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Re: Assemble  作者: 小鳥遊椎菜
Chapter.1 Boy Encounter the Girl
1/6

Section.1

1

3月12日。

 東田邦夫は、一人暮らしを始めた。

 彼の両親は、海外に本社のある大手石油会社に勤めている。今回、本社勤務となったことで、イギリス・ロンドンに異動となった。

 日本に残ることとなった邦夫は、今年から一人暮らしをすることとなったのである。4月からは高校生。16にもなれば、一人暮らしをしても大丈夫、と邦夫自身が考えた。


 4日前。

「大丈夫だよね、一人暮らし?」

「大丈夫だよ。もう、あの時のような僕じゃない。心配いらないよ。」

 東京国際空港国際線ターミナルの出発ロビー。最後まで日本に残っていた母親との別れ際の会話である。

「何かあったら、すぐに横浜にいるおじさんのところに連絡するのよ。」

 母方の親戚のことである。

「わかってる。母さんたちには迷惑かけないよ。仕事、がんばってね。」

 2014年3月8日午前9時45分。邦夫の母は、日本を飛び立った。

 邦夫は、母が乗った飛行機を、屋上の展望デッキから眺めた。ブリティッシュエアウェイズ0008便。邦夫の母は、ロンドン・ヒースロー空港へ向かったのである。

 午前10時10分。京急線のホーム。やってきた快特印西牧の原行きの電車に乗って、彼は京急蒲田駅へ向かった。そして、京急蒲田駅で三崎口行きの快特に乗り換える。

 横浜駅で待っていたのは、例のおじさんであった。保証人である彼から、鍵を受け取り、邦夫はすぐに東横線のホームへ向かい、飯能行きの特急に乗った。

 西武線練馬駅で大江戸線に乗り換え、降りたのが落合南長崎駅。そこが、彼が一人暮らしを始める町だった。

 出口を出てすぐ目の前に見える大通りが印象的であった。そこから少し歩いた先に、アパートがあった。


 時は戻り、3月12日。午後1時12分。

 荷物の片づけが終わり、お昼ご飯を食べようとカップ麺にお湯を注ごうとした時だった。邦夫の部屋のインターホンが鳴った。

「はい、どなたでしょうか」

「私は、トライアングルエニックスの柳田と申します。恐れ入りますが、玄関口までよろしいでしょうか?」

 いわれるがままに、邦夫は玄関口へと向かい、ドアを開ける。

「はじめまして。突然のご訪問、失礼いたします。私は、株式会社トライアングルエニックスのゲームプロデューサーの柳田浩史と申します。本日は、お客様にお勧めの新作ゲームのご紹介に参りました。」

 そういって、一枚のチラシを邦夫に渡した。

「こちらは、当社にて新しく配信する魔法少女育成ゲームです。まだ、発売前でして、今回このゲームの体験者を募集しているんです。」

 まだタイトルすら決まっていないゲームらしい。そのビラには、『新しい魔法少女育成ゲーム』としか書かれていなかった。

「もしよろしければ、このビラにあるQRコードを読んでゲームをダウンロードしていただき、プレイしてみてください。体験版ですので、すべて無料です。」

「わかりました。ゲームの感想などは、どのようにしてお送りすればいいのですが?」

「それは、運営から別途ゲーム内においてご案内がありますから、そちらをご参照ください。」

 そういって、柳田はぺこりと頭を下げると、そのまま帰っていった。

 トライアングルエニックス。数々の話題作を発表・配信している日本でも最大手のゲーム会社である。そんなすごい会社のプロデューサーが、わざわざこうして体験者を集めているのか、と邦夫は思った。

―――大変なんだな、業界の人たちは。

 午後1時32分。邦夫は、QRコードからアプリをダウンロードし、さっそくゲームをプレイすることにした。

 とても、体験版とは思えないほどのクオリティの高さであった。

―――さすが、トライアングルエニックスだ。

 ゲームの内容はいたってシンプルだった。

 魔法少女たちが暮らす世界にやってくる魔獣と戦い、勝てば魔力がもらえる。その魔力を使って新しい魔法を自分の育てている魔法少女に教え、スキルをつけさせるというものだった。

 ゲーム設定をしていく過程で、自分が育てる魔法少女に名前を付ける画面が出てきた。

―――名前か・・・何にしようかな?

