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死別健忘  作者: おしお
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第六話 三台目

 

 1月9日 22:00 自宅


 よく警察は任意で取り調べをする。問われた人は任意だから断ることも可能だが、頑なに警察は引き下がらないだろう。警察が取り調べをする理由は対象が圧倒的に怪しいからであって、対象としては自分が害のないものであったとしても対象として見られた時点で任意という言葉は拘束力を増すのだろう。


 そして、今の状況もそれに近しいのだろう。警察がここに来る理由など自分が行ったこと―――他人の家に入り込んで他人の物を勝手に拝借した事である。だからってここまで大げさな話になるだろうか。不自然な点はいくつかある。


 まず、警察が理由を述べないことである。任意同行させる場合は何かしらの理由の提示が必要なはずだ。だが、現状そのようなものは無い。次に、仮に理由が本を勝手に拝借した事だったとしてもその事実は一哉の母親にバレてはないはずだ。万が一バレてたとしても、その本こそが貸していた物であると勘違いするはずだ。


 そもそも、この男は任意で自分を同行させようとしているのだろうか。結局のところ、任意か任意じゃないかは分からないがここで警察に歯向かったとしても今後の生活に支障を来すだろう。今後の人生もある、友人の頼み如きに棒を振ってはならない。


 潔く同行しよう。玄関に重い足を進めていく。しかしだ、ここまで玄関が遠いと思ったのは初めてだ。足が歩くことを忘れたかのように言ううことを聞かない。あの男から滲み出る悪意を本能で感じているのだろうか。


 もう既に同行すると決めたはずだが、時間稼ぎなのかは知らないが普段は粗雑に靴を履いているにも係わらず、今は一段と時間を懸けて丁寧に履いた。わざわざ玄関に座り込み、普段絶対しないであろう靴紐を解き結び直す動作、そして、靴ベラを使ってきちんと履こうとした。とにかく先延ばしにしたかった、一度決めた事だが親知らずを抜かなければならなくなった時と同じような気分だ。


 内心、不安が自分を押し殺そうとする中とうとうドアノブに手が届き暗闇へと誘われた。空に星さえ見えずただただ暗く、今にでも自分を吸い込む勢いだった。友人が死んでも傷つかない自分の心もこの空ぐらい黒く染めあがっているのだろうか。


 男と共に車に乗る。いつもの街並みが車窓に写り、薄っすら自分の顔が見える。目を見つめると、目を逸らして空を見ていた。死んだ魚のような目をしてた。目の奥底に光はなく、ただこれから何が起こるのかと不安になりながらも友人の死から解放される喜びに浸っている、そんな自分の目からは精気を感じえなかった。これなら、死んだ人の記憶なんて忘れた方がマシだな、と心で呟く。


 男は廃墟の前で車を止めた。この町の辺境に廃れたビルがあるなど知らなかったが、ここに連れてきた理由がイマイチ分からない。本来なら交番か警察署のどちらかに行くと思っていたが一体どういう事なのだろうか。


 そしてようやく、男は重い口を開いた。


 「この車二台目だが、三台目も必要になるのか」


 三台目……一体どういう事なんだろうか。それを聞こうと思い口を開いこうとした瞬間、雷のような音が耳元で弾けた。そして、視界はテレビの電源が切れた時と同じようにプツンとブラックアウトした。


 デッドエンド

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