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死別健忘  作者: おしお
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第三話 優しい世界

 1月9日 08:36 教室


 そうだ、別に一哉が居なくなったとしても自分の生活に支障を来すわけではない。あいつが勝手にいなくなって勝手に逝ってしまっただけだ。友人が死んだだけで探す義理は毛頭もない。みんなが忘れているように自分も忘れればこんなにも悩まなくていいのだろう。


 記憶があると不便だな、と心の中で思いつつ時間が忘れさせてくれる事を祈った。祈るのは金が掛からずに自由で済むから心の気休めに持って来いだ。例え祈りが届こうが届かないが、自分の気持ちを落ち着かせるために祈るのだ。だが、何故私は一哉のことを覚えているのだろうか。


 2月9日 08:10 登校路


 あれから一か月が経った。あいつの席はクラスから片付けられて、出席棒は新調されあいつの名前が消えていた。そして、あいつのことは自分の記憶から消えそうだった。日記はあれ以降書くのを辞めてしまった。忘れたいのに、思い出してしまうからだ。


 聞いた話だが、あいつの両親は此処から引っ越したそうだ。何の躊躇いもなく蜃気楼のように消え去った。一人で歩くこの道も今ではすっかり生活の一部だ。かつては、この道を誰かと一緒に歩いていたが……もうその誰かの名前さえ思い出す事はなかったしできなかった。


 それから、数か月と数年が経った。人は次第に嫌な思い出を忘れていった。良い思い出も忘れていった。そして、自分が誰かも忘れてった。やがて人は記憶という呪縛から解放され、無機質で傷つくことのない優しい世界へ包み込まれた。


 ノーマルエンド

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