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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第二章 不死鳥護衛編
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二十五話 不死の血と魔王の血

 フェニックスの不死の血に加えて、モーヴェイツ家の魔王の血まで求めてきた不死鳥カイム。いくらなんでも欲張り過ぎた。だがダーインスレイヴで俺を斬るだけで容易く手に入れることができる。あのダーインスレイヴをどうにかしない限り、俺の血は盗まれてしまう。

「行くぞ、人間!」

ダーインスレイヴにアモンの紅の炎を滾らせ、俺たちへ滑空し始めた。

「不死身になったカイム先輩を……どうやって倒せばいいんだ!」

対するヴァプラはカイムから逃げるように進んだ方角の反対方向へ向き飛んだ。

「任せろ……策はある」

「そ、それはいったいなんなんだ!」

「暗黒星だ」

「あ、あああああああああああああ暗黒星だとおおおお?!」

以前、俺は暴走時のフェニックスを最終手段として第二部『テウルギア・ゴエティア』の暗黒星で滅ぼそうとしたことがある。それはウァサゴによって止められたが、いくら不死といえども細胞ごと死滅させれば再生はしないはず。暗黒星で不死身を滅する作戦でいく。

「おい黙れ。カイムに策をバラすつもりか」

「世界を滅ぼすつもりか!」

「滅ぼしたりはしない。暗黒星をカイムだけ当てるんだ。そうすれば問題はない」

しかし問題なのは暗黒星の操作だ。カイムは幸いにも空を飛ぶから、当てるのには苦労はしないが、暗黒星を魔界に接近させるだけで魔界全体に亀裂は走ってしまう。だから魔界が滅びないようにして、かつカイムだけを当てる精密操作性が問われる。しかしあの不死鳥カイムを放置させるぐらいなら、多少魔界に傷負わせても文句は言わせない。

「逃がすかあっ!」

背後から猛スピードでカイムが迫ってくる。さっきよりも大分スピードが上がっているように見える。このままでは一分も満たないうちに俺たちの間合いに入られてしまう。

「こうなったら仕方ない。ヴァプラ、俺を地上に下ろせ」

「え゛! な、なんでだ!」

「お前が遅いからだ」

「そ、そんなにひどく言わなくても……」

「俺が乗っているからスピードが出ないのもあるが、今カイムは俺の血を欲しがっている。お前には眼中に無しだ。だから俺が相手をする」

「い、いや! お前が戦うのなら俺も戦うぞ!」

「ダメだ」

「なんでだ!」

「……俺たちは護衛失敗してしまった。だがそれでもフェニックスは生きている。お前は地上に落ちたフェニックスとその頭を拾い、助けろ」

「え、フェニックスは首切られても生きてんのか……?」

「信じられないだろうがフェニックスは知っての通り不死身だ。生きている。しかし雨と太陽のせいで弱っているんだ。首も真っ二つにされて尚更だ。だからお前が助けるんだ」

雨に打たれ太陽の日差しを受け、更に首まで切断され、限りなく弱っているのに衰弱死できないのが不死身の辛いところだな。そんなフェニックスを放置するなど俺にはできない。だからヴァプラに任せるしかない。

「……分かった。じゃあ、死ぬなよ!」

「当然だ」

ヴァプラは俺の足を掴み、地上に投げ飛ばした。落下しながら着地の態勢を取る。カイムも落下する俺へ空路変更し下降していった。カイムが俺の間合いへ入るのにまだ数秒はかかる。その間に何か詠まなくては。

「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」

第三部『アルス・パウリナ』を詠み、レメゲトンから無数の紙ドクロを放つ。群れの紙ドクロはカイム目掛けて突っ込んでいくが、対するカイムはダーインスレイヴを連続して振るい、紙ドクロを斬っていく。いとも簡単に切断されていく紙ドクロたちだが、斬られてもまだ命はあり、カイムの肌に貼っていく。

「な、なにい、なんだ離しやがれ!」

群れはカイムを包み込み、紙ドクロたちはペラペラに戻り、カイムの肌や翼にピタリと貼られていく。これで身動きを封じ、カイムは徐々に紙に覆われていく。そして、カイムを余すところなく全て紙で固定し、その上に更にペラペラの紙を貼る。貼る。とにかく貼る。すると丸状の白い惑星のように紙玉ができた。

