三十六話 激戦
アモンのアジトの正面口に立つ。濁った海水塗れの扉の先から、異様に渦巻く殺気の流れが感じる。これはヒトが放つ殺気ではない。どちらかといえば、貪欲。食にただひたすら飢え、獲物を求めている気配だ。
「セーレの言う通り、どうやらブネの奴は魔造の飼物を放ったようだな……」
セーレの敗北を知って、これ以上手術が邪魔されないように自分が造った飼物をアジト中に放ったか。奴の手術室に行くには、飼物を倒さなければならないか。
「殺気の流れ……呼吸の気配……どいつもこいつも図体が大きく、数が多いか……」
風に帯びる殺気や微かな呼吸を肌や耳で感じ取る。このアジトの中に巣くう飼物は、もはや魔物の形状だ。もうヒトとして見てもダメで、生かしておくことそのものが彼らの苦しみだ。全て葬ろう。実験台に苦しまれた全ての生命体のために殺す。
「早いが話、こちらから襲い、攻めてやる」
素直にこの中に入るだけでは襲われるのは俺だ。ならばこちらから逆襲してやる。右手にレメゲトンを召喚し、第四部を開く。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」
詠唱すると、レメゲトンの紙々が分離し、ドクロ状に折りたたまれた。ドクロとなった紙々は宙に浮き、そのレーザービームで扉を打ち抜く。破壊し、全ての紙ドクロはアジトの中へと特攻していった。
突撃した紙ドクロの視野が俺の脳に送り込まれる。その情報を視ると、アジト内に潜むは様々な肉体をした飼物たち。体調が悪そうに見えるほど不気味な紫色の毛で覆われ、筋肉が異常に発達している熊。褐色した皮膚をさらけし、内側から鋭い骨やナイフが出ている山羊。鼻が頭になっている象。牙を生やしたヘドロ。緑色の肌をして気泡が出て、肉が液状に垂れている悪魔まで。
「もはや生命体の形状ではないな……」
手腕脚が生えた小魚の群れ。魚の尾が生えたライオン。ヒレが生えた蜂。上半身は首の長いキリンだが下半身は脚の短いダックスフント。その逆に足が異様に長い犬。巨大な手が生えた兎。その姿は様々だ。
「混合獣まで造ったか」
魔物たちは紙ドクロの襲撃に気づき、それぞれが咆哮し始めた。そして各々が紙ドクロに襲い掛かりアジト内は一気に戦争が始まった。対する紙ドクロは天井付近まで上昇し、上からレーザービームを一斉に放つ。魔物たちは次々と紙ドクロのレーザーに撃たれていくが、まるで痛感がないのか、全く怯む様子がない。
「痛覚を閉ざしているのか……まあ、手術する以上、痛覚を残す意味はないか」
勇猛果敢なのか特攻馬鹿なのか、痛みを感じない素振りを見せる魔物たちは跳び、紙ドクロたちへ間合いを寄せる。爪や拳で紙ドクロたちが叩き落とされ、引きちぎられていく。
「倒しても無駄だ。俺の紙は何度でも再生する」
爪で引き裂かれ、拳で潰されようが、紙ドクロは再生し、元の形状に何度でも戻る。復活する紙ドクロたちは魔物たちに睨み付け、再びレーザーを放つ。
「どれ、俺も加勢しようか」
まずは第四部を開き、詠唱する。
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
俺の左足元に紫色の魔法陣が浮き上がり、そこからアジト内へ闇の水が攻め寄せる。たらふく流れていく闇の波は魔物たちの脚に触れ、そこから上半身へ闇が染めていき、コーティングしていく。闇に固められていく魔物たちは流石に戸惑い、紙ドクロたちへの攻撃を止めた。だが戸惑っている今その隙も闇は徐々に上半身へ染め上がっていき、心身ともに動揺させ、身動きを封じる。その隙に紙ドクロたちは再びレーザー放射をはじめ、頭を貫かれていく。しかし、造られた生命力なのか、頭を貫かれた程度では倒れず、脳天に貫通穴があっても紙ドクロに睨み付けてくる。