 日本人的な名前がいいのか、外国人的な名前がいいのか。

 すると、ふと<花村咲代>という名前が浮かんだ。

 なぜだか理由はわからない。自分の知り合いにそんな名前の子はいなかったはずである。そう、“いないはず”である。なのに、なぜかふっと、そんな名前が浮かんだのである。そして、その名前が、今目の前の画面に写し出されている美少女にぴったりくる気がしたのである。

 その美少女は、身長は155cmほどで、髪は茶髪、髪型はポニーテール、結び目は白いリボン、スラっとし黒い瞳が印象的な女の子だった。薄いブルーが基調の衣装を着ていた。

 邦夫は、ふっと浮かんだその名前で登録した。

「あなたって方は、見かけによらず引きずるタイプなのですね、あらゆることに対して。面白い方。」

 すべての設定が終了し、その美少女が放った一言目は、これだった。

 普通、「よろしくお願いします」とか、「選んでくれてありがとう」とかじゃないのか、と邦夫は思った。

―――ずいぶんかわったセリフを設定したゲームなのだな。

 いわれていることが図星過ぎて、複雑な気分になりながら、邦夫はそう思った。なぜ、この子がこんなことを自分に言ったのか気になりつつも。

 でも、一般的なパターン通りのゲームだと、今後の厳しい競争の中では生き残ってはいけないだろう。そのためにゲーム会社もありとあらゆる工夫を重ねているのだな、と邦夫は思った。

 午後4時12分。魔法少女の設定が完了したところで、邦夫は買い物に出かけた。


2

 午後5時19分。スーパーで買い物をしていると、向こうから見知った顔の少女がこちらに手を振っていた。

 彼女の名前は風見ひろ子。邦夫の幼馴染である。

「お久しぶり~元気だった?」

 長い黒髪にすらっとした体型が印象的な少女である。背は決して高くないが、スラっとした体形がその背の低さを感じさせない。

「風見さんこそ。あれ、こっちに引っ越していたんだ?」

「ほら、うちのお父さん転勤族だから。」

 もともと邦夫やひろ子は二子玉川に住んでいた。家も近く、小学校のクラスもひろ子が転校するまでの4年間一緒だったこともあり、よく遊んでいた仲だった。

「邦夫君も一人暮らし?」

「そう。風見さんも一人暮らしなんだ。」

「もう、お父さんの転勤には付き合ってられないってね。しょっちゅうなんだもん。それも各地を転々と。高校になれば学区とかもないし、自分の行きたい高校ってのもあったし。もしかして、ひばりが丘高校?」

