十七話 予感
「……で、なんでアンタがここにいるんだ」
「なんで、そりゃあ私たち、もう仲間でしょ?」
我が城のマイルームにウァサゴが居る。別に招き入れたわけではない。勝手にウァサゴがついてきて、勝手に俺の城に入りやがった。
「仲間だからと言って俺のフリースペースに入っていいわけではない」
「まあそんなこと言わずにいレハさん」
挙句シトリーは裏空間から我が城に侵入。シトリーからすれば、侵入者を食す森だろうと裏空間から出入りすれば安全に森の鬼門をくぐり抜けられる。いつでも侵入し放題というわけだ。
「そんなことよりお腹空いたあ。レハ飯い」
ソファに力なく座り込み、だらけこむ二人。まるで我が家のように勝手にくつろいでやがる。
「レハさんのご飯は絶品だと聞きました! 食べるの楽しみですね……!」
更には俺がご飯を作るという前提で話を進める。どこまでも自分勝手な悪魔め。
仕方なく制服の上にエプロンを装着し、自家製の唐揚げ用の液体で一晩中漬けていた多量の鶏むね肉を百八十度の油に入れる。程なくして全体的に火が通ったら、キッチンペーパーで敷いた皿に唐揚げを盛りつけ、完成。既にリビングのテーブルにてウァサゴとシトリーが集まっており、椅子に座って唐揚げが来るのを待っていた。
「うおおおい唐揚げだあ!」
唐揚げで盛りつけた大きな皿を片手で運び、リビングの中心に置く。
「「いただきまあすっ!」」
ウァサゴとシトリーはフォークで唐揚げを差し、口の中に運び入れる。サクサクと食のハーモニーが響き、そして舌の上でふわふわと踊る。
「美味しいい~」
「うんまああい」
頬がとろけそうな満面の笑みを浮かべる二人。こんなシーン学校では見せられないやつだ。
「おいおい……ご飯とサラダ持っていくから先走るな」
いただきますと言ってから食べたのは良しとしよう。だが食は野菜類から食べる、名もベジファーストが良いんだ。ベジファーストは脂質の吸収を抑える。食べた後の血糖値が上がるのを抑えることができ、めまい、立ち眩みなどを防ぐ。更に野菜は食べ応えがあり、多く噛むことで食欲を満たしやすく、食べ過ぎを防ぐ。二人のように先に脂質系から食べると極論太りやすくなるというわけだ。
器にご飯を盛りつけ、別皿にレタス、トマト、スライスオニオンをたっぷりと乗せ、計俺の分を含め六つ分のご飯サラダをお盆に乗せ、テーブルに運ぶ。
「ほら、これも食え」
「唐揚げといったらお供はご飯でしょ!」
二人はご飯の器を掴み、フォークでお米をすくい、口に運ぶ。ご飯ぐらい箸で食え。
俺は箸を掴み、「いただきます」と一礼してから冷静にレタスから食す。ううむ、みずみずしくそれでいて清らかに舌の上ですすらぐ。そしてトマトの酸味とスラオニの辛味が刺激し、涎が口腔内で量産される。流れるように食道を通り、胃袋に消える。サラダを食し、俺も楽しみに待っていた唐揚げに箸を伸ばす。しかしなんだ。二十個揚げた唐揚げが既に三個だ。
「二人とも食べ過ぎだ……」
こいつらもバルバトスみたいに食欲が大きくて困る。だがバルバトスは一分で唐揚げ四十個も食いらげた。あの時の苦悩に比べたら何の事はない。いつも俺の分が少ないという精神的ダメージはもう慣れっこだ。
取られないようにサラダを食した空の皿に三つの唐揚げを置き、これは俺の物だと必死に無言でアピールする。そして唐揚げを口に運び、歯を下ろす。しかし食感がなく、歯と歯だけが衝突した。不思議に思い、箸でつまんだはずの唐揚げを見てみる。すると唐揚げが無かった。おかしいなと思った瞬間、咄嗟にウァサゴにチラっと目が映る。するとウァサゴのフォークには既に無いはずの唐揚げが刺されていた。時の能力で俺が食べる直前に奪いやがったな。その時の超スピードを悪用するのはやめてほしいんだが。
「これいただきまあすっ!」
