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ソロモン校長の七十二柱学校(打ち止め)  作者: シャー神族のヴェノジス・デ×3
第一章 黒獄の天秤編
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十三話 救出

 

 場所は獄立ゲーティア高等学校から数キロ先北にある、古びたビル。あそこにアモンとウァサゴがいるのか。俺たちは手前に建つ壁に寄り、顔を少し出して様子見する。出入口前には銃や剣を武装した部下らしき姿が複数。ビルの出入口に立ち、守っている。出入口を突破しないと先には進めない、か。

「どうしますレハさん。あの人数、とても進めませんよ」

「なら殺すだけだ」

「殺す? あっ、なるほど。あの魔法ですね」

俺はレメゲトンの本背を右掌に置き、第三部を開き、詠唱する。レメゲトンから紙々が分離し、紙ドクロに形変えていく。浮遊する紙ドクロの群れはビル出入口に突っ込む。

「うお、なんだありゃ!」

出入口を守る悪魔達は紙ドクロの群れの奇襲に身構える。紙ドクロたちは口に闇を溜め込み、レーザーを放出させる。レーザーは次々と悪魔たちの体を貫き、

「ぐあああっ!」

「応戦! 応戦しろ!」

混乱と死の淵へ陥れる。増援に来た悪魔たちは拳銃を構え、紙ドクロの群れに向かって撃つが、大勢の群れには敵わず逆にレーザービームに撃ち抜かれていく。悪魔たちは次々と倒れていき、血を流していく。

「さっ、行くぞ」

この間に出入口へ強行的に突破する。

「え、ええ、わ、私もですかっ!?」

ウァサゴ救出のため俺と協力したはずのシトリーが、古びたアジト目前に協力関係を確認する。

「この機に及んでまさかビビったのか?」

そりゃあ暴力団のアジトに突っ込むんだ。覚悟してもらわないと困る。

「で、でも心の準備が」

「準備なんぞ先にやっておけ」

仕方なくシトリーの手を握り、アジトへ突っ走る。

「あわわわわわわ! こ、心の準備がああっ!」

シトリーを引っ張りながら、レーザー放射する紙ドクロの群れの中から、応戦苦戦する悪魔の群れに突っ込み、倒れていった悪魔たちを踏み潰し、出入口の扉を蹴り開く。真っすぐな廊下を走り、ひたすら前に進む。廊下の横に、上り行きの階段を見つけ、駆け足跳び足で階段を上がる。踊り場にて拳銃とナイフを持った悪魔二人と遭遇し、

「出た、人間だ! こいつを殺せえ!」

ナイフを持った悪魔が俺に間合いを詰めてくる。対する俺はシトリーの手を離し、突いてくるナイフを横に回避し、仕返しにレメゲトンの表紙を顔に当て、次に回し蹴り。レメゲトンの表紙で殴られた悪魔はすぐに力が抜け、回し蹴りで吹き飛ばし、ノックアウトさせる。拳銃を持った悪魔は撃鉄を起こし、銃弾が俺へ放たれる。俺はレメゲトンの表紙で銃弾を受け止め、表紙に穴が開く。が、レメゲトンを横に投げ、拳銃使いの悪魔の腹に衝突する。同様にそいつも力なく倒れ、俺は走りながら跳び、右足底を顔に当てる。そのまま踏み潰し、同時にレメゲトンを拾う。穴と焦げ目がついた表紙は闇の修復力で自動的に直った。倒したところで次の階段へ上がる。続いてシトリーも必死に追いかける。