「とんだ魔物たちだな……」
左手にダーインスレイヴを召喚させて、俺もアジト内に潜入する。既に戦場と化しているアジト内で、紙ドクロと魔物たちの抗争が突発している。痛覚がない魔物たちは闇のコーティングで身動きが封じられ、その隙に紙ドクロがレーザーを放ち、俺の方が有利だ。あとは俺が直接その首を切断するまで。
魔物たちへ間合いを攻め寄せ、まずは紫色の熊に跳び込み、左手のダーインスレイヴを振るう。すれ違いざまにその一閃は熊の首を絶ち、同時に血を剣身に吸収。首から下の体はそのまま倒れ込み、隣に立っていたもう一体の熊の背中からダーインスレイヴを突き刺す。剣先は背中の肉を差し、同時に背骨をも絶つ。そして血を吸いながら刃を上に向け、肉を斬りながら上げる。背骨は縦一線に裂かれ、熊はそのまま倒れた。
「グボボボボボ……」
俺の背後にドロドロな緑色の肌をした悪魔が立って、その濃汚い手を上げて俺に叩きつけようとしていた。俺は刺した熊の肉体ごとダーインスレイヴを背後まで振るい、その図体を緑色の悪魔に叩きつける。だが、そのドロドロ状の液体がクッションになっており、奴に対する衝撃が包み込まれた。そして図体は肌にくっつき、飲み込まれていく。急いでダーインスレイヴを引き抜き、奴から間合いを取る。紫色の熊は緑の液体に侵食され、ドンドン飲み込まれていく。そして完全にその体は悪魔の肌に一緒になった。
「あのネバネバした液状……直接斬ろうとするとダーインスレイヴが危ないな。だったらこれはどうだ」
ダーインスレイヴの剣身に、二匹の熊の血を集結させる。そしてダーインスレイヴを頭上に構え、思う存分大きく振るう。
「ブラッドインパクトっ!」
ダーインスレイヴによる斬撃の軌跡から、血の大きな刃が放たれた。飛ぶ刃は緑色の液体をした悪魔の右半身、左半身を斬り裂け、奴の背後に立つ魔物たちも巻き添えをくらう。
「少しは効いたか」
だが、分離した緑色の液状は、互いが寄り合い、複合しようとしていた。
「まるでスライムだな。斬っても斬っても合わさろうとする」
細胞分裂と再生を繰り返す不死身の仕組みのような奴だ。だが、複合する前に床に流れる闇水から針を、二つの切断面に飛ばした。
「悪いが、お前の不気味な体の構造に遺伝子レベルの闇を撃ち込ませてもらった。お前の再生能力と俺の無力化させる闇、果たしてどっちが勝つかな」
ドロドロの液体は互いの切断面を合わせた。だが、右側の体が滑り落ち、複合ができなくなっている。
「ここは俺が支配する闇だ……如何なる能力をも許さない。刃向かうことも」
第四部の闇による能力無力化で再生能力を封じた。これで俺の前で複合することはできなくさせた。ダーインスレイヴを右腰に差し、もう一度大きく振るう。その斬撃から再び血の刃を放ち、その体を横に輪切りにする。
奥の廊下から毛無の山羊が三体、俺に向けて突進してくる。奥へ進む闇水と反対して向かっているのにも関わらず、まるで水の抵抗さえも気にしない走りだ。モフモフの毛の代わりに生えている尖った骨やナイフで俺を突き刺すつもりか。山羊は跳び、その高く跳んだ脚力で足元から闇水の範囲内で逃げたか。
「近寄ることさえも……」
跳んだ山羊たちにレーザーが直撃。そのまま撃墜されるように闇の流れに落ち、そのまま飲み込まれていった。
「逃げることもできない。何もかも……」
闇に怯え始めた魔物たちは、すぐさま俺から離れようと逃げ始めた。だが、魔物たちの足に流れる闇が固体となり、足を固定する。
「全ての魔物の首を切断しろ」
そう命じると、紙ドクロの群れは特攻し、魔物たちの首を狙ってレーザーを放射。漆黒のレーザーは首を切断し、次々と生首が落ち、闇の波に流れていく。
