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賢者の弟子と落ちこぼれクラス  作者: 仲村リョウ
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11話:夢の中にあった現実

「敵が来てるぞ!!」


四方八方から立ち上る煙で雲は太陽を遮った。その下では地球上の命運をかけた種属達の大きな戦いが行われている。

宙を舞って落ちてくる迫撃砲の弾や大砲の弾は地面を抉り散り、飛び交う銃弾は肉体を貫く。

連合国は祖国を取り戻す、又は守る……そして、戦いを終わらすべく戦った。南同盟国は人類を駆逐し世界を支配する目的で戦った。

この大戦には両軍の塹壕の間に無人地帯と呼ばれる場所があった。そこに足を踏み入れてしまえば最後……両軍の兵にとって突撃という言葉は地獄そのものだ。

特に西部戦線の塹壕には数百メートルのも無人地帯を挟み、お互いにらみ合っていた。連合国はマキシム機関銃を握りしめ南同盟国の進軍を抑止し、亜人族はいつ無人地帯を突破できて人間を駆逐しようかと様子を伺っているのだ。西部戦線の記録では二年が経っても数センチと進んでないとされている。


戦争の理由など表向きなら何とでも言える。混沌と化したその場所は正義も信念もない憎しみと憎しみのぶつかり合いだ……


アルタイルもその事実を知る一人だ。彼はヴィヴが参戦したオブスキュラの森の戦いより少し前から戦っている。


1904年5月21日……サルワートル防衛戦


劣勢に陥っている連合国はサルワートル共和国方面から進軍する南同盟国を阻止するため部隊を送り出す。サルワートル共和国が陥落すれば、西部戦線の連合国側はたちまち包囲されてしまい敗北が決定される。また、連合王国もその戦いを機にして参戦したため、進軍ルートの確保も用意られた。

この戦いは世界大戦の中でも過酷な戦いの一つと言われている。サルワートル共和国軍の軍力と連合国側の軍力を足しても、勢いを増している南同盟国軍には及ばない。銃弾を受けても進みつづけるオークの集団。魔法を盛大に使い弾幕をはる魔族。弾薬も兵器も食料も不足する中でも連合国側は10日間も戦い続けた。

しかし、好転する事もなく撤退を余儀なくされた11日目の夜……それは起こったのだ。

撤退する兵士達とは逆方向に進む黒いローブを着用し、フードを被って目元を隠した一人の男。誰がどう見てもただの民間人ではない事はわかった。男は止まるよう促す兵士の腕を払いのけ南同盟国軍が占領した街へと進み続ける。呼び止めても止まらないその姿を見た上官はしまいに放っておくよう指示を出した。気が狂ったのか知らないが死ににいくのだろうと思ってのことだったらしい。だが、上官は彼の着ているローブの背中部分に描かれている模様に違和感を感じ再び振り向く。そこには円卓の模様が描かれておりその一番下部分には六角形の中には赤色で染まっていたという。

男は敵の占領地へとたどり着くと、問答無用で魔法弾が彼に向かって飛んできた。誰もが死んだと思ったその光景だが、一瞬で兵士達の目は見開いた事だろう。なにせ、男はまるで子供が投げてきたボールを弾くかのように簡単に払いのけたのだ。建物に着弾した魔力弾の威力は手榴弾の威力より少し大きいほど。


「ちっ……この程度か……」


などと声を漏らした。兵士達が聞いていれば呆然と立ち尽くしていたに違いないだろう。

だが、南同盟国軍の魔法部隊もそれを見ていたのか、男へ向かって集中砲火を浴びせた。それと同時に男は敵陣へ向かって走り出す。飛んでくる魔法弾や鹵獲されたライフルの銃弾が飛び交い、男は弾道が見えてるかのように器用に回避したり弾いたりしながらついには敵の懐へと入り込んだ。

男が敵陣へ入り込んでからは南同盟国側はパニックに陥ってしまう。無詠唱での魔法を発動しては落ちている銃剣付きのライフルを片手に持ち、格闘または槍のように突いたり刺したりと器用に一人で無双を繰り広げたのだ。それを見た連合国軍は士気が高まり、突撃を始めたのだ。


結果、サルワートル防衛戦は奇跡の反撃により連合国側が勝利を収めた。

その後に撮られた一枚の写真がある。瓦礫の上で上官の兵士と一部の突撃歩兵部隊達が戦場の流れを変えた男と一緒に誇らしげに立っている。しかし、男の表情はどこか面倒くさそうだった。


