「ワタシ、メリーサン、イマアナタノマエニイルノ」
あれは2年前の夏のことです。私は仕事が早く終わり、家でブラブラしていました。
リビングでテレビを見ている時、携帯にメールの着信がありました。
友達かなと思って見てみると、知らないアドレスからのメールでした。
誰だろう?また迷惑メールかな?そう思って開いたメールの文章。そこにはこう書かれていました。
「私メリーさん。今横浜にいるの。」
私は一瞬ギョッとしましたが、すぐ冷静さを取り戻しました。馬鹿馬鹿しい迷惑メールの類いだろう。それにここは練馬だ。横浜なんて全然関係ないじゃないか。
数分後には私はそのことを忘れ、テレビを見てケタケタっ笑っていました。
だがしかし、またメールが来ました。またアイツからでした。チッしつこいな。
「私、メリーさん。今首都高に乗ったの。」
私は吹き出しました。なんで幽霊が首都高に乗るんだよ。いい加減にしろよ。私は着信拒否しようかと思いましたが、面白いのでほおってきました。
すると数分おきにメールの着信があります。
「私メリーさん。今首都高速1号羽田線を進んでいるの。」
「私メリーさん。今首都高湾岸線に入ったの。」
「私メリーさん。今大井料金所を通ったの。」
私は最初は笑っていましたが、次第に血の気が引いていました。練馬に近づいている・・。なんで俺の住所を知っているんだ?誰か友人のいたずらか?それとも・・・
「私メリーさん。今大井ジャンクションを中央道方面に向かって進んでいるの。」
「私メリーさん。今右車線を使用して西新宿ジャンクションを中央道方面に向かって進んでいるの。」
「私メリーさん。今首都高新宿線に入ったの。」
血の気が引きました。もうメリーさんは私の家と目と鼻の先です。次のメールが来た時、私は殺されているかもしれません。
そして次のメールが来ました。
「私メリーさん。あなたの家に着いたわ。着いたはずよ。着いたはずなのに、なんなの?あなたは高速に住んでいるの?さっきカーナビが「目的地に着きました」って言った場所。高速の上よ?どういうこと?不法占拠民なの?それとも国交相公認のホームレスなの?」
私は唖然としました。メリーさん。それな、それな、俺の家は「高速の下」なんだよ・・・だから古いカーナビ上では上下の概念がないから着いたことになっちゃうんだよ・・・。
思いのほか、メリーさんがアホで助かりました。私はホッとして、またテレビを見てゲラゲラ笑いだしました。
するとまた着信です。
「あっ!!わかった!!高速の下ね!!ふざけんじゃないわよ!!すぐ下道から行ってやるわ!!ブッ殺す!!」
バレました。いや勝手にあっちが騙されていただけですが。しかしそうなるとこっちもたまりません。本当にメリーさんだった場合殺されてしまいます。
すると、今度は電話の着信がありました。ヒェッ。さすがに声を聞くとなると恐怖は倍です。私は恐る恐る電話を取りました。
「おい柴田か?」
「ハイ・・・」
「馬鹿野郎!!今日お得意様に渡してきた書類ミスだらけだったらしいぞ!!すぐ出社して訂正しろ!!」
・・・・あれ?課長の声だ。メリーさんじゃない。
「あ、すいません。はい、すいません。分かりました。すぐ会社行きます。はい、申し訳ありません。」
私はホッとしていいのかよくないのか微妙な気分になりました。
ともかく私は車で会社に行くことにしました。あと数分でメリーさんが来る以上、ここにいるよりずっとマシです。
私は車のキーをさしてエンジンを入れ、出発しました。家を出て最初の信号で渋滞していたので、チラッと携帯を見ました。
またメールが来ていました。
「私メリーさん。今、目白通りのデニーズの前で渋滞に巻き込まれているの。」
ゾッとしました。目白通りのデニーズと言えば、今いる車線の反対側です。私は恐る恐る反対車線を見ました。
私は我が目を疑いました。
反対車線のデニーズ前の渋滞の中に一際目立つ車が停まっていました。紫のやたら車体が平べったい、ローライダーという種類のオープンカーでした。アメリカの映画とかで、良く怖いお兄さんが乗っている車です。
そのローライダーにめちゃくちゃガタイの良い黒人が乗っているのです。運転席横のドアに垂らした黒い丸太の様な腕が後ろの車のフロントライトに照らされて、怪しくヌメヌメと光っていました。
そして私は見てしまったのです。その黒人が、よく海外のラッパーが被るような帽子、ツバを折っていないベースボールキャップの様なものを被っていたのですが、その正面のロゴの部分に英語で
「Mary Sun」
と書かれていたのです!私は下半身がヒュンとなりました。アイツだ!!殺される!!絶対に殺される!!
予想していた恐怖とはまた違ったベクトルの恐怖でしたが、私は家を出て本当に良かったと思いました。そして、冷静に考えて、ヤツがあの女口調のメールを送ってきていることが本当の恐怖だと思いました。
しかしヤツは何者なんでしょうか。当然私の友達ではありません。幽霊?幽霊にしては物理的に詰まっているというか・・例えれば戸愚呂弟が魔法使いにジョブチェンジしている様な状態で宝の持ち腐れすぎます。
思いあたる節と言えば私が10社のカードローンと5つの闇金の返済に追われていることくらいですが、いつも来る怖いお兄さんに黒人はいませんし、だいたい直接金の催促をしないで意味不明のメールを送りつけてくる意味が分かりません。
やっと渋滞が解消され、私はデニーズ前の信号を通過しました。幸いヤツには気づかれずに済みました。いつでも私の位置が分かる本家メリーさん的な能力ば持ち合わせていないようです。
私は高速に乗り、会社に向かいました。
ふとその時思いました。
家に帰ったら奴がいる。今度こそ殺されるだろう。万が一奴がいなくても、借金地獄は変わらない。
丁度いい、逃げよう。しばらくどこかに身を隠して破産の申請を通せば全部チャラだ。書類の訂正するのも面倒くさいし。
ということで、私は夜逃げ同然で身をくらまし知り合いの家を転々としました。
あれから二年。全ての破産申請が下り、なんとか新しい仕事も見つけました。
元の家には行っていません。中から黒人が出てきたら嫌なので。
今、私は友人に連れられて六本木のバーで飲んでいます。こういう華やかな場所は久しぶりだ。六本木は外国人が多く、背の高い人達が英語で馬鹿騒ぎしている中で僕達日本人はチビチビ飲んでいる。
友達がトイレで席を離れました。すると向こうからガタイの良い外国人がやってきました。あれ、なんかデジャヴ・・あの人見たことある様な・・・黒人、帽子・・・
「Mary Sun」
「ワタシ、メリーサン、イマアナタノマエニイルノ」