「誰一人逃がすなっ! このような飼物を外に出しては必ずや乱れるぞ!」
そして魔物を生み出すブネは絶対に人間界へ行かせてはならない。ブネは何としてでも殺さなければならない悪魔だ。彼女によって人間界が乱れるのを、俺が一番許さない。
魔物の死体や生首を素通りし、先に進む。その先は広い空間。セーレと面と面会ってしまった場所だ。だが、この空間は既に、さっきまでの魔物と違う異形の物に支配されていた。
「見てて気分がよくないな。例えるなら、Gが数十匹部屋に隠れて共に過ごしているような、激しい嫌悪感とでも言おうか」
小指と薬指で大きな手が立っている。腕や手首はない。手だけが存在し、もう一度言うが小指と薬指で立っている。親指と中指が手腕で人差し指の腹に一つ目がある。そんな魔物が数十匹が待ち構えていた。その一つ目で俺を注目し、小指と薬指を使って走ってきた。
「ああその、すまない……見てて気持ち悪いんだ。例えるならGに追っかけられているような気分だ。だから近寄らないでくれると嬉しい」
しかし手の魔物は俺の警告を無視し、一匹目が俺の間合いに侵入してきた。中指を引き、その指先で俺を殴ろうとしてきた。
「警告を破ったな……どのみち、害ある魔物全て葬るがな」
瞬間的にダーインスレイヴを右に振るい、中指の先端を斬る。中指の切れ目から血が凄まじく噴き出るが、血の一滴一滴がダーインスレイヴの剣身に吸い込まれていく。
「ダーインスレイヴよ。こんな不気味な魔物の血がそんなに美味しいか? 少なくとも俺は仮に聖女に飲んでと言われても絶対に飲みたくないんだが」
引き続き、剣身を返し、手の魔物の掌部分に切り裂く。更に右足で魔物の小指と薬指を払い、後方に転がす。転げ落すまえにダーインスレイヴの剣身で人差し指を切断し、その首を切り離す。その指先を向かってくる手の魔物に飛ばした。切断した人差し指は二匹目の人差し指の瞳に衝突。怯んだ隙にこちらから一気に間合いを詰め、ダーインスレイヴの剣先を掌に突き刺す。刃は貫き、血を思う存分吸い取る。あっという間にその手を干からびさせ、ダーインスレイヴに十分な血の補充を完了させたところで、右足底で手の魔物を蹴り飛ばし、三匹目の魔物に当たる。がしかし、手の魔物たちは俺を囲い、行く手や後退する先が塞がれた。
「魔王の血が滾る」
恐れずに俺は目の前の魔物へ直行し、跳んだ。三匹目へ間合いを詰め、己の体を軸にして左回転。左脚を三匹目の人差し指へ蹴る。間髪入れず回転する勢いで右足底でその瞳に叩き込み、もう一回転し左腕を引き、ダーインスレイヴを瞳に突き刺す。剣先は爪まで貫通し、俺は着地。その直後、俺の背後から殺気が迫ってきたのを察知する。ダーインスレイヴを傷口から引いて、再び跳んだ。空中で宙返りし、背後から襲い掛かってきた手の魔物の中指で殴り攻撃は空を切る。そして手の魔物の背後に着地し、ダーインスレイヴでその人差し指を斬る。その切断面から血飛沫が噴水のように舞い落ちる。続いて左右から手の魔物が迫ってくる。俺は右手にレメゲトンを召喚させ、左から襲う魔物に体を向ける。手の魔物は親指を引き、俺に殴りかかろうとしてきた。その親指の殴り攻撃が俺の間合いに入ると、すぐさま俺は一歩後退し、親指は俺の前で空振りする。同時に右手で持つレメゲトンの背を後ろに振るい、背後から迫ってきた魔物の顔面、もとい人差し指の瞳に叩きつける。レメゲトンに当たった呪力の効果で生命力を根こそぎ奪い、背後の魔物は倒れた。一方、前方の魔物は小指を一歩前に出し、俺の間合いに侵入。再び親指で殴りかかってくる。対する俺は右手のレメゲトンを殴ってくる親指に対し叩きつけ、生命力を奪う。あっという間に瞳に輝きが失せ、倒れかけるところを左足底で顔面を叩きつけ、ふっ飛ばす。前方の群れに手の魔物が当たり、ドミノ倒しに魔物たちが倒れていく。その隙に前へ間合いを詰め、ダーインスレイヴの剣先で生命力を奪った魔物に突き刺し、貫通。剣身は血を吸い取り、今まで吸い取った血を剣先に集中させ、剣先から硬くした血の剣身を伸ばす。ドミノ式に倒れた魔物たちの腹を貫通し、まとめて串刺し。