それが、後に英雄となるアルタイルの初陣であった……



またあの夢かと思い、薄っすらと瞼を開けていく。天井は豪華な作りで真ん中にはシャンデリアが吊られており、ギリスが用意したホテルだとアルタイルは認識し、現実だと実感した。

別に精神が病んでいるわけではないが、あの大戦を忘れるなと言わんばかりにアルタイルが関わった戦いを夢で見ることがある。死んでいった兵士や殺した南同盟国軍の亜人族まで鮮明に覚えている。戦いによっては血まみれになった自分まで思い出すのだ。

いつ見ても嫌な夢であることには変わりなく、額には汗をかいている。

実際、悪夢のようなものに変わりはないため、思わずため息を吐いてしまう。


「「おにーちゃーーん!!」」

「ゔっ……!」


アルタイルの腹部に突然強い衝撃と痛みが走った。


「お前ら……」

「起きろー!」

「お、起きろー……」

「毎度毎度……やめろって言ってるだろうが……」


お腹の上に乗る二人の妹、アラナとロキサナを不機嫌な目で睨みつけるアルタイルはどこかご立腹な様子だ。


「えー……起きないお兄ちゃんが悪いじゃん」


そうは言っても、アルタイルは時計を見るなりため息を吐いてしまう。


「おい。まだ四時半だろうが……」

「もう朝だよ?」

「せめてあと一時間後に起こせよ」


朝に弱いというわけではない……アルタイルは毎朝五時半に起きるのだが、放浪という時間的に不規則な生活をしていた彼女達にとってはそんな事はどうでもいい話らしい。昨日には4時15分頃に起こしてきた為、彼女達がアルタイルに飛び乗ってくる時間帯は常にランダムなのだ。


「だってぇ〜。都会ってやることないんだもん。暇だよぉ〜」


行動派のアラナにとって街という場所は暇な所らしい。たしかに気持ちは分からなくもないアルタイル。

少し前のことだ……森にテントを張っていた時。アルタイルが朝起きて外に出ると猪や熊などテントの前に置いてあることがたまにあった。これはアラナとロキサナの二人が協力して狩ったもので朝の運動がてら丁度いいらしい。別にいつも狩りをしているわけではないのだが、彼女達には街よりも自然の中で過ごしたほうがいいらしい。


「分かった……散歩にでも行くからそこをどいてくれ」

「「はーい」」


アラナとロキサナは言われた通りアルタイルのお腹から離れる。やれやれと思いながら半身を起こすと、仕方なくと散歩に行くために身支度を整えるのだった。



アラナとロキサナと共にホテルの外へ出ると日も出ておらず街灯もまだ明かりを灯している。身震いするような寒さにも襲われ、中にもう一枚着てこればよかったとアルタイルはほんの少し後悔する。

それに比べてアラナとロキサナはお互い元気よく走り回っており、たまに歩いて来る人には微笑ましい光景なのかニコニコしながら通り過ぎて行く。


「ジズー!降りておいで!」


空に向かってアラナはそう叫ぶと、バサバサと羽音をたてながら彼女のそばに降り立つ大鷹の姿があった。


「ロキサナ。餌持ってない?」

「うん。パリパリクッキーなら」


ロキサナが言うパリパリクッキーとは市販で売られている動物用のお菓子だ。


「あれ?お兄ちゃん!ジズの脚に手紙が巻かれてるよ?」

「ん?ああ」


アラナがジズに手紙が巻かれていることを教えられると、アルタイルは小走りで彼女の方へと駆け寄って行く。


「はい」

「ん」


アラナから手紙を手渡され、少しかじかんだ手で開いていく。

手紙全体には薄い王家の家紋が刻印されている。相手はギリスからのようだ。そのため、アルタイルが手紙に目を通した瞬間、文字が次々と浮かび上がってくる。


「ふむ……やっとか」

「どうしたの?」

「ああ。なに、学院のことだ」

「学院がどうかしたの?」

「なに。これからお前達に腹に乗っかられて起こされることないと思って安心してな」


えー……と不貞腐れる二人を苦笑しながら見つめ、


「そんな顔するな。喜べ。お前達に仕事ができたぞ」


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