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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第二章 不死鳥護衛編
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十六話 ヒト助け

「さて、では早速議題に入ろうか。」

逆U字型机の中心にウァサゴが立ち、右に俺、ヴァプラ、左にセーレが座り、隅のホワイトボードに書記のシトリーが立った。

「善魔生徒会の基本的理念は、平和への可能性の提示と悪の意思の脱却。まずこの学校を変えていかない限り魔界なんて変えられない。この学校こそ平和が芽生える花の土台にしなくてはならない。そのためには生徒ひとりひとりに訴えかける必要があるわ」

この悪の超名門校ゲーティア高校を変えようとする善魔生徒会。この四人たちは善魔生徒会の最終目標は魔界を変えることだと勿論認識している。その上でこの会議に参加している。当然、俺もその一人という。魔界を変えることが人間界を救えることに繋がる。平和への可能性を提示するのだ。

「でもこれがなかなかね、ヒトの考え方ってのは他者からは変えられない。だから生徒は自分で経験をして、自分から望んで足を洗わなくてはならない。これが悪の意思の脱却よ。これを広めていく。私たちの使命はそのお手伝いをすること」

理想ばかり語るかと思いきや、意外と具体性のある説明だ。しかし簡単なことではないことは言うまでもない。だが四人は昔の俺みたいに反論を唱えることはせず、むしろ頷いていた。同意しているという点に関してはこの四人の心は本当に善魔らしい。

「ただ訴えるだけじゃ意味はないわ。悪魔は平和への言葉に聞く耳はない。だから、悪魔にキッカケを作り、足を洗ってもらう。では具体的にどうするかって話を今からする」

かなり難しい話だ。具体的にキッカケを作り、その経験で自ら足を洗う。我らはあくまでそのお手伝いをする。そのキッカケやお手伝いそのものが想像やイメージがつきにくく、尚且つ平和の言葉を聞く気にならない悪魔が相手だ。どう思考をねじらせて意見を言っていいものやら。ウァサゴが黙り、皆に意見を求めているが、皆も同様に沈黙し、思考をねじらせている。

「ううううん、うううううううううん」

沈黙をまず破ったのは隣に座る中二病のヴァプラ。ううんとうなり、思考をねじらせる演技をする。少しは黙って考えたらどうだ。

「……! 閃きましたぞ」

耳障りにうなるヴァプラが、まるで天からのプレゼントが舞い降りたかのようにとある策を思いついたようだ。演技臭い考え方してでも真剣に意見をねじらせたようだな。

「ポスターですよ会長。床や壁全体に、我々善魔生徒会の活動を示したポスターを張るのです! そうすれば悪魔共は嫌でもそのポスターを見て、我々の活動を知ってもらうんですよ」

別に床にまでも張る必要はないと思うが、立派な意見であることに変わりはない。沈黙の闇を照らす一筋の光のような意見だ。だが具体性がない。

「悪い。そもそも聞くが、善魔生徒会の活動って、具体的になんだ?」

まだ入会して一日も経っていない俺はそもそもの善魔生徒会の活動目的を知らない。最終目標は魔界を変えることだ。目標は先の目的であって、目の前の目的を俺は知らない。

「ちょっとレハベアム。あなた何のために生徒会に入ったのよ。それを知らずにここに来たわけ?」

セーレが俺を睨み付け、辛辣に述べる。

「この魔界を変えることだ。だがそれはあくまで最終目標に過ぎない。俺は単純に善魔生徒会の活動の意味を知らないってだけだ」

「活動の意味い?」

「何のために善魔生徒会って組織があるのかってことだ。組織は目的や目標があって、それを達成させるためにヒトが集まっているもの。ウァサゴ、ここの活動の具体的な目的はなんだ」

「ヒト助けよ」

ウァサゴは淡々と答える。間髪入れず次に答える。

「私とシトリーがあなたを助けるために活動したように、私たちの活動の意味は困っている生徒を助けるということよ。これこそが善魔生徒会の活動の基本的理念」

俺はウァサゴらに助けられた覚えはないが、俺のことを見捨てず、仲間として迎えてくれたことは一応感謝している。確かにウァサゴと俺が出会ったキッカケというのは、俺という孤独の人間を助け、迎え入れるために入会を強引的に勧めてきた。だがそれは、俺が魔界を滅ぼす未来を知って、滅ぶ未来を変えるために入会をさせて、俺の心を変えようとした。このウァサゴの言動に善魔生徒会の基本的理念に一切のブレはない。