っとチラ見している隙にシトリーがフォークで、俺の皿に避難させた唐揚げを一個刺してきた。そのまま当然のように己の口に運び入れ、食しやがった。
「おいまて貴様」
今度はシトリーに注意を向いてしまった。これ以上食われないように急いで箸で残り一個の唐揚げをつまもうとした瞬間、瞬く間に唐揚げをウァサゴに奪われ、彼女も平気で俺の最期の唐揚げを食した。
「ううん美味い♡」
「貴様らあああああ! よくも俺の唐揚げを!」
「まあいいじゃないですかあレハさん」
「やっぱりお前らは善魔じゃない。悪魔だ」
善魔と名乗る癖には、平気で当然のようにヒトの食べ物を奪う。まさに悪魔の如し。
「レハおかわり」
ウァサゴは唐揚げのおかわりを冷静に強請ってきた。
「あ、私もおかわりです!」
「もう鶏むね肉はないぞ。唐揚げはもうない」
「じゃあ狩ってきなさい」
「何様だ貴様!」
「まあそんなに怒らないでください。お腹が空きますよ」
「お前らが俺の唐揚げを食うからだろうが!」
バルバトスも食荒いはひどいが、こいつらも十分に酷い。更に見事にサラダだけを残しやがって。お前ら醜く太りやがれ。
「さて、唐揚げがないならこれでご馳走様ね」
「これが偽王国で有名なレハさんの調理の腕……! 確かに堪能致しました。美味しかったです」
有意義にベジファーストを実行していた俺が馬鹿だった。これで学習したぞ俺は。悪魔は食荒いが酷いと。
「さて、ではあとは寝るだけね……」
「そうですね……食べた後は眠くなってしまいますね……」
残したサラダを目にも向けず、寝ることだけを考えながら椅子から立ち上がった。俺は悪魔への憎しみを増加させながら、こいつらが残したサラダを食した。
「ねえレハ。空いている部屋はあるかしら」
「ここの部屋以外全て空いているぞ。だがずっと使っていないから埃塗れで蜘蛛の巣が多いだろうな」
そりゃあ俺一人でこの空き城を使っているんだ。使わない部屋はとんでもなく多い。一人暮らしならこのリビングと寝室、お手洗い、露天風呂だけで十分だ。しかしなぜ他人のお城に開いている部屋なんか聞くのだろうか。
「じゃあお部屋片づけておいて。私たち今日からここに住むことにしたから」
「……は?」
住み込みするために聞いたというのかこいつは。しかも食事中の俺に人使いまでもが荒い。とことん最低な奴だ。しかもこの城最大の謎という、大量にしまわれている白ビキニセットをこいつらに見られては、俺の歴史に一生消えぬ汚点をつけることになってしまう。こいつらは女性だ。間違いなくドン引きされてしまう。
「ウァサゴ先輩と暮らせるなんて私幸せです……!」
「おいおい待て待て。なんで勝手にここに住むって前提になっているんだ。俺は聞いていないぞ」
「ああ、前にねシトリーがここにお邪魔したでしょ? そこで聞いたのよ。『レハさんのお自宅はなんと城なんですよ。』っとね」
バルバトスと最後の晩餐で彼女の悩みを聞いたあの時か。確かにあの時、シトリーは先ほども言った通り裏空間とやらの異空間から森の鬼門をくぐり抜け、この城にやってきた。
「はい。そこで私たちもあの城で住むことにしましょう、ってことにしたんです」
「いやだからそれ、俺の許可を得ていないだろう」
「私たち、善魔で身内からでも嫌われ者なのよ」
「おう」
「でもここは人間しかおらず、悪魔は誰一人もおらず、尚且つこんだけ大きな空間。まさに善魔の理想郷じゃない」
「それに森に侵入してくる者は森が食しますからね。善魔としても人間としてもここが一番安全ですよ。それにお星さま綺麗ですしもう全て最高じゃないですか」
確かにこの森は内部は安全だ。外部から侵入してくる者は森が迷路を作り、疲れたところで最後はじわじわと食すからな。しかし内部はお天道様が照っており、悪魔にとって一概にもここが理想郷だとは言えないはず。そうか、善魔だから光は平気なのか。
