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死別健忘  作者: おしお
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第一話 日常から非日常への分岐点

 自宅 1月7日 22:00


 ニュースが始まるときに鳴る効果音を聞きながら、私はソファーで寛いだ。画面の向こう側ではニュースキャスターと髪型が乱れた脳科学者とその他コメンテーターがずらりと並んでいた。


「2020年1月7日の今日は『忘却の年』から十年となります。人類を革新させたとも言われる奇病――死別性健忘症について今日は特集します」


 ニュースキャスターは喜々として語り、脳科学者に話を振った。


「今日は解説のために脳科学者の相川さんに来てもらってます。相川さん、そもそも死別性健忘症というのはどのような病気なんですか?」


「一般的には記憶喪失と何ら変わりません。しかし、違う点としては死別した人い関する記憶が抜けて落ちてしまう部分健忘だということですね。10年経っても原因が不明で有効な薬が開発されていないですね。」

 

 脳科学者は自分の出番に戸惑いながらも自分の責任を認識して答えた。有効な薬が開発されていないという答えとは裏腹に死別性健忘症になった人々は安心しているだろう。絶えず身近な人も遠い人も分別なく死んでいくこの世界で、死んだ者にいちいち目を向けるほど生きている人間は暇ではなくなってしまった。だから、死んだ者に対する気持ちが楽になる―――死んだ者の記憶が消えるこの病は一種の救いのようなものだった。一方で、社会と人々の考え方は変わった。人が死んでも社会は平然と回り、いくらでも死んだ者の替えがいるとでも言いたげに社会は変わった。死がチープなものへ成り代わったのだ。などと考えているうちに眠気が襲い、意識がソファーの奥底へ沈みゆく。そして朝がやってきた。


 1月8日 08:10 登校路


 頬に冷気が押し寄せてくる。眠気の渦にいる脳内を活性化させてくる、いつもの道をいつも通り進んで学校へ行く。そして、いつも通りあいつがやって来る。


 「お、今日も死んだような顔してんな」


 そう、誰だって朝は死んだような顔―――ゾンビのように学校という収容所へ隔離されに行く中、自分だけは違うと言いたげに嬉しそうに話しかけてきたのは一哉だった。妙に朝からテンションが高い。なぜ朝っぱらから元気がいいのかを聞いても意味がない。なぜならいつもこうだからだ。


 他愛のない会話と時間を過ごして学校が終わる。ただ、他愛のない会話に妙な違和感を覚えた。一哉が妙に『どこでもドアを通った自分は自分と同一人物なのだろうか?』という本をひどくお勧めしてきた。本を読まない一哉にとって何か魅力的なものでも感じたのだろう。


 「明日学校で会おう」


 帰り際に満面の笑みで述べた一哉は普段とは違う道で帰っていった。一哉が足早に向かうため、行き先は聞く由も知る由もなく私たちは別々の道を歩いて行った。


 1月8日 11:20 自室


 日課として寝る前に日記を書いている。人が死ねばその人に関する記憶が消えてしまうため、その人に関する情報は様々な媒体に残されている記録である。写真や映像、学校の出席棒や本人の戸籍がそれにあたる。ただ、それらの記録にはただ人の外見、生年月日、年齢といった表面的な事しかわかりえなかった。自分が死んでしまえば両親でさえ忘れてしまうが、こう日記を書くことで自分がどのような人間であるのか、ということが分かる。もし自分が死んでしまった際にせめてもの両親に対する恩返しと自分がここで生きていた証で、この世界に一矢報いたい意思の表れだろう。


 1月9日 08:10 登校路


 いつも通りの朝、いつも通りの道、いつも通りの一哉……かと思いきや一部違う朝がやってきた。一哉がいなかった。一哉がいない朝なんてセミがいない夏に等しい。嬉しいのか悲しいのか分からないが、それでも自分は学校へ足を進める。


 自分の教室へ足を踏み入れる。いつも通りの朝の教室、一哉がいない点を除けばだが。そして妙な面持ちして担任の先生が教室へ足を踏み入れた。先生の雰囲気に教室の生徒は黙り込んでしまった。そして、その第一声にこう述べた。


 「このクラスに在籍していた『青木一哉』だが行方不明で死んでしまった」


 その言葉を聞いた生徒たちは何事もなかったかのように平然としている、このクラスにおいて自分一人を除けばだが。何故かは知らないが「青木一哉」に関する記憶が全く消えない。顔や性格はもちろん、一哉との馴れ初めなんて忘れていない。内心戸惑いつつ顔では汗一つ書いていなかった。一哉が死んだ事実よりも一哉の記憶を覚えている事実に驚く自分が空しかった。


 親友が死んだにも係わらず平然としていられる自分は、結局この社会の一員であることを強く証明してしまった。そして、クラスも学校も世界も何事もなく回り始めた。


 だが、二つ心残りがある。昨日学校で会おうと元気に述べていた人間が行方不明になるのかと、何故一哉のことを覚えていられるのか。後者まだしろ前者は知る由があった。


 自分には選択肢ができた。


1、一哉の行方を辿る。(此方を選択する場合、第二話へ向かってください)


2、一哉の行方を探さずに普段通りの生活を送る。(此方を選択する場合、第三話へ向かってくだい)


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