 俺は着地し、第三部の紙玉に向かって左手を絞める。すると紙玉が凝縮していき、徐々に小さくなっていく。身動きを完全に封じ、圧し潰す。

「くらえ……!」

紙玉から放射状にレーザービームが伸びた。紙々から内側に向けてレーザービームを放ち、中心に潰されていくカイムを蜂の巣にする。普通の悪魔がくらえば即死だ。だがカイムは不死身。これだけでは死んでくれない。今のうちに第二部『テウルギア・ゴエティア』を詠唱し……

 突如と紙玉が内側から真っ二つに切断された。パカリと開くように斬られ、中心からカイムを縛る紙が剝がれ落ち、全身にレーザービームの貫通された傷口がある。だがその傷口はあっという間に塞がり、出血が止まった。

「はあ、はあ……この俺様を閉じ込めたつもりでいやがったな……ああんっ!?」

流石に第二部は詠ませてくれないか。縛られてもなお斬る力があるとは、奴め侮れないな。

 第二部『テウルギア・ゴエティア』を詠むには時間がいる。カイムが悠々と詠み終えるまでに待ってくれない。何が何でも時間を稼がなくては、勝機はない。

「絶対にぶっ殺す!」

カイムは再び俺へ滑空し、下降してきた。今度こそ俺へ近寄るつもりだ。

 流石に遠距離で魔法攻撃しても死なないのでは魔力を消費するだけ。こうなったら近距離で俺が直々に戦い、一気に勝負に持ち掛けなくては。

「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ」

俺の足元に紫色のホロスコープ型の魔法陣が出現し、左手に闇塊でできた真っ黒な剣を出す。

 俺の間合いに入ってきたカイムはダーインスレイヴを縦に振り下し、対する俺も闇の剣を横に薙ぎ払い、互いの魔剣が衝突した。チリチリと擦り合う刃に火種が舞う。

「へっ、俺様のダーインスレイヴに、そんな剣もどきで打ち勝とうってのかい」

「それは、この剣の切れ味を知ってからいいな」

互いは剣身を離し、即座にカイムは薙ぎ払い、俺は脳天へ縦に振るった。再び剣身が衝突し、火種が舞う。

 俺の剣は単純な闇製に対しダーインスレイヴは特殊な鋼の剣。だから衝突する度に鋼の重みが闇の剣によく伝わる。衝突を繰り返せば、剣身が折れたとしても何度でも復活するとはいえ、手に衝撃がくるからあまり良くない。

 だがカイムはそんなのお構いなしに、ダーインスレイヴを連続して振るう。対する俺も闇の剣で対抗し、連続して斬撃を繰り返す。振るう振るう、とにかく隙間なく振るう。嵐の如く斬撃の猛襲に剣身が何度でも衝突する。火種が多く舞い、その中心に剣筋が素早く通る。

「この俺の斬撃についてこれるたぁやるじゃねえか……!」

「そりゃどうも……! ちっとも嬉しくないがな」

斬撃の嵐のなか、右手のレメゲトンを振るい、相手の身体的無力化を図る。だがカイムはそんなこと読んでいたのか素早く後退し、レメゲトンの表紙はくうを叩く。

「いつかそうしてくると思っていたぜ……!」

カイムは俺に向けて強く翼を羽ばたいてきた。するとその勢いで黒い羽根が無数、翼から離れ、俺へ散らばってきた。

「うっ、これは……!」

目前が空中を舞う黒い羽根で覆われ、視界が封じられた。羽根が邪魔でカイムが見えない。

「今だ!」

羽根の隙間からカイムが近寄ってくるのが分かったが何をしてくるのかが予測できない。とりあえず左の闇の剣で横に振るい、カイムの接近を阻止する。だがその直後、何かしらの強い衝撃が闇の剣から手へ伝わり、その振動で左手から柄が離れてしまった。

