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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第二章 不死鳥護衛編
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十九話 護衛

「フェニックスをどうする」

「どうするって、何が?」

「学校に行かせるべきか、って話だ」

早朝から始まる俺、ウァサゴ、シトリー、フェニックスの四者会議。議題はフェニックスを学校に行かせるべきか否や、についてだ。

「まず暗殺部の主犯格を倒さない限り、フェニックスの学校生活は危ぶまれる。だから一番安全なのはフェニックスをこの城にずっと待機させ、俺らがいち早く主犯格を倒すこと。だがフェニックスも生徒だ。通学して勉強をして単位を得とくしなければならない。だから一概にも通学止めをさせるわけにもいかない」

フェニックス自身が通学し、授業に参加し、出席しないと単位を取り逃してしまう。そうなればフェニックスは成績不足になってしまう。だが学校生活中には暗殺部による危険が伴う。

「フェニックスの護衛といっても、俺らにも授業がある。授業がある間は護衛はできない。その間はフェニックスは無防備な状態だ。その隙に暗殺部の部員に狙われる可能性もある」

「ちょっと待って。授業中ならいくら部員でも暗殺しには来ないわよ。その部員も授業を受けているはずだから、授業中ぐらいは安全なんじゃない?幸いにも教師がついているんだし、まず暗殺しに来たら教師も怒鳴るわよ」

「どうだかな。相手は手段を選ばぬ悪魔だ。人間の俺から言わせてもらうが悪魔の言動には信用できん」

暗殺部の部員も当然悪魔だ。悪魔の言動は信用できない。これは善魔の仲間になっても変わらないことだ。悪魔に虐げられてきた俺が言うんだ。それは暗殺部に狙われるようになったフェニックスにも俺の気持ちがよく分かるはずだ。

「フェニックスちゃんはいつから暗殺部に狙われるようになったの?」

「い、一週間前辺りです……」

「その間授業中でも狙われたりされた?」

「いえ。でも怖くて、休憩中や昼休みの間はずっとトイレの中で隠れてました……で、通学時間と学校終わりによく狙われます」

「昼休みの間は善魔生徒会室に居させた方が良いだろう。もしかしたら部員たちは昼休みの間に暗殺を謀ろうと思っているかもしれない」

逆に、一週間もよくトイレの中やそれ以外の時間で暗殺の手から逃れられたものだ。トイレが唯一安心でき逃れる居場所なのだな。そういえばシトリーもトイレの中に隠れて難を逃れようとしてたっけ。

「だとしたらその暗殺計画を逆に利用しましょう。昼休みの間に怪しげに動く暗殺部の部員をとっ捕まえて吐き出させてやるわ」

となるとフェニックスを餌にして釣られた悪魔が暗殺部の部員だ。

「俺は心配性でな、授業中でも監視させてもらう」

「どうやって監視するの? レハも授業あるじゃない」

「俺の第三部の魔法『アルス・パウリナ』は遠隔操作がウリだ。レーザー放射だけでなく、紙ドクロで相手を自動追尾させ、尚且つ紙ドクロの視野は俺の脳内に常に映し出される。だから授業中でもトイレでもフェニックスや他の奴らまで監視することができる。フェニックスに近寄る不審な輩が居たら、即レーザーを放つことができる」

フェニックスが所属する教室の天井に一体の紙ドクロを配置させ、フェニックスを見守る。その間は本体が離れていようとも、紙ドクロの視野を通して俺の脳内に映像がリアルタイムで写し出され、フェニックスの現状を知ることができる。