「だったら決まりだ。困っている悪魔を助けてやればいい。助けたことで俺みたいに心を変えてくれるかもしれない」

善魔に救われた者の証拠が俺だ。ウァサゴは俺の心を変えたことで魔界の滅亡を回避させた。それはつまり、ウァサゴが俺の心を変えることができなかったら、この魔界は半分だけ滅んでいた。心を変えたことで未来は大きく変わった。善魔の優しき心が人間の邪悪な心に光を照らした証拠だ。

 ウァサゴとシトリーは、俺の意見にその前果を分かっている確信的な瞳に変える。

「善魔がいたからこそ、この魔界に一匹の人間を救うことができた。それは悪魔にも同じことが言えるわ。困っている悪魔を救うことで、そのヒトや私たちの運命までも変えることができる。これの積み重ねが魔界を変えることに繋がる」

議論するまでもない。困っている悪魔に手を差し伸ばして救えばいい。シトリーは保健体育の授業で強姦されそうになり、バルバトスもアモンに殴られたが、俺は結果的にふたりを助けた前果がある。そのように強い悪魔に淘汰される弱い立場の悪魔を助けることはできるはずだ。

 シトリーはホワイトボードに『基本的理念~ヒト助け~を実行する』と記す。きちんと書記の仕事をしているな。弱虫だが根は真面目で行動力も備わっており、えらい。

「さっきヴァプラがポスターで活動を知ってもらうと言ったな。それを利用しよう。ポスターで善魔生徒会の基本的理念、ヒト助けをアピールしよう」

「レハベアム君。俺先輩っすからタメ語はやめてほしいです。先輩としての自覚が……」

「そんなことはどうでもいい」

「ええええ、そ、そんな……」

勿論多くの悪魔からポスターのアピールで蔑まれよう。馬鹿にされよう。でも一握りの可能性を信じて、困っている生徒を、弱い立場に立たせられる悪魔を救おう。そしてこの機会に足を洗ってもらい、心を変えていく。

「となると、早速絵の準備が必要ね。この中に誰か絵が上手いの居る?」

ウァサゴが仕切るが、誰も手を上げなかった。そうか、画力は皆自信ないんだな。

「……一応、俺中学生の頃、美術も五だったが」

「美術『も』ですか……」

「しかも五。嫌味かしら。噂では聞いてたけど勉学に関してはエリートね。これはヴァプラ。学習委員をレハベアムに譲った方がいいんじゃない?」

セーレの相変わらずの毒舌にヴァプラはグサッと心に刺さる。そうか、隣の中二病は学習委員なのか。なんか似合っていないような。むしろ中二病という存在だけで学習を改悪させているような。

「そうね。この際だから学習委員をレハベアムに変えましょうか」

「ええええそ、そんなあ!」

挙句ウァサゴの天然な性格による裁きの鉄槌がヴァプラを潰す。生徒会長にさえ見捨てられる先輩、か。なんか虚しいな。シトリーは黙々と、ホワイトボードに新学習委員と書いて、その下に俺の名前を書いた。

「よし、じゃあレハにポスターを任せましょう。あなたの画力を信じているわよ」

「本来なら言いだしっぺがやるべきことだが、俺に一任する以上仕方ないな」

「レハ後輩が嫌味を言うなり、セーレ先輩は毒舌言うなり、ウァサゴ会長も学習委員を解雇させるし、俺をイジメてくるんすけど」

「ヴァプラさん。きっとあなたにも明日は来ますよ。きっと」

「シトリー……お前が救いだあっ!」

「おっと、私はヴァプラさんそんなに好きではないので」

「ガビーンッ!」

両手を上げて飛ぶように背伸びして驚く。隣の俺までその派手なリアクションに驚かされる。トドメを刺されたヴァプラはその後、落ちるように顔を机に下ろし、そして泣いた。涙がぎゃんぎゃんと滝のように流れている。そんなに傷ついたか。