「そうそう。僕は母さんと父さんがロンドンに。本社がそっちだからね。」

「そっか、海外の石油会社勤めだったよね?」

「さすがにロンドンにはついていくことできないから。」

 懐かしかった。こうして、幼馴染と再会するとは、思っていなかった。

 お互い買い物を済ませると、スーパーが入っているショッピングモールにあるカフェに行くことにした。

「どうしてここにしたの?」

「特に深い理由はないよ。都心に出やすくて、かつ治安のいいところってくらいかな。」

「なるほどね。確かに、その条件は満たしているわ。私もほとんど一緒」

 所詮人間の考えることなんて大きく変わりはしない。

「あともう少しで高校生活が始まるけど、どんな感じになるのかな?」

 ひろ子は、これから始まる新しい生活に胸を躍らせているようだった。

「すぐ大学受験だし、あっというまだよ。アニメみたいな高校生活にはならないだろうね。」

「あんな高校生活は刺激が多すぎて疲れちゃうわ!あんな人たちともお友達になれそうもないし。2次元の世界はその中に納まっているからいいのよ。」

 お互い、小さいころからアニメ好きだった。同じ魔法少女物のアニメを見ていたのも、いい思い出だ。

「そういえばさ、邦夫君のところにさ、柳田さんって来た?」

 突然、ひろ子が邦夫に尋ねた。

「来たよ。風見さんのところにも?」

「そう。なんか新しい魔法少女育成ゲームを作ったから、体験してみませんかって。もう登録した?」

「思わずしちゃったよ。でもね、なんか登録後のキャラのセリフが変でさ。」

 ひろ子が、身を乗り出して「なんて言ったの?」と尋ねた。

「見かけによらず引きづる人ですねって言われた。」

 すると、ひろ子が手をたたいて笑い出した。

「すごいね!ゲームのキャラクターにいきなり図星なセリフ言われたんだ~!ははは!」

「そんなに笑うなよ・・・。僕ってそんな風に見える?」

「見えるわよ。一回好きになった女の子のこと、ずっと気にしてたじゃない。なのに、その気持ちを伝えることができない。」

 幼馴染にまで言われると、ちょっと気持ちがへこんだ。

「リアルなゲームなのね。私もやってみようかな?」

「凝った仕様のゲームだな、とは僕も思ったよ。」

 久々に会った幼馴染との会話も弾み、気が付けば時間は午後7時を回っていた。

「そろそろ帰らないと。それじゃ、また。」

 ラインの連絡先を交換し、邦夫はひろ子と別れた。


 午後8時34分。夕ご飯を食べ終わった邦夫は、ネットサーフィンを始めた。

 特に何か特定の情報を知りたいわけではない。なんとなく、ネットを眺める時間。無駄な時間ではあるが、ボーっとしていられるこの時間が邦夫は好きだった。

 ふと、柳田浩史という名前を調べてみた。検索結果には、彼がこれまでプロデュースしてきたゲームがずらっとならんだ。その数、およそ35本。半分は、邦夫も知っている有名なゲームだった。

―――そんなヒットメーカーに、僕は直々に体験をお願いされたのか・・・。

 光栄なような、そうじゃないような、複雑な気分だった。

 柳田は淡々とした雰囲気の男だった。邦夫にゲームの内容を説明している時も、何か人間じゃないような、機械的な感じで説明していた。この人に感情があるのだろうかと思うほど。ゲーム制作の現場は非常に過酷だと聞いたことがある。そんな過酷な場所で働いていると感情というものを失ってしまうのだろうか。

 パソコンの前から離れ、邦夫はベットに寝転んだ。

―――明日は、何しようかな・・・。

 高校入学まで、あと19日。残りの春休みをどう過ごすか、のんびりと考えていた。


3

 3月30日。午前9時42分。

 邦夫は例の魔法少女育成ゲームをしていた。始めて18日が経過。毎日魔獣を倒し、着々とレベルが上がっていた。

 現在、邦夫が育てている魔法少女花村咲代は、レベル20まで到達した。魔法少女ランクはAである。

―――順調順調、いい感じだね。

 正直、ここまで順調にいくとは思っていなかった。たいてい、どこかで鬼門となる何かがあって、そこが攻略できなくて、ネットを徘徊して情報を集めて・・・みたいな場面があるものだが、今回のゲームにはそういった要素が一つもなかった。それゆえ、何か物足りなさを感じるほどであった。

 しかし、この画面にいる魔法少女、言うことひとつひとつが可愛げがなかった。

 ある時には「よくもこんなつまんないゲーム毎日やりますわね。びっくりしますわ。」と言ったり、別の時には「私を休ませてはくれないの!?」と怒られたり。セリフのバリエーションどれだけあるんだよ、と突っ込みたくなるくらいだった。いったいどういうキャラクターのファンをつかみたいのか、いまいちピンとこなかった。