「行くぞ……ううおおおおおおおおおらあああああああああっ!」
両膝を下ろし重心を下げ、左手で柄を強く握りしめ、腕を右へ振るう。ダーインスレイヴと血の剣身で貫かれた魔物たちごと振るい、腕力を発揮。串刺しにさせた魔物たちで、右の群れにダイレクトアタックさせる。
「ふう、ウァサゴならこんなの、余裕で振り回すんだろうな」
ウァサゴの怪力なら串刺しさせたまま存分に振り回すだろうが、生憎俺はそんな馬鹿力はない。だが、相手を倒すのであれば十分な力だ。串刺しにした血をダーインスレイヴの剣身に戻し、銀鉄の剣身を肉身から引く。前方の群れ共々を倒し、道が開けた。いつまでも包囲されては死角を突かれかねない。開けた道へ走り、その屍たちを踏み越える。そして前方の壁へ向かって走り、当然、手の魔物たちも俺へ追いかけてくるが、右手に持つレメゲトンの第一部を開き、詠唱。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり」
追いかけてくる手の魔物たちへ振り向き、同時に俺の背後に魔法陣を浮かす。
「放て」
魔法陣から七十二本の柱槍を放ち、逆襲させる。手の魔物たちは柱槍に次々と貫かれて砕けていく。強襲する七十二本の柱槍は魔物の群れを貫き木端微塵に破壊。辺りに肉片と血が散らばる。
「恨むならお前らを誕生させた神に恨め……」
自分の意図関係なく造られた生命たち。そして使命を全うすべくただ働き、使い捨てる定めの魔物。俺にはそんな魔物たちに感情移入はしないが、これ以上の生命の悲劇は繰り返させない。
「さて、やっとこさここまで来たが……ブネはあのあとどこに消えた?」
数時間前にセーレが立ち塞がり、捕らえられたグラシャと一緒に壁の影に消えた。そしてここまで戻ってきたが、肝心のブネはどこに消えた。すると、壁の影の床に扉があった。
「これは……」
ダーインスレイヴを床に刺し、左手で床の扉を開く。するとその先は深い落とし穴となっており、先が濃い影に覆われよく見えない。
「この先だな。待っていろグラシャ……!」
ダーインスレイヴを掴み、その穴に跳び込み、身を投じる。重力に従って俺の体は穴に落ちた。
それから数秒後に着地。ここは濃い影に覆われて、今俺が立っている床の先に道があるのか分からない。まったくの暗闇空間だ。ここで突然、両方の壁に蝋燭から青い火が照り、その明かりで影が振り払われた。
「自動的に火が付く仕様なのか、敢えて火をつけて俺を誘い込む気か……なんにせよ、明かりがあるのは嬉しい」
まるで地下の放水路だ。だが水や水辺はほぼなく、乾燥しきっている。広い地下空間がただ広がって一本道。両壁に蝋燭を掛けるぐらいだ。放水路としての役割は長年使われていない様子だ。この先にブネの手術室があるはずだ。
「なんとなく気配を感じる……魔物の気配が」
感覚を研ぎ澄まし、集中する。なんとなく、ではあるが魔物の気配がして止まない。一階で待機された魔物たちは貪食から放たれる殺意で溢れんばかりだったが、地下に流れる気配はさほどそうでもない。だからなんとなくだ。しかしブネは念入りに策を投じる奴。これ以上の手術を邪魔されないように手策を投じている可能性は十分にあり得る。
レメゲトンの第四部を開き、いつでも『アルス・アルマデル・サロモニス』を詠めるようにしてこの道を進む。