「しまっ……っ!」

剣が撥ね、自分を守る術が失ってしまった。更にその直後、お腹の前にダーインスレイヴの剣先が見えた。まずい、これから俺は刺されてしまう。急いで一歩後退した。だが時すでに遅し。剣先は俺の腹を刺し、肉を抉った。

「ぐっふあああ……!」

とんでもない激痛が腹から心へ激震する。思わず口から血を吐き出してしまった。

「討ち取ったり……!」

このとき、腹から血が吸われていく。まるで大胆に吸血されていくような気分だ。一気に血の気が引いて、血が逆流していくのが分かる。肌が凄い勢いで青ざめていく。もう既に鋭い寒気に包まれていく。

「もらうぜ、お前の魔術書!」

これで俺が敗北すれば、レメゲトンはカイムの手に渡り、モーヴェイツ家の魔王の血はカイムのものになってしまう。俺は別にそれでもいいが、負けるわけにはいかない。

 俺は激痛に耐えながらもレメゲトンを開いた。ちょうど目前に舞う羽根も落ち、視界が晴れた。

「憎き大天使ミカエルよ。 光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ……!」

すると青ざめていく左手が赤くなり、その状態でカイムの喉を掴んだ。

「ぐふっ、な、なにを……。離しやがれ……!」

「お前は……どれほどヒトを殺してきた……?」

赤き左手はカイムに反応し、マグマのように煮え渡った。

「お前は……どれほどヒトの憎しみを買ってきた……? その代償をくらえ……!」

左手を中心に黒き衝撃波が起きた。その衝撃は強烈な爆風を起こし、空気を強く弾き飛ばし、地は衝撃に圧し、クレーターが生じた。

 相手がどれだけ生命を傷つけ、恨み、憎しみを買ってきたかに反応する第五部『アルス・ノウァ』だ。カイムはこのダーインスレイヴで数多の悪魔を殺し、悪魔の恨みと憎しみを買い続けてきた。その代償がこの衝撃波だ。あの黒獄の天秤でウァサゴに与えた衝撃波の軽く五倍の威力だ。つまりウァサゴ以上に憎悪を買ってきたということになる。いくら不死身といえどもこの威力は決定的だ。

 カイムの体にガラスのような生々しい亀裂が起き、亀裂から出血している。だがすぐに亀裂は塞がり、出血が止まった。しかしカイムの瞳に光がない。気を失ったか。力なく俺の左手で吊られている。

「お、おのれ……に、にんげん……!」

瞳に光が写り、俺を睨み付けている。

「この俺……さまに……でけえ一撃あたえやがって……い、いてえじゃねえか……!」

「ふん、それはお前が今まで買ってきた積年の憎悪だ。お前の責任だ」

「じゃあ、お前も激痛を味わえ……」

俺の腹に刺すダーインスレイヴを引いてきた。

「ぐう……!」

刃が傷口の内部を引き、激痛が走る。だが俺は必死に耐え抜き、再びレメゲトンの第五部を詠む。

「に、憎き大天使ミカエルよ……光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ……!」

もう一度俺の左手が赤く染まり、マグマのように煮え始めた。

「そうは、させるかよ……!」

そのとき、カイムが素早くダーインスレイヴを俺の腹から抜き、傷口から血が溢れ出す。そして、ダーインスレイヴで俺の左腕を斬り、その鋭い刃で切断した。

「……っ!」

カイムはニヤリを笑みを浮かべ、喉を掴む俺の左手が力抜け、落ちようとしていた。

 左腕が切断され、第五部『アルス・ノウァ』が失敗してしまった。これで俺は右手のみで戦うしかない。だが激痛に意を介している暇はない。次なる攻撃を取り組まないと奴は倒せない。

 右手のレメゲトンを真上に投げ、喉から落ちようしている左手を掴み、左手でカイムの喉を押す。ちぎれた左手は、まだ赤く煮えたぎっている。

「な、なにい……!」

「俺の左手の恨みも込めて、くらえええええっ!」

左手から黒い衝撃が再び激震した。衝撃波は地を叩き、クレーターの下に更にクレーターを作り、曇天を叩き、窪みを作った。空気は弾き飛ばされ、一瞬だけ無空間と化す。

「ぐふああああああああ……!」

俺のカイムに対する憎しみプラスアルファで威力は更に増した。二度目の衝撃波だ。常人なら気絶程度では済まされない。カイムの肉体に亀裂が走り、右手がカイムの腕から離れ飛んだ。

