているが、瞳や体が微動に震え、まるで何者から逃げているように見える。そんなシトリーが俺の側を通過しようとしたそのとき、俺の右腕を掴み、そのまま逃走。

「えっ!って、おおおお…!?な、なんだ。」


思ったより力が強く、俺はあるがままに連行され、女子トイレに連れ去られる。シトリーは個室を開け、俺を引きづり込み、ドアを閉める。

「な、なんだいきなり!」


狭いトイレ室のなか、俺とシトリーの密室空間に戸惑いを隠しきれない。いきなりシトリーが逃げるように走り、そのうえ俺を連行するだなんて只事ではない。

「た、助けてください…!」


怯えた声で俺にすがりつき、服の上から大きく膨らんだ胸が俺の胸板に当たる。

「ちょ、なんのことだ。俺に触るな、近寄るな。」

そのとき、俺の耳に何か声を拾った。


「どこに居やがんだあの野郎!」

「授業を抜けやがって…ちくしょう!」

「必ず探し出せ!そして滅茶苦茶に犯してやるぞ!」


若く威勢のいい声だ。シトリーはこの三人衆に怯えているのか。そして、犯してやるという学校でなんともハレンチなセリフを吐く、ということから、シトリーは強姦されそうになり逃げだしたというのか。ただ、授業を抜けた、という点が強姦とどういう線で繋がっているのかよく分からなかった。

「ほ、保健体育で…」


シトリーが怯えた声で小さくかすめて説明を始めた。

「強姦の仕方、という授業なんですけど、私、そ、それで襲われそうになって逃げだして…。」

「ハレンチな授業だな。」

そういえばゲーティア高校の授業はバエルが経験を元に作り出したカリキュラムだったか。実に悪魔らしい授業だ。これで悪魔の生徒は習ったことを活かしどんどん犯罪を働くのだ。

「おらあシトリー!大人しくそのムチムチボディ差し出せ!」

「中田氏するからよお!俺と子供作ろうぜ!」

「ああ弱い奴イジメんの超スカッとする。」


奴らの大声が出るたびにシトリーは小刻みに震える。このまま女子トイレの個室で奴らがここから去って行くのを待つのもいいが、この密室空間にこの悪魔と一緒のも嫌だ。

「こ、怖い…」

「…なあシトリー。お前、なぜ俺をここへ連れてきた?」

「…へ?」


シトリーが俺の顔へ見上げた。

「助けてほしいから、レハベアムなら助けてくれると信じてたから、なんだろ?」

そもそもなぜ、シトリーが俺を見つけるやすぐに女子トイレまで連れていき、こうも一緒にさせられるのか、まずはそこに疑問を抱く。それは俺がシトリーを助けてくれると信じられているからだ。

「はい…もしかしたら助けてくれるかもと思って…一人だと不安だったから。つい。」

「はあ…仕方ない。俺に任せろ。」

「え?」


どうやら俺が追っ払えば済む話らしい。俺としては三人がここから過ぎ去ってくれる方が嬉しいが、シトリーが解放されたとしても教室に戻れば再び強姦される可能性がある。目立つのは嫌だが、このシトリーと密室空間に居るもの耐え難い。早くこの個室から出たい。

 ドアノブを横に引き、ドアを開ける。そしてシトリーを追いかける三人の生徒と顔を合わせる。目と目が合うと、その瞬間、三人の生徒は口から笑いと唾を破裂させ、大きく笑った。

「ブハハハハッハッハハハハハッハハアハ。どゆこと、バハハハハッハハハ。」

「なんで女子トイレから人間が出てくんの。ウケる。」

「こいつが噂の人間か。超きめええフハハハハッハハハハハ。」


笑いの咆哮が向けられる中、俺は冷静にポケットから闇の小粒を出す。これはレメゲトンの闇、第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』の闇だ。魔法や能力を無力化させ、液体と物体の形状変化をする闇。詠唱しなくてもいつでも出せるように、予め詠唱してポケットの中に入れていたのだ。小粒はバケツの器となり、中身は墨のような闇の液体が入っている。バケツを振るい、液体を笑う悪魔の生徒に放ち、三人を闇の液体で濡らす。