「平たく言えばストーカー行為ができるというわけですね」

「誤解を生むような発言はやめろ。あくまで見守りだ」

シトリーからの毒舌を喰らうのはちょっとショックだ。なんだか俺が堕ちたような気分だ。

「それは便利ね。よしそれでフェニックスちゃんを常に見守りましょ」

「そ、その……せめてトイレ中は覗かないでください……」

「そ、そうですよレハさん。それは絶対にダメです。覗いたら怒りますよ」

「それもそうだわ。破廉恥。風紀が乱れるじゃない」

「風紀が乱れているお前には言われたくないが、分かった。女性陣の意見は素直に受け入れるべきだ」

第二ボタンまで開けて胸の隙間が見えるウァサゴにだけは言われたくない。

「とにかく、俺がフェニックスを遠くからでも見守る。怪しげな輩がフェニックスに近づけば、レーザービームを打つ。なるべくは殺さないが、もし危険な奴だとわかったらその場で殺ってもいいな?」

「仕方ないわねそればっかりは。何せ相手は暗殺者。だったら逆に殺される覚悟で来てるってことだしね」

ウァサゴ生徒会長の了承を得たところで、こちらからの暗殺は許された。だがなるべくは殺さず、拷問等で情報を得るとしよう。

 フェニックスが固唾を飲んだ。殺る、という実際的な殺害を目の当たりにして緊張しているのだろうか。

「大丈夫ですよフェニックスさん。レハさんとウァサゴ先輩、そして私も守ってみせますから」

「はい……その……なんだか私如きに面倒事をおかけしてすみません……」

「いいのよフェニックスちゃん。私たちは善魔。困っている生徒を救うのが生徒会の任務よ。ねえレハ」

「あ、ああそうだな」

ウァサゴは決してうわべの覚悟で善魔と名乗っていない。本気の覚悟で善魔だと命を賭けて名乗っている。俺もその気でいなければな。フェニックスのためにも俺も覚悟を決めて護衛をしなければな。

「しかしレハ。あなたの身守りは魔法でしょ。見守る間魔力消費しない? そのせいで疲れるでしょ」

「紙ドクロ一体だけなら魔力はそんなに消費しない。それに俺の魔力はダムのようにある。一体の紙ドクロならレバーをちょっと捻った程度しか出ないから安心しろ」

紙ドクロ一体だけなら、魔力消費は少なめに限られる。大きなダムに蛇口が付いているとして、レバーをほんの少し捻った程度の魔力しか出ないから、長時間耐えられる。

「それを聞いて安心したわ。じゃ、もう早速学校に行きましょ。なるべくチャイムギリギリまで待って遅れて行くわよ」

早めに学校に行くと自ら暗殺されやすい環境に飛び込むことになる。なるべくされやすい時間に居ることを少なくさせねば。俺が虐げられないように遅れて学校に行くのと同じ原理だ。

「レハベアムさん……」

ここでフェニックスが俺をか弱いつぶらな瞳で見つめてくる。

「あの……それでも無理はなさないでくださいね……私のためだけに魔力を使ってくださるだなんて、なんだかもったいないです」

「そんなことを言うな。お前を助けるために善魔生徒会が存在する。だから遠慮なんかするな」

ヒト助けが基本的理念だ。だったら善魔生徒会の一員として、それに従うだけだ。

「ふふ、レハも一人前な事言うじゃない。前なんか『善魔なんか信用できない』ってクールぶってたくせに」

「黙れ。お前から暗殺するぞ」

「レハさん! ウァサゴ先輩に対しなんて無礼なことを」

「お前も黙れ」

「は、はひいい!」

「まっ、これだから良いのよね。そうじゃなきゃ私の相手には務まらない」

「ふん」

「……はっ、ああああああ思い出しました!」

ここで突然とフェニックスが大声を上げて驚く。

「な、なんだ」

「レハベアムさんとウァサゴ先輩って、何とかの天秤で戦いましたよね。敵対していたのに、なんでレハさんは善魔生徒会に入ったんですか? レハさんって人間……なのですよね?」

黒獄の天秤のことか。そういえばあの時の俺は悪魔を大虐殺を図ろうとしたが、その時点で俺はフェニックスを殺そうとしたんだろうな。結果不死身で死ぬということはなかったが。