「ううっ……」

流石のカイムも二度目の衝撃波には耐えきれず、完全に気絶した。力のない左手からカイムは地に落ち、死んだように倒れている。ダーインスレイヴもカイムの手から落ち、横に倒れた。

 俺も一旦膝を落とし、休憩する。明らかに負傷が大きい。特に腕と手が離れたのは辛い。だが今はカイムをこの世から滅するのが先だ。すぐに立ち上がり、真上に投げたレメゲトンをキャッチし、気絶している間にレメゲトンの第二部を詠む。

「穢れ有き醜悪なる魂に、悲しみの闇を身に包みし、地獄に示したまえ」

上空に一本の柱が出現した。一本の柱の周りに、暗黒の霧が集中し、やがて球になった。

「穢れ無き善良なる魂の恨みを、悪魔に示せ」

暗黒の球に亀裂が走り、亀裂の間から緑色の上半身の醜女が出現した。醜女は歪んだ喜怒哀楽を浮かべながら、両手を合わせた。

「悪魔に虐殺されし魂の涙を拭く時来たれり」

合わせた両手を広げると、両手の間に暗黒の非物質が出現した。

「罪無き逝った魂の願いを叶える時来たれり」

暗黒の非物質は徐々に膨らみ、両手から零れるほど大きくなってきた。遂には、暗黒の非物質で天が隠されるほど巨大に成長した。それは星を覆いかぶさるほどの暗黒星だ。

「今こそ、全ての悲しみが終わる時、来たれり。悲しみに満ちた天国からの裁きが下る時。血塗られた哀れな世界を滅せよ」

暗黒星の誕生だ。これで三度目の召喚か。再び魔界は絶望の闇に覆われ、重力が狂って地の破片が次々と暗黒星に吸い込まれていっている。今にもこの世界は滅びそうになる。が、あの時の俺とは違う。今はこの魔界を滅ぼす気など微塵もない。滅ぼす対象はカイムだけだ。

 レメゲトンを魔法で消し、空けた右手でカイムの喉を掴む。そして、狂う重力を利用して暗黒星に向かって投げた。カイムの体は暗黒星に吸い込まれていき、あっという間に魔天へ消えていった。ほどなくして、カイムと暗黒星が衝突したその瞬間、大を超える大爆発が起き、その爆風で魔天を消し飛ばし、地を木端微塵に砕いた。第五部『アルス・ノウァ』の衝撃波を遥かに超越する衝撃で、辺りの平地が圧せられ、巨大な亀裂が地を走る。この俺自身も爆風に押しつぶされ、吹き飛ばされた。




 目が覚めると、いつもの曇天が視界に映り、上半身を起こす。辺りを見渡すと、平地は一切の草木がなく、ただ荒れ果てていた土だけが広がっていた。それだけではない。平地が巨大に窪んでいる。まるで巨大な隕石が落ちてきたかのような巨大なクレーターだ。そうか、暗黒星の超巨大な爆発により、爆風でここが強く圧せられたのか。

 クレーターの地面にはどこかしこに亀裂があり、地が裂けている。

「これでやった……」

魔界に傷を負わす程度でカイムを滅ぼすことができた。これでミッション完了だ。護衛は失敗したが、不死身を滅することに成功はした。これでフェニックス護衛は完了だ。

「……む、これは……」

俺の足元に、手が落ちていた。親指の向きから見て右手だ。これはカイムの右手か。そういえば二回目の第五部の衝撃波で右手が裂けたっけか。まあ、右手ぐらいこの世に残してもいいだろう。肝心のカイムは滅んだことだし。