「あ…?」

「こいつ…どこから水出しやがった。」

「ってか、よくも俺たちに水ぶっかけやがったなあゴラア!」

三人は怒り、俺を鋭い目で睨み付けてきた。だが、濡れる三人の闇は物体化し、三人は徐々に黒い闇の鎧に覆われ、身動きが取れなくなっていく。

「な、なんだこれっ!」

「う、うひいいい!気持ち悪いなんだこれは!」


そして闇の鎧が完成し、三人は顔の隅まで闇で固められた。完全に身動きが取れなくなった三人は喋ることも空気を吸うこともできず、ただ真っ黒な偶像のように立ち尽くす。

「ほら、出ていいぞ。」

シトリーはひょいと個室から顔を出し、闇塊で固められた三人を見て、身の安全を確認すると体を出した。

「ふああ…真っ黒。凄いですねレハベアムさん!」

「今のうちに教室に戻れ。」

「はいっ!この恩は忘れません!」


シトリーはすぐさま三人の横を過ぎ走った。トイレ入口で俺へ体を振り向かせ、腰から頭を下げた。その後身を入口から出し、そのまま横に行った。

 俺も早くこのトイレから出たい。万が一女性に、人間で男の俺が女子トイレに居ることを見られたら、一生の汚点だ。闇塊に覆われた三人をこの場にほっておき、俺も女子トイレから出て、左右に誰もいないか確認してから、すぐそばの下り階段を下った。



 授業中の一年H組の教室に戻り、後方の壊れた扉から入る。すぐそばの椅子に座り、しれっと授業に参加する。黒板には、言葉で傷つけるやり方(国語)、と書かれ、先ほどの老いた先生が教卓の前に立っている。

「では、私の言う言葉の後に言え。『死ねっ!』」

老教師が元気よく『死ねっ!』と叫ぶと、

「「「「死ねっ!」」」」


続いて生徒の群れから老教師に向けて繰り返された。リピート アフター ミー方式の授業だ。

「『死んでしまえっ!』」

「「「「死んでしまえっ!」」」」

「『ぶち殺す!』」

「「「「ぶち殺す!」」」」


皆ノリがよく、この簡単なリピート式の授業についていっている。別に英語でもあるまいし、自国の言葉でリピートして何が面白いのだろうか。くだらないから俺は何も発さない。

「フルカス先生!あそこに人間がいますんで、人間に悪口言ってもいいですか!」


とある生徒が俺に指を差し、ざっと四十名の生徒が俺に注目する。すると皆シクシクと微笑する。

 人間だからという理由で俺はなんでも目立つ存在だ。だからなんでもどこでも精神的に虐げられる。それよりもあの適当なことを抜かす教師、フルカスというのか。生徒らも初対面のはずだから、ウァサゴに連行されなければ授業序盤で自己紹介を聞いていたかもしれない。