「運動神経良いですねレハさん。拳銃とナイフを持った暴力団組員に対し接近戦で勝つとは」

「まあ、これでも中学の頃は体育の成績は五だからな」

これでも喧嘩は大得意だ。全ては生き残るために魔法戦術だけでなく喧嘩術も身に着けていたのだ。中学生の頃の体育は喧嘩術を教える授業であり、俺は成績五を得た。

 階段を走りながら突き進み、そして大きな鉄製の扉の前に立つ。この先に暴力団長が居そうな雰囲気漂う扉だ。

「ノックは無しだ。このまま開ける」

右足底で扉の中心を叩きつけ、扉をバンと開ける。するとその先には、赤い立派な髭を携えた獅子顔の男が社長椅子に優雅に座り、横長な机に手の無い右肘を置いていた。

「よく来たな、人間。いや、レハベアム」

「アモンっ!」

奴の名を怒鳴り叫ぶ。招待状は確かに読み受け取ったぞ。

 室内は横に縦に広く、正直一人用空間にしてはやや違和感がある室内だ。だが赤い絨毯が床に敷かれ、左には身の倍ある石造が置かれていた。少しアモンの特徴らしき獅子顔がある。とても豪華な室内でもある。

 そして右壁には、とある誰かの両手足が壁に固定され宙吊りになっていた。

「バルバトスっ!?」

「ウァサゴ先輩!」

そう、二人三脚開催前に行方不明となり欠場となったバルバトスと、黒獄の天秤で俺と戦い、瀕死状態のウァサゴだった。二人とも気を失っているのか、力なく壁にへばりついている。

「二人は生きているんだろうな」

「さあな」

知らん顔をかますアモンは余裕たっぷりな態度を見せつける。

「少なくともウァサゴは、おめえが半殺しにしたんだろう?この生徒会長を黙らすなんて、案外スゲんだなおめえ」

アモンは社長椅子から立ち上がり、横長な机から右壁へ寄る。

「だが、感謝してるぜ。ウァサゴを弱らせてくれたんわよお。おかげでこいつを優雅に体を引き裂いて、フライングチケットを手に入れることができるぜ」

バルバトスとウァサゴの間に立ち、俺を睨み付ける。

「ふん、盗み聞きとは趣味が悪いな」

黒獄の天秤の約束をしたあの日、生徒会室外にはアモンが盗み聞きをしていた。だからフライングチケットがウァサゴの体内にあるということを知っている。

「お前を先に卒業なんかさせない。お前如きに人間界を荒らされてたまるか!」

暴力団を創立させるほどの悪魔が人間界に渡ったら、大事故や大虐殺は避けられない。何としてでもウァサゴを守り、アモンを倒さなければ。

「へっ、そんなに俺を、いや悪魔を人間界に行かせたくないのかい。だったら、この俺を殺してみなっ!」

赤髭のアモンの体から赤い炎が燃え盛った。続いて四つん這いの体勢になり、炎が大きくなるにつれて体も大きくなっていった。皮膚から火と毛が生え、炎に包まれた巨大な獅子へと姿を変える。

「ガオオオオオオオオオオンっ!! これが俺の真の姿だ。お前はこれからこの巨大な牙に脳天から噛まれ、炎で焦げる。そして美味しく頂いてやるよお」

怒涛の咆哮を上げ、巨大な獅子へ化身を果たした。こいつ、やはり獅子の化身者であったか。しかし体も大きくなる上に炎を身に包むなんて、ただの化身者というわけではないようだ。こいつが暴力団団長にしてゲーティア高校二年生の不良か。

「ひひいいいいアモンさんが本気に……!」

背後に立つシトリーの声が震えている。怯えているのがよく分かる。

「落ち着け。この俺がアモンに喰われると思うか?」

シトリーに声をかけ、安心させる。左腕をシトリーの前に伸ばし、手出しはさせない。

「レハさん……」

「お前は俺を信じて下がれ。……いや、俺が奴の注意を引く。その隙にお前があの二人を助けろ」

後方に下がれと言ったとき、ピンと策を思いついた。俺がアモンの注意を引いている間にシトリーがウァサゴとバルバトスを助けてやればいいのだ。そうすれば二人を助けられる。