「手術開始からセーレや魔物たちに邪魔されかなりの時間が経ったが、まだ無事でいてくれよ。グラシャ。お前は善魔生徒会に必要な光だ」
不安要素ときたら手術開始から時間が経っているということ。大きくセーレに邪魔されたが、ある意味セーレもこの件の被害者だ。暗殺部所属のスパイで善魔生徒会に忍び込んだが、それでも善魔生徒会の仲間だった。ウァサゴが俺を見過ごさなかったように、俺も見過ごすわけにはいかない。それが善魔生徒会のチームワークだ。この件に終止符をつけない限り、セーレとグラシャは永遠に負のスパイラルに陥る。そして、グラシャの死者を労わる能力は、善魔生徒会の野望にとっても関わる力だ。平和への実現において悪魔との戦争。それこそ血で血を洗い、命を奪いかねない。平和への実現を邪魔する悪魔をも、その魂を地獄ではなく、天国に逝かせなくては。
ここで突然、気配が近づくのを感じる。俺が道を歩むたびに、一歩一歩に応じて奥から魔物の気配が近づいてくる。
「少しは休ませてくれないものか。もっとも、一秒たりとも休む気はないが」
そのとき、突然と脚に力が一瞬失せ、前のめりに倒れかける。膝をガクッと曲げて重心を落としてしまう。
「……! まいったな……大分目に見えない疲労が蓄積しているようだ」
零点五秒後、奥の道から横状の雷が頭上を通り過ぎ、そのまま背後の壁に直撃した。
「……!? たまたま膝を落とさなかったらやられていた……!」
偶然、感じていなかった疲労で倒れかけていたおかげで雷に命中せずに済んだ。そして俺の頭を狙ったということは、意図的に雷を放ったということ。すなわち、敵だ。
ダーインスレイヴを下から振り上げ、剣先から大量の血を放出。流れ出た血は即座に凝縮し固まった。これで血で出来た鉄の盾を作り、前に設置。安全に詠唱する環境ができた。雷速で放たれる雷は血の盾に直撃するも、その圧倒的な防御力で少しだけ削られた。さて、この隙に開いていた第四部を詠唱。
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
左足に紫色の魔法陣が浮き上がり、床に黒い闇の粘土が現れる。ダーインスレイヴの剣先で粘土を突き、天井へダーインスレイヴを振るう。粘土は剣先から離れ、天井に付着。そこから粘土は壁や床に粘土を広げ、俺の前に闇の粘土で出来た大きな壁ができた。これで雷が飛んできても闇の壁が百パーセント吸収し飲み込んでくれる。更に、奥側の壁から無数の針を連続して放つ。この地下は一本道だ。対し壁全体から針を飛ばしている。ウァサゴのような速さでない限り、針を避けることなどありえない。
しかし、闇の壁がぶち抜かれ、鉄球が貫通。まっすぐ放たれるも、俺の右肩をかすり、僅かに命中がそれた。
「雷だけでなく、鉄球も撃ってくるのか……第四部の闇は魔法弾なら完全無効化だが、物理には滅法弱い」
剣を形成し相手に傷をつけるほどの固さはあるが鉄ほどではない。魔法に第四部の闇は強く出れるが、物理による攻撃や球には軟弱だ。
連続して鉄球を放ち、闇壁が次々と撃ち抜かれて破壊されていく。それにしても俺の頭を狙った雷や僅かに逸れた鉄球となると、相手は狙撃手か。それにしても何という命中率。二発とも運良く当たらなかったが、奴を倒さない限り、少なくとも的中は避けられなさそうだ。
「こうなると突撃するしかあるまい」
血で作った盾を剣先に引っ掛け、前に向けて突っ走る。破壊された闇壁を越え、ただひたすら前に突っ込む。盾を前にして視界は盾に遮られて見えないが、鉄球が盾に直撃。完全に受け止め、防御が成功した。その後連続して鉄球が盾に連弾するが、盾に亀裂が走ってきた。一旦右に一歩跳び、鉄球の軌道から外れる。着地後、すぐに跳んで、己の体を軸にして斜め右回転し前に宙返り、勢いをつけたところでダーインスレイヴを振るい、血の盾を前に投げる。血の盾はまっすぐ前に放たれ、