「それは私が決めることではない。君たちが決めることだ。」

うんともすんとも言わない曖昧な返事。それに対し生徒は秒速で俺に顔を向けて、

「『死ねっ!』」


と、授業で習った言葉を早速活用した。周りの生徒はぎゃはははと笑い、人間の俺を中心に嘲笑う。

 心の中で言っておくが、俺は決して傷ついてなんかいない。その程度の言葉で俺が傷つくなんて今更のことだ。でなければ昔から進級なんぞできはしない。

 苛立つが殺気を放つことすら俺が馬鹿馬鹿しい。殺気を放つことで後から「なに、キレてんの?」などと話しかけられたくない。

「傷ついたかどうかは直接本人に聞くと言い。さて、次は残虐の美学について語ることとする。」


フルカス教諭はチョークを持ち、黒板に残虐の美学と書く。

「まず、残虐という意味を答えられるヒトはいるかね。」


フルカスは俺を含む四十名の生徒に残虐の意を問いかけた。

「残酷…という意味ですか?」


一人の生徒が手を上げ答えると、

「では、残酷という意味はなんだか分かるかね?」


ドミノ倒し式に再び問いかけてくる。その生徒は言葉が詰まり、意味を答えられなかった。

「残虐とは、ヒトを殺したり非常に苦しめたりするような、ひどくむごいこと、を言う。つまり、皆が大好きな悪行だ。」


悪魔が行う悪行の意味そのものだ。ここを卒業した悪魔は他の異世界に行き、ヒトに憑依し殺人や強姦を行う。それを悪魔は生き甲斐として喜んでやって、ヒトの不幸を呼び寄せている。まさに悪行だ。

「いずれ君たちも残虐性を高めて成長しなくてはならない。だからこうして授業がある。先に言っておくが、私の授業は難しいから居眠りは減点するぞ。」


脅しを入れて授業への参加をきちんとさせる。

「いいか。まず残虐性がどれほど美しいのか、についてだ。これテストに出すからよく覚えておけ。」

そう言うと皆は一斉にペンを構えて、フルカスが言う発言をノートに書きこむ準備に入った。

「悪魔の、悪魔による、悪魔のための残虐。そこに咲く悪の華こそが美しさだ。ヒトを陥れてこそ悪魔は生きる価値がある。だからいま生きていることに感謝しろ。これからお前らはヒトや人間を陥れるのだからな。」


悪魔の在り方を語る教師、どうやらフルカスは悪を教える熱血教師らしい。フルカスはチョークで残虐というの文字の周りに六本の矢印を伸ばし、それぞれの矢印の先に殺人、強盗、強姦、虐待、詐欺、その他を書き、チョーク先で殺人を差した。

「まずは残虐の王道、殺人だ。やり方は簡単。」


フルカスはチョークで鼠を描き、

「この鼠が人間だとしたら、我々悪魔はこれだ。」


今度は猫を本格的に描き、猫は鼠に猫パンチをくらわす絵を描く。猫パンチをくらった鼠の頭上に黄色いチョークで輪を描き、お亡くなりになった事を表す。

「悪魔は生体を無差別に殺すことがお仕事だ。ただ殺すだけでは意味がない。その殺し方。例えば首をナイフで一刀両断したり絞めたり、重りをつけて海に突き落としたり、ただひたすら惨いことを思いつけ。そして殺せ。惨い殺し方ほど残虐性が増し、そこにやっと美が生まれる。これが殺人の美学だ。」


ただひたすらクズなことを熱弁し、チョークで惨い評価ほど残虐性が増すと書く。

 と、ここでキンコンカンコンとチャイムがなり、一時限目の国語が終了した。

「今日は初めて挨拶がてらの授業だ。明日から私の国語に追い付くようにな。」

「はあい。」


最後にそう言うとフルカスは教卓に置いてある資料やテキストを持って、ここの教室から出た。

 …とまあ、小学一年生から今に至るまで、俺はこうして悪魔の授業を受けている。教師と生徒が連携して、授業中に人間の殺し方など人間がいる俺への当てつけとして言ってくるケースも全く珍しくはない。いやむしろ、そういう授業に人間の俺がいるから悪い。一言で言えば悪魔は嫌な奴らだ。俺はこんな屈辱や虐げを毎日くらって生きている。

 なんで俺は、魔界に居るのだろう…?毎日俺は思う。

 物心がついたときからあの城に居て、恐らくずっと魔界に居る。多分、生まれた時から俺は魔界に居るのだろう。それ以外の記憶は全くない。家族と過ごした記憶すらも。そもそも俺に家族が存在していたのか、それすらも分からない。そして、なぜ、人間の俺が魔界に居るのだろうか。その悩みはこれまで尽きたことはない。ずっと疑問だった。家族も記憶もない俺がなぜ魔界に居るのか、その答えを知る由がなかった。

