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5、恋文

小説家になろうに来る10年以上前に、とある小説投稿サイトで出会ったまだ見ぬ女性への恋文。

拝見 ○○さん


あなたとあなたの作品に出会ってどれぐらい経つかはかは覚えていません。


きっかけは親友から。今思い返してもばか笑いできるぐらい下らないメール交換小説を書いていたとき、このサイト投稿してみない?と、その親友に誘われたから。


人生初の一万文字小説を書いた夏の日。


パケット通信がまだ定額でないとき、初めての作品が赤の他人に知られました。


あなたはそんな僕の駄作を『感性が豊かなんですね』と誉めてくれました。


あなたの作品も読みました。何度感想欄に書いたことでしょうか。


ストレートで、小説内外問わず媚びを売らず、自分の哲学を持ち、どこか悲しい小説を書いていました。


バスケットボールを題材にした内容も好きでした。僕もずっとバスケットボールしかしていない脳筋バカでしたから、作品に余計のめり込んでいったのでしょう。


でもなりより、山田詠美みたいな文章だったから。それをあなたに伝えたら、あなたは喜んでくれました。


描写はもっとリアルで猥褻さがあったけど、決してエロではありませんでした。かっこつけて言うなら、エロスを感じたのかな。


しかし、読みたくてももう読めません。


もうそのサイトはありません。


いくら検索してももう出てきません。


あなたに教えてもらったあなたのホームページ。


あなたの写真らしきものが載っていたホームページ。


やっぱり出てきません。


出てきたのはあなたの感想ページ。


アダルトサイトや有害サイトのURL告知で何十ページも埋められたあなたの感想ページ。


想いを宿したページにはたどり着けません。


途中やりとりをしたメール。


パソコンだったか、携帯電話だったか忘れましたが、文通のようで楽しかったです。


メールアドレス、もう携帯電話に入っていません。何回機種変更したことか。いつアドレスを消したのかも分かりません。



あの夏、僕はあなたとあなたの作品に恋をしました。


まだ大学生で子供だった夏の日。


あなたはきっと、ものすごく男性に好かれる女性だったのでしょう。


見たことはないあなた。


とてつもなく大人な女性でした。でなければあんなに素敵でエロチズムな小説を書けるはずがありません。


黒い髪をたなびかせてタイトスカートを履く大人な女性。ストッキングも黒。


そんなあなたが僕の頭に生まれました。


見たことはないあなた。


今も男の横で寝顔を見ているの?そう思うと少し鼓動が早くなっていったのを覚えています。


まだ恋愛を何も理解していなかった子供の僕は、あなたの虜になりました。


終わりのない恋愛に疲れ気味だったあなたは、魔法使いのように大人の世界に連れて行ってくれました。


現実世界では、僕とあなたは近くて遠い場所に住んでいました。


だから僕は『秒速5センチメートル』を見るたびに切なく思うのです。


僕は神の住まう県。


あなたは神になった武人が奉られている宮の県。


近い。けど遠い。


でも行けなかった。行きたかったけど、断られるのが怖くて、いい子を演じていました。


あなたは今もそこにいますか?


もう結婚はしていますか?


聞きたいことは山ほどあります。言いたいことも山ほどあります。


僕の中ではあなたはまだ美しい女性のまま、夏の日のまま、フリーズした携帯電話みたいに止まったままです。



あなたに少しでも追い付きたいから、あなたのような恋愛小説を書きたいから、たくさん恋愛をしてきました。


愛し愛され、憎み憎まれ、追いかけ追われ、それでもなお、あなたの背中が見えないからまだ背伸びをしています。



○○さん。


好いた惚れた、とか、下心とか、そういう言葉ではもうないのです。


あなたはかつて持論のように言ってましたね。


女は子宮で物事を考える、と。


正しいようで、正しくないようで、男の僕には死んでも答えは分からないでしょう。


それを見つけるために生きていくのだとも言いません。ジゴロになってしまいそうだから。



○○さん。


ここでなら、と思って、こんな下手くそな恋文を書いてます。


もう小説は書いていないのかな。書いていてもここではないのかな。もしそうなら少し寂しいですね。


名前は変わっているけど書いているわよ。もしそうなら嬉しいです。


この恋文を見つけても、見つけられなくても、どちらでも構いません。もう幻に近いんですから。




だけどね。



もし見つけてくれるなら。


もし読んでくれるなら。


そう思ってしまう僕がいるから。


あの夏の日と同じ、まだ子供だった頃のあの日と同じ名前で小説を書いているんですよ?


ヒョードル。


なんとなく付けたペンネーム。


覚えていますか?


僕は○○さんの名前、本名だったとしてもペンネームだったとしても、一生忘れません。



短編にしようか迷いましたが、こちらに載せました。

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