12話:お引越し
投稿がだいぶ遅れて申し訳ありません!平成最後に3話同時投稿いたしますので何卒………
「さてと、座学の時間だが……お前達に一つ重大な知らせがある」
一時限目の授業。教壇の前に立つアルタイルは唐突に生徒達へと向かってそう言葉を放った。教室内はヒソヒソとざわめき出す。
「明日から二日は連合王国建立記念日の為、休みだったな。その日を利用してお前達は寮へと引っ越してもらう」
「「「「急にどうしたんですか!?」」」」
アルタイルの衝撃的な言葉にクラスメイトほぼ全員がハモってツッコミを入れてしまう。
「んなに喚くな……」
「いやいや!急に言われても困りますよ!親とかの了承だって……」
「心配するな。すでにもらってある」
アルタイルは束になった用紙を、飛行魔法を用意て各生徒達の机の上へと一枚置いていく。
「これって……」
「王家の紋章じゃ……」
獅子がをモチーフにに描かれた家紋はクラス全員を驚かせるのに十分なものだった。なにせ、王家から直々の用紙をもらうのは彼らにとって生きている間でもほぼ無いに等しいと思っているからだ。
「今日、自宅に帰ったら、お前らの親は泣いて出迎えてくれるだろうな」
アルタイルの言葉に誰もが沈黙してしまう。全員が彼の言葉の意味を理解してたからだ。王家から送られた物は栄光の証。つまり、誇りある名誉だということだ。
王家を崇拝するこの国には、王からの言葉、贈り物は宝物のだという概念が深く根付いている。
「時間は自由でも構わないが、持っていくものだけ持ってその用紙に描かれている地図の通りに来い」
「「「「は、はあ………」」」」
「話はここまでだ。授業を始める……」
この時、誰もが思ったことだろう。
宝になるくらいの王家から授かった紙を、この男はどうやって貰ったのだろうと。しかも、それを貰って普通のままでいられるというのが信じられなかった。むしろ、それは当たり前かのように行動を崩さずに授業を始めるものだから、誰もが動揺してしまう。
「ね、ねぇ……先生ってもしかして王家の関係者なのかな?」
「分からない……でも、本当は円卓の騎士の一人だったかもしれないわ……」
「そうかもね……」
聞いてみようかと思ったシャロンだったが、多分答えないだろうと一瞬で判断してしまった為、授業に集中するのだった。
「ただいまー」
「あら!お帰りなさい!シャロン!」
今日の授業が終わり、リアナと別れを告げたシャロンは北の郊外近くにある自宅へと帰宅した。家のドアを開けるなり、なにやら喜ばしい表情をした母親が出迎えてくれる。
「ど、どうしたの?お母さん」
「どうしたもなにも、王家の方からお手紙が届いたのよ!」
まるで子供のように騒ぐものだからシャロンは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
そんな母の声が響き渡ったものだから、二階から数名ドタドタと階段を降りてくる音が鳴り渡ってくる。
「あっ!お姉ちゃんだ!おかえりー!」
「かえりー!」
「どうしたの……って、お母さん!なんで泣いてるの!?」
母の後ろからひょこっと姿を現したのは、シャロンよりも背が小さく、無邪気な笑顔をみせて姉の帰宅を喜ぶ男の子と女の子。
そして、シャロンと同じくらいの身長の女の子が嬉涙を浮かべる母の姿を見て、動揺を隠せずにいた。
「聞いてみんな!シャロン宛に王家から手紙がとどいたのよー!」
「おうさまから!?」
「おねーちゃんすごーい!」
「お、お母さん!少し落ち着いて!」
ゆういつ状況を理解してくれている妹はなんとか母をなだめるが、下の弟や妹が便乗して歓喜を上げるため収まりがつかなくなってしまっていた。もはやプチお祭り状態。『今日はご馳走よ!』と、シャロン母は張り切っているのだから、もう誰も止められないだろう。
その光景を見て、シャロンはこのまま苦笑すればいいのかため息を吐けばいいのかわからなくなってしまう。
(確かにあの男の言う通りになったわね……とんだ、ありがた迷惑だけど)
「あら!寮に引っ越すの!?しかも明日!」
「随分と急だね」
「本当にそうよ。一体、どんな手を使えば国家権力を行使できるのかしら」
「もしかして、お姉ちゃんが言っていた新しい講師さん?」
「ええ。冷静無愛想。しかも、言葉はいちいち辛辣だし………」
「でも、腕は凄いんだよね?」
「それだから、文句も何も言えなかったのよ」
紅茶を一口飲んで、喉を潤すと深いため息を吐いた。