「よお人間!」


悩んでいる最中に、横から悪魔が俺に話しかけてきた。五人が戯れて立ち、座る俺を見下ろす。

「さっきの授業で俺、お前に死ねっつったけどよお、いつになったら死んでくれるんだ。あ?」

「ほおんとそれだよな。たく。」


彼の言葉で、五人だけではなく、周囲の悪魔も俺に冷たい目線を送る。

「人間、お前イジメられるために来てんの?Мやなあ。逆に関心するぜ。ぎゃはははっははは。」

「自分からイジメられるために学校に来るだなんて、人間の考えることはよく分からないぜ。」


そりゃあ悪魔に人間の俺の気持ちなぞ分かるまい。俺がどれほど昔から傷ついて、それでも信念を曲げずに孤独と虐げに耐え、目的があって修羅場に身を投じる覚悟など、悪魔に分かってたまるか。

 五人の悪魔の中から一人俺に近寄り、俺が利用している机に腰を下ろす。

「なあ人間、死ぬのが嫌なら俺が直々に殺そうか?殺人の美学って奴を早速知りたくてよ。」


男はナイフを取り出し、切先を俺に向ける。

「俺を殺せれるならやってみろ…」

俺の第一声を聞かせ、殺気を放つ。机に腰を下げる男は俺の殺気に気圧され、汗を一粒流すが、その後笑みを浮かべた。

「ほ、ほう、人間にしちゃあ殺気たけえじゃねえか…。面白れぇ。」


男は机から降り、体を向けて俺へナイフを突いてきた。対する俺は、ポケットから第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』の闇塊を出し、真っ黒な盾に変形させる。座ったままの体勢で盾を構えて、ナイフは盾に刺さるが貫通はせず、その後盾から複数の黒い針を生やし、男に針が伸びる。伸びた針は男の腹に突き刺さり、

「ってええ!」


男はナイフを手から離し、後方に下がる。針先から根本まで男の赤い血で染まるが、血は表面の闇に引きずり込まれ瞬く間に黒一色と化す。針を引き、盾に突き刺さるナイフを掴む。

「どうした。俺を殺すんじゃなかったのか。」


冷静に煽り、男の心理を弄ぶ。

「てめえ!なんだその薄気味わりい能力は!その盾を捨てやがれ!そんでナイフ返しやがれ!」

男は怒り、威勢を保っている。俺はナイフを男に投げるが、奴の瞳に狙いを定めた。投げたナイフは男の右目に刺さり、男は激痛の雄叫びを上げて倒れた。

「ぐうああああああああああああああ…!」


「俺は返したぞ。ナイフを。」

返せと言われたから返してやった。投げたナイフを掴めなかった男が悪いことにする。

「や、野郎、やりやがった…!」

「喧嘩売りやがったぞこいつ!」


急いでナイフを抜き、右目から出血する。四人は怒り、敵討ちなのか、一斉に俺に襲い掛かってきた。俺は冷静に立ち上がり、盾をバケツに変えて、中身を闇の液体にする。バケツを振るい、闇の液体をぶちかます。襲い掛かってくる悪魔は闇の液体に濡れ、液体は徐々に物体となり、