「で、だ。どんなポスターに仕上げる。一応意見は聞いておこうか」

「戦隊っぽく描くのはどうでしょうか」

書記のシトリーが意見を述べた。

「ほら、善魔生徒会は困っている生徒を救う、いわばヒーローですから」

「……なるほど。しかし俺たち高校生だぞ。そんなダサい真似をするのか?」

すると隣の中二病が顔を上げ、俺の目元まで顔を近づけられた。

「今、ヒーローを侮辱したな貴様!」

俺の耳元で怒鳴り、唾が凄い勢いで俺の顔全体にかかる。ヴァプラにしては鬼気迫る勢いだ。何か触れてはならない心理に触れてしまったらしい俺は。

「俺たちは魔界で悪魔を救う、いわばダークヒーローなんだぞ! カッコイイだろうが!」

そんな単純な理由で怒鳴られる気分にぜひなってほしいものだ。だが案外それもありな気がする。希望に満ちた感じで白や光の描写をすれば、弱い悪魔もドン引きして救済を求める気にすらならない可能性がある。善魔を除けば悪魔は希望や白、光は苦手だ。

「分かった分かった。ダークヒーローっぽく描けばいいんだな。たくっ……」

あれこれ喧しい奴だこいつは。少しは沈黙を貫くセーレを見習ってほしいものだ。

「ヒーローっぽく描くのなら、私たちのポーズも決めないといけないわね」

「そうですなウァサゴ先輩! 我らのカッコイイポーズで悪魔を酔い痺れさせましょう」

ウァサゴの提案に激しく同意するヴァプラ。するとヴァプラが立ち上がり、厚く太い翼を展開させる。そして両手を外側に広げ、中指の先端をおでこの前にくっ付け、何かしらのポーズを決めた。

「俺のポーズはこれだ。ふふんカッコいいだろおっ!」

「お、おう……い、良いんじゃないか」

どや顔で誰もしないような個性的なポーズをされても反応が困る。とりあえず良いとは言ってみたが、正直そのポーズダサい。

「だったら私は……こうだ!」

続いてウァサゴがノリに乗り、左脚と両腕を真上にピンと伸ばし、手首を左右に曲げた。

「善魔生徒会長の全力のポーズよ!」

「……パンツ見えているぞ」

ピンク色の肌にピンク色のパンツが履かれているのが分かる。ミニスカートの状態で左脚を上げると、むしろ意図的にパンツを見せている恰好に見える。それは破廉恥だ。風紀に違反している。

「うおおおお、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

一方隣の中二病は、そのポーズに感動をしているのか女性のパンツ丸見えで感動しているのか、瞳を輝かせて雄叫びを上げた。

「あらやだ失礼」

左脚を中まで下げ、膝を曲げた。これでパンツは見えなくなった。がしかしなんだ、ウァサゴのポーズも正直にダサい。

「さてレハ。私のポーズを覚えていてね」

「むしろ印象深いからな。暗記は容易い」

ヴァプラにウァサゴ、なぜポーズにセンスがないのだ。ほとんどありきたりなポーズではないか。かくいう俺もポーズに自信はない。どう決めて恰好をすればいいのやら。

「次はシトリーよ。どうポーズするか決まった?」

「え、えええええええええええええ! ま、まだ……その……心の準備ってものが……」

表情を赤く染めて恥ずかしがっている。ヒーロー戦隊っぽく提案したのはシトリーだろうが。

「んじゃあ次、セーレ」

心の準備を整えさせる時間を与え、次にセーレに回す。がしかしセーレはそれを無視し、読書をした。

「セーレ。はいポーズは?」

「……ふう、ねえウァサゴ。アンタ恥ずかしくないの?今年で十八となる女が戦隊如きにはしゃぐなんて」

ウァサゴに目を向けず、ここでもツンがウァサゴに強く刺す。

「セーレ、私たちは善魔生徒会よ。ヒト助けが主本なのよ。確かにちょっと恥ずかしいけど、でもポーズを決めることができないようであればヒーローになりきれることはできないわ」

ツンに一瞬でも屈することなく戸惑いもなく、名言を叩き込むウァサゴ。流石にここは純粋にカッコいいと思った。

「流石姉貴先輩! 言うことがカッコイイぜ!」

ヴァプラがウァサゴの台詞に猛烈に感動し叫んでいる。そこの中二病は黙っておれ。

「ふん……くだらない」

セーレはくだらないと呟き、そのまま読書で無視して終わらせた。

「仕方ないわね。んじゃあ次」

そう言うと今度は俺に顔を向けた。セーレが終わればなんとなく今度は俺に回るだろうなとは予想していた。が、肝心なところで未だに良いポーズが思いつかない。っというより俺はセーレと同じ意見なのだが。正直俺もくだらないと思っている。しかしポスターのイラストを任された者として、くだらないと終わらせてしまっては意味がない。