「まあ、単純にスカウトされたから、だな」

淡々と遠回しな事だけを教える。深い詳細は語らない。

「まっ、かくかくしかじかな訳でレハを善魔生徒会に招き入れたってわけ」

「へええええ……人間と善魔のコンビ、なんか良いですね」

具体的に何が良いのかが分からないが、まあフェニックスはなんとなく凄いと思ったのだろう。

「さて、ではぼちぼち出発するわよ」

「ああそうだな」

俺らは椅子から立ちあがり、城と森の安全圏から悪魔が蔓延る危険区域に出た。

「通学中に暗殺部が襲い掛かってくるかもしれない。いい、守るのよ」

「ああ」

「ええ」

フェニックスを中心に、前がウァサゴ、後方に俺とシトリーに立ち、体を張って護衛する。

「念のためフェニックスさんを空間バリアーで張っておきますね」

フェニックスの周りの空間が真四角の薄ら透明なバリアーになり、バリアーの中に囲われた。シトリーの空間は無敵だ。この俺の闇でしか溶かせない。これならフェニックスを完全に守ることができる。

「よし、では出発よ」

空間バリアーをフェニックスが歩くペースで水平移動させる。これだけでも魔力を消費してしまう。なるべくシトリーに無理はさせないようにせねば。

「シトリー、学校に着いたら魔力を半分分けてやる」

「……! あ、ありがとうございますレハさん」

魔力消費を察してくれて、意外そうな表情を浮かべ、お言葉に甘えてくれた。

 ここからゲーティア高校まで二十分の距離だ。それまでなんとか無事に学校に着けばいいが。通学時間でも狙われたと言っていた。だから必ず出てくるはずだ、暗殺者が。

 緊張感が高まりながら少しずつ歩む俺たち。

「いつもならフェニックスが通学するルートで襲ってくる。なのに今回からは別のルートを通っているわけだから中々現れないな」

「……そうですね。でも油断は禁物です」

ウァサゴは黙々と前へ進んでいる。

 そのとき、赤いレーザーポインターの射線がフェニックスの右こめかみに差したのを見た。

「フェニックス!」

同時に、撃鉄の衝撃音がどこからか響き、そして銃弾が右空間バリアーに衝突し、その鉄壁さで弾いた。

「えっ?」

遅れてフェニックスが俺へ振り向いた。

 空間バリアーが無ければ、フェニックスのこめかみに銃弾が当たり、脳に的中していた。

「スナイパーだ! スナイパーが現れたぞ!」

周りには悪魔の姿なぞいない。そして赤きレーザーポインター射線で狙い、撃ってくる奴はスナイパーライフルを所持している。遠くから射殺しようというのか。

「空間よ……!」

シトリーが咄嗟に魔術書を開き、詠唱。異なる呪文を読み上げ、右全体に更に空間バリアーを張った。

「ナイスだシトリー」

これで護衛員までも射殺されずに済む。逆に射殺してやる。

「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ」

俺の足元に紫色のホロスコープ型の魔法陣が出現し、第三部のページがレメゲトンから分離し、紙ドクロの群れを作る。

 スナイパーは右の方角から射殺してきた。右の方角は一軒家が多く立ち並ぶ。つまり奴は家の窓から狙ってきたわけだ。紙ドクロの群れを右の方角へ飛ばす。くまなく一軒家を調べ尽くす。

「俺の紙ドクロの追跡は群れだ。必ず見つけ出す。逃れることはできん」

しかし、今度は左の田圃の奥の山から銃弾が放たれ、シトリーの左肩に刺さる。

「いっ……!」

「シ、シトリー!」

シトリーは力なく倒れ込む。肩の傷穴から血が溢れ出てくる。

「スナイパーは二人いるのか……! いや、違う……おかしいぞ」

「何がおかしいの?」

「……いないんだ。右に」

「いない……? まさか、スナイパーが?」

「ああ」

一軒家が立ち並ぶ右の方角にスナイパーがいない。全ての家くまなく紙ドクロの群れが調べたのだ。万一見過ごすことなどありえない。なのにいなかった。右の方角にスナイパーは存在しない。