「うわっ!、な、なんだ!」

「野郎…!何の真似だこりゃあ!」

「おい!お前の表面が固まっているぞ!」


四人を真っ黒な闇の鎧に着させ、身動きを封じる。

「おい…なんだこりゃあ…!」

「体が…動かねえ…!」

「闇で体をコーティングしたんだ。一生突っ立っていろ…」


椅子に座り、引き出しの中に入れているレメゲトンを取り出す。

「おい人間…てめえなにもんだっ!」

「ただの人間さ。」

顔の隅まで闇塊でコーティングし、呼吸を封じる。そのときに五分休憩のチャイムがなり、ちょうど突っかかりの対応を終了させた。

「お、おい!お前らっ!」


片目の悪魔は闇にコーティングされた悪魔たちを呼ぶが、無力にも彼らは片目の声に応じなかった。

 廊下から大量の資料を抱え持つフルカスが再び現れ、教卓に置いた。そして、フルカスの目線は真っ黒にコーティングされて突っ立つ四人の男に注目する。

「ど、どうしたのだお前ら。」


片目の悪魔はフルカスを見て、事情を説明した。

「フルカス先生!この人間がこいつらを…!」


何やら面倒事になったぞ。突っかかりに対応すれば別の悪魔が面倒事を持っていき、連鎖が続いていく。

「な、なんだベリアル…その怪我は…!」

フルカスは、ベリアルというのか、片目の悪魔を心配し、その顔は青ざめていた。

「レハベアム!よくも生徒を傷つけたな!」


フルカスは片目の悪魔ベリアルに味方。まるで俺が悪者扱いだ。いや今更か。あまりにも不条理だ。

「俺は襲われたから返り討ちしてやっただけだ。悪いのはこいつらだ。」

「悪魔に対しベリアルたちが悪いだと…?ふざけるな!」


フルカスは俺に対し大きく怒鳴った。

「悪魔が人間に襲って何が悪い…!それを返り討ちしてやったなど、人間の分際で悪魔を傷つけるな!これでベリアルが未来、悪事ができなくなったらお前どうするんだ!」


そうだった、悪魔は悪事に対し何も悪い事だということは一切思っていない。逆に人間が悪魔に歯向かうことは悪魔にとって許されないことなど、明らかに俺が不利ではないか。

「知るか!俺は人間だからな!」

「ええいこの教室から出ていけ!お前に教えることなど何もない!」

「断る。授業を抜けた分俺の成績が下がる。」


何一つとて授業を抜けた分、俺の進級に大きく関わる。進級は絶対にしなくてはならないのだ。

「人間が…あまり悪魔をなめるなよ!」


フルカスは資料を教卓に叩き、その強気な音が険悪な雰囲気の教室に響く。周りの生徒も俺を注目し、冷淡な目線で睨み付けてくる。

「まずは四人の生徒をどうにかしなさい!これで死んでしまったらどうするんだ!」

「断る。そもそもこいつらが俺に何も仕掛けなければこいつらは無事だったんだ。」


この魔界では悪魔ヒトを殺しても罪には問われない。だから俺が殺してもこの四人はなにも文句は言えないはずだ。だというのに、こいつら五人が先に仕掛けたのに俺を悪者扱いにして、挙句生徒の心配をするフルカスの言い分には腹が立つ。俺の言い分は聞く耳なしか。

「貴様何を言う!悪魔がお前を殺しても悪魔は何も悪くないのだ。だから襲うのは当然のことだ。」

「何を滅茶苦茶なことを言う。」


そんな曲がりくねった極論が通るか。

「逆に人間のお前が悪魔に何かをするということは、それは十分な罪だ。」

「とんだ不条理だ。」

「嫌なら死ね!お前には絶対に成績なんかやらん!」

「それも断る。」

「人間の分際で悪魔を舐めるな!二度も同じことを言わせるな。」

「そうだそうだ!」


フルカスがそう言うと他の生徒が加勢し、

「人間の言い分なんか聞く価値あるかよ!」

「いいからその闇を外せよ!」


一気に四十名の生徒が俺にブーイングを言い叫ぶ。ブーイングの集中砲火に俺は益々苛立ちを激化させた。

 そのとき、ベリアルが俺に向かってナイフを構えて、走ってきた。対する俺はポケットから闇塊を出し、コピシュに変えて、ナイフを受け止める。

「やっちまえベリアル!」

「人間を殺せ!」


周りの生徒はベリアルに応援し、もはや授業そっちのけの雰囲気になった。

 このまま俺の主張を貫いても授業は行われない。かといって悪魔の言うことをすんなりと受け入れるつもりもない。今この状況でベリアルを殺すのは簡単なことだ。しかし殺したらフルカスは怒鳴り、授業は完全に止められる。成績は付けられなくなる。ここは一度殺意を抑えなくてはいけないか。