唐突に決められたことなら反対はできるのだが、国家権力という最上級の力を使われてしまえば市民は口を閉ざしてしまうことだろう。
事実。アルタイルが王家からの令状を出した時、誰も反対するものはいなかった。つまり、アルタイルは生徒達に反対されないよう王宮の力を行使してきたのだ。
「たかが寮に引っ越すためだけに王宮の力を使うなんて、どんな神経してるのかしら」
「でも、それくらいお姉ちゃん達のことを気にかけてるんじゃない?普通ならそこまではしないよ」
「確かにそうだけど………」
「それよりも。王宮の力を利用するなんて、その講師さんって凄い人なの?」
「よくわらかないのよね………本人はそういう事、一切話さないし」
たとえ、王宮に使える人物であっても身元については話さないのが普通だ。シャロンや生徒達もそれは理解している為、こちらからアルタイルの事については追求していない。
「大戦に従軍していたことだけは話してくれたのよ」
「そうなんだ」
「はぁ。明日が鬱だわ……」
頬杖をついて天井を見上げる姉の姿を見た妹は只々苦笑いを浮かべるしかなかった。
「へぇ~……シャロンの所はご馳走だったんだね。なに?ターキー?」
「この国なら想像つくでしょ……」
翌日の早朝。鬱になるシャロンの横にリアナはニコニコしながら、アルタイルに指定された寮まで歩いていた。
片方の肩には衣服などが入ったバッグをかけているため、重みのせいもあってか、歩くのが苦行となっている。
「そうだね。私の家もターキーだったよ。わざわざ奮発してクリストファー州産をお父さんが大急ぎで買ってきてね」
「うちも似たようなものよ。お母さんが伝書鳩を使ってお父さんに買わせに行ったのよ」
シャロンの父親はロンダム内の郵便局に勤めており、仕事が終わりいざ帰ろうとなった時にシャロン母が放った伝書鳩がご到着。仕方なく自転車で買いに行くも、何故かターキーだけは売り切れが相次いでおり、トライアスロン方式に走る羽目になっていてそうな。語り出すと長くなるのでここは省略させていただく。
「はぁ……せっかくの休日だっていうのに……」
「まあまあ」
祝日を利用して買い物などに行きたかったシャロンにとって、今日という日は鬱以外に表す言葉がなかった。
そのことを察しているリアナは苦笑しながらシャロンを宥める。
「でも、寮なんて私達じゃ考えられないことじゃない?」
「そうだけど……なんでリアナはそんなに楽しそうなのよ」
「えっ?だって寮生活に憧れてたから嬉しくて」
満面の笑みを浮かべながらそう言うリアナを見て、シャロンも釣られて思わず笑ってしまう。あまり素直な性格とは言えないシャロンは内心、リアナの言う通り寮生活には少しだけ心が浮いていた。
「あれかな?」
街中の一角に貴族が住んでたと思わせるような大きい建物が立派に建てられていた。
「ほ、本当にここなの?」
「うん。地図だとここみたい」
シャロンが疑問を浮かべるのも無理はない。二人が学院へ通学する時にも通る道なので、ここが誰の建物か分かっているからだ。その為、指定された建物まで来るのに苦労はしなかった。
「いつもの近衛さんはいないね」
赤い軍服を着た近衛がいるということは、そこは王宮が管理してますよという証拠だ。つまり、この建物。王宮御用達の建物なのだ。
「外から声がすると思ったらお前らか」
すると、突然上の方から声が聞こえ、二人は一緒に見上げると、
「うわっ!?せ、先生!」
二階の窓からシャロン達を覗くアルタイルの姿があった。
「時間は自由でいいと言ったが……まさか、こんなに早く来る奴がいるとはな」
今日は祝日のため、誰もがダラダラとやって来るだろうと思っていたのか、アルタイルは少し感心したかのように二人を感心した。
「ということは……」
「お前らが一番乗りだ」
「てか、先生。何ですか?その格好……」
シャロンの目にはローブを着たアルタイルの姿は映されていたが、違うといえば鼻から口元にかけてフェイスマスクをつけていることだろうか。側から見れば盗人か暗殺者にしか見えない。
「んなもん、掃除してねーとこんな格好しねぇだろうが」
(ローブ着て掃除する人なんていないわよ)
「まあ、いい。さっさと入って、自分の部屋を確認しろ。荷物を置いたらホールに来い」
アルタイルはそう言うと、部屋の中へと体を引っ込めてしまう。
「本当にマイペースというか……」
「と、とりあえず入ろっか」
リアナは不機嫌なシャロンを促しながら、寮の中へと入って行くのだった。