プロローグ 死んでも私は忘れない
町外れの路地裏 1月9日 22時37分
満月が狂ったように笑ってこちらを見ている。路地裏をひっそりと照らす中、自分が夜の支配者であると言いたげに笑う。普段なら人々の怒号や喧騒が聞こえてくるがそれは一切聞こえず、代わりに聞こえるのは自分の荒い息と胸の鼓動と足音だった。まるで、自分だけが異世界に飛ばされたような感覚だ。
夜中に町を阿保のように走っている原因は友人の青木一哉のせいだった。一哉の死因に興味を持たなければこんな面倒な羽目にはならなかった。興味を持ってしまった私も悪いのだろうが、しかし一哉も一哉で悪い。死ぬ前日に元気満々で「明日学校で会おう」などと言って、勝手に消えてしまうんだ。昨日まで元気だった奴が急に死んだら誰だって興味は持つだろう。
頭の中で色々考えている中、足だけは止めずに走った甲斐があり目的地の廃墟と化した雑居ビルに着けた。内心目的地に着いたことにホッとする中、一哉が間違えた住所を指定してしまい無意味な努力と時間を過ごしている阿保がいた、というオチに怯えている。実際に間違えてたとしても一哉は自分の間違いをゲラゲラと笑いのけてしまうだろうが。だからこそ、一哉が突然死ぬなんてことは信じられなかった。決意を振り絞って、雑居ビルの中へ入った。
雑居ビルの中は埃で化粧をして、月の光が一層と不気味さを増して廃墟の中を照らした。廃墟になる前まで使われていた物が乱雑に散らかり、暗闇から小動物が動く気配がした。警戒をしていればネズミの鳴き声が聞こえてきた。ネズミに安堵し、薄い月明りを頼りに一歩ずつ進んでいく。一歩一歩進む中水だまりに足を踏み入れた。老朽化が進んで水でも漏れたのだろうと勝手に想像して前へ前へ進もうとしたが、血なまぐさい匂いが鼻を襲ってくる。ネズミの死体にしては匂いが強いと感じたため、携帯のライトで水と匂いのもとを辿った。
辿った結果、後悔した。なぜなら、匂いと水は青木一哉のネズミによって食い荒らされた死体が原因によるものだったからだ。