「そ、そんな……! で、でも、ウァサゴ先輩を助けられるのなら……よおし、頑張ります。生徒会書記の名に懸けてっ!」

不安で自信なさげのようだが、ウァサゴのことや生徒会員の威信にかけて、すぐに覚悟を決めたようだ。

 アモンの口から炎が溢れ出ている。今すぐにでも巨大な火炎が飛んできそうだ。

「まずは燃やしてやらああっ!」

アモンは口を開け、火炎を放射してきた。対する俺は冷静に魔術書レメゲトンの第四部を開き、詠唱する。

「我は、太陽を囲いし星座十二将の皇帝なり。我が支配を受け入れ、光を閉ざせよ。第四部『アルス・アルマデル・サロモニス』」

左手に闇の塊が生まれ、前方に壁を創る。火炎は闇壁に衝突するが、闇壁は一向に燃えず、ただひたすら火炎を受け止めている。

「な、なんだあの壁。なぜ燃えねえ」

第四部の闇は触れるもの全て、能力に加えて魔法までも無力化させる。口から放射された火炎は闇壁に触れ、そして無力に変換されている。アモンは火炎放射をやめ、次は三足で壁に向かって走り出し、左手の燃える爪で抉り掻いた。壁はいとも容易く砕け散り、その瞬間爪を包む炎は消えた。俺は闇の操作で空中を舞う破片を針に変え、針先はアモンの左手へ伸び、そして刺した。

「いってええっ!」

アモンは左手を払い、遠心力で針を抜く。ポロポロと落ちる針たちを操作し、落ちた針を広げ、その場を闇床にさせた。アモンの足元に広がる闇床から、太い針が放出され、右手の切断面に直撃する。

「ぐああああああああああああああっ!」

アモンは後退し、左手で切断面を突いた針を抜いた。切断面から赤い血が流れだしていく。

「てんめえええ! 不気味で奇妙な魔法使いやがって! もうあったまきた!」

一度消えた体の炎が燃え盛り、三足で俺に向かって走り出した。突進か。闇床から壁を生やし、俺を守る。アモンは闇床を踏み、全身を包み炎が消えた。だが、頭突きで突進してきて、闇壁を粉々に打ち砕いた。空中に散る破片をもう一度針に変え、針先をアモンの顔へ伸ばす。しかし、アモンはこの攻撃を読んだか、咄嗟に後退し、針々の突きを避けた。そのまま針々は落ち、闇床に変える。

「お前のその自在に動く闇の物体、触れたら俺の炎が消えるんだな」

「ああ。お前がおれを焦がすなんてことは無理だってことだ」

流石に猪スタイルの脳筋ではないようだ。きちんと奴も冷静に戦状を見極めている。

「だったら、このまま物理的にやるだけだああ!」

再びアモンは俺に突進し間合いを詰めてくる。やはり、策も無しに突っ込むことしかできないようだ。だったら、お次は第三部を詠唱して、蜂の巣にしてやる。

「我は、太陽の道にて死した三百六十星の屍なり。魂兵の憎悪を受け入れよ。第三部『アルス・パウリナ』」

レメゲトンから紙ドクロの群れを放出させ、天井付近に配置させる。そして一斉にレーザービームを放つ。対するアモンはレーザービーム放射の線々に急ブレーキをかけ、左に避ける。だが、右壁に配置させた紙ドクロの群れからレーザービームを真横に放ち、線々なる複数のレーザービームはアモンの左半身に全て直撃する。

「ぐああああああああああ……!」

傷穴から奥の壁が見える。それほどの貫通力に加えて的が大きい肉体。その分当たりやすくなり、全て受けてダメージは大きいだろう。しかしアモンは倒れるどころか耐え抜いてみせた。