 左足でベリアルの腹に一発蹴り入れ、ベリアルを飛ばす。

「ぐふっ!」


ベリアルが背に床を落としたのを見計らって、引き出しの中に入れているレメゲトンを鞄の中に入れる。

「もはやお前が授業をする気がないのなら、俺は立ち去る。かえって不愉快だ。」


俺は授業に参加し成績を上げるためだけに通学している。だが教師本人が授業をしないのであれば俺がここに来る価値はない。

「お前が授業の妨害をしているのだろうが!存在だけでこちらこそ不愉快だっ!早く生徒らを覆っているものを外し、この教室から出ていけっ!」

「断る。だが俺は素直にこの教室から出ていく。」


俺に襲ってきた悪魔共は助けてやらないが、授業をしないというのなら俺がこの教室に留まる理由はない。鞄を持ち、壊れた扉から身を出す。

「チッ、やはり悪魔は悪魔だな。」


悪魔の考えは俺の思考に大きく反する。

 小学一年生から今に至るまでの教室でのいざこざ、一連の流れは俺にとってあるあるだ。悪魔は俺の存在のせいだと言い、まともに授業が成立しないことが多々ある。だが俺は成績を向上させて何が何でも進級しなければならないのだ。そうなってくると教師が授業を行ってくれないと俺が困る。

「仕方ない…いつもの勉強方法でやるか…」


廊下を歩きながら、俺はとある別の場所へ向かった。それは図書室だ。図書室なら読んで理解するだけで頭に定着する。下手な教え方をする教師から学ぶよりも、自分に似合った習い方をすれば学びやすいというものだ。

「しかしまいった。図書室の場所が分からない。」


ゲーティア高校に来てからまだ二日目だ。当然図書室の場所なぞ俺は知らない。

 皆が授業中で誰一人廊下が居ない間に、廊下を彷徨い、図書室を探している所、名札に図書室と書かれた部屋を見つけた。一年H組の教室から右に廊下を渡り、曲がり角にあり、案外普通に見つかった。引き戸を引き、見渡して誰もいないのを確認する。今は授業中だから図書室の利用はほぼないという状態か。室内はまるで図書館のように広く、奥が多くの棚が並びぎっしりと本が詰められている。手前は盾に連なった机と椅子が並び、共有スペースとなっている。俺は奥の棚が並ぶ所へ行き、歴史を調べる。ただの歴史ではなく、社会の科目である、犯罪の歴史という授業の本だ。授業をする気がないという二時限目を放棄し、俺は俺なりの勉強で成績を斬り開く。犯罪の歴史の本を指に引っ掛け、下ろし、本背を手に置く。そして立ったまま、まず一ページを開き、読む。


 犯罪の歴史というのは一言に犯罪だけではなく、魔界で起きた事故や人間界で起こした事件、そもそも犯罪の最初について書かれている。様々な犯罪史の教科書だ。

 目次には、悪魔による最初の犯罪を初めに、殺人罪、強盗罪、性犯罪など犯罪の種類によって分けられている。歴史だから有名な悪魔が載せられ、どういう経緯で行ったのか、犯罪の内容まで記されている。

 授業を中心に成績が分かれるが、フルカスを初め、他の教師が俺という理由で授業をする気がないというのなら、俺は俺のやり方で学ぶ。というものの、このやり方では重点や学ぶうえで大切な点が分からない。俺が思う重点と教師が授業で指摘する重点が重なればいいが、そうすれば教師から学ばなくてもテストの点数は取れる。


 目次から五ページを開き、『悪魔による最初の犯罪』の内容を頭に叩き込む。要は全て記憶していれば良い話だ。五ページから文字がびっしりと詰まれて、一ページだけでも読破は長くなりそうだ。一行目にはまずソロモンという文字が記されている。

「ソロモン…か。」


俺が持っているレメゲトンを昔持っていた亡き魔王だ。今思えばなぜ魔王の魔術書を俺が持っているのだろうか、本当に不思議でたまらない。

 程なくして、長い文章をやっとこさ読みつくし、内容を簡潔にするとこうだ。


 ソロモンは先の時代の魔王であり、悪の繁栄期を創った魔王。悪の繁栄期で他の異世界は混沌に満ち、破滅と絶望を齎したという。それで各世界は滅んだり悪の闇に覆われたり、ソロモンという存在は非常に大きかった。しかし不治の病を患い、ソロモンは魔王を引退。後に悪の育成に力を入れ、ゲーティア高校を建設。ゲーティア高校の初代校長はソロモンであり、ゲーティア高校の授業の基礎を作った。だが、その数年後に病死。校長の座を右腕だったバエルに引き継ぎ、今に至る。