「グギャアア……!」
衝突音と共に、魔物らしい血が引くような不気味な声を上げた。着地し、怯んだ隙に全力で走り、一気に間合いを寄せる。その三秒後に、奥に大砲を背負った大きな狼が俺の視界に入った。
「あれだな」
狼は俺と目が合い、間合いを寄せる俺を見て、四足で素早く後退。間合いを展開させて再び狙撃する気か。狼の後退は素早く、このままでは容易く逃げられそうだ。対する俺は第四部を開き、詠唱。
「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」
レメゲトンから紙ドクロを七体放ち、逃げる狼に追跡させる。
「敵前逃亡。むしろ的になるだけだ」
追跡する紙ドクロは逃げる狼にレーザーを放ち、レーザーは狼に命中。狙撃する側がされる側に回ったな。大砲狼は傷口から血を流し、そのまま倒れた。
「しかし危なかったな。下手したら死んでしまうところであった」
こんな地下で死んでしまっては、仲間の誰が俺の遺体を運んでくれるだろうか。流石に危うかった。追跡させた紙ドクロはそのまま前に進み、奥の道の安全を確認する。進んだ紙ドクロの視界が俺の脳に映り、敵やその気配はない。また、やっとこさ壁が見つかった。その壁の手前にはまた床に扉があり、もう一度地下へ降りなければならないようだ。
歩みを始めた途端、その瞬間、地下の方から地鳴りが発生した。
「な、なんだ」
その地鳴りは俺の足元へ近寄り、何者かが俺に迫ってきている。俺は大きく後退し、戦闘態勢に入る。地鳴りはもう目前に迫り、床から勢いよく、何者かが現れた。その正体は、巨大な手だ。
「手……?! また魔物か」
地下から現れた巨大な手の魔物。様々な不気味色をした四角状の皮膚が手全体に張られ、むき出しの糸で皮膚が縫われている。掌の中央に真っ赤に充血した瞳が俺を睨んでいる。より一層不気味な外見をしている。
「見るからに魔物の親玉って感じだな」
現れた途端、莫大な邪悪の気を放出。さっきまでの魔物とは桁違いに悪のエネルギーや威圧感を放つ。場合によっては俺の闇より深いかもしれない。ただひたすら目の前の生命体を葬ることしか考えない危険生物のような。
手の魔物は指の先端を掌にしまいこめ、グーの形にした。そしてそのまま俺に向かって殴りかかってきた。対する俺は剣先から血を放出し、再び血の盾を形成。殴り攻撃に対し血の盾で受け止めるも、手の魔物と俺との体格差や力の入れ様に敵わず、血の盾は砕かれ、俺の全体に拳が衝突。
「グフアッ!」
骨が砕かれてしまいそうな圧倒的な衝撃が全体に響き渡る。あっという間に後方に吹き飛ばされ、背を床に叩きつけられる。
「ああ……間一髪だったな……体内中の血を固めていて正解だった」
血の盾が砕かれた直前、一瞬早く体内に流れる血全て固め、全身で受けた。当然皮膚にはとんでもないダメージが入ったが、体内は全体に絡まる鉄の硬度を誇る血流で軽減。まだ戦えるほどの意思はある。
血流硬化を解除し、血管に血が流れる。立ち上がり、レメゲトンの第一部を開く。対する手の魔物はグーの形状から展開しパーの形状にし、その瞳で俺を睨みつける。そして、ゆっくりと前進し、俺を追い詰め、徐々に後退させていく。
「まずいな。この地下は一本道。こいつが近寄る度に俺は後退。次第に俺は壁まで迫られて潰されてしまう」
計算されて設計されているのか、この手の魔物の大きさは地下一本道分。その図体で手を越えることができない。それが非常にネックであり、ゆっくりと前進するから俺はやむなく後退され、この手の魔物を倒せないと、俺は後方の壁と手に挟まれて潰されてしまう。