「魔法は他にもあんのか……くそ厄介だな!」

しかしアモンは左に避けたことで、壁に吊られる二人から距離を離した。

「よし今だ、行けシトリー!」

「あ、はい!」

シトリーは右壁へ全力疾走した。今のうちに両手首を固定する金具を外せ。

「なに、そうはさせるかっ!」

アモンはシトリーに向かって突進してきた。だが俺こそそうはさせない。ウァサゴらの前に天井に浮く紙ドクロを整列させ、真下に向けてレーザービームを放射させた。アモンは急ブレーキをし、落ちるレーザービームの前で止まる。

「やろおおおお!」

本体である俺が死ぬか魔力が尽きるか、それ次第でウァサゴたちを守るようになってしまった。流石のアモンもレーザービームの守りに突っ込むことはできず、冷静に俺に突進してきた。対する俺はレメゲトンから更に紙ドクロの群れを放出させ、レーザービームを放射させる。アモンは線々なるレーザービームを避け、俺へ近づいてくる。左手を上げ、俺へ叩き下ろそうとする。俺は左へ避け、その肉球と鋭い爪は床へ叩き下ろされる。

「今だ……!」

下ろした巨大な左手に接近し、今のうちに第五部を開き、詠唱する。

「憎き大天使ミカエルよ。 光で死した死者の祈りを聞きたまえ。我の願いを叶い、滅びたまえ。第五部『アルス・ノウァ』」

俺の左手は血のように赤く染まり、毛がフサフサな左手に触れる。

「お前はこの手で、どれほどの悪魔を殺してきた……?」

紅の左手はマグマのように煮えたぎれ、そして、

「どれほどの悪魔の恨みを買った? その代償を知れ」

俺の左手から紅の衝撃波がアモンの左手へ響き、強烈な爆風が辺り空気を吹き飛ばした。

「ぐうああああああああああああああああああああああああああああああ……!」

強烈な闇の衝撃波は左手を圧し、亀裂が走る。

 第五部『アルス・ノウァ』は、相手が生体を殺してきた分威力が強くなる魔法。相手が殺せば殺すほど衝撃波は強くなる。殺害者によって今まで死んでいった生体の恨み、憎しみを集め、衝撃波に返す魔法だ。アモンはこの手で数々の悪魔を殺し、恨み、憎しみをたくさん買ってきた。その代償がこの威力だ。

 アモンは損傷した左手を使い、後退。左手首を曲げて床に下ろし、なんとか立ち耐える。これでアモンは二足歩行しない限り走ることはもうできない。だが休む間も与えない。既に紙ドクロの群れはアモンを包囲し、

「やれ」

左手で指パッチンし、レーザービーム包囲放射の合図をする。包囲する紙ドクロの群れは一斉に口を開け、レーザービームを吐いた。全方位から襲うレーザービームはアモンの肉体を貫き、串刺しにしていく。

「ぐあああああああああああああ、い、いてえええええええええええええ!」

さて、俺はこの間に第一部をゆっくりと開き、ゆっくりと落ち着きながら詠唱する。

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム 我は求め訴えたり。第一部『ゴエティア』」

俺の後方から紫色の魔法陣が出現し、魔法陣から七十二本の太く長い柱槍が出てきた。左手を中まで上げて、アモンを睨み付ける。

「最後は残酷に死ぬがいい。」

左手を下ろし、七十二本の柱槍は次々と放たれた。一本目はアモンの右肩を刺し、貫く。二本目は左腕を刺し、肉を砕いた。三本目は耳に刺し、四本目、五本目、六本目、七本目・・・次々と柱槍がアモンの肉体を刺していく。

「ぐはああああああああああああああああああああああああああああ……!」

そして七十二本目、最後の柱槍はアモンの脳天へ刺し、貫いた。

「……俺は訴える。それ相当の裁きを。」

包囲した紙ドクロたちはレメゲトンへ集結し、ペラペラのページに戻り、パンと閉ざした。そのとき、アモンの瞳は空虚と化し、横に倒れた。

 アモンは死んだ。これで人間界の未来は守られた。いや、まだ被害は薄くなっただけか。まだ悪魔はいる。人間界へ帰るためにも、人間界を守るためにも、俺は更に強くならなくては。