「ほう…そうだったのか。」


それは初めて知った。まさか魔王ソロモンがこのゲーティア高校を建設したとは。では二代目はバエルだったのか。まあバエルは昨日、ウァサゴで派手にやられたが。では三代目は誰になるのだろうか。まあ俺からすればどうでもいいことだが。

「それよりレメゲトンのことだが…」


魔王ソロモンは魔界一の魔術師であり、右手にレメゲトンを持ち、魔法を出して人々を殺していたという。そして殺し終えたあとは、第二部『テウルギア・ゴエティア』と呼ばれる暗黒魔法で、暗黒の星を召喚させて世界に落とし、滅ぼしたという。



 確かに、俺が持つレメゲトンには。世界を滅ぼす暗黒魔法第二部『テウルギア・ゴエティア』が記載されている。だが、俺はまだこの魔法を詠唱できない。

 過去に詠唱したことがあるが、失敗し、それの繰り返しで未だ成功ならず。しかし難しいのも道理だ。なにせ世界を滅ぼすと言われる暗黒魔法だ。それは詠唱が難しいのも納得だ。

「試しに詠んでみるか。」


失敗の連続だったが今日こそできるかも。そう思いバックからレメゲトンを取り出し、右手で本背を置き、第二部を開く。

「― 穢れ有き醜悪なる魂に、悲しみの闇を身に包みし、地獄に示したまえ― 」


詠みながら窓から覗き込むと、遥か天に、一本の柱が出現した。一本の柱の周りに、暗黒の霧が集中し、やがて球になった。

「― 穢れ無き善良なる魂の恨みを、悪魔に示せ― 」


暗黒の球に亀裂が走り、亀裂の間から緑色の上半身の醜女が出現した。表情がとても歪んで怒っている。憎しんでいるように見える。悲しんでいる表情でもあるし、何かに恐れているようにも見える。歪んだ喜怒哀楽を浮かべながら、両手を合わせた。

「― 悪魔に虐殺されし魂の涙を拭く時来たれり― 」


合わせた両手を広げると、両手の間に暗黒の非物質が出現した。

「― 罪無き逝った魂の願いを叶える時来たれり― 」


暗黒の非物質は徐々に膨らみ、両手から零れるほど大きくなってきた。遂には、暗黒の非物質で天が隠されるほど巨大に成長した。その超大規模な成長ぶりはまるでブラックホール。星を覆いかぶさる暗黒星だった。

「― 今こそ、全ての悲しみが終わる時、来たれり。悲しみに満ちた天国からの裁きが下る時。血塗られた哀れな世界を滅せよ― 」

そのとき、キンコンカンコンと二時限目終了のチャイムが鳴った。同時に、世界を滅ぼすという暗黒の星が完成した。今、このゲーティア高校の真上天空に暗黒星が浮かびあがっている。

「せ、成功した…。」


今まで失敗で完成しなかった、暗黒星を完成させてしまった。

 これが、ソロモンが使って世界を滅ぼしたという、禁忌の暗黒魔法、第二部『テウルギア・ゴエティア』の暗黒星。あまりにも、邪悪さ。俺の心を反射させたかのような腹黒さ。逆に俺も怯えてしまった。







「うそっ……な、なんで……いまになって現れるの……」


生徒会長室の窓から、真上の暗黒星を見上げた。

「あの暗黒星……あの時に見た『映像』と同じ……!凹成二年の十月九日の、まだ私が幼い頃と同じ……!」

「ウァサゴ先輩!」


後方の引き戸から引く音と、私を呼ぶ至急性の高い声がした。振り向くとやはりシトリーがここに来ていた。

「ウァサゴ先輩…あれはいったい……なんですか?」

「第二部……『テウルギア・ゴエティア』……!世界を滅ぼす最強の闇の魔法よ……!」

「テウルギア、ゴエティア…?」


私は窓から身を離し、社長椅子に座り、足を組む。女学生ながらみっともなく、貧乏ゆすりが止まらない。それほど私の精神は不安定である。いつのまにか体が震えていて、この私が怯えているというのを、貧乏ゆすりで気が付いた。

