第五話 流星
なぜ警察が来た理由が思いつかない。普段から警察のお世話になるほど悪さはしてないし、そうだった場合は母親の呼びかけに反応しないだろう。では、今日の出来事なのだろうか。
今日は他人の家で他人の物を拝借した。それが果たして原因だろうか。一哉の母親には貸していた物を返してもらいに来たという名目で一哉の部屋に入り込んだから、そこは大丈夫だろう。そして、一哉の本を本人の了承なく借りたことは母親にばれてはないはずだ。バレていたら何かしら言われるはずだし、もし何も言われずに黙っていたらそれが自分が貸していた物だと勘違いするに違いない。それならば、やはり一哉の家に行ったことなのだろうか。
こう頭の中では考えたものの、よくアニメや漫画では心の描写は時間が止まっているかのようになっているが実際は違う。面接などで質問をされるが、あそこまで悠長に考えることは出来ない。
自分たちは、「現在」というブレーキのない暴走列車に「生命」という切符で乗り、「過去」という膨張していく始発点から「未来」という永遠に着くことのない終着点を目指して進む。「生命」が続く限り乗ることはできるが、誰も列車を止めることはできない。出来たとしても、禁止事項に追加されるのが落ちだろう。結局のところ、私たちは同じ列車に乗っている、それは同じ時間を共有していることになる。それをどう感じるかは人それぞれだが、同じ時間が流れていることになる。
考えている中、母親の尖った声が自分を現実へ呼び起こした。先ほど見た時よりさらに歪めている顔は今にでも自分を連れ出そうとしている。何かは分からないが、非常に怖いと感じている。ここは一旦逃げよう。
「行く前にトイレに行っていいですか」
今にでもトイレに行かないと漏らすぞ、と言わんばかりの顔をして何とかしぶしぶ了承を得てトイレへ行くふりをして裏口へ駆ける。心の中であの男に「もうお前の顔を見ねーわ」と啖呵を切りつつ、履きなれない運動靴に乱暴に足を入れて駆け出す。裏口を開ければ外は暗闇、携帯の検索履歴を元に携帯を片手で装備して走るその姿は正に流星だった。
1月9日 22時47分 廃墟ビルエントランス
そして、この状況だ。一哉の死体は至る所にネズミに噛まれた痕があり蛆まで湧いてしまった。不快感に正気度を減らして、消化しきれていない何かを嘔吐してしまった。ただ、凄惨な死体によるものであり一哉が死んだ事実にはどうにも思ってなかった。
これを見せるだけにここに呼んだのならサッサと帰りたい。しかし、一哉がここまで手の込んだことをしたのだ、何かしらあるはずだろうこの廃墟ビルには。あの男の事もあるし、一哉の死体は後で知らせるとして取り敢えずは此処を調べよう。
一階、二階を周り終えて三階へ向かう途中にサイレンが聞こえてきた。段々と近づく、自分の居場所がばれたのだろうかと考えるが、ここに来るまで幾多の監視カメラを通り過ぎた。バレるのも時間の問題だ。終わる前に終わらせよう。
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