「レハさん!」

右の方角から俺を呼ぶ声がする。右へ振り向くと、シトリーが両肩にバルバトスとウァサゴを抱えて、俺に近づき、床にゆっくりと下した。

「どうしましょうレハさん。二人とも助けたのにまだ目が覚めなくて……」

しゃがみ、左手でバルバトスとウァサゴの口元に当てる。次に右手首を振れ、親指を血脈に触れる。

「……大丈夫だ。息はあるし正常に血液も動いている。二人は生きている。ただ気を失っているだけだ」

するとシトリーは喜び、盛大にはしゃぐ。

「よかった!でもどうやったら目が覚めるでしょう……」

「俺に任せろ」

レメゲトンを床に置き、バルバトスとウァサゴの右手首に親指を置き、俺の魔力を流す。俺の魔力が削れるが、二人の気を起こすほどの量はまだある。

「う……」

「うううん……」

微かに声を出し、同時に瞼を開けた。先にウァサゴが上半身を起こし、

「ここは……どこ?」

シトリーと俺を見つめる。バルバトスも上半身を起こし、辺りを見渡す。

「え、ここ……アモンの部屋」

どうやらバルバトスはアモンの部屋に入った記憶はあるようだ。ただ左頬に青い痣がある。きっと殴られて気を失ったのだろう。ウァサゴは俺と戦った最後で気を失い、連れ去られたことにも気が付かず、ここで目が覚めたってところか。

「あ、アモン先輩が……血塗れ?」

バルバトスは血塗れに倒れているアモンを見て、次に俺を見つめた。

「レハが……倒してくれたのね。」

隣のウァサゴもアモンの死体を見て、バルバトスの発言でアモンの死体を見て納得する。

「レハがアモンを倒したの?」

「ああそうだ。アモンはお前の肉体にあるフライングチケットを横取りする気でいた」

「……そう、だったの」

事の状況を素早く理解したウァサゴ。

「いえ、当然ね。レハならアモン如き余裕ね。だって、私の仲間だもの」

俺の瞳を見つめ、笑みを浮かべる。

「……黒獄の天秤で俺はお前に敗北した。フライングチケットを諦め、俺は生徒会入会となる。」

悪魔の大虐殺は半分成功したものの、魔界の滅亡は時戻しによって無かったことにされた。もうその時点で俺の敗北は決まった。潔く生徒会に入るとしよう。

「それに、お前の意思は俺には敵わないものだ。善魔の意思は確かに輝けるものがあった。俺にはないものだ」

認めよう。善魔の存在を。ウァサゴになら人間界の未来を託せる。なぜなら、ウァサゴは本気で魔界を変えたいと思う心が行動として現れていたからだ。でなければ時戻ししてまで魔界を守ったりはしない。そして、ウァサゴを見ているうちにいつの間にかこの俺の心まで変えた。この俺がウァサゴを守らなくては、と思わせたのはフライングチケットの横取りを気にした。それもある。だがウァサゴが死ねば人間界は永遠に苦しむことになる。俺は、素直な気持ちでウァサゴを守りたいと思い、ウァサゴに未来への可能性を賭けた。だから救出に協力したのかもしれない。いやそれ以前に、人間には、人間の人助けの心があったから、なのかもしれないな。だからあの時俺はバルバトスを救おうとした。俺が持つ人間の心は何かを救うことに必死のようだ。自覚はないのが不思議だ。