「ア……マ…………イ……」

そのとき、どこからか声がした。俺は咄嗟に立ちあがり、右手にレメゲトンを召喚させた。

「誰だ!」

「アマ……イ……んじゃ……ネエ……のカ……!」

いくら見渡しても誰の影一人も見当たらない。

「いったい、どこにいる……!」

このとき、俺は不死身というキーワードを思い出した。そういえば首と頭を斬り離しても、フェニックスは生きていた。頭だけの状態で火炎を放っていた。

 俺は嫌な予感がして、下を見た。地を見たのではない。落ちている右手だ。

 その右手の切断面から、火炎が出ていた。

「ま、まさか……!」

俺は咄嗟に後退し、右手から距離を離した。右手の切断面に燃える炎は、更に燃え盛り、炎で体を模った。すると、右手の肌から模った炎の上へ高速に再生され、あっという間に肌が炎を覆った。

「な、なに……っ!!」

顔や翼まで再生され、そこに悪魔が両足で立っていた。

「甘いんだよお、人間っ!」

その悪魔は、まごうことなきカイムだ。カイムが復活した。

「フフフ、フハハハハハいやあ人間。流石に焦ったぞ。まさか暗黒星を召喚するとはな……流石に世界を滅ぼす勢いで俺の体を滅ぼされたら、焦る焦る。いくら不死身でも滅ぼされたりされたら消えるからな……」

「な、なんていう不死身……!」

確かに暗黒星は不死身の肉体を滅した。だが偶然にも、右手だけが地上に残り、右手から細胞が再生し、復活を果たした。これが不死身たる真の再生能力か。

「不死身、不老不死……フフフ、悪魔の力! これでこの俺様を越える者はいないと証明された。ダーインスレイヴは爆風でどこかに飛んだな。まあいい。お前の魔術書が俺の相棒に代わるんだからな!」

「この魔術書だけは絶対に渡さん……!」

もはやカイムは俺の魔術書を手に入れるだけで終わる。魔術師そのものはどうでもいいことだ。だが、このレメゲトンを渡すつもりは微塵もない。

「最終ラウンドだ。一気に終わらせてやる」

カイムの体から紅の火炎が燃え盛った。対する俺は第四部を詠唱し始めた。

「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉」

「だから、詠ませるかあっ!」

詠唱中にカイムが俺へ燃える左手を出した。その左手から火炎弾が放射し、俺は土を蹴り右へ回避した。

 一旦距離を離さないと詠めない。だが間合いを広げたところでカイムは翼を羽ばたかせて空を飛び、俺へ滑空してくるだろう。俺にレメゲトンを詠む暇などない。

「しゃがめ、レハ!」

背後から聞き覚えのある高い声がした。俺はその言葉通りにしゃがみ込んだ。するとその一秒後、俺の頭上にスカートを履いた女体が飛び、カイムに向かって脚を横に振るった。その脚にはオーラが纏われ、薄らと歪んだ時が見えた。

「なにっ……!」

カイムは跳び膝蹴りに対し防御態勢を取り、膝がカイムの腕に炸裂。その直後、カイムが静止し、蹴りの勢いでかっ飛ばされた。静止したカイムはフィギュアのように防御態勢のまま寝転がった。

「さあ、今のうちに詠みなさい!」

「ウァサゴ!」

我らが善魔生徒会長ウァサゴ・ロフォカレが助太刀に来た。

「私たちも来ましたよお!」

背後に振り向くと、ヴァプラがシトリーとセーレを背に乗せ飛んでいた。

「これで善魔生徒会、全員集合か」

ヴァプラは四足で着地し、ふたりは地面に降りた。ヴァプラの背にはヒト型のフェニックスが寝ていた。ヴァプラめ、フェニックス救出後、善魔生徒会のメンバーを集めてここに運んできたというわけか。

 とはいえ、タイミングはちょうどいい。これでゆっくりと詠める。

「ウァサゴ、それぐらい時を止めた」

「ざっと十秒ぐらいね」

「なら十分だ」

レメゲトンを開き、第一部を詠唱した。

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり」

俺の背後に紫色のホロスコープ型の魔法陣が出現し、切断された左腕を上げる。そして時が静止したカイムに魔法陣を向けた。

左腕を下ろし、魔法陣から七十二本の柱槍が放たれた。柱槍の一本目はカイムの左翼を貫き、二本目は腹、三本目は右の手を切断、四本目は脳天、五本目は右目、六本目は喉、七本目、八本目、九本目・・・次々と無慈悲な柱槍がカイムへ襲う。そして七十二本目時は既に、カイムの肉体は複数の貫通穴で砕け、血と共に肉片が地面に散らばった。