「ちっ、今度はあっちを調べろ! 増援させる」

レメゲトンを開き、更に紙ドクロの群れを出し、右に向かわせた紙ドクロの群れを、今度は左の田圃や奥の山に向かわせる。

 そのとき、右の空間バリアーの外側に再び銃弾が当たった。俺はそれをしっかりと目視した。

「銃弾……? なぜだ。右にはいなかったんだぞ」

右の方角にはスナイパーは存在しなかった。なのに右の方角から銃弾が飛んできた。奴はいったいどこから狙っているのだ。

「不気味ね……それより、まだ見つからないの……?」

「ああ」

左の田圃や山奥に派遣させても、スナイパーは見つからない。範囲が広いから見つからないのではない。明らかにいないのである。

「なぜ、見つからないのだ……奴はいったい狙撃している……?」

シトリーは倒れ込んだまま魔術書を開き、詠みあげた。するとウァサゴや俺を囲む空間が薄透明になり、真四角の空間物に囲われた。これで四方八方から狙撃されても、無敵のバリアーが守ってくれる。

「レハさん、私たちの任務はあくまで護衛です……無理に追跡しなくてもいいんですよ……」

「な、何を言うシトリー?! 護衛といっても攻めなければ守ることはできないんだぞ?」

「それもそうねシトリー。ここは一旦走って逃げだしましょ」

ウァサゴがシトリーの意見に賛成した。

「なぜだウァサゴ! 奴は遠くから俺たちを狙っている。俺の魔法なら」

「シトリーが怪我をしている上に奴の正体が分からないのであればかえって危険よ」

「ではどうする。探らないと一方的にシトリーの魔力が徐々に減っていくだけだぞ」

「むしろ手当たり次第に探る方がシトリーの魔力消耗になるわ。それで魔力が無くなり、フェニックスががら空きになったらどうするの」

確かにウァサゴの言う通りだ。左右の方角から撃ってくるスナイパーが見つからないまま、延々と手探りしていたら、シトリーの魔力が尽きてしまう。そうなると空間バリアーが消え、銃弾がフェニックスに当たってしまう。

「……ふん、今はその意見に乗っかるだけだ。だが絶対に奴を殺す」

「ええ。今はこらえるべきよ」

レメゲトンをなおし、倒れているシトリーを背に乗せ抱っこする。

「いいかシトリー、絶対に魔法解くんじゃないぞ。それから俺の左手を触っておけ。魔力を補充させる」

「ありがとうございますレハさん……くっ……」

シトリーは俺の背に乗ったまま負傷した左腕を伸ばし、左手を俺の左手の甲に置く。俺の魔力をシトリーの魔力ダムに注ぎ込み、この空間バリアーが消えないよう維持させる。

「いいか、走るぞ!」

「は、はい……!」

「ああ……!」

ウァサゴとフェニックス、俺はこの一本道をひたすら走り出す。すると四方八方から銃弾が連続して空間バリアーを叩く。

「うう、これは……!」

左右だけならず上からも銃弾が空間バリアーを撃つ。これで明らかになったことがある。

「スナイパーは左右の方角にも存在しない……! 奴はどこからでも撃つことができる能力者だ……!」

野山に天空に住宅街に後ろ道に、連続して撃つとしたら能力者しかいない。撃つ方角を自在に変える能力だこれは。しかし肝心なのは、スナイパーはどこにいるのか、だ。

「スナイパーはいったいどこに潜んでいる……!」

能力が明らかになったところでスナイパーがどこに居るのかについては不明のままだ。

「レハ! いい聞いて。奴は暗殺部の部員よ。奴も生徒。つまり授業中の間は撃ってこないはず。それが奴の弱点だわ」

「弱点……? そうか、理解した」

全学年の授業時はスナイパーは撃つことができない。撃てないのがフェニックスの護衛のチャンスであり、逆に探索させやすくなる。それに狙撃銃は大きい。大きい銃を学校に持っていけば目立つはずだ。