 午前10時2分。スマホの電話が鳴る。ひろ子からの着信だった。

「もしもし、起きてた?」

「起きてたよ。例の育成ゲームやってたとこ。」

「ああ、あれね。レベルいくつまでいった?」

「20。ランクはAまで上げたよ。」

「すごいね~私まだ15だよ・・・。タイミングよく魔獣が来なくってさ。」

「あれは結界の際で待機するんだよ。魔獣が襲ってくる場所って決まってるからさ。」

「そこまでいけないんだよね。なんでかわかんないんだけどさ。」

「いけない?」

「嫌がるの、私の魔法少女、そこに行くのを。」

「へぇー。意思があるんだ。面白いね。」

「そう。びっくりした。これ、なんかただのゲームじゃない気がするんだけど、気にしすぎかな?」

「これまでにそういうたぐいのゲームはなかったからじゃない?今までと同じものを作っているんじゃゲーム会社も売れないし、いろいろ考えているんだよ。」

「そっかー。わかった。」

 電話を切った後、邦夫は大きく伸びをした。外はいい天気だ。天気予報で気象予報士がお出かけ日和だと散々騒いでいたような気がする。

 窓を開け、外の空気を室内に入れる。気持ちのいい、さわやかな風である。

 春休みも残りあと2日。どうやって過ごそうか、いろいろ考えた。

 どんな仲間がいるのか、部活は何をやろうか、いろいろと考えた。

 そうしているうちに、だんだんと高校生活が楽しみになってきた。

 珍しかった。邦夫は昔から、新しい何かを始めることが苦手だった。何か新しいことを始めようとすると、もしうまくいかなかったら、とか失敗して怒られたらどうする、といったネガティブな考えばかりが浮かび、一歩を踏み出すことができなかった。実際、中学に入学するときはそうだった。仕舞いには入学式前夜にはクラスの全員から無視される夢すら見たほどである。

 自分がだんだんと変わってきていることに気づけ、邦夫は少しうれしくなった。自己の成長を感じられるほどうれしいことはない。


 4月1日。午前9時41分。ひばりが丘高校講堂。

 入学式が始まっていた。周りを見渡すと、居眠りをしている生徒がちらほら見えた。確かに、こういう式典のお話はたいてい面白くない。どんな先生も“お決まり”のことしか言わない。

 さっき、ひろ子と話をしていた。もちろん、中身は例の魔法少女育成ゲームの話である。

「私、やっとランクAまでいった。なかなかバトルできなくて大変だったよ~」

「そっか。僕はSまでいったよ。新しい防御魔法も覚えたし、あとは攻撃魔法の増強をしようかな。」

「そうだよね、レベル20までいけばそういうことができるんだよね・・・私も早くレベル上げないと!」

 つまらない教頭の話を聞きながら、邦夫は今日はどうやってレベルを上げようか考えていた。

 すると、突然邦夫の脳内に聞き覚えのある声が、はっきりと聞こえてきた。

―――今夜が楽しみだわ。頼むわね。

 自分が育てている花村咲代の声である。

―――やばいな、ついにこんなレベルに達してしまったか・・・。

 こんな時に、ゲームの美少女の声が聞こえてくるなんて。自分のハマりっぷりに少々驚いた入学式だった。


 午前10時13分。3Fの、1年C組教室。

 ホームルームが始まっていた。お決まりの自己紹介ってやつが行われている。

 前の男子生徒が終わり、邦夫の番になった。

「みなさん初めまして。東田邦夫といいます。元は違うところに住んでいました。仕事の関係で今一人暮らしです。どうぞ、よろしく。」

 当たり障りのないことを話し、終える。

 昼休み。物珍しいのか、複数の男子生徒が邦夫の机にやってきた。

 一人暮らしをしている高校生なんて滅多にいないからか、1人暮らしって楽しいの、とか親はどこにいるの、とかいろいろ聞いてくる。初日に噂するにはちょうどいいレベルの珍しさなんだろう。他のクラスの生徒まで集まっていた。

―――面白いな、なんか人気者みたいじゃないか、自分!

 こんなにたくさんの人が自分の周りにいることなんて滅多にない。嬉しかった。

 東田邦夫、という名前は初回登校日で同学年150名全員に知られることとなった。


 午後2時。下校。

 邦夫は一人アパートへと帰った。

―――たくさんの同学年の人と話せた!滑り出しは順調だ!

 あとは孤立しないよう、周りとうまく付き合っていけばいいだろう。邦夫はそう思った。

 自分が、大きく変わった気がした。これほどまでにたくさんの人と関われることに嬉しさを覚えるなんて、思いもしなかった。

 一人暮らしをしたことが、自分を大きく変えたのだろうか?