「しかも鉄を砕く図体を活かした力手……こっちも死ぬ気で掛からないとな。もとい死ぬ気は微塵もないが」
手の魔物は俺に人差し指を向けた。そのとき、第一関節に亀裂ができ、何かしらの攻撃をする気だ。俺はダーインスレイヴの剣身に魔物の残りの血を集結させ、第二攻撃への警戒をする。第一関節周辺に亀裂がパックリと割れたそのとき、指の先端が俺にまっすぐ放たれた。俺は宙返りで即座に後退。その直後に先端が床に大衝突。床が抉られ、先端が深く地に沈められた。
「まさか指を放つとはな……しかも再生能力」
人差し指の先端を放った手の魔物だが、その切断面から先端が生え、あっという間に再生された。この魔物は俺に対し、生半可な傷をつけた程度ではすぐに再生されるから無駄だ、という俺の息の根を止めるためについでに攻撃した無言のメッセージの表れか。
「……言っとくが、俺は魔王ソロモンの息子だ。この程度の魔物、俺の手で直接裁きを下してやる」
第一部の呪文に目を通し、詠唱する。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり」
俺の頭上に魔法陣を浮かべらせ、ダーインスレイヴを振るう。七十二本の柱槍は巨大な手の魔物に向かって放たれた。対する魔物は小指、薬指、中指、人差し指を並べて下ろし、弱点の瞳をカバー。七十二本の柱槍は四本指の背に命中する。しかし、今度は四本指で蠅を払うように振り上げ、襲う七十二本の柱槍を振り払った。鏃は背に突き刺さるが、払い攻撃で多くの柱槍が飛ばされた。
「飛んでくる槍を手で払うなんて、こんな光景まず見れないな」
払いによる風圧が俺の体を後方に押す。しかし風に負けず、次はレメゲトンの第三部を詠唱し、レーザーで攻める。レーザーなら振り払えまい。
「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」
レメゲトンから七百ページ分の紙ドクロを飛ばし、七百体分の紙ドクロからレーザービームを放射する。七百本の漆黒のレーザーは手の魔物に命中。レーザーは腐った肉を貫通させ、ダメージを与える。だが、手の魔物は五本の指を紙ドクロの群れ面々に向け、その指の先端を放った。五本の指弾は紙ドクロの群れを貫き、紙々は指に圧せられ潰れていく。
一方、俺は後退ではなく、前進し、手の魔物に近寄る。瞳は紙ドクロの群れに注目している。その隙に間合いを詰める作戦だ。しかし眼光は俺に向けられ、再生された人差し指を使って俺の上から突こうとしてきた。対する俺は右に避け、指下しを避けるが、地に深く沈んだ巨大な指は俺が避けた右方向に移動してくる。地をゴリゴリと破壊してくるが、俺はより前進し、指攻撃を避ける。そして手の魔物の懐に超接近し、指攻撃が届かない間合いに侵入した。目の前にある巨大な瞳で俺を睨んでいる。
「にらめっこ勝負か? 悪いが俺は魔物の目を見るのが苦手だ。お前はGのように気持ち悪いからな。気持ち悪い虫を見詰めるとか、俺にはとてもとても」
その瞳の前に邪悪なエネルギーが集結している。集まるエネルギーは次第に球となり、今にも放たれそうだ。
「そうはさせるか」
ダーインスレイヴを横に振るい、剣身から放たれた血の刃をエネルギー球に飛ばす。刃はエネルギー球に刺さり、エネルギー球は爆発。その風圧は凄まじいがダーインスレイヴを床に刺し、柄を強く握りしめて耐える。対する魔物は瞳の目の前で爆発が起きたため、大きなダメージをくらったであろう。案の定、瞼が閉じられて、視界が遮られている。この隙が大チャンスだ。俺は刺したダーインスレイヴの鍔に乗り、脚力で高く跳ぶ。そして一気に間合いを詰め、その間に第五部を詠唱。