「世間的に嫌われ者な私たちにとって、悪魔がいない休める場所といったらここしかないのよ。だからお願い。私たちをここに住ませて」
「お願いします……!」
ウァサゴとシトリーが俺に頭を深く下げ、掌を合わせてきた。
確かに、善魔は世間的に嫌われ者だ。身内や家族も善魔じゃない限り善魔の子を阻害するのは当然だ。そんな善魔にとって、悪魔が居らず且つ休息が取れる場所と言ったら、人間の休める場所しかない。しかも人間の居場所は城であり、城を覆う森は悪魔を食す。外部からの攻撃は守り内部は安全という、こんなに理想的な環境はない。仮に俺がこの場所で住めなかったら、いつ何時悪魔に襲われるか分からない環境で衣食住をせねばならなかった。この二人もそんな劣悪な環境で育ったのだな。
あの食いっぷりはどこか必死さがあった。それは劣悪な環境でまともに食事を与えられなかった背景があるように感じる。しかも俺の作る飯は格別というおまけつき。それは善魔における難度な宿命の副用か。
「仕方ない。良いだろう。俺の城で住むがいい」
善魔の衣食住が劣悪で尚且つ善魔が仲間なのなら、俺のこんだけ余っている城の部屋の一つや二つぐらい、いや何百個でも分けてもいいだろう。
「「やったああ!」」
ウァサゴとシトリーは両手を繋ぎ、心から大喜びして跳んではしゃぐ。
「ありがとうレハ。いやあ生きててよかった」
「はい! やっぱり生きていてばなんとかなりますよね!」
「やれやれ……」
善魔の人生は無計画すぎる。生きるために保険や策がない。だから衣食住や全体的な環境で困るのだ。人間である俺は幸福にもこの城で育ったから良いが、この二人は善魔故に想像を絶するほど劣悪な環境で育ったのだな。
「じゃあレハ。サラダ食べ終えてからいいからお部屋の掃除お願いね」
「お前ら……はあ、いいだろう(白ビキニだけは見られたくないからな。俺が掃除するしかあるまい)」
一応、仲間だ。仲間であろうとも俺の汚点を見られるわけにはいかない。
「パジャマとかあるかしら」
「ない」
「じゃあ買わなくちゃね……シトリー、お金ある?」
「すみません。私、親からお金頂いていないのです」
「そっか……じゃあまいったな。生憎私もお金はない」
「お金なら金庫に腐るほどある」
「金庫?! あなたの城なんでもあるじゃない!」
心の中で、ビキニもあるぞ、っと呟いた。お金は使うことは滅多にない。最後に使ったのはゲーティアの入学金だ。悪魔の店に行く必要性はないからな。食材は基本森から。服は普段着と制服のみで事足りる。水道代は湧き水だから問題はない。しいて必要物品を挙げるとしたらロウソクぐらいか。あとの家具は元からあった。お金はこの城の裏側に金庫があり、コインだけで体が深く沈むほどある。
「シトリー、こうなったら必要なものを揃えるために買いに行くわよ。お掃除してくれる間に」
「はい先輩!」
二人はすぐさまこの部屋を出て、買い物へとんでいった。これは好都合だ。あの二人の買い物は相当時間掛かると見た。その間に謎の大量白ビキニセットを捨てまくって処分しよう。
久々に、かれこれ十年ぶりにやってきたか、二階の各部屋の廊下へ。各部屋には白ビキニセットが超大量に、下手したら無限数まであるのではないかというぐらいしまいこんである。それ以外の服はない。つまり白ビキニセットを着た女性が超大人数でこの城に住んでいたというわけだ。いったいどういう文化していたというのだこの城は。だが文化なぞどうでもいい。この白ビキニセット共を無かったことにする時が来た。大量処分だ。
「よおおしやるぞ……」
案の定蜘蛛の巣が張っているな。だが埃なんぞ気にせず、クローゼットやタンスを開け、何重のビキニセットを鷲掴みにして、とにかく窓から投げ捨てる。捨てて捨てまくる。ビキニが落ちた地ごと焼き、消滅させ、最後は第二部の小規模暗黒星を落とし、灰すら残さないようにする。袋詰めしていたら袋が足りない。