「だから奴を倒すことは後回しよ。とにかく走れえ!」

真四角の空間バリアーを物凄い速さで水平移動させながら俺たちも必死に走る。すると雨あられと撃ってくる銃弾が止んだ。スナイパーも空間バリアーを破壊することはできないと流石に知ったか。

 そのとき、前方の道の地がビルのように突然と昇った。

「なに……!」

「能力者は二人いるのか……!」

土の壁によって阻まれ、一旦走りを停止する。これは土を操る能力者だ。スナイパー以外にも能力者はいたのか。完全にチームワークで暗殺するつもりだな。

「ウァサゴ!」

「ええ任せなさい! シトリ-、前だけ開けて」

「あと気を付けろ。スナイパーはお前が外に出るのを待っている。その隙に狙われるぞ」

前方の空間バリアーを開けないと土の壁を砕くことはできない。ウァサゴが土の壁を砕くために、空間バリアーの外側に出るが、スナイパーはそれを狙っている。その隙に銃弾で襲うはずだ。

「一瞬で砕いて一瞬で戻るわ」

シトリーは前方の空間バリアーに扉を作った。ウァサゴはそれを開け、右腕に二十四時間分の力を一秒でチャージした。

「砕けろ!」

その右腕による拳で土の壁を殴り、高いビルのような土の壁全体に亀裂が走り、木端微塵に砕いた。だがその隙に右方向から銃弾がウァサゴに飛んできた。

「危ないウァサゴ!」

だがウァサゴは高速の左手で飛んでくる銃弾を指で挟み、止めてみせた。

「玉なんぞ私からすれば超スローに見えるわ」

殴った直後に時速移動モードになり、銃弾対策をしたな。時速移動モードならウァサゴが時の速さで動くことができ、襲ってくる銃弾ぐらい指で挟むことは余裕か。

 そして身を後退させ、扉を閉じた。

「よし、走るぞ!」

再び全速前進し、とにかく走る。空間バリアーも横に水平移動させながら走る。

「まさかだと思うが、奴らは俺らを遅刻させるつもりではないか……?」

「遅刻?」

「俺が思うに、砕いても再び土の壁が現れる。そうやって何度も砕かせて時間稼ぎをしているんだ」

すると、前方の地に再び土のビルが昇り、再び行く手を塞いだ。やはり逃がしてくれないか。

「時間稼ぎ……は、まさか魔力が空になるの待っている……!?」

「ああ、そのための時間稼ぎだ。俺たちを消耗させて、空間バリアーが溶けるのを待っている」

「だとしたら尚更、この壁を砕いて急ぐしかないわっ!」

再び扉を開け、腕に二十四時間分の馬鹿力を込め、土の壁に叩き込む。壁は砕かれたが、今度はウァサゴの真上から銃弾が下ってきた。ウァサゴは一瞬早く後退し、銃弾を回避する。

「あ、危なかった……」

すぐさま扉を閉じ、空間バリアーと一緒に走る。だが前方に再び土のビルが昇った。

「塞いでは撃って、塞いでは撃って、の繰り返しね」

「俺たちの魔力が尽きるのかが先か、ゴールが先か、だな。しかし妙だ」

「何が?」

「土を操る能力者すら感知できないとはどういうことだ」

「確かにそうね。紙ドクロの群れがもう一人の能力者を見つけられないのは不思議だわ」

スナイパーはおろか土の能力者すら見つからない。それにこの土のビルをすぐに建て勢いよく昇らせるこの能力、近距離でないと納得のいかない勢いだ。遠距離だとその分遠く能力の効果も薄くなるからだ。