「憎き大天使ミカエルよ。 光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ」
左手に赤き魔力が煮えたぎる。その左手で瞼に大接近し、その間に瞼が開けられ、瞳を露にした。魔物からすれば、俺が超目前に迫ってきているのにさぞかし驚いていることだろう。だが時すでに遅し。煮えたぎる魔力の左手は生瞳を突いた。
「悪手には、握手で対抗だっ!」
煮えたぎる魔力は魔物の殺害歴を素早く検索し、反応を起こした。左手から黒い衝撃が放たれた。圧倒的な衝撃波は瞳にダイレクトアタックを起こし、裂くことに成功した。そして瞳から肉へ亀裂が走り、手全体に広がる。内側から爆発を起こし、爆風と共に肉片と血が辺りに飛び散った。
「文字通り、俺が直接この手で裁きを下したな」
手の魔物を崩壊させ、倒すことができた。これで先が開かれたな。
「なんとも酷い悪臭だな。早く移動しよう」
着地し、後ろに刺しているダーインスレイヴの柄を掴む。しかし辺りの床は血塗れで肉片が散らばっている。とても醜い光景でもし他の者が個々に迷い込んだら、確実にグロ寄りのホラー現場と見るであろうな。
そのとき、ダーインスレイヴが突然と蠢きだした。辺りは血の腐った匂いで充満している。血を求める魔剣がうずいているのか。
「ああはいはい分かった分かった。血が欲しいんだな」
血溜まりにダーインスレイヴを刺す。すると血は剣身に吸い込まれていき、その吸引力で隣接していない他の血溜まりまでも吸収していった。あっという間に血は全て無くなり、補充は完了した。
「さて、これで行けるな」
大分魔物に手こずり、更に時間がかかってしまった。だが敵はもう目前。手の魔物が地下から現れてくれたおかげで、ショートカットができる。あの穴から突撃しよう。
「やっとブネに会えるな……暗殺部め、覚悟しろ」
刺したダーインスレイヴを引き抜き、身を穴に投じた。
ここでキャラクター紹介ー!
「あとがき」を有効利用と思い、キャラ紹介文を書くことにしました。
『レハベアム・モーヴェイツ』
●性格:冷静沈着で冷淡。時に冷酷になる。悪魔の前では決して緊張を弱めず、常に警戒している。戦いのとき、悪魔が不利な立場や死を目前にさせると、気分が激情し、満面の黒い笑みで高笑いし罵るなど、本性は悪魔のように闇に染まっている。
善魔生徒会に入ったものの仲間はまだ信用していないが、生徒会長ウァサゴ・ロフォカレの性格や気高き理想を目の当たりにしてから、少しずつ彼の性格がウァサゴに似つつある。
●経歴:幼少期、意識ができた頃には既に城の中一人で、常に独りで生きてきた。そのとき、隣に魔王の魔術書レメゲトンが置かれてあり、魔術師として成長。独りで生活してきたため、家事は得意。料理の腕前は一級クラス。
自分が人間故、魔界の住民悪魔に忌み嫌われ、また同時に虐げられてきた。だが、彼がそれでも学校に通い続けてきたのは、ゲーティア高校の卒業資格を得るため。卒業証書には異世界へ渡れる資格が貰えられ、彼はその資格で人間界へ帰ろうと目論む。そのために勉学に努力を注ぎ込み、小中学共に成績ダントツトップに位置する。まさに努力で打ち勝ってきたエリート中のエリート。
今は善魔生徒会として嫌々ながら入り、平和への実現を邪魔する悪魔をその魔術書レメゲトンで絶望の闇に沈ませている。
●年齢と誕生日:十五歳、七月二日(現在の時点で六月下旬。もうすぐ誕生日)
●趣味:読書、料理、掃除、筋トレと剣の素振り、狩り
●大好きなもの:悪魔の死に様、一人の時間
●大嫌いなもの:悪魔、G
●何か一言を:「もし俺に家族がいたら、俺は妹がほしい。……でもやっぱり今はいりたくない。妹までもが魔界で生活するとなると、もう我慢がならないからな」