「えっほ。えっほ、えっほ……」
グラハム数という数字をご存知だろうか。簡単に言えば、魔界中にある全てのボールペンでその数字を書くが、この世からインクが消滅してもその数字の最後には達しない、それほど巨大な数字だ。まるでグラハム数ぐらいあると思える白ビキニをとにかく捨てて捨てまくるが、袋は当然足りない。だからこうして窓から荒く投げているのだ。しかしこの作業、一人でやるにせよ百人でやるにせよ、あの二人が戻ってくるまでには相当な時間がかかる。いつ帰ってくるか分からない恐怖。正直全て捨てられる自信はない。せめて二階の全ての部屋だけでも片付けよう。埃や蜘蛛の巣は二の次だ。
「……一つの部屋に一時間掛かったぞ……」
やっとこさ超大量の白ビキニセットを全て窓から抛り捨てたぞ。しかしこの部屋につき一時間は掛かった。それほど超大量にしまい込んであった。これではウァサゴとシトリーにこの城の秘密がばれてしまう。いや希望を捨てるな俺よ。まだ一時間しか経過していない。あの女善魔が戻ってくるまで、まだ大量処分できるはずだ。
一方、ウァサゴらはショッピングモールにて……
「ねえウァサゴ先輩、この服可愛いですよねえ!」
「あらホントね」
私たちは夢のような自由に買い物できるこの経験に堪能していた。大量にあるコインと札で何でも買い放題、こんなに幸せなことが他にあるだろうか。もうかれこれ三時間はショッピングを楽しみ、既に手提げ袋には服に家具に娯楽品に大量にある。
「ウァサゴ先輩は綺麗なピンク色の肌ですから、このピンク色の服と相性が合いますよ!」
「でもハート柄はちょっと苦手だな……」
真っピンク一色で中心に煌びやかな赤いハートマークの服。私の肌と同じなのはちょっと気が引ける。それに私は格闘家だ。格闘家がハートマーク付けるのは格闘家らしくないというイメージがある。
「でもまあ、こんだけ服たっくさん買ったことだし、買い物はでお終いにしましょ。もう流石に疲れたわ」
「そうですね。服はいつでも変えますし、また買いに行きましょう」
「ええそうね。今度はセーレと行きたいわね」
「はいっ!」
セーレは同級生で昔からの私の理解者だ。いつかセーレやついでにヴァプラとも誘って、買い物を満足にしてレハベアムのお城に招待させて仲間一緒に暮らしたい。
私たちは両手に重い手提げ袋三つずつ持って、ショッピングモールから出た。重い家具は配達をお願いした。
「さて、ではそろそろ帰りましょうか」
「はい! いやあ買い物楽しかったなあ」
「また行こっか」
「ええ!」
森へと続く暗い一本の夜道を辿る。だがその奥に何か騒々しい物事が見えた。暗くてよく分からなかったが、奥の横道に察そうと走る女の子がそのまま右に通過し、後に銃らしき武装した男たち五人程が追いかけているように見えた。
「何事でしょうかあれは……」
「何やらよくないことが起きている様子ね。ちょっと行ってみましょ」
重い手提げ袋を持ったまま走り、右に行った男共の背を見る。そのとき、激しい撃鉄の銃音が空間全体に響き渡った。
「まさか、今さっきの男たちは銃で女の子を射殺しようというの?」
女の子を平気で射殺しようだなんて最低な行いだ。黙って見過すわけにはいかない。
「シトリー、あの子を助けるわよ」
「はい、ウァサゴ先輩!」
右に曲がり、銃を武装した悪魔共の背を追いかける。しかし手提げ袋が重くてスピードが乗らない。
「そこの悪魔達、待ちなさい!」
仕方ない。ここは時の流れに身を任せるしかない。全身を時の流れを委ね、時速移動を可能にする。手提げ袋はまだ重いが、隣に走るシトリーや男共は私視点からすれば超スローに動いているように見える。これで私は超スピードに動くことができ、一歩歩くだけで数センチ進むことができる。あっという間に超スローに走る男共の背に追い付き、時速移動の状態で足払いでまとめて男共を転がせる。男共はスローに転がっていく。そして私は時速移動から身を離し、現実の時に戻る。するとその途端男共は通常の時で急に転がり落ちた。