「まさか、見えないのではなく、もう既に見えているのか?」

「何を言っているのよ。見えないからこまっ……なるほど。そういうことね」

俺たちは、見えない、という概念に振り回されていたのかもしれない。紙ドクロの視野は俺の視野だ。それが群れとなると複眼のような状態となる。見破るのは容易い事。なのにスナイパーと能力者二人を見つけられない事実。俺はこの『見えない』という事実に惑わされている可能性がある。

「まさか、透明悪魔か!」

透明人間、ではなく透明悪魔だ。透明悪魔なら見えない上に、この近距離ならではの土の勢いは納得がいける。

「透明悪魔、うんありえるぞ! だとしたら、ウァサゴ、ちょっとド派手に行くぞ」

「分かった」

レメゲトンの全てのページを分離させ、扉を開けて外に出す。そして俺らを中心に上空に浮かせ、超広範囲にレーザービームの雨を降らす。

「ぐあああああああっ!」

右前方の道路にレーザービームを貫かれる姿を発見した。透明なベールははがされ、ゲーティアの制服を着た悪魔の姿が露になった。

「さ、さすがにそれは避けられねえよ……」

悪魔は倒れ、前方の土のビルは勝手に崩壊した。やはり透明悪魔が土を操る能力者だったわけだな。

「これで行く手を阻むものはもうない。走れ私たち!」

全ての紙ドクロをレメゲトンに集結させ、元に戻す。シトリーを抱え、俺たちは走る。


そして、ゲーティア高校の学校門に到着した。必死に走ったことで息を荒くし、必死に整える。

「はあ、はあ……ふう、と、とりあえずついたな……」

「ここまで来ればスナイパーは狙ってこないはず。っていうかそれ以前にスナイパーもそろそろ通学しないと遅刻しちゃうもんね」

撃ちながら通学するのはできない。つまりスナイパーは撃つことができず、通学をせざるを得ない。しばらくは撃ってこないはずだ。

「フェニックス、お前の教室は?」

「A組です」

「俺はHだ。A組まで俺が護衛しよう」

「ありがとうございます……」

「じゃあシトリーを貸して。私はこの子を保健室に連れていく」

ウァサゴにシトリーを抱えた背に託す。シトリーはいつの間にか気絶していた。それほどの激痛だったんだろうな。よく気絶したまま空間バリアーを維持させたものだ。

「待ってください」

ここでフェニックスがなぜか託すことを拒否する。

「ど、どうしたフェニックス」

「その……私ならその傷を治癒させることができます」

「なに、できるのか!」

「はい」

己の傷を修復させるだけでなく、他者の傷まで手当できるのか。凄いな不死鳥の力は。シトリーを抱えたまましゃがみ、フェニックスはシトリーの左肩に触る。そのときフェニックスの掌に火がつき、傷穴を燃やす。シトリーは熱がっている様子はなく、傷穴はみるみるうちに塞がれていく。

「回復効果のある火……なのか」

「はい」

掌の火は消え、シトリーの左肩の負傷は完全に消えた。

「すごおいフェニックスちゃん!」

ウァサゴはフェニックスの頭を強く荒く撫で、フェニックスはてへへと嬉しそうに微笑む。

「いいかフェニックス、前半の授業が終われば俺がフェニックスを迎えに来る。そして生徒会室でずっと待機しろ。その間に俺がスナイパーを探し出すから」

「はい、分かりました。あっ、で、でも……」

「どうした」

「私、お弁当がないです……」

「問題ない。俺がフェニックスの分も作っておいた」

「私とシトリーの分は!?」

「ある」

「よかった……」

「ああ、おかげで重くて走るのに苦労したぞ」

「そ、そうよね……あはは……」

腕時計を見ると、二十八分に針を刺している。

「もうすぐチャイムだ。行くぞ」

「ええ」

傷が癒えたシトリーをウァサゴに託し、俺とフェニックスは一年の教室へ向かった。

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