 そんなことを考えながら、邦夫は窓から見える青空を眺めていた。

 すると、また式典中に聞こえた例の声が頭に響いてきたのだ。

―――新生活、順調に始まったようね。だけど、本当の新生活はこれからよ。

「だれ?だれなの?」

 後ろを振り返る。誰もいない。前を見る。誰もいない・・・。

―――見えないわよ、私のことは。

 また聞こえた。妙だ。

―――人間って、ほんと単純だわ。

 ふふふ、と笑いながら頭の中の声はそんなことを言っていた。

―――だから助かる。だから扱いやすいのよね。ま、いいんだけど。

 意味が分からない。何を言おうとしているのか。

―――じゃ、本当の新生活、始めますか。

 すると、突然、邦夫の意識が遠のく。

 どんどんと、意識が体から離れていく。なにか、魂の様なものを肉体から引きはがされていくような感覚だった。

 自分の体で今何が起こっているのか、自分で理解できなかった。

 午後2時14分のことだった。


4

 目が覚めると、邦夫は草原のくさむらに寝っ転がっていた。

―――あれ、家にいたはずなんだけどな。

 動こうとすると、見覚えのある少女がその動きを封じる。

「動かないで」

 見覚えのある少女だ。どこかで・・・。

 邦夫は思い出した。ゲームで育成していた魔法少女である。

「き、君は・・・!」

「思い出したのね。そうよ、私は貴方が花村咲代と名づけた魔法少女。ずっと脳内に語り掛けていたじゃない。気が付かなかったの?」

 ああ、確かに。だけど、そんなことが現実に起こるだなんてゆめゆめ思っていなかった。

「僕は、一体・・・」

 すると、となりから別の少女がひょこっと現れ、けげんな顔をしていた。

「アテーナ様、恐らく失敗しましたね。」

「あら・・・でもなんで、私体現しているの?」

「それは分かりかねます。ゲームの少女に間違って乗り移ったのではないですか?」

「まさか!そんなはずがないでしょ?私を誰だと思っているのよ?」

「もちろん、最高ランクの魔女、アテーナ様です。ですけど、最近魔法がうまく機能していなかったではないですか。」

 交わされている会話の内容が理解できない。一体彼女たちは何者なのか?

「えっと・・・状況がいまいち理解できないんだけど・・・」

 すると、育成していた魔法少女がすくっと立ち上がり、邦夫に右手を差し出した。

「立ち上がっていいわよ、説明するから。」

 その手を取り、邦夫は立ち上がる。

「魔女の世界へようこそ。あなたは、めでたく自分を失うことなく魔女の世界へ入ることができたのよ。かなりレアだわ。」

「どういうこと?」

「あなたが最近始めた魔法少女育成ゲーム、あれが魔女の世界への入り口だったのよ。あのゲームを通じて、私たちはこの世界へ来るのにふさわしい人間かどうか、テストしていたの。」

「魔女の世界・・・?」

「そう。ここがその魔女の世界。そして、私たちがその魔女ってこと。」

「君たちは・・・魔法少女なんでしょ?」

 この言葉を聞いて、目の前の少女は呆れた顔をした。

「これだから、最近の人間は・・・。魔法が使える少女、それは魔女と同義でしょ?なにが“少女”よ。私はもう600年以上生きているのよ!」

 驚きすぎて、声が出ない。

「私はこの魔女界での魔女ランクナンバー2のアテーナ。よろしくどうぞ。」

 ぺこりと頭を下げた。邦夫が。

「隣の魔女はアプロディーテ。私の古い友人よ。知識に長けているわ。」

「僕の立ち位置は・・・」

「それが問題ね・・・。私がこの男に乗り移るはずだったのに・・・。」

「乗り移る?」

 そんな邦夫の疑問を無視して、アテーナは腕組みをして考え込む。

「アテーナ様、一先ずそれはおいて置きましょう。彼をこのまま召喚したということは、ガイア様がお許しになられた、ということですから。」

「そうね。確かに、ガイア様がお許しになられたから、彼はここにいるんだものね。そういうことにしておきましょう。」

「それにアテーナ様、これをご覧ください。この方のランクは・・・」

「・・・うそでしょ!?私と同等!?」

「ええ、そうです。強大な魔力をお持ちです。高貴なお方です。」

「これは失礼を。」

 会話の内容がさっぱりわからない。

「丁重におもてなしを。いいわね?」

 アテーナが、部下と思われる少女たちに命じた。ぺこりと頭を下げると、邦夫を別の部屋へ連れて行こうとした。

「あの、僕は貴方のことを何と呼べば・・・」

 この問いに、アテーナが答えた。

「アテーナでいいわ。あなたは、この世界ではナンバー2の立場よ。あなたが従うべき人は、最高にして崇高な魔女ガイア様だけよ。」


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