「女の子相手に銃で多勢……最低な悪魔ね」
足底で一人の悪魔の頭に踏んづけ固定する。そのとき、この悪魔の服に気が付くことがあった。
「あら、これはゲーティア制服じゃない」
黒の制服に紫のラインはゲーティアのものだ。つまりこいつらはゲーティア高校生だ。こんな夜中に何遊んでいるん野だろうか。
残り四人は咄嗟に立ち上がり、私を囲い銃口を向ける。
「なんだこの野郎!」
「邪魔しやがっててめえら!」
この時に既にとある違和感があった。こいつらもゲーティアの制服を身に纏っているが、なぜ拳銃を持っているのだろうか、と。銃はよほどお金持ちではない限り普通の高校生が手に入る品物ではない。それなのに銃を持っている。これは事情聴取した方がいいわね。
「おい、このピンクの肌に角が無いといったら……ウァサゴ会長だぞ!」
「そんなこたあどうでもいい。殺せ!」
四人は引き金を引き、銃弾を発砲した。だが私の周りの空間は薄透明なバリアーに形作られ、その頑丈なバリアーで守られる。
「シトリーナイス」
シトリーの空間を操る魔法だ。そして、四人の周りの空間が、正方形の空間バリアーになり、内部に閉じ込められた。
「な、なんだこりゃあ!」
「かてぇ!」
空間牢だ。四人は空間牢内で壁にナイフや銃弾を当てるが、壁には一切の傷すらつかない。
前にレハベアムを閉じ込めることに成功したが第四部の闇で溶かされてしまった。だが闇さえ無ければ誰一人とて逃がすことはできない頑丈な牢だ。
さて、四人の生徒は閉じ込められているから、私はこの踏んづけている生徒からゆっくりと事情聴取ができるというわけだ。手提げ袋を腕に通し、空いた手で後ろ首を持ち、片手で吊り上げた。
「アンタたちはなんでか弱そうな女の子相手に銃を持って追いかけてたの?」
「それは……教えられんな」
「そう」
じゃあ力で押しとおるのみだ。首を握りしめ、男は激痛の叫び声を発する。
「ぐあああああ、わ、わかった。話すよ!」
握力を元に緩くし、さあ話してもらおう。
「俺たちは暗殺部だ……対象者は不死鳥……俺たちの任務は……不死鳥の暗殺だ……!」
「不死鳥?」
さっき逃げていった女の子が不死鳥だというのか。
不死鳥は読んで字のごとく、死なない鳥。更に体には火を纏うと聞く。まさか伝説の鳥が実在するとは驚きだ。
しかし、こいつは暗殺部と名乗ったな。となると他のメンバーも暗殺部の部員なのか。暗殺部とはゲーティアに所属する暗殺を中心に活動する部活のこと。ヒト殺しを好きに楽しむゲスが集う部活だ。
不死鳥の暗殺、とはいったいどういう意味なのだろうか。死なない鳥を殺そうとも鳥は何度でも再生する。
「なんで不死鳥を殺そうと思っているの?」
「先輩の命令だ……あとのことは知らねえ!」
そのとき、上空に、大きくそして煌びやか鳥が舞い、飛んでいった。
「ふ、不死鳥……!くそ、逃がしてしまった!」
暗くてよく見えなかったが、あれが不死鳥か。煌びやかな大きい鳥が東の方角へ進んでいった。東の方角には確かレハベアムのお城に続いている。
「シトリー、追いかけましょ。あの鳥を保護するわよ」
よくは分からないが、とにかく暗殺部の思惑の通りにはさせない。私たちは善魔生徒会。ヒト助けが主本だ。相反するヒト殺しの暗殺部の活動を防がなくては。不死鳥を救わなくては。
「はい。この人たちはどうしましょうか」
「閉じ込めたまま放置していいわ。それより不死鳥が心配だわ」
吊り握りしめている首に最大限の握力をかけ、男を気絶させる。そして手提げ袋を持ったまま、東の方角、来た道を返した。