 その直後に静止した時が再び刻み始め、数多の肉片が燃え出した。

「はっ! 俺いつのまにかバラバラにされている……だが無駄だ。俺は……なんどでもさいせいする……何度でも再生するぞお!」

転がる肉片から声がし、炎同士が引きつけ合い、合わさろうとしていた。

 確かに、いくら不死身の肉体をバラバラに砕いても、炎に引きつけられて肉がくっつき、再生する。だが、細かく刻んだことに意味があるのだ。

「おい、フェニックス。餌だぞ」

すると寝ているフェニックスがヴァプラの上で起き上がり、その場で巨大な不死鳥に化身した。

「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

翼を展開し派手に燃え盛り、咆哮を上げる。同時に無数の火種が空中を舞う。一回羽ばたき、ヴァプラの背から地面に降り、散らばる肉片の有様を眺めた。

「お、おい……てんめぇ……なにを見つめていやがる……!」

すると不死鳥はその嘴を下ろし、カイムの肉片を食いつまんだ。

「おい馬鹿辞めろ……! そ、それを食うんじゃない!」

しかしカイムの声は不死鳥の耳に届かず、無慈悲に不死鳥はつまんだ肉片を飲み込んだ。そして黙々と散らばる肉片たちを嘴でつまんでは飲み込み、次々と食す。

「おい、や、やめろおおおおおおおおおおおおおおお」

少なくなっていく肉片に再生のスピードが追い付かず、あっという間に食われていく。

「や、やめるんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

最後はカイムの左頭だけ。カイムは左顔だけで必死に叫ぶが、それでも不死鳥の耳に届かない。そして、不死鳥は嘴で左頭をつまみ、上空に投げ、落下したと同時に飲み込んだ。

 すると不死鳥の肉体に燃える炎が消え失せ、鳥型の体がヒト型に戻っていく。そして、フェニックスは手のお腹を当てて、

「ふう、ごちそうさまでした」

と、満足そうに食事を完了した。

「あれ? でも私、何を食ったっけ?」

知らなくていい。そのままカイムは不死鳥フェニックスの胃袋の中で消化されて、そのうちダイとして生まれ変わるのだから。

「俺たちは訴える……それ相当の裁きを……」

レメゲトンをパンと閉じ、右手から存在を消した。これで決着はついた。護衛は失敗したが、任務は完了だ。

 カイムを倒せたのは凄い貢献だ。もし仮に不死鳥カイムがゲーティアを卒業していれば、人間界の地で間違いなく惨劇を生ませたであろう。悪意のある不死身がこの世から消えたのは、人間界にとって光のはずだ。

 そのとき、ほっと一息し、力が急に抜けた。脱力と共に俺の肉体が倒れた。

「レ、レハ!」

ウァサゴとシトリーとフェニックスが俺の元に集う。

「レハさん大丈夫ですか……って、ええええええええええええええっ! 左手が……ないじゃないですか!」

「腹も刺されている……かなりの重傷ね」

「任せてください。私なら治せます」

するとフェニックスが俺の元に膝を下ろし、両手を火が出た。

「ちょっと切断面は痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」

左手を俺の左腕の切断面に、右手を腹の傷口に当て、火で傷口を燃やした。今俺の体が燃やされている。しかしちっとも熱くもなく痛くもない。そして腹の傷口がみるみるうちに塞がっていき、左腕から肌と骨が再生され、筋を通して左手の感覚が戻っていく。ほどなくして、感覚が完全に戻り、左腕の先端を見てみると、完全に左手が復活した。

「不死身に加え、なんて再生能力だ……いや、もう既にカイムで知っていたか」

世界を滅ぼす暗黒星で不死身を滅ぼしても再生する生命力。フェニックスはそれの応用として、ヒトの傷口までも再生することができる。ヒーラーとして優秀だ。

 だが、血が足りない。ダーインスレイヴで吸血されたから、呼吸しても脳に酸素が上手く行き渡らない。うまく、意識を保つことができない。俺は、そのまま眠りについた。






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