「俺はお前を認める。お前の未来の可能性に俺の命を賭けよう」

するとウァサゴはニヤリと右頬を上げ、右手を差し出した。

「じゃあ、握手。仲直りの握手」

今なら分かる。この握手に殺意はない。俺は確かに、この右手を掴み、握った。本来ウァサゴは瀕死のはずなのにこの手は温かい。優しさが伝わる温かさだ。

「よく言ってくれたわ。私とあなた、そしてシトリーでこの魔界を変えていきましょ」

「ああ。平和への可能性を提示し、悪魔共に悪の意思の脱却を」

「うん」

フライングチケットはそのまま胃袋の中で消えよう。俺が人間界へ帰るのは遅くなってしまった。だがその分この三年間ウァサゴと共に、可能性を提示する努力はできよう。自分の力で卒業するのが一番だ。

「あ、フライングチケットについてなんだけど……」

ウァサゴの手を離し、

「なんだ」

「実はあるんだよね」

「……は?」

そう言うと胸ポケットに手を突っ込み、差し出した。それは、飛行機が描かれ、飛行機には陸上のフライングを表す絵が描かれている紙だった。

「フライングチケット!なぜ」

胃袋の中へ消えたはずのフライングチケットがなぜウァサゴの手にあるんだ。

「私が飲み込んだのは偽物。私は端からレハが生徒会に入るということを信じてあえて嘘を言ったのよ。ごめんね」

「……お前!」

では、俺が本気でこいつを切断しフライングチケットを得ても卒業できなかったではないか。まさか本当に捏造品だったとは。それにはなから俺に勝利するつもりで嘘をかますなんてクレイジーだ。俺は本気の本気で殺すつもりでいたのに。

「だがそれはおかしいぞ。確か契約の箱入りだったでは」

フライングチケットの裏には赤い十字マークがあったはずだ。つまりそれは契約の箱を通した印だ。

「それも私が捏造した。なに、あんなマーク手書きでも書けるわ」

確かにマークそのものは簡単に書くことは出来る。っていうかそれだったら契約の箱の意味がないではないか。言われてみれば、チケットは俺に見せたとき、フライングチケットは既にウァサゴの手にあった。あの時点で本当に契約の箱を通したのか疑うべきだった。

「じゃあ、フライングチケットは最初から存在しなかった.......?」

それがもし本当なら都市伝説になるのも当然だ。俺はまんまと悪魔の嘘に騙されたわけだ。これは流石に前言撤回せざるを得ない。善魔の意思もやはりクソだった。

「そ、そんなに睨みつけないでよ。ほら、ちゃんと正式な物用意したから」

ウァサゴは袖から長方形の紙切れを出した。その裏には赤い十字マークが記されていた。それを俺に差し出した。

「それは.......!」

「ほら、これが真のフライングチケットよ」

フライングチケットなる紙切れを掴み、表紙を見る。絵は同様に陸上のフライングを表す飛行機が描かれていた。俺が見た捏造品とは全く同じの品だ。

「それは確実に本物のチケット。嘘偽りのない百パーセントのチケットよ」

安全性を強調しまくるウァサゴはにこやかに語り、その口調は根拠はないが何となく信ぴょう性はあるように感じた。

「.......本当に、そうなんだな?」

「ええ。こればっかりは真実よ」

信じるに根拠や確証はないが、とりあえず善魔の言葉に乗っかってみる。だが期待はしない。本気で信じて偽物だと裏切られたらその分のショックが怖いから。とりあえず俺は、一年で卒業(フライング)することができるチケットを遂に獲得した。人間界へ帰れるのにあと一年だ。遂にあと一年で人間界へ帰れる。そう思うと活力が湧いてきた。

「さて、体育祭も終わったし、生徒会メンバーも増えたし、これで全て一件落着ね。」

黒獄の天秤で俺は先に倒れて敗北。その後ウァサゴを救出し、俺は生徒会入会となり、そして真?のフライングチケットを獲得した。何もかも一件落着だな。

「くっ.......」

そのとき、めまいがした。くらっと視野が揺れ、意識を保つことさえ不可能になった。力なく体が重力に引っ張られて、床に倒れた。

「レハ!?」

「レハさん大丈夫ですか!」

彼女らの声も遠く遠くのように聞こえ、そして瞼も閉じるようになった。

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