「凹成二年の十月九日…誕生日。幼き頃の私が見た『未来視』の映像では、この魔界は……人間レハベアム・モーヴェイツによって滅ぶ……!」


私は未来を視る能力がある。凹成二年の十月九日の私が幼い頃に、後に現れる人間レハベアムが魔界に暗黒星を堕とすシーンを見てしまったのだ。

「え、えええええええええええええええええええええええっ?!な、なぜレハベアムさんが……?」

「『未来視』では、私はレハの前で敗れるの。そしてレハはその後、第二部『テウルギア・ゴエティア』を詠唱し、悪魔に対する憎悪を込めてこの世界を滅ぼす。かつての校長ソロモンが魔王と呼ばれていた時期に、世界を次々と破壊したように……!これが幼き頃が見た『映像』よ。」

「それが…昨日言っていた、『映像』……。」

「そのとき、レハは私に向けて『善魔』と呼んだ。これが私が善魔として自覚し始めたキッカケ。世界の崩壊を止めようとした未来の私からのメッセージ。そのメッセージが無ければ、私は善魔ということを自覚せずに生き、そしてこの世界は滅亡へと進んでいった。間違いなく世界は滅んでいたわ。」


誕生日の日に私が未来からの『映像』を視たのは、未来の私が過去の私へ送ったメッセージ。つまり、未来の私はレハベアムに敗北後、世界が滅ぶ運命を変えて、というメッセージを送ったのである。過去の私はそれを凹成二年の十月九日の誕生日に受け取り、私は善魔として自覚を得た。

「だけど、今暗黒星が現れるだなんておかしい…!まだ私はレハベアムと戦っていないもの!暗黒星は私とレハベアム……黒獄の天秤の後よっ!なぜ暗黒星が今現れるの……!」


未来の映像では私はレハベアムと戦い、そして敗北後に世界は滅んでしまう。つまり、未来の映像と異なる形で暗黒星が出現した。運命を改変するために私が動いているのに、レハベアムが滅ぼす運命を早めるだなんてあまりにもおかしいことだ。普通はありえない。未来を知らない今のレハベアムが滅ぶ運命を早める業などもつわけがないのだ。

「まさか…今からレハベアムを殺せとでもいうの……!嫌よ……レハベアムは何も悪くない……!」


暗黒星の術者であるレハベアムを殺せば世界の崩壊は止まる可能性がある。だが、私が粘質的にレハベアムを仲間にしたい理由は、巨悪に立ち向かう仲間がほしいわけではない。レハベアムを仲間として受け入れてもらい、少しでも憎悪を和らげ、世界を滅ぼす運命をかき消すためだ。


 レハベアムに対し武力で世界を滅ぼす運命など変えたくない。彼は罪無き人間だ。そんな人間に武力行使するなんて私はしたくない。悪魔に恨みを持つ彼が起こす憎悪による世界崩壊を止めるには、心からの優しさだ。彼は優しさに飢えている。だから私は彼を仲間に向かい入れ、仲間として全て受け居れ、ストレスを和らげて世界崩壊を止めようとしている。それがレハベアムを入会させる私の真の目的だ。

 そのとき、暗黒星が瞬く間に消滅した。暗黒星が壁となっていたいつもの曇天が見え、世界崩壊は逃れられた。

「き、きえた……?」

実にあっという間の消え方だった。まるで命が途絶えたかのような。

「はっ、まさか!レハっ!」

嫌な予感が脳裏にイメージが焼き付いた。レハベアムの身に何かが起きたかもしれない。

「レハベアム…今助けに行くよ……!」

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