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死別健忘  作者: おしお
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第二話 『どこでもドアを通った自分は自分と同一人物なのだろうか?』

 1月9日 08:36 教室


 自分が一哉を覚えている事に戸惑いながら、一哉の行方を捜す事を心に決意した。決意を胸に手掛かりを探す手段を考えた。まず、一哉の両親に一哉の行方を聞き込もうと思いついた。しかし、死別性健忘症により一哉の記憶など当に両親から消え去っているだろうと想像はついていた。


 記憶としては残ってないが何かメールといった記録として残っている可能性はあった。その点で一哉の両親に話を聞くという事は間違っていない。他にも、自分と同じで日記を残しているかもしれない。学校が終わり次第、一哉の家へ向かおう。


 しかし、一哉がいなくてもクラスは普通に始まり学校は普通に終わった。本当に不感症な世界だ。


 1月9日 16:47 青木家玄関前


 一哉が死んだことに何も感じない自分を尻目にインターンホンを鳴らす。数秒待つと「はーーい」と甲高い返事がやってきて、更に数秒待てば玄関のドアがガチャリと開いた。声の主は一哉の母であった。息子が死んだが記憶が無いおかげで平然と出迎えてくれた。


 自分の記憶がある一哉の母は丁寧に家へ迎えてくれた。一哉の母に家に来た要件を聞かれて、適当に貸していた物を取りに来たとデマカセを言った。要件を聞いて首を傾げながら、素っ気ない答えと共に一哉の部屋に案内された。母は自分の息子の部屋を無機質な目で見渡し、自分に息子がいて今の今まで生きていたという実感が持てていなかった。記憶が無いから仕方がない、と思いつつも愛していた―――大事にしていた人の記憶を奪うことは残酷なのかもしれない。


 一哉の部屋は綺麗に纏まっていた。特に之と言って何か変わったことはなかった。ただ、一哉は頻繁に部屋を整理整頓する趣味は持っておらず、一方でこの部屋は不自然なほど綺麗にに整理されていた。一哉の母に聞いたところ、朝無意識にこの部屋へやってきて散らかっていた部屋を片付けている最中に記憶を失っていることに気づいたそうだった。


 「なんであの部屋に行って掃除してたのかしら」


 そう母親はボソッと言った後に見つけるもの見つかったら教えてね、とこの部屋を後にして一哉の部屋に自分一人だけが取り残された。頭では忘れているが肉体は一哉のことを覚えていたのかもしれなかった。


 しかし、一哉の部屋の内装はいたって普通だった。普通の本棚、普通の勉強机、普通のベッド、普通のベッド下の本、とどれを取っても普通の男子高校生の部屋だった。それらを物色しても結局のところ何にも見つからなかった。長居しても迷惑だろうと帰ろうとした矢先、一哉との会話を思い出してみた。


 確か、消える前日に妙に本をお勧めしていた事を思い出し本棚をもう一度物色した。本棚には『どこでもドアを通った自分は自分と同一人物なのだろうか?』という本があった。一哉の母には悪いがこの本を少し借りるとしよう。この本の中身を調べるのは家で帰ってからとしよう。


 要件が終えたことを伝え帰ろうとした際に、母親に疑問を抱かれ質問をされた。


 「なんであなたは一哉……にものを貸していたことを覚えているの?」


 デマカセのつけが回りまわってやってきた。数秒の沈黙の内に頭をフル回転させて適当な理由を思い浮かべた。日記に一哉とのやり取りを書いていたという一般的な回答だった。そう答えると無事この状況を切り抜くことができた。


 玄関へ立ちドアノブに手をかけ挨拶する前に母親に昨日一哉から何かメールでもいいので連絡はありませんでしたか、と聞いたところ、そんなことは無かったと答えた。多分、これから会うことのない人々に挨拶をしてこの家を後にした。


 見送った一哉の母は自分がこの家までの道のりをどう覚えていたのか疑問に残っていたが、其のことは触れずに携帯を取り出し警察へ連絡した。


 (第四話へ向かってください)

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