 潔く立ち上がる。隣の中二病や生徒会長は俺を期待を込めた瞳で睨み付けてくる。仕方ない、ここはぶっつけ本番だがやるしかない。俺の歴史に恥じをつける覚悟でやらなければならない。

 右手にレメゲトンを召喚させ、掌に乗せる。それを持ったまま肘を中まで下げ、レメゲトンを読みやすい角度にさせる。そして左腕を前に伸ばし、掌に闇の魔力を込め、黒色の輝きを放出させる。

「……これが俺のポーズだ」

今までにないぐらい恥ずかしい。それどころか俺の黒歴史をこともあろうか善魔に知られてしまった。一生このポーズでいじられそうな気がする。素直にくだらないと終わらせてしまえばよかった。

 だが隣の中二病は涙を再び滝のように流している。

「ううおおおおおおおおおおおおおおおおおお、カッコイイ……カッコいいよおおおおおおおおおおおおおお……!! こ、これぞ……中二病のクリスタル……!」

猛烈に感動をし、訳の分からないことを言う始末。

「ええ確かにカッコいいわ。魔力を放出させてセンスを底上げしている点が良い。これぞ魔術師って感じね!」

「はい。レハさんったらポーズでもセンスがあって良いですわ!」

ウァサゴとシトリーの評価もきっちりいただいたところでこのポーズを解き、さっさと座る。とんでもなく恥ずかしかった。だがまあ結果オーライか。しかしなんだ隣の中二病は。涙が俺の机の範囲まで広がって肘すらつけることができない。

「うおおおおおおおおおおおおおん……たまらなくカッコイイ……ぐすっ」

「じゃあ最後はシトリーね」

飛ばしていたシトリーの番が回ってきた。

「え、ええええそんな……ど、どうしよ……」

まだ心の準備とやらが整っていない様子。

「えええい、やけくそですっ!」

そのとき、俺をチラっと見つめ、右手に魔術書を召喚した。そして右肘を下げ、読みやすい角度に曲げ、左腕を伸ばし、掌に魔力で創った真四角の薄透明な空間物を出した。

「それは……」

「レハと同じポーズ……?」

「おいパクるな」

魔術書を読みやすい角度に肘を曲げ、左掌に魔力の塊を出す俺が考案した魔術師の構えではないか。ヴァプラウァサゴ俺の豪華三本立てツッコミにシトリーは俺を見つめ、

「レハさんのポーズがカッコよくてこれしか思いつきませんでしたっ! ごめんさない!」

「お、おう……そ、そうか」

頭を下げて謝ってきた。そんなに俺のポーズがカッコよかったか。それは何よりだ。しかし無許可でパクるのはよくない。

「それ以外のポーズはないの?」

鞭を打つようにウァサゴはシトリーに問い追い詰める。

「その……あれこれ考えましたけど、どれも恥ずかしくて……でもレハさんのポーズはカッコいいしシンプルだし魔術師らしいですので、私も魔術師なのでパクらせていただきました」

まあ確かに空間を操る青色の魔術書を持つが、それでも俺が恥じ覚悟で考案した全力のポーズをパクるのはダメだ。流石のウァサゴも表情がよろしくない。

「ま、まあいいさ。シトリーも魔術師なんだ。俺のポーズを使うがいい」

仕方なく許可を下すと、シトリーは無垢な子供のように「やったあああ!」と両手を上げて喜ぶ。

「なんて器の広さ……! これぞ心優しき人間の人間味かっ」

また意味が分からないことを言いだしてくるので無視だ。

 さて、ヴァプラにシトリー、ウァサゴのポーズは覚えた。問題はセーレのポーズだ。唯一セーレがポーズを断った。ポスターのイラスト政策において一番の障害点だ。

読んでくださりありがとうございます。

 さて、レハベアムは善魔生徒会の一員となり、早速ポスターのイラスト制作を任されることになりましたが、果たしてうまくいくだろうか、今度の読みどころですね……!では、三話をお楽しみくださいましっ!

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